マリーナシティーは和歌山の景気回復の希望と長い間言われてきた。今では統合型リゾートでその夢を実現する事が期待されている。
大阪から電車とタクシーで2時間弱。降り注ぐ太陽の下、橋を渡り、足を一歩踏み入れると異国に迷い込んだような気分になった。
今回、訪れた「和歌山マリーナシティ」はいまさらいうまでもなく、県と県が選んだ事業者「クレアベスト・グループ」とともに開発を目指すカジノを含む統合型リゾート(IR)の候補地。和歌浦湾に浮かぶ開発面積65ヘクタールという広大な人工島だ。
他のIR候補地である長崎のハウステンボス、横浜の山下埠頭や大阪の夢洲と比べたら、マリーナシティが最も成熟した候補地であるといえる。
島内の中心部には、黄色を基調とした南欧風の「和歌山マリ ーナシティホテル」があり、周辺にはテーマパーク「ポルトヨーロッパ」や地元の海産物を扱う「黒潮市場」の人気スポットがある。さらに温泉施設、海釣り公園、西日本最大級のマリーナなどがそろう複合リゾート。これらを見たら、カジノのないIRの素質を備えていると思う人もいるだろう。。
コロナ禍前の2019年にはインバウンド客も含め、年間250万人が訪れていた。
インフラ面は抜群
仁坂吉伸知事が、この予定地について「完成から25年以上たち、土地が完全にできあがっているのは和歌山だけ」と自信を持つのも当然か。これまで長崎・ハウステンボス、横浜・山下ふ頭には何度か訪れ、大阪・夢洲も対岸からチェックしたことがあるが、ことインフラ面などを考えるとライバルの追随を許さないと言っていい。
注目される開発予定地は島の南側部分21ヘクタールとなる。現在は駐車場などに利用されているが、ほとんどが更地。
県はすでに77億円で購入することを決めており、整備区域に選ばれれば、つまりIR誘致に成功した場合には「クレアベスト・グループ」に同額で売却、失敗すれば購入しないことになっている。
アクセスもまずまず
アクセスも言われるほど悪くない。和歌山駅前から南に10㌔ほど。関西国際空港からも車、電車で40分ほどだ。3月には和歌山市と南海電気鉄道による連節バスの走行実験を行うなど、今後もストレスフリーで移動できるように環境整備に努めていく。
また周辺には万葉集にも詠まれた日本遺産「和歌浦」があり、少し足を伸ばせば、世界遺産「高野山」「熊野古道」など歴史や文化、自然が感じられる場所もあれば、年間300万人が訪れる海洋リゾート「白浜」もある。さらに、マグロ、ウニ、伊勢エビといった海産物にミカン、ウメなど地元の豊富な食材など観光資源には事欠かない。
IRの候補地はウォーターフロントになっており、セーリングポイントとしても有名。途中まで事業者公募に参加していたサンシティーグループは和歌山県のこの地を国際セーリング競技の場とすることを提案していた。
紆余曲折を経て、再び脚光
そんな「和歌山マリーナシティ」のそもそもの始まりは県が1986年に策定した「和歌山県長期総合計画」で関西国際空港の開業と連動したリゾート計画の一環。松下電器(現パナソニ ック)傘下の松下興産が建設主となって観光開発を進めていった。
その背景にあったのはグループの創業者で和歌山出身だった松下幸之助の存在。「国土創成論」や「観光立国論」を提言しており、県の観光開発に深く関わった。関西国際空港が開港した1994年には「世界リゾート博覧会」を開催。72日間で300万人の来場者を記録し、大成功を収めている。
今回、敷地内を案内してくれた「和歌山マリーナシティ株式会社」の安達彰常務取締役も「国土創成論を読んだことがあります。山を削って埋め立て地をつくる。それがいまこうして残っているんですから」と感慨深そうだった。
しかし、その後は歴史にほんろうされる。97年にリゾートマンション「パシフィックビスタ」が竣工。98年には「和歌山マリーナシティロイヤルパインズホテル(現和歌山マリーナシティホテル)」がオープンしたが、2000年代に入ると勢いを失う。松下興産撤退後は「負の遺産」とささやかれ、外資ファンドが事業主体になった時代もあった。
再び脚光を浴びたのは2016年。IR整備推進法が成立すると和歌山市、和歌山県が誘致に名乗りを挙げ、17年には候補地として和歌山マリーナシティが一本化された。
だが、立地的に見て、MGMリゾーツが事業者候補となっており、国の選定に最も近いと言われている大阪に近いことに対する懸念が事業者の関心を抑えてきた。和歌山のRFPには2者のみの参加となり、4月の提案審査において、より高得点を得ていたサンシティーが5月に突如撤退した後、県はクレアベストを優先権者として選定した。その後、クレアベストはウィリアム・ワイドナー氏が率いるAMSEリゾーツ・ジャパンとフランスのカジノ事業者であるグループ・パルトゥーシュをコンソーシアムパートナーとして発表しており、今後、県と共に区域整備認定計画を作成し、2022年4月28日までに国に申請する予定。
最後のチャンス
紀州和歌山は江戸時代には海上交通の要所として栄え、かつて和歌山市は関西2府4県において大阪市、神戸市に次ぐ人口を誇っていた時代もあったが、いまや県全体の人口が100万人を割っている。
雇用拡充、経済活性化は喫緊の課題だ。和歌山マリーナシテ ィの山路晃弘企画宣伝部長、安達常務ともに「これまで反対運動があって何度か大手企業の誘致に失敗してきました。同じ事は繰り返せない。和歌山にとってIR誘致は最後のチャンス」と声を合わせた。