テキサスホールデムポーカーに焦点を当てた事業展開を始めた国内遊技機メーカー大手のサミー株式会社。その思惑と魅惑のポーカーテーブルに迫る。
今、日本ではポーカー旋風が巻き起こっている。
特にプレイされているのは「テキサスホールデム」という種目だ。かつては日本人にあまり親しみのなかったこのテキサスホールデムは、世界的にプレイされている競技で、世界での競技人口は1億人を超えると言われている。
このテキサスホールデムに改めて注目したのが、日本の遊技機メーカー大手「サミー株式会社(本社:東京品川区 以下、サミー」。サミーは2021年6月に開催した新規事業発表会にて、テキサスホールデムを軸とした新規事業『m』の開始を発表した。
発表では、「これまで遊技機事業で数々の挑戦を行い、業界をリードする斬新な遊技機を世に送り出しました。その中で培われたノウハウを活かし遊技機事業に続く新たなエンタテインメント事業となる『m』を立ち上げ世の中に感動体験を創造し続けていきます」と述べている。
7月1日には、スマートフォン向けアプリ「m HOLD’EM(以下、エムホールデム)」をリリース、矢継ぎ早に8月27日には、東京都目黒区でアミューズメント・ポーカーハウス「m HOLD’EM 目黒」をオープン。事業も順調に進んでいるようだ。
今回IAGは、サミー株式会社新規・DX推進本部 新規・DX推進部部長・伊藤保勝氏、同次長・崎野淳史氏に、新規オープンした「m HOLD’EM 目黒」にて、サミーの新事業「m」について話を聞いてみた。
上村 慎太郎:今日はよろしくお願いします。「新事業の『m』はどのような発想から生まれたのでしょうか?」
伊藤保勝:マインドスポーツとして世界で1億人以上の競技人口を抱えている『テキサスホールデム』は、シンプルなルールに相反して戦略的な競技性を持っているものの日本ではまだまだメジャーではなかった点に着目しました。ポーカーそのもののブランディング、イメージ戦略をしっかりと行えば、麻雀・将棋・囲碁等と並ぶ国民の娯楽として受け入れてもらえると確信しました。事業開始にあたっては、1年以上をかけてマーケットリサーチ、競技の魅力に反して何故日本では流行っていないのかを徹底的に解明。そこからブランド設計し、アプリゲーム・店舗等事業別にチーム編成し開発しました。

上村:現在人気を博しているポーカーアプリ『エムホールデム』について教えてください。
伊藤:アプリを作る際、特に気を付けていたのは、テキサスホールデム未経験者でも楽しめるように設計するという事でした。ユーザーインターフェースはゲームアプリに慣れ親しんだ人が違和感なくプレイ出来るようにし、アプリに興味をもってもらう為に人気のイラストレーター様や声優様にご協力いただきました。
「日本でのポーカー人口は80〜100万人ほどいる」と伊藤氏は言う。日本人の人気ポーカープロが開設しているYouTubeチ ャンネルには、約60万人もの登録者がいることからもポーカー人気が伺える。「エムホールデム」アプリのダウンロード数は目標を上回り、現在約30万を超えるというから驚きだ。
「エムホールデム」では、WPTJ(World Poker Tour Japan)や、第1回スポニチPOKER TOURNAMENT JAPAN SERIES などの予選も開催されており、無料で参加可能だ。サミーが協賛するWPTJのメインイベントは賞金総額1,000万円を超える大会で、優勝者はWPTの世界大会へと派遣される。そこで優勝すれば数億円の賞金も夢ではない。今回、WPTJの予選にはポーカ ーアプリ「エムホールデム」からは11万ものエントリーがあったという。日本人プレイヤーを増やし、世界の舞台で活躍する選手を輩出することも、ポーカーの裾野を広げるのに必要な要素だという。
「今後もエキサイティングな大会の開催や、魅力的なIPとのコラボを継続して行っていきたい」と崎野氏は話す。
海外では賭博の種目として広く認識されているポーカーだが、日本においては、賭博は違法である。賞金があるポーカーや麻雀などの大会を賭博と見做すか否か、この問題の歴史は長く複雑だ。参加費を徴収し、それを賞金の原資に充てることは賭博と見做されるため、参加費は全て会場費や運営費に、そして賞金はスポンサーが提供するという形で法に抵触しない形をとる場合が多い。このあたりは日本でIRが整備され、賭博が許されるカジノ内での開催であれば可能になることも増えるであろう。 とりわけ、ポーカーはカジノ管理委員会が4月に発表した、カジノで認められる9種類のゲームの中に含まれている。
伊藤氏は「オンラインにおいてはeスポーツとして、オフラインにおいてはマインドスポーツとしてテキサスホールデムを新たな国民のカルチャーとすることが『m』のMission。国内IR含め日本の法規制の許される範囲でOtoO(Online to Offline:オンラインからオフラインへ)の連携を実施していく」と話した。
今回の取材で特に目を引いたのが、「m HOLD’EM 目黒」に設置されているポーカーテーブルである。プロジェクションマッピングで映像を映し込む技術や音声、BGMなどをふんだんに活かしたポーカーテーブルだ。
このテーブルについて伊藤氏はこう語る。
「本テーブルの特徴は、新規ポーカーユーザーの取り込みを目的とした、『多彩な背景動画や遊技を盛り上げる演出』と『 自動化による遊技サポート機能』の二点があげられます。多彩な背景で今までポーカーに触れてこなかった人々の関心を引き、ALL INやSHOWDOWNの演出でポーカーの楽しさを強化、更に『YOUR TURN』の移動やアクティブプレイヤーの表示といった遊技サポートで、初心者でも安心してポーカーをプレイできるという一連の流れこそが、本テーブルの目指したところであると同時に唯一無二の特徴(強み)であると考えています。もちろん新規ユーザーだけでなく、既存のユーザーに対しても、トーナメントのストラクチャー表示機能やディーラボタンの自動移動といった便利機能で、通常のポーカーテーブルではできない体感を提供しています。運営店舗においてもラシャの経年劣化を抑えつつ、ポーカー以外のゲームテーブルに即時変更可能というメリットを有しております。新規ユーザー、既存ユーザー、運営店舗それぞれに対し、今までのポーカーテーブルとは異なる体感を提供し続けていきたいと考えています」
今回、IAGが実際にこのテーブルでプレイしてみたところ、プレイの進行を直感的に把握でき、さらには通常にはないエフェクトによるエキサイティングな感覚を味わえた。そしてこれは、誰もが間違いなく近未来感を感じるであろうと予感した。
「こういう仕掛けは世界の従来のカジノ客が魅力に思うかはわからない。だが、高レベルの技術的な興奮を期待する日本でのウケは良いのではないだろうか」と、世界のポーカー事情に詳しい海外の専門家は話す。
伊藤氏は「トーナメントのファイナルテーブルにて運用、トナメストラクチャの全台リンク、投影映像切替によるテーブル雰囲気チェンジという機能を搭載予定」だと話す。
また、「ストラクチャーの投影機能や背景を自由に選択できる機能は、実際のカジノでも需要のある項目だとは思います。日本のアミューズメントカジノと実際のカジノでは求められる機能は異なると思いますので、今後ブラッシュアップを重ね、やがて実際のカジノでも運用できるテーブルを目指していくつもりです」と意気込みを語ってくれた。
このテーブルは現在特許出願中とのこと。日本発の技術製品が世界に羽ばたく日を楽しみに待ちたい。