第3部、そして最後となる今回は、他の16の候補事業者を順に見ていく。大規模から小規模まで、経験豊富な会社もあればそうでもない企業もある。資金が潤沢な事業者、そうでない事業者など。それでも、世界のカジノ事業者たちが今この地球上で最も欲しがっている日本のIRライセンスを勝ち取ろうと、全社が必死で闘っている。
*IAG3月号では、ティア1にいる4社、MGMリゾーツ、ギャラクシーエンターテインメントグループ、ラスベガス・サンズ、ゲンティン・シンガポールを考察した。3月号の記事はasgam.comから。
ティア2:2番手
世界的な最大手とまでは行かないが、そう遠くもない真剣に取り組む大規模事業者。
ウィン
長所
- 高級感で定評がある
- ラスベガスとマカオという世界主要市場で成功を収めている
- 有名ブランド
短所
- スティーブ・ウィン氏のスキャンダルによるイメージダウンの可能性
- 信用が失墜した実業家の岡田和夫氏との過去のつながり
- 創業者であるスティーブ・ウィン氏の辞任以降、一人立ちし始めてはいるが、まだプロセス途中

ウィンは自分達はゴリラ(第2部を参照)だと主張し得るだろう。同社をティア2に分類するのはもしかすると少しフェアではないかもしれない。しかしおそらく巨大ゴリラよりもサイズ感は少し小さい。その1つ上の高級感がプレイヤーに大好評のウィンブランドは、業界内でも同じく大好評かというとそうではなく、実際、時価総額に関しても一つ上のレベルに達することはなかった。創業者であるスティーブ・ウィン氏の時代はその数字は常に10桁台で、ティア1にいる彼のライバル達はといえば11桁に到達していた。ウィンは、世間に対して「統合型リゾートを発明した」と言いたがるが、我々はもう今世紀に入って20年目に突入している。ミラージュのオープンははるか昔のことだ。
ウィン・リゾーツ日本法人のクリス・ゴードン社長は身を粉にして働いており、成功するには6つのことをしなければならない。1つ目は、過去の(数々の)スキャンダルから気持ちを切り替え、本当に心を入れ替えたことを証明すること。2つ目は、ウィンが、ルーフラインが丸みを帯び、くねくね曲がった文字で施設名が書かれ、赤の花柄のカーペットが敷かれた他と同じゴールデンブラウンの建物以外を建てられると示すことだ。3つ目は、ウィンが日本のコンソーシアムで、もしかすると株式持分が少数になる可能性があっても上手くやっていけると示すこと。4つ目は、非常にアメリカ的な同社が日本のビジネス慣習や政府の文化の細かいニュアンスと、きめ細かく交渉できることを示すこと。5つ目は、非常に大きな資本がいる事業になるであろうもののために必要な資金調達方法を見つけること。そして最後に、彼が上記の1から5までのポイントを伝えるための本物の意見発信およびコミュニケーション戦略を構築できると示すこと。
メルコリゾーツ&エンターテインメント
長所
- 最初に「横浜ファースト」を宣言した
- マカオ、フィリピン、キプロス、オーストラリア(クラウン・リゾーツ経由)で営業
- 香港と米国の株式市場に上場
短所
- 中国企業として見られる可能性
- スタンレー・ホー博士と事業提携がないことを説明しなければならない
- 現在クラウン・リゾーツがオーストラリアで適正調査に巻き込まれている

もしライセンスが純粋に熱意に対して与えられるとすれば、メルコのローレンス・ホー会長兼CEOはすでに手に入れていることだろう。彼のスピーチの多くがこのような文言から始まる。「日本に来るのは500回目です。ここに始めてきたのは5歳の時で、ただただ日本が大好きなんです」。ホー氏は何かを企んだりしているわけではない。日本に対する想いは見るに明らかだ。マカオにあるメルコの旗艦IRであるシティ オブ ドリームスについ最近加わったモーフィアスの全客室に日本式のトイレを設置するほどだ。
今、40代に入り、引き締まった体で快活なホー氏は、まだ若くてぴちぴちな印象を持たれるが、ここ数年で大きく成熟してきた。メルコを新たな高みへと引き上げ、2017年以降はIAGのパワー50ランキングで3位の座を固く守り、そしてフィリピン、キプロス、オーストラリアへの進出によって世界での実績を確固たるものにした。彼が「何としてでも」日本のライセンスを手に入れたいと発言したことは有名だ。今となってはこの発言を後悔しているかもしれない。この発言によってメルコは潜在的な資本投資に上限を設けないと広く解釈されてしまった。ホー氏は、もしライセンスを勝ち取れば、日本にメルコの本社を移すとすら明言している。
これは最大の敬意を込めて言うが、有名なスタンレー・ホー博士を父親に持つことは素晴らしい事でもあり大変なことでもある。そして息子のホー氏は、未だに広がり続ける数十年前の噂を考えると、日本の権力者たちに、ビジネス上のつながりはないことを説いて回らなければならない。これは、ホー博士が98歳で、健康に不安があり、少なくとも10年間、そしてもしかするとそれよりもはるかに長い期間、息子のビジネスには明らかに影響力を持っていないことを考えるとフェアではない。
メルコは確実に、そして明らかにリスクを取る用意ができている。彼らはアイデアまたは提案でもって聞く人を魅了することができるが、時に、気が付けば実体よりもスタイルを優先させていると言われてしまう。日本でライセンスを勝ち取るには、その両方が必要だ。
SJM
長所
- アジアで長年の営業実績
- 中国人プレイヤーとの深い絆
短所
- ほぼ間違いなく世界で最も「中国的な」カジノ事業者
- マカオ以外への世界展開はしていない

SJMが日本でライセンス入札をしないとなれば、マカオのコンセッション保有者では唯一となるだろう。他でもないスタンレー・ホー博士が共同で創業した同社にとって、この戦いに参戦することはほぼ義務であるようだ。SJMのライセンス獲得の取り組みは、同席会長兼業務執行取締役であるアンジェラ・レオン氏の20代後半の息子、アーノルド・ホー取締役兼最高執行責任者補佐が指揮を執っている。
SJMにとってマイナスに(プラスともいえる)働いているのは、極めて深い中国との絆だ。ホー博士は1930年から2000年(事実上は2004年)までマカオのゲーミング独占営業権を保有していた。また彼らにとってマイナスに働いている別のポイントが、もうIR誘致を行わないと公に発表した候補地の北海道で施設開発を目指していたと広く考えられていることだ。
ブルームベリー
長所
- フィリピンIR市場でトップを走る施設を運営
- エンリケ・K・ラソン・ジュニア会長兼CEOが世界に強固な事業上のつながりを持つ
短所
- フィリピン以外で唯一、韓国にあるカジノが儲かっていない
- 現在マニラで2つ目のカジノ、クルーズ船ターミナル開発に集中している
フィリピンのIR市場は過去5年間で驚異的に成長し、今ではアジアで2番目に大きなゲーミング市場の称号をかけてシンガポールのIR市場と競い合っている(この称号はやがて日本が奪うことになる)。ソレアはマニラのエンターテインメント・シティにある施設群の中では紛れもなくトップだ。少なくとも、現在も成長を続けるオカダ マニラが追いついてくるまでの今のところは。
ソレアのエンリケ・ラソン・ジュニア会長兼CEOにとって世界での投資は初めてのことではない。2019年、フィリピンの長者番付で4位にランクインしたラソン氏は、世界中にある多くの港を支配し、鉱業、電気、石油そしてガスに権益を持つ。ラソン氏は、日本では「30億から40億米ドルの範囲」の地域型IRにしか関心がないと明言している。ソレアが開発希望地として和歌山に関心を寄せていることは広く知られている。
サンシティ
長所
- 潤沢な手元資金
- 巨大なVIPデータベースへのアクセス
- 高級サービスのプロバイダー
短所
- 正真正銘の中国企業
- ジャンケット事業者としての社歴が日本当局との間に問題を引き起こす可能性

VIPゲーミングプロモーターたちは(しばしば『ジャンケット』と呼ばれる)、これまでマカオ、そしてアジア全土のゲーミング業界の大部分を支える活力源であり、毎年、驚くほどの額になるマカオのゲーミング収益の最も大きな部分を生み出している。一時はマカオのゲーミング収益の最大75%を占めていたこの割合は、マス市場の成長が続いたことで、2019年にはおよそ50%にまで低下したが、その50%というのはそれでもゲーミング収益の中で200億米ドル近くを意味している。
アジアにある全VIPゲーミングプロモーターの中で間違いなく頂点に立つのがサンシティだ。この会社は本当に至る所で営業しており、マカオのコンセッション保有6社の主要IRの全てでVIPルームを運営するとともに、フィリピンや大陸全土に展開している。サンシティはVIP市場の45%以上を占めて、非常に優位に立っており、他のVIPプロモーター全ての合計とほぼ同じ割合を支配している。
皮肉なのは、近年サンシティのアルビン・チャウ会長兼CEOが、鞍替えとしか言えないことを好んで行い、IR事業者になりたがっていることが明らかになってきていることだ。チャウ氏は様々な方法でそうするための歩みを進めており、今年中に一部の施設が整う予定のベトナムのホイアナIR開発、ウラジオストクにあるティグレ・デ・クリスタルの支配権獲得など、両方を香港に上場するサンシテ ィグループホールディングス(HKEx:1383)の下で行っている。サンシティグループホールディングスはまた、釜山では韓国の事業者、パラダイスとも提携関係を結び、特に注目すべき動きとして、今のところ2022年後半にエンターテインメント・シティでの開業が予定されているマニラのウェストサイドシティ・リゾートワールドのカジノ及びホテルを開発・運営するための契約に署名した。
サンシティは、訪日観光客数を増やすという政府の目標を達成するための大きなアドバンテージとして、事業分野の多様化を進めようとしている。サン・エンターテイメント・カルチャーを通じて、同社はテレビ番組や映画の制作・配信、そしてライブコンサートを開催するなどしている。
サン・フード・アンド・ビバレッジ経由では、マカオと中国本土で多数のレストランを所有・運営し、「ガストロノミー協会成都市協議会の役員(Executive Member of the Council of the Chengdu City of Gastronomy Association)」を務めている。
上場するサンシティグループは、旅行事業を行うサン・トラベルという子会社さえ持っており、移動手段や宿泊から、文化及び娯楽体験の手配まで、ハイエンドの旅行サービスを企画している。
和歌山のIRはチャウ氏にとって、さらなる楽しみという以上のもので、全く新しい楽しみとなるだろう。サンシティは、サンシティ グル ープ ホールディングス ジャパンを法人化し、その法人を通じて日本での大きな夢を叶えるために努力しており、和歌山IRの暫定予算は4000億円から5000億円であることを明かしている。
サンシティは気付けば、IR開発で和歌山県とパートナーを組む権利をめぐって、ソレア(前項を参照)とバリエール(74ページを参照)との三者バトルに参戦している。
ティア3:実力以上のことにチャレンジ
小規模だが世間的には認められているものの、日本で数十億米ドルのIRを建てるにはもう一つ上のレベルへと上がる必要がある企業。
ハードロック
長所
- 世界的に有名なブランド
- 世界各地に事業展開
短所
- ターゲットにしていた開発希望地の北海道がIRレ ースから撤退

ハードロック帝国のゲーミング部門は、長年米国外への進出を熱心に望んできた。ハードロックは2017年、日本法人のCEOに非常に評価の高いサンズ・チャイナの元CEO、エド・トレイシー氏を迎えたことで世界的な信用を大幅に高め、同氏に世界進出の可能性を模索する仕事を委ねた。
ハードロックは北海道で日本IR開発のライセンスを獲得したいという意思を正式に表明しており、苫小牧に事務所を開設したほどだ。
昨年11月、北海道の鈴木直道知事が正式にIRレースからの撤退を表明したにもかかわらず、北海道を拠点とするIR構想は今もなお地元の経済団体の中での人気が高い。レース復帰の噂が根強く残るために、ハ ードロックの名前の上に取り消し線を引くのはまだ早いかもしれない。12月、ハードロック・ジャパンの町田亜土社長は、ハードロックはサッカーチーム、コンサド ーレ札幌のオフィシャルパートナーのままでいること、そして「さっぽろ雪まつり」のスポンサーを続けることを正式に発表した。町田氏はIAGに対して、「北海道での将来のIR入札のために努力を続けていく」と述べた。
モヒガン・ゲーミング&エンターテイメント
長所
- アメリカ最大の部族経営カジノリゾートの1つであるモヒガンサンを運営
- 地方でのカジノ運営の確かな実績
短所
- ターゲットにしていた開発希望地の北海道がIRレースから撤退
- 現在運営しているカジノは全て米国内

現在、韓国のハンファ社と提携して仁川地方に統合型リゾートのインスパイア(2022年開業予定)を開発している部族ゲーミング事業者のモヒガンは、北海道でのIR開発のライセンス獲得への関心を正式に表明している。ハ ードロックなど、北海道でIR開発を目指すライバルたち同様、モヒガンも苫小牧に事務所を開設した。12月、モヒガンは、「日本での選択肢を評価している」と述べた。
ナガコープ
長所
- カンボジアで大成功を収めるIRのナガワールドを運営
- 潤沢な現金を持つ
- ロシアのウラジオストクに2つ目のカジノを開発中
短所
- カンボジア以外ではまだ誠意が証明できていない
香港に上場するナガコープは、プノンペンで独占営業するカジノ事業者で、素晴らしい成功を収めるナガワールドを所有・運営する。低い税率、有利な行政制度、そして中国本土から来るプレイヤーの多さを活かして、創業者であるチ ェン博士は、元々は小さなリバーボートでの営業していたものを、年間およそ5億米ドルを稼ぎ出す巨大事業にまで成長させた。
セガサミー
長所
- IRライセンス獲得の取り組みを主導する唯一の日本企業
- 日本のゲーミング市場での豊富な経験
短所
- 経験は主にパチンコ
- 大規模IR運営経験は最低限

セガサミーをIR事業者だと断言するのは拡大解釈だ。というのも、韓国の統合型リゾート、パラダイス シティでのパラダイス社との提携割合は45-55で、同社は少数株主になっている。2つ目に、パラダイス シティの日々の業務を遂行しているのはセガサミーではなくパラダイスだ。また、このリゾートが、徐々にスピードは増してはいるものの、黒字になるのは時々だけというスローペースの成長に耐え続けていることも、プラスポイントにはならない。
しかしこれら全ての「短所」は、1つの大きな「長所」で全て打ち消される可能性がある。セガサミーは日本の企業なのだ。事実、拡大解釈であろうとなかろうと、IR事業者だと主張できる日本企業はセガサミーだけだ(この議論の目的を考えてオカダは例外として無視している)。
今年の1月下旬に行われた横浜でのIR産業展で、セガサミ ーのブースには、有名日本料理店の料理人が登場し、海外の競合相手には真似できない方法で日本人来場者を盛り上げた。
ティア4:事業者だが、何か違う
遠く離れた自国ではかなり実績があるかもしれないが、日本で30億米ドルとも言われる額の投資にチャレンジするには様々な理由から無理だと言われるであろう企業。
バリエールグループ
長所
- ヨーロッパのレジャー市場での長い運営実績
- 日本のIRで過半数以下の所有権を持つパートナーになることへの前向きな姿勢を表明
短所
- アジアでの経験不足
- この規模のIR運営の経験不
バリエールグループは、昨年5月に和歌山に事務所を開設し、25億米ドル程度の投資を行う過半数以下の所有権のパートナーになることに抵抗がないことを表明している 。
ラッシュストリート
長所
- 地方でのカジノ運営の確かな実績
短所
- ターゲットにしていた開発希望地の北海道がIRレースから撤退
- 現在運営しているカジノは全て米国内
ラッシュストリートは主に不動産開発を手掛ける企業で、20年ほど前にアメリカの地域型カジノに参入した。北海道への20億米ドル程度の投資に関心を示しており、現地パートナーとの提携に乗り気であると発言している。
カジノオーストリアインターナショナル
長所
- ヨーロッパ全土に加え、エジプト、オーストラリア での幅広いカジノネットワーク
短所
- アジアでの経験不足
カジノオーストラリアは昨年6月に長崎での施設開発ライセンス獲得への関心を表明した。同社の34%はオーストリア政府が所有している。10月、クリストフ・ツールッカー=ブルダCEOが、2019年11月1に県がRFCを開始する前に、長崎での統合型リゾートの事業構想を提出する予定であることを発表した。
ピアモント・グローバル
長所
- 南アフリカ最大のカジノ事業者の1社で10の施設を持つ
短所
- アジアでの経験不足
ピアモントは単独で過去数年間長崎のハウステンボスに集中してきた。
ゲット・ナイス(結好控股)
長所
- 以前マカオでカジノを運営
- 日本のShotoku Rinaldo Corp(SRC)との提携を発表している
短所
- ターゲットにしていた牧之原市がIRレースから撤退
- 現在はカジノを一切運営していない

香港証券取引所に上場するゲット・ナイスは、マカオのグランド・ワルドカジノでのギャラクシーエンターテインメントグループとのレベニューシェアではいわゆる「乙」側であった。施設は最終的にギャラクシーに売却され、より広大な敷地を持つギャラクシー・マカオIRに隣接するブロードウェイへと変身した。以前、静岡に興味を持っていたゲット・ナイスは、長崎にも関心を示している。
ティア5:事業者?本当に?
どうもしっくりこないように見える企業。
クレアベスト・グループ
長所
- 事業者というよりも投資家として参入を目指している
短所
- ターゲットにしていた開発希望地の北海道がIRレースから撤退
- 予定投資額上限が7億米ドル以下であることを示唆している

クレアベストは早い時期に大きな注目を集めた時、事業者と同じ場所に自社の名前を並べていた。しかしながら、北海道の撤退、そして議題に上がった投資予算が10億米ドルを大きく下回っていることで、クレアベストが日本のIR業界でその立ち位置を作り出せるかどうかは不明だ。
カレント
長所
- 長崎の地元企業
- 総額5500億円の投資予算を提案
短所
- カジノまたはIRの直接的な経験がない

カレントがどこに当てはまるのか、決めかねている。明らかに長崎に関心があり、長崎の現地企業という強みがあるカレントは、ゲット・ナイス(前項を参照)とマカオのソフィテルマカオ アット ポンテ16の両方とつながりがあると言われている。カレントは長崎のハウステンボスでのIR開発を目指すために佐世保に事務所を開設している。