コロナ禍の中、国内外の専門家が一堂に会した「Japan IR ForumOnline」(主催・日本IR協会)は2020年代後半に開業する日本版IRのあるべき姿を見据えた有意義なイベントとなった。興味深かった点をIAGが振り返ってみた。
日本初のIR実現に向けた希望の灯は消えてはいなかった。

4月21、22日の2日間にわたって開催された「Ja-pan IR Forum Online」にはアメリカ、オーストラリア、マカオなど国内外の有識者や専門家がスピーカーとして参加。コロナ禍でスケジュールや規模の見直しを迫られている中、その課題や対策を挙げ、コロナ後の日本版IR開業に向けて斬新な提言や”激論”を展開した。
この「Japan IR Forum Online」は一般社団法人「日本IR協会」が主催したもので、その狙いは専門性の高い考察や事例を共有し、大きく変化する環境に適応しながら日本が目指すIRの実現を促進することがひとつ。さらに、コロナ禍によってステークホルダーとの面会と管轄区域への訪問など海外との交流が足踏みしている現状を鑑み、事業者、関連自治体、業界関係者などの橋渡し役になることを目的とした。
日本IR協会の中山彩子代表は開催した意義にふれ、成果を口にした。
「今回のフォーラムの開催は国際的な知見を交えた包括的な視点で日本IRの議論の重要性を2021年4月のタイミングにて行うことが非常に重要であると感じた。当初は対面式での実施案もあ ったが、コロナ禍で少なくなっていた海外からの情報を提供することを実現するためにIR関連では初となるオンラインでの開催とした」
力を入れた点については「幅広い業界に関わるステークホルダ ーによる業界横断での第一線の議論、意見交換の必要性を強く感じたことからも民間、行政に隔てない参加対象者としたフォーラムとなるべきだと考えた」と言及。「多くの自治体が選定プロセスに入っている中の実施ではあったが、規制機関、自治体からも参加し、視聴していただくことができたことから官民を横断して、業界の最新情報、トピックの共有を実現できたことは手応えを感じた」と話した。
対面式が相次いで中止に追い込まれる中、オンラインで実施されたこのフォーラムは18項目の多様なセッションからなり、各分野の専門家が「日本型IRを成功させるための海外からの提言」「日本は世界からどう顧客を獲得するのか?」といった関心度の高いテ ーマで議論を展開した。スピーカーとしては25人以上が登場。「In-side Asian Gaming」からはアンドリュー・スコットCEO、ベン・ブラシュク編集長が参加し、日本型IRに向け、提言した。
これを受け、中山氏は次のように感謝の言葉を並べた。
「初めてのオンラインフォーラムということで、新しい取組に対して前向きに捉えて頂き、様々な関係者のみなさまにご登壇とご視聴をいただいたことは大変ありがたいと感じている。
協力社、メディア等のみなさまとの今までの連携を発展させた協力体制にて実現できたと思うことからも多方面からの協力に心より感謝している」
さらに、次回以降に向けて「スピーカーの中に当事者であるIRオペレーターの方々に参加、登壇できるように考えていきたい。今回の開催を踏まえて、運営上の課題等は次回へ向けてブラッシュアップさせていく考え。次回開催は秋にかけて日本IRにとって非常に重要な時期にタイムリーなトピック、ディスカッションを企画したい」と意気込んでいた。
また講演では「IRプロジェクトを成功に導く行政の役割と責任」「ギャンブル依存問題対策における日本型Responsible Gaming(RG)のあり方とは」など硬派な内容も開かれ、様々な角度から諸問題にアプローチした。開業に備えての「人材育成」や「セキュリティー」分野の講演も盛り込まれ、今後の課題や需要を浮き彫りにした。
個人的に興味を持ったのは「IRが目指す価値創造と社会課題解決」と題した東洋大学国際観光学部・佐々木一彰教授の講演。新しい価値の創造と社会課題の解決は地方型IRの活用がカギとみる佐々木氏は「交流人口、観光人口を増やすにはモノ消費はもちろん、コト消費がカギになる」と話した。

以前、和歌山の担当者がIRの存在意義について「和歌山は課題先進県と言われおり、ひとつひとつ課題を解決していかねばなりません。IRを誘致することで、それが起爆剤となり、新たな雇用がうまれる。それにより多くの人々を呼び込み、県が持つ豊かな観光資源を生かし切ることもできる」と述べていたことがある。一方、長崎のIR担当者も以前から、人口減少、若年層の流出に危機感を抱き続けていると言い「IR誘致は長崎にとって100年に一度のビッグチャンス。地方創生のモデルとしたい」と意気込みを口にしていた。今後は事業者の選定が大詰めを迎えるだけに、両自治体の動きも警戒したいところだ。
カジ管理規則に美原節がさく裂「説明不足」
特定非営利法人ゲーミング法制協議会理事長の美原融氏が「 カジノ管理委員会規則(案)パブリックコメントをうけて」と題し、弁護士の石川耕治氏と行ったリモート対談にも感銘を受けた。その中で美原氏は215条に及ぶ膨大な規則(案)に「30回審議したというが、民間との対話が欠如しており、前時代的でナンセンス。内容も不親切、説明不足、矛盾点もある」と指摘。欠陥部分として、チ ップの持ち出し禁止の項目にふれ「事業者に監視して見張れというが、少額チップをいちいちチェックするのは不可能」と言及した。
「大阪IRは27年か28年の開業」
さらに、体調不良で当日の講演を欠席した溝畑宏・大阪観光局局長は後日に収録し、アーカイブ配信。コロナ感染から回復したばかりで退院会見では「人生で初めて生きるか死ぬかの体験をした」と話していたが、収録では「国際観光大国実現に向けた万博&大阪IRの役割」をテーマに予定の1時間をはるかにオーバーするほどの熱弁を振るった。
その中で溝畑氏は「いまは反転攻勢の準備段階。今年9月にはIR事業者が決まるので、事業者と力を合わせて区域整備計画をつくる。22年にはコロナ前の水準に戻ると見ており、万博は23年に着工し、25年に開催。IRは27年か28年の開業になるだろう」との見通しを語った。
また、夢洲への鉄道アクセスの延伸、関西国際空港とターミナルの大阪・梅田が直結する計画に変わりがないことも明言。「夢洲を都市型リゾートのショーケースとして日本の各方面に送客していく。観光立国としてIRが成長のエンジンとなる」と期待を寄せた。
かつての熱量はまだまだ望めないが、IRの灯は静かに燃えている。