フィリピンの規制当局は、POGO業界に関する深刻な問題に対処するために様々な策を講じている。
パンデミックが始まる前から、フィリピン・オンライン・ゲーミング・オペレーター (通称:POGO)の改革はすでに行われていた。最も分かりやすいサインが、報告やマネーロンダリング防止、および一般的な業務への他の重要要素など、コンプライアンス問題に関するものだ。しかしながらPOGOはまた、POGOに関係する人身売買や怪しい行為など、その他ガバナンスの問題も浮き彫りにしてきた。フィリピンや他の法域が「グレートシャットダウン(大規模営業停止)」を切り抜ける時に、それら両方の様々な問題を改革することによって、より優れた製品が作り上げられる可能性がある。
グレートシャットダウンが始まった時点で、フィリピンカジノ公社(PAGCOR)から認定を受けている事業者の数は51あったが、その数は改革、そして主に税金を滞納し、それ以降営業停止となっている事業者を対象に行われた取り締まりによって大幅に減少した。2021年3月半ば時点でその数は38にまで減っている。そして今、合計138にものぼる膨大な数の認定代理店とサービスプロバイダの間でも同様のことが起こっている。
未納税問題に加えて、PAGCORと中央銀行は、各POGOに付随するサービスプロバイダと併せて、これらのビジネスを明らかにするために、その他様々な問題に対処する必要があることをすでに理解していた。この中で最も重要だったのが、今年に入って施行されたマネーロンダリング改正法で、POGOおよびそのサービスプロバイダだけでなく、不動産ブローカーや開発会社も監視できるよう規制が強化された。同法案と共に、新たに反マネーロンダリング評議会(AMLC)が設置された。フィリピンは以前から、アジア・太平洋マネーロンダリング対策グループ(Asia Pacific Group on Money Laundering:APG)の監視リストに名前が挙げられており、金融活動作業部会(Financial Action Task Force)からの制裁回避を助けるために同評議会が設置された。
不動産ブローカーおよび開発会社がその中に含まれた理由としては、フィリピンの主要な都市部のオフィススペースでPOGOが占める割合が大きいことがある。彼らは、マニラおよびその周辺地域の不動産市場を支配するビジネス・プロセス・アウトソーシング(BPO)に次ぐ第2位となっている。オフィススペースのニーズは鈍化傾向にあるにもかかわらず、POGOは依然として市場全体にあるオフィススペースおよそ約720万㎡のうちの130万㎡以上のスペ ースを占拠していると言われている。
3月の上院公聴会で、AMLCは、過去2年間にオフショアゲーミング事業者による不審な取引が約140億比ペソ(約314億円)あったと警告した。公聴会は、2021年に入ってからでさえも、国に「ダーテ ィーマネー(汚い金)」を持ち込んだこれら事業の他の問題も続けて明らかにし、上院議員たちは、同業界がクリーンな運営を行うのとは対照的に、収益拡大ばかりに集中していると継続して非難した。彼らはまた、中国がオンラインギャンブルの停止を望んでいること、国外でこれら行為の取り締まり強化を続けていることを強調した。
現制度への改革の可能性の一つとして、数年前から税制についての議論が行われてきた。このほとんどがグレートシャットダウンまで急速に成長していた業界からより多くの利益を得たいという思惑に端を発している。最近の税制改革により、認可を受けたPOGOにはゲーミング粗収益の5%という税率が課され、給料が60万比ペソ(130万円)を超える労働者には25%の源泉徴収税が課せられることになる。これが、フランチャイズ税やその他課税および手数料を通じてこれまで生み出されてきた税金を置き換えることになるだろう。しかしながら、既存のPOGO事業者たちはこの新制度に異議を唱えている。この問題が続く一方で、2021年、POGOからの収益は下がっていることだろう。これは市場から事業者を追い出してきた取り締まりや他の要因だけが原因ではなく、業界の現在の経済状況も関係している。現時点の予想は、2021年にPOGOの収益が約5割減少することを示している。
POGO労働者に関する問題も残る。フィリピン国内のPOGO労働者、特に中国人労働者の数がその原因だ。2020年、労働雇用省 (Department of Labor and Employment:DOLE) は、過去2年間で20万人以上のPOGO労働者に対して外国人労働許可証が発行されたと述べた。そのうちの6割以上が2019年に発行されたものではあるが、4割が2020年に発行されたというのは注目に値する。この数字は、PAGCORが報告した数よりも多く、おそらく人身売買の問題を暗示している。
外国人労働者がこれらの業務に間に合わせるよう次々とフィリピンに流れ込んでくるために、なおも雇用面に問題が残る。最近のレポートでは、異なるサービスプロバイダ間の労働者の「売買」というものさえもが詳しく説明されている。ここに関わっている大半が中国人ではあるものの、アジアの他の地域から来ている人たちで、拉致につながっていることさえもある。最近の報道では、POGO業界内で取引された台湾人が取り上げられていた。

POGO業界が進化し続ける一方で、大規模な改革の実施が必要だ。政府は資金洗浄に歯止めをかけ、税制改革を進めるための正しい措置をとり続ける。フィリピンであろうがどこであろうが、ゲーミング事業者は、ゲ ーム粗収益に課された税金の支払いを逃れるべきではない。
しかしながら、それよりもPOGOを悩ませ続ける心配事というのが、雇用と人身売買の問題だ。PAGCORにとって、POGOは実店舗のカジノに加えて強力な収入源となり得るが、責任ある事業者やサービスプロバイダが行うような信用ある事業になれるよう正しい方法で管理される必要がある。これが実現するまで、悪評は続いていくことだろう。そしてフィリピンでのオンラインゲーミングに関する様々な問題が原因で、世界中の他の市場は、収入源としてオンラインゲーミングを開始することを思いとどまることになるだろう。