和歌山県の仁坂吉伸知事は2日、県庁で記者会見し、県が誘致を進めるカジノを含む統合型リゾート(IR)の事業者に、カナダに本社を構えるIR投資会社のグループ会社「クレアベストニームベンチャーズ」(東京都)を選定したと発表した。IR誘致を表明している全国4地域で事業者を選定したのは初めて。県は2026年春の開業を目指し、クレアベストは27年秋を提案している。
ようやく歴史が動いた。1月15日にスタートした和歌山県の事業者選定公募から4カ月半。早ければ4月末にも優先権者を発表するとされていたが、紆余曲折の末、この日までずれ込んだ。その大きな理由として、マカオを拠地とする「サンシティグループホールディングスジャパン」(東京)の撤退がある。有力候補とみられていたが、新型コロナウイルスの感染拡大で世界経済の先行きが不透明なことなどを理由に5月12日付で辞退していた。
そのため、一時はIR事業そのものからの撤退もささやかれていたが、この日、会見した仁坂知事は経済効果、雇用効果からの必要性をあらためて説き「自信を持って次のステップに行ける。さらに良い計画を練り上げれば国の認可がいただけるのではないか」と意気込んだ。また、ライバル3地域との進捗状況を比べて「プロセスが早く、確実性が一番高い」と胸を張ったが、果たしてどうか。
県が公表した資料によると2者からの提案書類を、弁護士らでつくる事業者選定委員会で3回審査。4月30日に判定を下している。ただ、13項目からなる評価点の結果はサンシティよりもクレアベストは低く、県は「委員会の評価点が高いサンシティからの辞退届を受け、次点であるクレアベストを、予備検査の結果も踏まえ優先権者候補としました」と伝えている。
これに対し、県内の民間企業約100社でつくる団体からは「地元と話し合いの場を持ち、地域のスポーツ振興にも力を入れていたサンシティに比べ、クレアベストは顔が見えなかった」との声も上がっていた。
県の発表資料によると、クレアベストの計画では「木の国・水の国」自然豊かな滞在型・自然型IRをコンセプトとし、施設全体の延べ床面積は約56万9000平方メートル、うちカジノ施設が約3万8000平方メートル。約2700室の宿泊施設や3000人収容可能な大会議場を持つ国際会議場などを整備する予定との事。また初期投資額については県の基本構想にある約2,800億円を上回る約4700億円の投資を提案しており、投資も目標来訪者数も和歌山県の予想よりも大きな数字となっている。また開業4年目の経済波及効果を約2600億円などと見込む。
今後は計画地の人工島「和歌山マリーナシティ」がある和歌山市、県公安委員会と協議した上で正式に決定する。その後は県とクレアベスト・グループが区域整備計画を作成し、来年4月28日までに国へ申請する流れとなる。
何より大切なのは区域整備計画において、協力し合って磨きをかけることだろう。決して今回の決定を妥協の産物にしてはならない。NHKの取材によるとクレアベスト・グループは「事業者公募における優先権者候補に選定いただいたのは誠に光栄です。和歌山の地にふさわしいIRを実現すべく、和歌山県とともに、県民の皆様と十分に対話しながらすばらしい計画を作り上げ、日本政府に認定していただけるよう努力いたします」とコメントした。
一方、和歌山市も「優先権者候補が選定されたことは、和歌山IR実現に向けて一歩前進したものと考えています。和歌山市にとって最善の計画になるよう、県と密に連携しながら取り組んでいきたい」と話している。
IRを巡っては和歌山県や横浜市、大阪府・大阪市、長崎県の計4地域が誘致を表明しており、国は整備計画を精査し、最大3カ所を整備地域として選ぶ。