デジタルマーケティング分野における最近の発展が、顧客に狙いをつけ、獲得しようとする企業に新たな機会を創出している。
マカオのパンデミック後の復活が現場レベルで現れてくるのに時間がかかっている一方で、デジタルマーケティング分野での発展は過去1年半で飛躍的に加速しており、顧客獲得およびエンゲージメントはコロナ前の世界に知られていたものから、その様子が完全に変化している。今回はデジタルマーケティング部門の最先端イノベーション5つと顧客エンゲージメントにとっての潜在的な意味合いを考察する。
ブランドのバーチャルワールド
バーチャル・リアリティ(仮想現実)がかなり長い間マーケティングアジェンダの定番となっている一方で、ブランドは、忠誠心の強い熱狂的ファンという少数派の向こう側まではほとんど届かなかったニッチなプロモーション展示会、またはVRヘッドセットを通じて紹介されるシミュレーション体験に勝るマーケティングキャンペーンのための媒体を活用するのに苦戦している。しかしながら、「メタバース」は今年、誰もが知る言葉となった。
Facebookがメタ(Meta)としてリブランドしたために、文字通りそうなったのだ。そして益々多くの企業がメタバースアバタープラットフォームに参加、または提携し、ブランドのデジタルアバターやブランドから着想を得たデジタル環境を立ち上げている。これらバーチャルドメインにおいて、顧客はバーチャル上でブランド商品、サービスおよび体験と繋がり、オンラインで見て、試して購入することができる。
専用のミニプログラムまたはアプリよりもメタバースプラットフォームが大いに優れている点は、既存のメタバースユーザーをクロスマーケティングの目的でブランド独自のバーチャルワールドへと引き込むことができることだ。メタバースプラットフォームには他に、購入できるブランドのデジタル資産を埋め込むことができる。それには、後で詳しく紹介するデジタル・コレクティブルズや非代替性トークン(NFTs)などがあり、様々なデジタルマ ーケットプレイス、ミニプログラム、ウェブサイトに広がって薄まった体験ではなく、一か所でより総合的なブランドショッピングやエンゲージメント体験が可能となる。このコンセプトは特に、目的地型の組織でよく機能する。ブランドの立地を反映したバーチ ャルワールドを作ることができ、そこで顧客は没入し、シミュレーション体験に招待される。それによって物理的な世界での同じ体験への需要やエンゲージメントを旅の前に育てられる。

ソーシャルEゲーム
バーチャル世界からは脱線するが、eゲームの分野が40歳以下の市場で敵のいない人気を享受し続けており、デジタル経済の主要な柱を形成している。今年導入された18歳以下のプレイ時間を1週間当たり最大3時間に制限する中国政府による規制に臆することなく、eゲーム市場は変わらず優勢な状態を保っており、新たな顧客獲得を目指す企業にとって魅力的な交流ツールと広告の機会を提示している。『Honor of Kings(王者栄耀)』 、『PUBG 』および『League of Legends(リーグ・オブ・レジェンド)』などの大規模無料バトルロワイヤルゲーム内のプレイスメントが特に効果的であることが証明されている。ブランドのゲーム内マーケティングは限定版のブランドスキン、武器、乗り物およびその他特定のイベントのために作られたコスメティックという形を取っており、プレイヤーはそれらをゲーム内で使用するために収集、トレードおよび購入することができる。また、特別ステージが、エンターテイメント企業の新映画や商品発売に関わるブランドコラボレーションの隠れた場所として浮上してきており、テーマのあるクロスオーバーステージが映画公開と同時にリリースされるロケーションやキャラクターを描き出す。
同様に、バトルロワイヤルゲームはトップアーティストプロデ ュース、フルスケールの照明と音響付きの多数のゲーム内ミュ ージックコンサートのための新興プラットフォームを提示している。大規模の生のコンサート会場が閉鎖されているコロナ禍において、ゲーム内コンサートはアーティストやエンターテイメント企業に、新興のエンターテイメントや音楽商品で新しいファンとかかわるための代替の新会場を提供した。
バトルロワイヤルのディベロッパーたち自身は、自分たちの視野を広げて、ゲームのよりソーシャルな要素を協議し、伝統的なシューターゲームファンを超えて、より幅広い魅力を育てている。新ゲームモードには、武器や暴力のない島などがあり、その目的は仲間のプレイヤーや友人と共にアクティビティに参加することで社会的な関係を育てるというものだ。ソーシャルなレジ ャーには、スカイダイビングタイムトライアル、ボートドライビング、ゴーカート、そしてペイントボール合戦や水風船、バーガー弾などといった「楽しい」戦闘ゲームなどがある。明らかに、これらeゲームのソーシャルエンターテイメントとしての概念実証は達成されており、それがオリジナルの武器ベースのゲームバージョンと関連付けることに慎重な可能性のあるエンターテイメントおよびレジャーブランドがこれまで以上に活用できる道を開いている。
さらなる特別版「ソーシャル」アイランドが出てくると予想できるだろう。そこでは実際にプレイヤーが訪問する前に友人と共にオンラインで体験をするためのお試し版として、リゾート企業が提携して、その施設のデジタル版を作り出す。また、ゲーム内の購入品と賞品間でのクロスオーバーの大きな可能性もあり、プレイヤーは実際の場所での直接的な体験やイベントと交換することができるようになるかもしれない。
デジタル・コレクティブルズ
2021年に紛れもなくメディアを賑わしているのは、デジタル・コレクティブルズ、または非代替性トークン(NFTs)のブランドエンゲージメントのためのマーケティングツールとしての勢いだ。技術的な観点から見ると、これらデジタルトークンは、トークンの信頼性を認証するデジタル台帳に保存された唯一無二のデ ータユニットで構成される、コレクターの間でのNFTsへの関心は、今年第3四半期に急激に高まり、世界全体で106億7,000万米ドル(1兆1,700億円)もの取引高を生み出した。これは、2021年第2四半期と比べて704%の増加を意味する。アントグループ、テンセントおよびJD.comの全てが中国市場向けにデジタルマーケットプレイスを立ち上げており、アリババのデジタル・コレクティブルズオークションサイト「Guang Jian」が今年スタートし、eスポーツ、デジタル著作権、デジタルアートおよびデジタルトレーディングカードコレクティブルズなどを展示・販売している。中秋節には、アリババは、同社のブロックチェーンプラットフ ォーム「AntChain」上に1個1人民元でデジタル月餅をリリースし、同社のeコマースプラットフォーム「Taobao」を通じて販売した。アントグループのアリペイも、2022年アジア競技大会を記念して競技会用3Dデジタルトーチなどのデジタル・コレクティブルズを発行し、こちらも「AntChain」プラットフォームにサポートされている。ライバルのテンセントもまた、デジタル・コレクティブルズのトレードを行うプラットフォーム「Huanhe」を運営しており、同社のZhixinチェーンをベースにしている。
しかしながら、これらデジタル資産への道のりは、中国市場で明確な形ではできておらず、今年9月には中国人民銀行がバ ーチャル通貨関連の事業活動の違法性を繰り返し述べた声明を発表している。アントグループとテンセントは、その後金融投機や投資とのあらゆる関連性を取り除くために、自社のプラットフォーム上での呼び名を「NFT」から「デジタル・コレクティブルズ」へと変更した。アリペイも8月に、デジタル・コレクティブルズの購入者向けに、デジタル資産の譲渡または転売までに最低180日保有しなければならないという要件を導入した。コンプライアンスをサポートするためのさらなる努力の中で、アントグル ープ、テンセントおよびJD.comは10月末、中国の国家規制当局とデジタル・コレクティブルズ/NFTsに関する自主規制協定に署名し、投機、金融リスクおよびデジタルクリエイティブ業界のバ ーチャル通貨との関連を防止することを約束している。
規制上の検討事項以上に、ブランドはデジタル・コレクティブルズをデジタル贈呈品、宝さがしおよびプロモーションを通じて新規顧客を狙う媒体として調査している。飲食店は新商品発売にあたって、NFTギフトを、顧客や従業員の間でマーケット内の認識を深めるためのプロモーションメカニズムとして使用してきた。マクドナルド・チャイナは、新しいマクドナルド・チャイナの本社のデザインをベースにした中国市場での31周年を記念するNFTsセットを出した。

観光地も、その文化資産を世に広め、文化的歴史を人々に知 ってもらうための手段として、デジタル・コレクティブルズ作成の第一線にいる。中国の湖北省博物館は、越の王「勾践」が所有していた錫青銅製の剣である有名な越王勾践剣(えつおうこうせんけん)のデジタル・コレクティブルズシリーズをリリースした。アリペイのミニプログラム「AntChain Fan Points」で発売されたデジタル越王勾践剣コレクティブルによって、購入者は博物館の環境の外で、作品を詳細に観察し、命を吹き込むことができる。
海外では、タイの観光庁も、観光市場を活性化させ、コロナ禍後の経済回復を早めるために、NFTsの活用を調査している。タイ国政府観光庁は、タイのデジタル通貨取引所「Bitkub」との連携で観光プラットフォームを開発する計画を明かした。Thai Tourism Coin(タイ観光コイン)やNFTs発行の可能性がある。これらデジタル資産は、投機的な通貨取引活動を回避しながら、追加の手数料無しでバーチャル通貨から現地通貨への両替をスムーズに行えるようにする狙いがある。Thai Tourism Coin は、他の観光で有名な国や場所が現地規制の境界線内で同様の取り組みを開始する先駆けとなる可能性がある。
NFTロイヤルティ資産
NFTsの可能性は、デジタル・コレクティブルズの単なるリリースをはるかに超える領域へと広がる。NFT所有権は、気持ちの面から財務的な面まで、顧客のブランドへの投資を増加させるツール、そして企業が長期的な顧客の忠誠心を高めるツールとして見られている。
ブランドはロイヤルティスキームのVIP客にNFTsの提供をスタートさせており、そのNFTsは、長期間に一定間隔、例えば10年間1年に一度などの間隔で無料のブランド商品または体験を受け取る権利とセットで販売される限定版のブランドのデジタルアート作品で構成されることがある。これらより複雑なNFTsは、単なるデジタルアート作品から、デジタルアセットにブランドが作り出した権利や利益を組み込むまでに進化しており、例としてはプレビューへのアクセス権、特別版商品、ブランド体験、ブロックチェーン台帳を用いて記録・認証されている所有権などがある。NFTsをVIPロイヤルティプログラムメンバーに提供するだけで、ブランドは会員資格に見返りを与え、他の人には入会への動機を与えることができる。
データプライバシー規制や実践によって第三者データへのアクセスがかつてないほどに制限されていることを考えると、ロイヤルティプログラムのメンバーシップを育てることがますます重要になっている。顧客にデジタル環境でロイヤルティプログラムにより触れてもらうように促すことによって、サービスを個人向けにカスタマイズし、より良い顧客体験や結果を提供するためにブランドが持つ自由に使用できるデータ量が増加する。
NFTsの使用を通じて本物であると認証される同商品のデジタル版と物理的なバージョンの間のダイナミクスもまた大きな可能性を持つ領域だ。ブランドは、物理的な特別商品の販売を、同じ商品のNFTデジタル版を既に保有する顧客に制限するのか、または対応するデジタルNFTを保有するメンバーのみに特別な直接体験を利用してもらうのかを選ぶことができるかもしれない。ブランド自体は、既に述べたように、デジタル商品が購入でき、デジタル環境で着用できるメタバースプラットフォームにバーチャル店舗を作成することに取り組んでいる。
NFTsに与えられている権利の範囲の周辺を上手く進んでいくには、未だ一部の不確実性や法的問題が残されている。NFTの「所有権」は単にNFTトークンと内在するデジタル資産の使用権に関係するのか、もしくはこれらはデジタル資産自体に付属する権利の所有権にまで及ぶのか。これまでは大抵の場合、企業がNFTが提供されているプラットフォームまたはマーケットプレイスのルールに沿ってNFTsに関連する条件や権利を決定してきた。顧客はNFTsを保管するためのデジタルウォレットを保有していなければならないが、ブランドもまたNFT収集の世界に慣れていない人のために、メンバーシップ体験の一環として顧客がデジタルウォレットを作成するのを支援している。これらブランドのNFTsはその後、将来のイベントやプロモーションのためのメンバーシップまたはロイヤルティカードの役割を果たすことができ、本物かどうかはブロックチェーン上で認証される。NFT保有者にとっての追加のブランドメリットはまた、例えば新しいブランド施設、レストランまたはホテルの使用への特別アクセスを与えるために、後々、継続的にアップデートまたは追加することができる。
デジタル「ブラインド」ボックス
人工知能(AI)や商品・サービスにおけるハイパー・パーソナライゼーションの使用の増加と逆行する傾向が、新たにスタートした「ブラインド」ブランドボックスの圧倒的人気だ。通常は顧客が無料で入ることのできるWeChatミニプログラムを通じて、デジタルとオフラインの内容で構成されたデジタル賞品抽選をブランドは行う。賞品は、オフラインの自動販売機または店舗内で交換できるデジタルバウチャーとして発行される。これにはプレミアムかつ限定の商品、イベントチケット、旅行パッケージおよび飲食賞品などが含まれる可能性がある。
これら「ブラインド」ボックスの成功の秘訣はその内容がミステリーであることだ。ミステリーという要素は、特に旅行を購入する中で興奮や冒険を求める若い顧客にとって非常に魅力的だ。これは顧客に提示されるほとんどの選択肢がすでに予測されているまたは、それまでの好みや購入行動から情報収集されているAI主導の世界では益々難しくなっている。
「ブラインド」ボックスのメカニズムは故に、顧客の心理的ニ ーズを満足させ、「ブラインド」ボックスプロモーションからの収益は今後数年で大きく成長すると予想されている。企業は、「ブラインド」ボックスチャンネルを使用して限定版の収集品または一度限りの体験パッケージを提供する。そしてそれは「ブラインド」ボックスの収集、そしてコレクションを完成させるため、または求めている賞品を手に入れるための再購入への消費者の需要によって加速する。忠誠心のある顧客に「ブラインド」ボックスによって見返りを与えることはまた、貴重なエンゲージメントツ ールであることが分かっており、同時にこれら顧客による自身のアカウントでの「ブラインド」ボックスのさらなるリピート販売に繋がっている。
「ブラインド」ボックスの中身を見るというショーは、それ自体がソーシャルメディアの現象であることが証明されており、顧客は自身の切り抜きチャンネルで動画をシェアし、故にさらなるエクスポージャーを生み出し、友人やフォロワーからの関心が生まれる。Tmall(天猫)は、顧客は、中身の価値が高い、レアまたは唯一無二である場合に、毎年「ブラインド」ボックスに多額の金を費やすことを検討するだろうと報告している。ブランドは、そのようなデジタル「ブラインド」ボックスプロモーションが劇的にWeChatやソーシャルメディアアカウントへのトラフィックを増加させることができ、若い新たな顧客を引き付ける大きなチャンスがあるということに気が付いている。高級区分の企業は特に、デジタルプロモーションを使用してエントリーレベルかつ若い顧客の間の関心を生み出すことに積極的で、旅行、美容およびファッション分野の企業は全てマーケティングキャンペーンでデジタル「ブラインド」ボックスプロモーションを利用したことがある。
デジタルの進歩によって、デジタルからオフラインのクロスオ ーバーをサポートするマーケティング構造の新たなユニバースへの道が開いた。企業は、時代に遅れることなく、次世代の顧客エンゲージメントおよび体験に関する顧客の期待に応えるために、マーケティング戦略を再設定し、新たなデジタル資産の形とメタバースプラットフォームを組み込んでいく必要があるだろう。