新型コロナ後の世界に向かう中で、カジノはサービスの多様化と特定の分野に特化した新市場の開拓によって、他のゲーミング及びエンターテイメントセクターの後に続かなければならない。
2000年代に入ってから20年が経過し、次の10年に入っていく中で、アジアのカジノゲーミング分野に今後何が起きるのか、そしてその進化の可能性について考察してみようと思う。私が調べてみたいと興味を持つ問題に、技術上の進歩、変化する競争環境、デジタル通貨の採用、そして規制監督体制などがある。ビジネスの回復を成功させるために、この業界は、消費者行動において根本的な変化を経験している市場に対応できる多様化された商品を数多く提供すべきだというのが私の考えだ。
経営陣にとっての最重要課題の1つが、収益性への持続可能な道のりを見つけることだ。しかしながら、大勢を監視しつつ高度なセキュリティと監視ルーティンが必要な中で通常の業務を行うことは、全員が個人用防護具の着用を求められる本質的に生物災害という環境の中では難しいことが分かっている。これが、顧客トラフ ィックの減少、そして売上の大幅減につながっている。
個人用防護具の配備によって、顧客と従業員が少なくとも比較的安全に感じられる環境を作り出されたことで、カジノは営業を一斉停止するのではなく最小レベルの営業を維持することができている。しかし、これら一時しのぎの対策が長く持ちこたえられる可能性は低く、最終的にはターンオーバーのさらなる低下につながり、市場参加者には減少に歯止めをかける革新的なアプローチの採用が求められる。
自宅からのリモートワークのトレンドが大都市の商業区域の事務所スペース需要を弱める中で、アジアにある統合型リゾートの大型カジノ店で同様の流れが見られるかもしれない。それぞれのビジネスモデルの基礎として大人数の集まりに依存している企業は、ほぼ全てをリモートで行うことが流行しているパンデミック以降の世界では不振に陥るリスクにある。
プロスポーツリーグはそれでも、入場者数に制限はあるものの、大幅に売上を失うという惨状を免れている。それは主に、オンラインやテレビ放送パートナーから生まれる巨額の売上によるものだ。それこそが、パンデミック中にあっても大半の大規模リーグがプレイできている理由であり、航空、ホテル、映画館、ショッピングモール、そしてもちろんIRといった他の多くの消費者業界を悩ませている事業中断を回避している。今後、オンラインやメディアのカメラがないエンターテイメント活動への需要はパンデミック前の水準に回復できるのかという疑問はこのことによってはぐらかされている。
念のために、米国での商業は今回のパンデミックがその変化を加速させる前からすでに、より没頭できるオンライン体験を好む方向に向かっていた。 仮想現実やマルチプレイヤーのビデオゲームはすでに伝統的なエンターテイメントの流通プロセスの中間段階を無くしており、大きなマスメディア複合企業はそれに気が付いている。その対応として、ディズニーやユニバーサルスタジオのような企業は大きく多様化し、テーマパークコンテンツを活用し、そしてそれだけに頼らない様々な商品や配信サービスを提供している。その点において、ゲーミング事業の少なくともある部門は、オンラインコマースへの目を見張るシフトから利益を得ている。米国でのスポーツくじは、巨大な成長を経験しており、配信とデジタルネ ットワーキングの技術進歩を活用して、効果的にカジノゲーミングセクターの需要と供給の原理を変えている。2018年に最高裁が制限を撤廃したことで可能となったその類いまれなる進歩は、ロックダウンの結果増えた自由時間によって過熱し、ベッティング・ターンオーバーの大幅な増加につながっている。以前はFanDuel、Draft-KingsそしてBarStoolまで、ファンタジースポーツのみに焦点を当てていたメディアは現在、独自のスポーツくじを運営しており、その取引の大半がオンライン上で発生している。この分野の拡大は続く可能性が高い。従来型のカジノは、健康上の安全に懸念がある中で楽しみのためにリゾートへと赴くのに気が進まない多数の消費者に向けてオンラインスポールゲーミング商品を売り込もうとしている。
また、以前は生真面目であったカジノ所有者たちがオンラインの世界に将来の成長を求めており、この分野でのM&A取引の数は増えることが予想される。米国でスポーツゲーミングにとってプラスとなっていた教訓の一部を適用した場合、テクノロジーやオンライン商品提供へのシフトはどのようにして、アジアのカジノゲーミングの未来を形作るのに役立つより重要な役割を果たすことになるのか?
オンラインや配信コンテンツがより多くの人の動いていない意識を捉える中で、一般消費支出をめぐる競争は激化している。この環境の中で、IRは競争力を維持するために、消費者の変化する好みを考慮に入れた革新的な新商品を開発する必要があるだろう。最も重要なのは、全てのカジノの取引活動がゲーミングフロアのみで行われるという考え方だ。規制上の要件と、安全を最大化するために設計された運営手順の必要性を考えると、従来はこれが実用的だった。また、消費者需要も十分にあり、プレイ体験をカジノエリアの外へと持ち出すことが必要ではなかった。
しかしながら、今の環境においては、消費者がゲーミングフロアの外を含む多数の場所で参加できる雰囲気を作り出すことが、業界が顧客の気まぐれで急速に変化する好みに確実について行く中で重要となる。例えば、常連客がホテル客室から、施設内のレストランから、またはIRが営業する法域のどこからでも賭けを行うことができるようにすることで、IRは今回の新型ウイルス流行の結果失われた需要を一部相殺することができる可能性がある。規制上の柔軟性が増加し、ゲーミング商品の規制緩和がより進む方向に向かっていることによって、さらなるベッティング・ターンオーバーおよび利益が生まれる可能性が高い。KENO(キノ)は、カジノエリアの外へとゲーミング活動を広げる、影響の少ない高マージンゲームの良い例だ。オンライン版があるということも、人気が高いと証明され得る。
確実に、企業はそのようなユニークなサービスを提案するための技術を開発し、規制機関からの承認を得る必要がある。その上、これらのコンセプトは、「入口の障壁」撤廃がスポーツくじで行われたのと同じ方法でなおも追加の需要を刺激する可能性がある。しかしながら、当局の承認を得ることが主要なハードルとなり、 政府は頭をやわらかくし、進歩的な考え方をして、過去の成功に甘んじないということが必要になる。
公正な立場で言うならば、アジアのカジノゲーミング規制機関はとても良い。彼らは、ピーク時で1年に500億米ドル以上のゲーミング粗収益を生み出す業界を取り仕切り、普段は最小限の介入でライセンス保有者が営業できるようにしている。しかし、もし当局職員が先を見据えたアプローチを取らずに、変化するマーケットトレンドに即座に対応する能力を発揮しなければ、その収益の大部分は失われる危機にある。例えば、モバイルのベッティングプラットフォームでの取引を円滑にするためにIRによるデジタル通貨の使用を認めることが、顧客とのやり取りの増加に拍車をかける重要なきっかけとなり、結果ベッティング・ターンオーバーの増加につながる可能性がある。
その素晴らしい価格変動によってほとんどの人の意識がビットコインに向いている一方で、国営または中央銀行のいずれかが承認したデジタル通貨商品の開発及び活用によって巨額の流動性が解き放たれる可能性があり、本当に必要なセクターに刺激を与えてくれるかもしれない。中国の45%という貯蓄率は世界でも最高水準の1つであり、その富のほんのわずかな部分にでもアクセスするパイプを持つことが、それを活用できるビジネスにとって利益となるだろう。
デジタル通貨はより効率的で低コストのカジノ営業環境を促進する可能性が高く、セキュリティを強化すると同時に取引高を増加させることができる。これはゲーミング以外のビジネスにも役立つことだろう。この形式の支払いソリューションの採用は、多くの場合に不正行為の予防のために先手を打つよりもむしろ問題が起きてから対応するという性質の、時代遅れの肥大化したコンプライアンスプログラムの必要性も低くさせる可能性がある。ブロ ックチェーンと分散型台帳技術は、規制機関に対して、全取引履歴と合わせて安全で効率的かつ疑う余地のないオーディット・トレイル(監査証跡)を提供することができる。スマートコントラクトテクノロジー商品も、サプライチェーン構造の中で上手く機能することが分かっており、コストを下げつつ効率を向上させてくれる。そして私はそれらが我々の業界内でも同様のインパクトを持ち得ると見ている。
デジタル通貨の採用がカジノビジネスに根付かないかもしれないと考える人達には以下のどちらの可能性が高いかを考えてみてもらいたい。ビジネスの動きが通常不透明なジャンケット取扱高の回復、または資金源とそれに対応する賭けが即座に検証できる、よりデジタルな世界への移行のどちらか?我々は透明性が向上し、監視が強化される時代に突入しているというのが私の見方だ。そして、これらの将来の開発は、どうすればより効率的にカジノ事業を運営できるかという点において無限の可能性を提供しれくれるかもしれない。そしてデジタル化および自動化の推進を通じて大幅に収益性を向上させるチャンスも。
この業界が新型ウイルスの流行によって苦難を経験している一方で、この話の最悪な部分は終わりに近づいているようであり、エンターテイメント商品への消費者需要が回復し盛り上がってきている中で、今後が非常に楽しみな状況だ。理想としては、ワクチン、ソーシャルディスタンスそして最終的には共有の免疫のようなものによって、人々が再びIRの独自の心躍るエンターテイメントを安全に体験できるようになってもらいたい。それでも企業、急速に変化する消費者の好みについていける柔軟かつより差別化された市場志向の新商品を開発してその機会を最大限活用しなければならないだろう。