豪クラウン・リゾーツのガバナンスを今後2年間監督する権限を持った特別管理者の任命は、独特の課題を提示している。元規制担当者、デイビッド・グリーンが考察する。
フィンケルスタイン王立委員会が、カジノライセンス保有の適格性を再確立するためにクラウンに対して2年間の猶予を与えることを提言した一方で、王立委員会は明らかに再び同じことが起こることを恐れていた。その懸念を和らげるために、委員会はクラウンの最終意思決定者の役割を担う「特別管理者」の任命を選択した。ビクトリア州政府は、その役割に、州の独立理事会型汚職防止委員会(Independent Broad-based Anti-corruption Commission :IBAC)の元コミッショナーであるスティーブン・オブライアン勅選弁護士を任命したことを発表した。
その任命書は公開されていないものの、幅広い特別管理者の権限および責任が、現在国会で審議されている法案に詳しく書かれており、その法案が施行されればビクトリア州のカジノ及びギャンブル法を大きく改正することになる。その法案こそが、クラウン・メルボルンの取締役会がその職務執行をする中で直面する可能性が高いと同時に、オブライアン氏の実質的な管理の対象になる課題の一部を示している。
その権限に含まれるのが以下の内容。
法案の中には、特別管理者の役割に任命された人がその地位を占めるのに「適格」でなければならないという要件は含まれていない。同法案は、特別管理者が当該カジノ事業者の関係者でないこと、もし関係者であるとすれば、その役割につくための適性評価を含む適性診断を受けることが求められる。IBACの元コミッショナーが間違いなく「ふさわしく適当である」一方で、そのような監督役の適性検査には、調査経験というよりもむしろ、関連業界または規制など、ほぼ間違いなくそれ以上のものが求められる。

同様に、特別管理者が補佐役に雇用する可能性がある契約者に対しても、基準となる適性要件はない。その雇用条件は、おそらく利益相反を防止し、秘密保持の約束を義務付けているが、誠実性評価無しに、表向きの親和性または評判にかかわりなく、機密性の高いまたは営業上センシティブな記録にアクセスできる契約者がもたらす可能性のある危険の大きさを測るのは不可能だ。
特別管理者がクラウン・メルボルンの取締役として享受する 「権力と特権」が何であるかは不明だ。その人物は、どちらにせよ取締役会や委員会の会合に参加し、記録を調べる権利を持つことになる。また、それら会合における大切な議論にも参加することもできる。しかし、問題となる可能性があるのが、その人物がクラウン・メルボルン取締役の義務、職務、責任のいずれも持たないという事実だろう。特に、その人物は同社、グループ持ち株会社としてのクラウン・リゾーツ、または同上場会社の株主に対しての信認義務を負わない。この非対称性は支払い能力があるオーストラリア企業では場合によっては独特なものになる。
信認義務の他に、特別管理者はいずれの代位責任を負う危険にさらされることもないようだ。豪企業の取締役達は、彼らが管理する企業による法律違反に対して個人的に責任を問われる可能性がある。特に、消費者保護、労働衛生および安全、納税、スーパーアニュエーション(オーストラリアの年金制度)および環境保護という分野が当てはまる。同法案のスキームは、法の下で行われたあらゆる事に関して管理者の責任を放免する、または別の法律の下で発生した場合には州にその責任を負わせるかのどちらかだ。
クラウン・メルボルンに法的拘束力のある指示を出す特別管理者の権限は、特定の定義された状況に限られているものの、管理者がその指示が同社またはそのカジノ運営において「最善の利益」であると考えた場合には取締役会の判断の代わりに指示を与える一般的な権限を持つ。 これには、すでに述べた非対称性にさらに鋭い焦点をもたらす可能性がある。
特別管理者の意識は、法律およびその任命書の両方に詳細に記載された通り、その職務の遂行にあるだろう。ビジネスの商業面での関心は、法律違反の恐れがあるかもしれない事柄、または規制上の要件に限定される可能性が高い。確実に、その2年間の任期内にフィンケルスタイン氏が不適格と見なした汚点を取り除く以外に、利益の最大化、より積極的に営業競争をする、または株主価値の構築といった義務によって動かされることはない。もし彼が会社の最善の利益が何であるかの判断を間違うということになった場合、より保守的なまたはリスクの低い方の話になるということが予想できるだろう。
これがクラウン・メルボルンのビジネスにどのような影響を与える可能性があるのか?例えば、そしてあまりに現実味のない話になることなく言うならば、ギャンブルによる危害の最小化という問題への同社のアプローチを完全にリセットすることが求められるかもしれない。問題あるギャンブルへのその自称「世界最高のアプローチ」がフィンケルスタイン氏によって現実に即していないと判断された。リセットすることがもしかすると、同社の広告および販売促進活動に影響を与え、ハイリミットスロットの逆向きの流れとなり、顧客のロイヤルティプログラムを根本的に考え直すことを余儀なくされる可能性がある。もし取締役会をそのような変化の必要性に関して説得できない場合、そうすることで会社の最善の利益になるよう管理者が単純に取締役会に対して現場で適切に方針の修正を実行するよう指示を出すのがふさわしいだろう。
特別管理者の判断を取締役会のものの代わりにすることは別次元の事で、法案は対処していないようだ。会社の取締役たちが管理者から受けた指示に従わなければならない一方で、彼らはその指示の実行によってマイナスの影響を受けた第三者から訴えられるといった事態において法律では保護されていない。唯一の回避方法は、自社の会社役員賠償責任保険方針(Di-rectors and Officers Insurance Policy)またはあらゆる裁判において共同被告人として州に加わるかのどちらかだ。より納得のいくアプローチというのは、単純に取締役会が受ける可能性のある指示を実行する際に、取締役会に第三者の行為に対する法による保護を与えること与えることだろう。