マカオのゲーミング事業者にとっては厳しい1年だった。しかし、2022年からその先を楽観視するのにはもっともな理由がある。
Welcome to 2022: Beyond reopening(2022年へようこそ:再開の先に)」という最近のリサーチレポートの中で、モルガンスタンレーのアナリスト、プラビーン・チャードハリ氏、トーマス・アレン氏、ギャレス・レオン氏が、コロナ後の世界を迎える「新生マカオ」を予言している。マカオは、今日の中国人客の変化する様相にこれまで以上によく備えており、ダイナミックな同行政区の最近の歴史の中で、最も多い数のホテル客室が利用可能、そして高品質であると彼らは述べている。
ただし、最も重要なのは、モルガンスタンレーのレポートが、ゲ ーミング粗収益は2021年には2019年の約55%、2022年には約97 %にまで改善するという楽観的な予想を裏付けるもっともな理由を説明していることだ。新型コロナの少ないプラスの影響の1つである事業費の低下と組み合わり、来年は、過去15カ月の困難を本当の意味でしっかりと歴史上の出来事へと変える方向へと向かっている。
アナリストたちは、「マカオの株価は(年初来で)16%上昇している」と述べ、「投資家は、『何を折り込んでいるのか』と『回復の形』を知りたがっている。我々はこれらの域を超えて2022年に焦点を当てるようアドバイスしている。2022年のマカオは、新型コロナ前とは見た目も雰囲気も異なるだろう。コタイのホテルの収容能力は13%増加するが、固定の事業費は4%減少し、その結果EBITDAが15%増加する。ハイエンドのプレミアムマスサービスが訪問者を迎えるだろう。短期的な促進材料に焦点を当てた投資家は、再開の先を見るべきだ」と付け加えている。
マカオのコンセッション保有6社の合計損失が約53億米ドル(5,700億円)に上ったことを考えたとき、マカオの回復軌道に対するそのような自信を後押ししているものは具体的には何なのだろうか?
結局のところは供給と需要に行き着く。
供給
2022年、マカオのホテル客室数は、2019年の水準と比較して 13%増加する予定で、旅客数とその質(滞在日数)の両面で過去最高となる。

新たな客室の供給は、近々オープンするSJMのグランド・リスボア・パレスが主導する形で、第2四半期後半または第3四半期始めのオープン予定となっている。390億香港ドル(5,400億円)をかけたこの開発は、SJMにとって初めて、そして長い間延期されていたマカオのゲーミング中心地であるコタイへの進出を表しており、リスボア・パレス・ホテル、パパラッツォ・ヴェルサーチ・マカオ、そしてカール・ラガーフェルド・ホテルという3つのホテルブランドで1,892室が稼働することになる。
さらに、ギャラクシー・マカオ第3フェーズ開発の一環として、1,500室がオープンする。その目玉となるのが全スイートの高級ホテルタワー、ラッフルズ・アット・ギャラクシー・マカオで、シンガポールの有名ブランド「ラッフルズ」がマカオに初進出する。この1,500室は、第3フェーズと第4フェーズで計画されている合計3,000室の半分に相当するもので、ギャラクシーが当初建設を予定していた合計4,000室からは減少している。
2月に行われたギャラクシー・エンターテインメント・グループの20年第4四半期決算発表の後、フランシス・ルイ副会長は、マカオのゲーミングの未来であると広く考えられている収益性の高いプレミアムマスセグメントに、より良いサービスを提供するため、次フ ェーズの設計を変更したとメディアに説明した。
ルイ副会長は「私たちが求める訪マカオ旅客というのは、ハイエンドのマス客であることが分かってきた。
なので、3,000室の客室の大半に期待することというのは、マカオにレジャー目的で来る家族連れを満足させ、当社が提供する客室の品質が彼らの求めるものであるということだ」と述べている。

重要なのは、2022年に合計客室供給数が13%増加する一方で、モルガンスタンレーが、より多くの事業者がプレミアムマスセグメントに注目するために、「超高級客室」数が2019年と比較して59 %も増加すると述べている点だ。
モルガンスタンレーのレポートにはこのように書かれている。
「プレミアムマスは、2021/22年のマカオの企業にとって依然として最大の利益の原動力となる。
これらの顧客は高級ホテル、無料エンターテイメント、飲食店を期待してマカオに来る。リッツカールトン(ギャラクシー・マカオ)やモーフィアス(シティー オブ ドリームス)といったより優れたホテル製品を提供する企業は、歴史的に優れたプレミアムマスビジネスを行ってきた」。
マカオのプレミアムマスの機会を最もよく表している例が、サンズ・チャイナだ。サンズ・チャイナは最近、20億米ドル(2,100億円)以上をかけてコタイ・ストリップにある施設をアップグレードしており、その重要な部分が客室のアップグレードとなっている。
昨年10月、サンズは全室スイートで構成されるフォーシーズンズ・ホテル・マカオの最新タワーを披露した。この建物は「グランドスイート・アット・フォーシーズンズ」と呼ばれており、160㎡から455㎡を超える広さまで、多様なサイズの新ユニットが289室用意されている。
その後に続いたのが、ザ・ロンドナー・マカオ(旧サンズコタイセントラル)の第1フェーズオープンだ。ホリデイ・イン マカオが600室のスイートを持つロンドンナーホテルに、そしてセントレジスタワー・スイートが370室からなる高級サービスアパートメントの全スイート型ホテル、ロンドナー・コートに改装された。
投資運用会社のサンフォード・シー・バーンスタインによると、これらすべてが、今後12カ月の需要を満たす供給を持つ企業にとって特に幸先がよいという。
バーンスタインのアナリスト、ヴィタリー・ウマンスキー氏、ティエンジャオ・ユー氏、ケルシー・ジウ氏は最近のレポートの中で、 「回復の初期段階には、プレミアムマスでの相対的位置が、大きな事業者は根本的に他を上回ると予想している。(中略)というのもプレミアム客は新型コロナ関連の経済的影響を受けにくく、GGRの成長を推進するのに必要な客数としては少ないからだ。サンズとギャラクシーも、来年にかけてプレミアムマスでの展開拡大から恩恵を受けるだろう」と書いている。
モルガンスタンレー同様、バーンスタインのアナリストもマカオの2022年の見通しについて強気の姿勢で、GGRは2019年の水準の98%にまで回復、マスセグメント(プレミアムマスを含む)は2019年GGRの110%に急増すると予想している。一方、VIP部門では「90%以下」という低調な回復にとどまる予想となっている。
彼らは、VIPは送金に関する精査とジャンケットとの取引に関する顧客とエージェントの懸念により、実際には2025年まで2019年の水準を下回る可能性があると付け加えている。

しかしながら、「これは一部の客がゲームプレイをシフトするために、プレミアムダイレクトおよびプレミアムマスにプラスの影響を及ぼす可能性がある」としている。
需要
マカオが入境口の再開に非常に慎重なアプローチを取っている一方で、中国の国内旅行、レジャー、高級品市場は、人々が新型コロナ感染拡大から気持ちを切り替えて前に進み始めているという明確な兆候を示している。
3月、中国民用航空局は、航空交通は2021年にパンデミック前の水準の約90%に戻ると予想していると述べた。このような発言が行われたのは、乗客数が2019年の水準に戻りつつある、またはそれを上回ってさえいると中国南方航空、中国東方航空、中国国際航空の三大航空会社が発表を行う前のことだった。
1,110万人という中国南方航空の3月の国内線搭乗者数は2020年3月の3倍の数字だった。しかしそれよりも重要なのが、2019年3月比で8%増であったことだ。そして中国東方航空は2年前の860万人よりも0.3%というわずかな減少、中国国際航空は750万人というたった3.5%の減少にとどまっていた。
中国の高級品市場でも同様の勢いが見られており、人々の支出に対する意欲を強く示していると見られている。
このような傾向は2022年まで続くと予想されており、モルガンスタンレーは、中国の来年の名目GDPは2019年より22%高く、122兆元(2,000兆円)になると述べており、マカオのマス市場は主な受益者であると考えられる。

中国のGDPに占めるマカオのマス収益の割合が約0.14%と比較的安定していた最近の歴史に基づいて、アナリストは2022年のマス収益が260億米ドル(2兆8,000億円)になると予想しており、これは、2019年と比べて18%増、そしてVIP収益の31%減を埋め合わせるのに充分な数字だ。
そして、注目すべきは、長い間VIPセクターに吹き付けている逆風というのは、その大部分が新型コロナの感染拡大とは無関係であり、実際のところ、この地域のライバルたちをさしおいて、マカオの事業者をさらに後押しする可能性があるという点だ。
中国当局は2020年上半期以降、いくつもの声明を出し、越境ギ ャンブル、特にギャンブル活動に中国人観光客を勧誘していると見られる個人や地域に対する様々な取り締まりを約束している。中でも、中国文化観光部は8月、中国本土客をターゲットにしたカジノをオープンすることで、同部が言うところの国のアウトバウンド観光市場を混乱させている海外観光地の「ブラックリスト」を作成したと発表した。同部は、ブラックリストシステムによって、海外の都市やブラックリストに記載されている景勝地に行く中国人には旅行制限が課せられると説明した。ただし具体的な地名などは明かされていない。
今年に入って、中国公安部は、主にオンラインギャンブルサイトの運営者やジャンケットを標的としていると見られていた脅しの中で、「ギャンブル、オンラインギャンブル、またはギャンブル活動のための資金や技術サポートの提供」に関与する人を追跡するために追加の資源を配置することを明言した。
バーンスタインのヴィタリー・ウマンスキー氏とティエンジャオ・ユー氏は、それらの活動はマカオを対象としておらず、代わりに外国での賭博を制限し、関連する資金流出を減らすことを目的としていると確信している。

彼らは2月、以下のように書いていた。「我々は、長期的には、(中国で深刻な問題になっている)違法オンライン賭博を根絶しようと努力し、海外での賭博を難しくする中国の行為はマカオにとってプラスになると見ている。というのも、マカオは中国国内でゲーミング行為をしに行くための安全な場所と見られているからだ。
より大きな影響は、流動性の懸念からすでに圧力を受けている(マカオのローリングビジネスの約80%を占める)ジャンケットVIPだ。マカオのジャンケットエージェントは中国で目立たないように営業しており、彼らの活動は常に怪しいグレーゾーンに入ってきた。
現在進む法改正と政府の取り締まりによって、これまでのジャンケットシステムは根本的な変化を遂げることになるだろう。マカオで起こっているプレミアムダイレクト(VIP)とプレミアムマスへの継続的なシフトは加速し続ける」。
時機到来
マカオのコンセッション保有6社は、大まかに言って、20年第4四半期の収益が新型コロナ前の水準の約30%に戻ったと報告したが、6社中5社(SJMホールディングス以外)は、この期間にプラスのEBITDAを計上した。
なおも6社全社が純損失を計上したものの、主要供給市場から切り離された他の法域と比較した場合、マカオと中国本土との国境開放がもたらす唯一無二の機会を浮き彫りにした。
マカオ大学国際統合型リゾート管理学のグレン・マッカートニ ー准教授は、「どちらにしてもパンデミック前から訪マカオ旅客の70%以上が中国から、その大半が広東省からだった。
それにもかかわらず、中国本土の二線都市に関していえば浸透はまだ薄いために、マカオにとってそのメッセージをさらに広めるための大きなチャンスがある」と話す。
マッカートニー准教授は、3月下旬に杭州で開催されたマカオウィークなど、マカオ政府観光局(MGTO)が中国本土で行った一連の最近のロードショーを、特にこのコロナ禍において巨大中国市場にさらに入り込むことができる重要なイニシアチブとして挙げた。このロードショーは、訪問客の信頼を高めるために、マカオを 「健全、安全かつ質の高い」目的地として広報してきた。
マッカートニー准教授はこのように説明する。「我々は、新型コロナによって、MGTOがこれまでよりはるかに統合型リゾートと協力しているのを目にしている。彼らが団結し中国進出にむけた共通のメッセージを作り出すようなコラボレーションをさらに多く見てみたい。
マカオがメッセージを伝える活動を強化した場合、大きな成功を収めるチャンスがある。というのも新たな体験を求める、より裕福な層の人々が増えると思うからだ。
また2年前には中国人が多くの法域に行っていたという事実があり、マカオは現在の状況を逆手にとってこの時期にそこに入り込むことができる。ここで言っているのは可処分所得が高く、消費性向が高い人々であるために、マカオにはそこに他の場所が持っていないチャンスがある。目に見えてその顧客区分が増加している。
結論として、私は非常に楽観的に見ている。なぜなら、中国との間でトラベル・バブルが実施された過去数カ月を見たときに、50万という観光客が入境口を通り、1カ月で収益は10億米ドル(1,100億円)を超えるレベルにまで戻った。一定レベルの回復が見られている。そして、それらの数字はマカオ独特のものであり、安全にそれができる。それ自体がプラスの感情だ。
確かに、誰もがより早期の回復を望んでいるが、世界的に非常に異なる形で広がる新型コロナの感染状況を考えると、この段階的な月ごとの回復というのは慎重であれという話に合っている。
すべてを考慮に入れると、マカオの月ごとの漸進的な回復は非常に良い兆候だ」。