カジノ運営を続ける数少ない管轄区域の1つであるマカオにちょうど衆目が集まってるにもかかわらず、新型コロナウイルスの世界的大流行は、回復の兆しをほとんど見せないままゲーミング業界を停滞させ続けている。
メルコリゾーツ&エンターテインメントのCEO、ロ ーレンス・ホー氏は、電話会議による第4四半期の決算報告会で、「マカオは非常に長い間、かなり静かになると予想している」と語った。
現在公式に「COVID-19」と呼ばれている新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、マカオのカジノが政府命令による異例の15日間の営業停止措置に続き、営業再開の許可を与えられてから24時間以内の2月20日に電話会議を行った。
比較的早い初期段階においても、マカオへの訪問客数と収益への影響は驚異的であった。1月27日から2月10日の間にマカオに到着した観光客数はわずか18万7,000人で、前年比90%減となり、非常に重要な中国の春節(旧正月)の大型連休を直撃した。マカオのカジノの閉鎖は、マカオ特別行政区で10番目の陽性反応が確認された後の2月5日に行われ、さらに国境規制が強化されたため、2月8日土曜日には観光客数はわずか2,800人にまで減少した。 これは公安警察が記録を取り始めてから、1日あたりの合計者数としては最低となる。総体的に見ると、2019年度中のマカオへの1日の平均観光客数は10万8,000人であった。
メルコの決算報告会の間、ローレンス・ホー氏はマカオのカジノ産業への影響は氷山の一角にすぎないということを予期していなかった。
今日までの報道では、武漢の生鮮市場が新型コロナウイルスの発生源であることがはっきりと示されている。2019年12月に最初に特定され、2020年1月下旬まで広く報道されなかったが、執筆時点では世界中で80万人以上が感染し、4万人以上の死者を出している (その後は、感染者170万人、死者10万人超に)。
Inside Asian Gamingは、マカオのゲーミング監察協調局の職員らが、感染拡大防止のための新しい対策について話し合うために、現地の6つのカジノコンセッション保有者の代表らと会った後の1月6日に、新型コロナウイルスについて初めて報告した。IAGがその時点で報道したその会議は、当時、近くの武漢で発生した突如流行しだした肺炎と、一部の地域住民がウイルスをマカオに持ち帰った可能性があるという保健局からの警告に応じた。
2日後、DICJは、マカオの医療機関が武漢に最近旅行し呼吸器症状を訴えた患者の8症例を明らかにした後、体温検査機器の購入をする事業者を支援すると発表した。
マカオが今やコロナウイルスとして認知されている最初の感染例を発表したのが1月22日であり、その13日後、マカオの行政長官がウイルスによる感染拡大を防止するために、マカオのSARにある41のカジノとその他のゲーミング事業施設すべてを15日間閉鎖するという驚くべき宣言をした。
ほとんどの施設は営業再開をしたが、サンズ・マカオの開業が、2004年に世界のカジノ産業に新たな世界秩序を示して以来、連日のマカオの盛況を象徴するようなゲーミングフロアはほとんどない。
2月20日にカジノが再開してから最初の1カ月で、マカオへの観光客数はわずか25万人であった。これは、2019年のマカオへの月別平均観光客数より92%減となる。
長く曲がりくねった道
マカオのカジノ産業がたった15日間ではあるが休業したというニュースは、驚異的に広まり、その歴史的な日のIAGのニュース速報が、これまでの我々の記事の中で一番多く読まれた記事になったことは驚きでもなんでもなかった。しかし、すぐにそれがマカオだけではないことが明らかとなった。
3月15日(日)、フィリピンのゲーミング規制当局であるPAGCORは、マニラでのすべてのゲーミング事業を、まるまる1カ月間、市全体で実施されるコミュニティ検疫措置に応じるため、即時発効で営業停止すると発表した。48時間後、PAGCORは、オンラインPOGO業界を含むフィリピンのルソン島全域に閉鎖範囲を拡大した。

数日のうちに、MGMリゾーツ、ウィン・リゾーツ、ラスベガス・サンズ、シーザーズ・エンターテインメントの「ビッグ4」と呼ばれるラスベガスのカジノ事業社がラスベガス・ストリップの全施設の閉鎖を受けて、ネバダ州知事は、州内にある必要不可欠ではない全ての事業に対し1カ月間の営業停止という前例のない命令を発表した。それはつまり州の数百ものカジノが休業となったということである。3月25日正午の時点でアメリカ全国の465ある商業カジノと534ある中の508のトライバルカジノが閉鎖し、約64万9,000人のカジノ従業員が失業中であると推測した。
3月末までに、カジノの閉鎖はヨーロッパからオーストラリアまで、そして韓国、マレーシア、サイパン、インド、ネパールなどのあらゆる場所で当たり前となった。
それでも、今日に至るまで、業界がマカオに注視し続けているのは、世界のカジノ業界のリーダーでというだけでなく、皮肉にも、カジノが今尚運営されている非常に数少ない管轄区域の1つであるからだ。
マカオが最初にドアを閉めたように、この小さいながらも非常に有益な30平方キロメートルの土地が、これからの未来を明るく照らす一筋の希望の光をもたらす存在となり得るかもしれない。中国がマカオへの団体旅行ツアーと同様に、2019年の訪マカオ旅客全体の47%を占めた個人訪問スキーム(IVS)を一時停止したことを考慮すると、唯一の問題は、それがいつ元通りになるかということだ。
「すべてが本当に元通りになるかどうかにかかっていると思います。それには2つの側面があります」と、サンフォード C バーンスタイン証券のグローバルゲーミング担当でシニアリサーチアナリストのヴィタリー・ウマンスキー氏は述べた。
「1つはビザとそれに関する多くの問題であり、もう1つはあらゆる輸送活動です。5月に物が戻ってくるかどうか、11月か12月までにすべてが戻ってくるかどうかはわかりません。それはただの当て推量ですよね?そしてタイミングも当て推量です。それらの増加量の推移さえ当て推量です。なぜなら我々はビザの発給と輸送活動の観点から考えても、それがどの程度増加するかはわからないからです。それらはマカオ特有のものです。
現在、フェリーも飛行機も運行しておらず、IVSの予定表もありません。団体旅行ビザもなければ許可された団体旅行者もいません。そのため、それらすべてを復帰する必要があるが、この状況を見通せる人がいません。私も事業者も政府すらもわかり得ません」 。
3月上旬にDICJが2月のGGRの数値を発表する前に、バーンスタインは、マカオの回復のための3つの可能なシナリオの概要を発表した。最初の強気なシナリオでは、2020年にGGRが11%減少し、EBITDAは12%~26%減の間で、2020年度の下半期に強めのリバウンドが始まるというより楽観的な結果を想定している。より保守的シナリオでは、初夏に感染がピークに達し、その後、年間GGRが約21%減、EBITDAが33%~42%減の間で、2020年度の第3四半期までに回復するというものだ。
最後に、弱気なシナリオでは、年間を通じて続く軟調さは、2020年度のGGRを43%減少させ、EBITDAは57%~86%減の間を推移するとしている。

数週間後のこれらのシナリオを振り返って、ウマンスキー氏は次のように述べた。「それは実質的に悪化する可能性があり、私はそれが実質的に改善されるとは思えません。
しかし、それらの経路はかなり異なります。10代の若者によるGGRの年間低下から始まり、20代から50歳以上にまで低下しているということになります。これらはすべてあり得る話であるため、まさに当て推量ということです。つまり、10の人と話せば10の異なる答えを得るということです」。
コロナウイルスの影響がいつどのようにして緩和するかを予測する複雑な試みは、世界的な状況が日毎ではなく刻一刻と急速に変化していることである。たとえば中国では、新たに確認された感染者数が大幅に減少したため、3月中旬までに武漢を含む地元住民への規制緩和が始まったが、同時に、海外から新たに持ち込まれた多くの感染症例のため国境管理が強化された。実際、発効前の数日間で、今や新型コロナウイルスの中心地は明らかに米国とヨーロッパとなり、世界中のほとんどの国が、生活に必要不可欠でない事業の営業停止か、または、その都市自体をロックダウンするという独自の措置を実施している。
しかし、マカオでは、本土の中国人観光客への入国制限が割合すぐに緩和されるかもしれないという話が密かにあった。
ジェフリーズ・エクイティ・リサーチのエクイティアナリストであるアンドリュー・リー氏が、3月23日のリサーチメモで、中国の湖南省、福建省、江蘇省が新型コロナウイルスの新しい症例がない日数がそれぞれ17日、19日、27日と経過しているとし、もし入国が制限される場合、国境の開放の可能性があることを示唆した。
「中国のIVSと団体旅行ツアーがまだ停止されているため、我 々は『新型コロナウイルスの未発生日の数』にもよりますが、これは地域ごとに緩和できるとの見方を維持しています。
マカオへの観光客数のうち、中国本土からの上位10の地域の6つで、最近新しい症例が確認されました。中国から総観光客数の33%が広東省からの観光客であり、73%がIVS経由で入国したことを踏まえると、広東省が鍵となります」。
リー氏は、2020年のマカオGGRが45%減少すると予測し、2021年には約33%回復するが、これらの見積もりでさえ修正が必要になる可能性がある。本誌の発行直前に、広東省はマカオと香港、そして州住民を含むすべての入国者に対し検疫を実施した。入国する際には必ず検疫と14日間の隔離をさせ、外出禁止令を出すために、マカオからの突然且つ大規模な出国を促した。
現時点で未来のことをあれこれ語るのは、「言うは易く行うは難し」である。
業界への影響
世界中で前例のないカジノ休業という、注目のほとんどが事業者へ向けられてる一方、新型コロナウイルスの痛みを免れた業界はほとんどない。最も危機に瀕しているのは中小企業であり、その多くはビジネスの欠如を乗り切るために積極的に政府の支援を求めることを余儀なくされている。3月初旬、マカオ経済局は、中小企業から1カ月の間に約2,500件の資金援助申請を受け取ったことを明らかにした。一部は無利子ローンの提供を要求し、その他はローン返済の調整を要求した。

問題を認識し、MGM中国は3月上旬に、地元のマカオの中小企業のための一連の救済措置を導入しました。 それにはMGMからの将来の注文またはサービスのために、適任な供給業者に事前に頭金を提供することによる革新的な「未来のビジネスのための頭金」構想を含んでいる。
株価が下落しているため、さらに大手の供給業者も打撃を受けている。
3月20日にIAGが報告したように、サイエンティフィック・ゲームズの株価は1週間で84.4%低下し、2月12日に高値をつけた30.24米ドルから8日後にはわずか4.71米ドルとなった。2日後にはIGTは14.73米ドルから4.12米ドルに、オーストラリアのスロットマシン界の巨人アリストクラートは1カ月で37.69豪ドルから18.00豪ドルまで下落した。
アリストクラートのゼネラルマネージャー–アジア太平洋地域担当のロイド・ロブソン氏は、業界の関係者が一緒に働くことの重要性について学ぶべき教訓があると述べている。
「我々は、従業員、顧客、サプライチェーン、政府や地域パートナーなどの外部の利害関係者を含む複数のレンズを通して影響を分析しています」とIAGに語った。
「当社の資料の多くはAPAC地域が情報源のため、供給への影響を理解することが課題となっています。 多くのカジノが閉鎖されているという事実を考慮すると、顧客側にもある程度の影響がありました。
我々は、マカオでのマスクや衛生用品の配給、フィリピンでの食料供給など、その地域をサポートするためにできる限りのことをしています。これは業界全体にとっての課題であり、我々はこの活気ある地域の発展と就労をサポートするという自身の役割を果たすことで、より大きく、より良い状態に戻ることができるよう共に協力していく必要があります」。
風向きを変える
現状では、ずっと続いている先の読めない不確実性は、一部の人にとって確実に悩みの種を増やしている。
「6月になっても同じような状態が続き、数値が今と変わらないような場合、我々はより深刻な問題に直面していることになる」 – とウマンスキー氏が述べる。
「我々はその場所にいないと思います。稀な場合のシナリオでさえ、その場所にいないでしょう。つまり物事は徐々に改善すると思いますが、事業者の観点から言えば、財政状態は違っているでし ょう。多額の借金と利子を抱えた何人かの事業者がいて、その彼らはより大きな固定費を持つ大企業ですが、現在のビジネスの量は非常に小さいです。つまり、返済すべき借金の金額より多くの支出がある大企業であるほど、より大きな影響を受けるでしょう。
ウィン、スタジオシティ(メルコリゾーツ&エンターテインメント)、 MGMをある程度考察すると、これらの事業者にはより多くの借金があるため、この状況が下半期までずれ込み、現金が枯渇するようであれば、CFOらは確実に神経質になるだろうと思うし、そうなるべきでしょう。
私は今、これらの企業のいずれもこの段階で財政難に陥るとは思いません。きっと嵐を乗り切ることができると思います。しかし、一部の企業の配当は、前年と同額レベルが支払われるかは疑わしくなるでしょう。我々がさまざまな理由で考察しているこのリスクに対する展望は、どの事業者も多少異なっています」。
グローバルマーケットアドバイザーズのマネージングパートナーであるスティーブ・ギャラウェイ氏は、債務状況により不安定な立場に置かれている企業は、この危機から脱出したら貴重な教訓を得ることができると考えています。
「レバレッジを過剰に利用した人々に、嵐のような困難が来たときに乗り切れるように、利用可能な融資限度額を含む、現金保持の重要性を思い出させます。それは我々が嵐が来るのを常々知 っているのと同じようにです」と彼は述べている。
同様に、新型コロナウイルスは産業界におけるコスト管理の新時代の火付け役となるだろう。
「各カジノリゾート事業者は、固定費を削減して将来の収益ショ ックに迅速に対応できるように努めます」とギャラクシー・エンターテインメント・グループのシニアマネジメントコンサルタント兼元最高マーケティング管理者であるケヴィン・クレイトン氏は説明した。
「新型コロナウイルスで休業中の主要事業者の毎日の現金損失額は、1日あたり300万から400万米ドルと報告されています。これは、バランスシート上で紛れもない負担であり、今後の注意すべき点です。
2008年から2009年にかけての世界金融危機とは異なり、マカオを襲った最新の危機は、各ゲーミング事業者に内部プロセスを再設計し、組織構造を簡素化する理想的な機会を提供します。
危機はビジネスに衝撃を与え、以前は考られていなかったような行動を起こす可能性があります。継続的な成長の間は、組織はしばしばビジネスを圧迫し得るコストと複雑さの層の増加に苦しでいます。コストの効率化を実現させるために、すべてのカジノリゾート運営を詳細に調べるのに今ほど良いときはありませんし、一方でまた、特に競争が激化するであろう顧客への対面営業の効果改善をするため、顧客動向をより詳細にマッピングしています」。
結局のところ、クレイトン氏が言うには、コロナウイルスのパンデミックは、事業者の財政的決断力だけでなく、彼らの存在価値を見極めるのに役立つだろう。つまりそれは、彼らの次の大きな課題であるゲーミングライセンスの再入札に備えるときに、マカオのコンセッション保有6社にとって潜在的に重要な鍵となるということだ。
「世界は新型コロナウイルスの後で変わるでしょう」とクレイトン氏は述べる。
「ゲーミング事業者は、グローバルコミュニティのメンバーであり、ゲームの運営をしている地元の地域社会の中心にいます。この危機に対して各リゾート経営者やゲーミング事業者がとった行動は、ソーシャルメディアやニュースチャネルを通じて即座に判断されます。
ゲーミング会社とリゾートブランドは闇夜の灯火であり、これは地元の企業よりはるかに大きな存在です。思いやりと一貫性があると判断されたとき、リゾートブランドに対する誇りが大幅に高まることになります。
成功したリゾートブランドは、従業員を保護し、地元の地域社会をサポートし、短期的な利益よりも長期的にブランドの健全化を優先しているという点で、さらに一歩進んでいます」。