統合型リゾートにとっての優れた労働環境の創出というテーマを深く取り下げる記事の第2部では、ナイル・マレーがベストプラクティスおよびプロセスのトップ20を紹介する。
統合型リゾートが優れた労働環境を創出するためには、一連のベストプラクティスシステム、プロセス、方針、手順そして基準の開発、実施そして継続的な改善が必要だ。 IRの優れた労働環境の創出への全体的なアプローチには、従業員のニーズに対処する、そしてそれが故に心、体そして精神にとって健全なバランスを提供するプロセスとベストプラクティスの設計が関わる。そうすることで、そのIRは従業員が単に働き、給与明細を受け取るだけの場所ではなくなる。
以下が私が選ぶIRの優れた労働環境ベストプラクティスおよびプロセストップ20だ。
心のために
1 オリエンテーション、研修&人材開発
世界最高峰のIRは従業員に対して、IRの理念、哲学、企業文化、慣習、方針および流儀を伝える包括的なオリエンテーションを実施する。加えて、全てのリ ーダーがリーダーシップ・オリエンテーションに参加し、そこでリーダーシップスタイル、慣習、基準、期待されることが明確に定義され、それに対して全力で取り組むことを誓う。その後、詳細な30-60-90日の部門別研修、評価、査定、試験および認定プロセスが続く。このプロセスを無事完了した時点で、従業員は完全な資格を与えられる。90日間の新人研修が完了次第、フォローアップオリエンテーションが行なわれ、その従業員が最大限に能力を発揮するにあたって、自信を持ち、十分な研修を受け、準備が整っていることを確認する。従業員は毎年最低120時間の研修を受ける。
2 従業員が精神的ストレスや生活する上での重圧に対処するのを支援するために
内々でメンタルヘルスカウンセリングサービスが提供されることが多い。
3 従業員の日々の生活を支える
従業員コンシェルジュサービスが提供される。この中には、洗濯物やクリーニングを出したり引き取ったりするサービスや、洗車や銀行、ATM、コンビニなどへのお使いサービスが含まれる。
体のために
4 従業員食堂
トップの飲食店デザイナーが作 ったゲスト向けダイニング体験に匹敵する従業員食堂は、あらゆる好みや食のこだわりに応える栄養豊富な質の高いメニュ ーを24時間365日幅広く提供する。従業員は、8時間のシフト毎に温かい3品のコースを提供され、休憩時の飲み物やおやつも飲食自由。最高のIRは専用の静かな個室、リラックスエリア、Wifiそしてテレビ部屋などを用意している。
5 従業員チャイルドケアセンター
最高のIRは徹底的な検査を通過し、安全な社内保育施設を提供しており、多額の補助金を支給している。従業員は通勤途中に子供を預け、休憩中には子供の元を訪れ、シフト後に迎えに行く。このような施設がもたらしてくれる利便性と安心感は人生を変えるほどのものだ。
6 ヘルスケア、医療、歯科、眼科の支援
トップのIRは、従業員、その配偶者、扶養家族そして時には両親までもを包括的にカバーする医療支援を提供する。コロナ禍においてはほとんどのIRが無料の検査、駐車またはワクチン接種のインセンティブを提供してきたが、最高のIRは、社内医療スタッフやクリニックへのアクセスによ って継続的に医療サービスやスクリーニングを提供している。
7 従業員ジム
従業員が24時間365日いつでも利用できる無料の社内ジム。
8 従業員住居手当金
トップIRは従業員の住居に多額の助成をしたり、または毎月住宅手当を支給する。
9 異動
IRは多くの場合、社員を異動または帰国させる際に、海外駐在者の異動、交通および引っ越しに伴う費用を支給する。
10 従業員の駐車 および交通費
最高のIRは標準的に、指定の駐車場、社宅または指定場所と職場とを行き来する無料のシャトルバスを提供する。
心と精神のために
「従業員が組織を離れる一番の理由が、直属の上司との関係だ」
11 従業員リレーションシップチーム
十分に訓練され、豊富な経験を持つ人事担当者が、特定の部署を担当し、担当する従業員の文化や言語に対して気を配る。具体的にその作業班で何が起こっているのかを把握し、課題を明らかにし、持ちあがった全ての従業員の関係上の問題について相談に乗り、仲介し、解決を助けるのが彼らの役割。彼らはあらゆるシフトで働く全従業員と積極的に交流を持つ。このプロセスは、優れた労働環境の創出・維持において極めて高い効果を発揮する。
12 社長とお茶
従業員リレーションズのトップは、IRの社長と従業員のグループの間で週に一度率直な意見を出し合うミーティングを開催する。従業員は自由に思いを話し、懸念事項や問題を提起するよう推奨されている。誰もが参加可能で、議事録が取られ、フォローアップアクションプランが開始され、現在進行中の解決済みおよび未解決問題の記録がIR全体に配布される。このプロセスは、従業員に直接企業のトップと話す機会を与えてくれ、彼らは確実にメッセージが届いていると感じることができ、強力な結果を生み出す。
13 従業員のモラル、やる気そして褒章
トップのIRは、従業員がIRの一員であると感じることができ、従業員のモラルを高めるのを助けるために、継続的に激励会、従業員褒章プログラム、季節およびテーマ毎のイベント、ピクニック、祝日イベント、誕生日および記念日に多くの時間、お金そしてエネルギーを費やす。
14 従業員コミュニケーション
トップのIRは社内TVを提供しており、カメラを持ってIRを走り回るレポーターが、日々の最新情報、インタビュー、短い動画やサウンドバイトを、建物の中心にある廊下や、従業員食堂、休憩室などに戦略的に配置されたスクリーンに24時間365日流し続ける。月に一度発行の従業員向けニュ ースレターには、ニュースや最新情報、面白情報などが盛りだくさんで、継続して読みたいと思わせるつくりになっている。
15 IR言語
思いが言葉になり、言葉が行動や振る舞いになる。トップのIRはその文化を定義し、優れた労働環境を創出するのを助けるために施設特有の言語を使用する。従業員は、従業員用スペースではなく「ハート・オブ・ハウス」、従業員ではなく「チームメンバー」 、問題ではなく課題、客ではなくゲストといったように、あらゆる会話において特定の言葉やフレーズを用いることが期待される。
16 従業員満足度調査
優れた労働環境を創出・維持するためには、IR従業員満足度調査とフォローアップアクション計画プロセスが極めて重要となる。大半のIRが社内で開発・管理された、不鮮明で、検証されておらず、効果のない従業員満足度調査を実施している。そしてフォローアップも行われていない。優れたIR従業員満足度調査およびフォローアッププロセス作成のためのベストプラクティスは以下の通り。
- 調査の質問の関連性が高く、試験・検証されたものであり、ベストプラクティスに沿ったものであることが不可欠だ。従業員の満足度と組織に留まる意思を図るための最高の質問を決めるのに役立つ、先導的研究から導かれた知識とベストプラクティスに基づいた従業員満足度調査は、非常に効果が高い。オリジナルの質問、自由記載欄、そして特定の作業グループおよびスーパーバイザーIDを追加するなど、自社のIRに合わせてこれら質問を調整することで、非常にパワフルかつ正確な調査ツールが完成する。
- 従業員満足度調査の管理プロセスが、最大限正確かつ、内 々に、そして公正に行われ、確実に従業員がそのプロセスに参加し、それを信頼し、賛同し、そして信用していることが極めて重要だ。
- 従業員満足度調査は9〜12カ月毎に実施されることが望ましい。
- 6人以上が所属する各部署、そして6人以上の直属の部下を持つ各リーダーは、従業員満足度調査報告書、スコア、そしてコメントの抜粋を受け取るべきだ。
- 全部署およびリーダーには、85%以上といったように一定以上のスコアを獲得することが求められる。
- 全部署はフォローアップアクションプランを実施しなければならない。最低スコアラインに満たなかった人は、従業員リレーションズと協力し、ファシリテイテッド・ライブミーティングで所属するチームと問題について話し合い、解決策を探り、修正に向けたアクションプランを開発・実施しなければならない。
- リーダーは全員、フォローアップアクションプランを実施しなければならない。最低ラインに満たなかったリーダーは、管理職コーチングセッションへの参加、そして特定された問題、受け取ったコメントに対処し、個人開発計画に沿 って、改善を達成するための是正アクションプランを実行に移す必要がある。大半のリーダーがコーチング後に、十分な改善を見せる。
従業員満足度調査を正しく実施することによって、IRのリーダーたちは早期に問題を特定し、的を絞った是正アクションを取ることができる。
17 ベストカンパニー賞 / 働きがいのある会社賞
最も優れた労働環境を持つIRは、その業界、法域または国の 「最も働きがいのある」または「働きがいのある会社」賞に応募し、受賞することでそれを世間に証明する。このような表彰は毎年行われ、非常に競争が激しく、詳細な内容の提出物、検査、ベストプラクティス条件を満たしていること、審査、投票そして受賞者選定が関わってくる。外部による調査・表彰システムは、IRが自分たちに対して正直であり続けるのに役立ち、同業他社の水準またはそれ以上のパフォーマンスで、かつ選ばれる就職先として昨日していることを保証してくれる。
18 組合VS 非組合のIR
ほとんどのIRがある程度組合化されており、極めてうまく機能している。組合とIRの首脳陣は協力して可能な限り最も優れた労働環境の創出に努力している。組合は従業員を代表し、会費の見返りに彼らの権利を守る役割を担う。非組合のIRは、反組合というわけではなく、彼らは従業員の味方であり、優れた労働環境のベストプラクティスおよびプロセスを実施し、他に類を見ない優れたリーダーシップを提供し、直接的かつオープンなコミュニケーションと従業員との素晴らしい関係性があれば、従業員が組合に代表してもらって会費を払う必要はないと考えている。
19 優れた労働環境創出の基準
全てのIRが、ゲストを満足させることに焦点を当てた基準を開発し、それを発信、実施、計測、管理、継続的に改善することを目指している。しかしながら、トップのIRは確実に優れた労働環境を創出するのに役立つ包括的なリーダーシップの基準を開発している。
以下の3つの例を挙げる。
- リーダーたちは、従業員が抱える問題を話し合い、対処するための双方向のコミュニケーションの機会を、少なくとも四半期に一度は持つことを期待されている。
- リーダーたちは、従業員満足度部署別スコアおよび個人リ ーダーシップスコアで少なくとも85%獲得することが期待されている。
- 全従業員は、誠実に、かつお互いを尊重し、信頼し合いながら付き合うことが期待されている。
20 賃金、給料、福利厚生
最高のIRは、最高の従業員を引き付け、会社に留めておくためには、極めて競争力のある、他社が真似し難い賃金/給料総額、福利厚生、賞与そして手当を用意し、優れた労働環境を提供し、そして「選ばれる就職先」として認められていることを強調することが非常に重要だ。