長く待ち望まれていたマカオのカジノライセンス再入札が間近に迫る中、ゲーミングコンセッション保有者たちは企業の社会的責任(CSR)への取り組みが、プラスのメッセージを発していることを確認している。
2002年にマカオのカジノ産業が自由化されて以降、ゲーミングコンセッション保有6社は、マカオの膨らみ続ける財政を支えるための税金を18兆円以上も収めてきた。これは間違いなくマカオの人々の運命を変えた大きな額だ。
新型コロナウイルスの世界的感染拡大が業界を屈服させる脅威となる前の2019年だけでも、マカオ特別行政区政府は1,127億パタカ(1.5兆円)もの税金を集め、その一部がそのわずか数カ月後に起こった入境口閉鎖の際の経済の下支えに使用された。だが、そうであっても金融当局は2021年2月、マカオの財政準備金が依然6,636億パタカ(9.1兆円)という非常に健全な水準であることを報告しており、年間税収のおよそ85%が直接ゲ ーミングから来ていた。
しかし、ゲーミングコンセッション保有者たちが行ってきた貢献は、マカオが地球上で2番目に裕福な場所になるのを助けた(2019年の1人当たりGDPでカタールに次いで2位になった)というだけにとどまらない。その貢献はまた、同地区の企業の社会的責任(CSR)プログラムの裏にある原動力でもあり、毎年膨大な時間と資源を、あらゆる方法で地域の人々の生活改善に注いでいる。
ギャラクシーエンターテインメントグループ、メルコリゾーツ、MGMチャイナ、サンズ・チャイナ、SJMリゾーツ、そしてウィン・マカオで構成されるコンセッション保有6社は、マカオ最大の民間部門の雇用主であり、人口の15%に相当する10万人以上を雇用しており、サンズ・チャイナだけでもその数は2万5千人を超える。意図的であれ自然の流れであれ、これは彼らが経済界のリーダーとして、そしてある程度まではマカオ政府に続いて人々を守る立場の両方として、大きな責任を有していることを意味する。
コンセッション保有6社は、マカオでCSRの取り組みに尽力する企業であるだけでなく、政府が危機の際にまずは頼る先であることが多い。このように、彼らはマカオが新型コロナと戦う中で重要な役割を担ってきた。彼らは400万枚上のマスクを寄付したり、マカオに戻ってきた旅行者や観光客の隔離施設としてホテル客室を提供したり、さらに最近では政府と協力してワクチン接種率の向上に取り組んだりと、多くの支援を行ってきた。スタッフやその家族向けに多くの教育セミナーを開催したり、無料のワクチンセンターを設置したりすることで、コンセッション保有者たちは、今年5月時点で8%しかなかったマカオのワクチン接種率を8月半ばには43%にまで引き上げた。
さらに、マカオでのCSRに関しては目で見えている以上のものがある。ここ数年、マカオ政府はCSRの取り組みやコンセッシ ョン保有者のマカオ地域社会、中国本土そして一般社会に対する義務を益々重視するようになっている。ゲーミングを持つ統合型リゾートは、事業を行う地域社会と共生関係にある場合にのみ安定するということが以前から知られている。「ソーシャルライセンス(社会ライセンス)」とも言え、それは各事業者が享受する特定の企業にしか与えられないゲーミングライセンスと共にあるものだ。
これは何も新しい現象ではない。前世紀の最後の40年間にあった自由化前のゲーミング独占営業権の時代においてさえも、スタンレー・ホー博士は抜かりなくその富をマカオの人々と分け合い、政府が地域社会の何らかのニーズのために資金が緊急に必要となった際には、舞台裏で、ある種最後の頼みの綱の役割を担っていた。例えば、博士は長年にわたり、マカオ半島-タイパ間を船舶が安全に往来できるよう行っていた年次の水路浚渫(しゅんせつ)工事費用を引き受けていた。
この種のCSR重視の姿勢は、2022年6月に差し迫った6つ全てのゲーミングライセンスの期限切れと密接に関係している。全てのライセンスに自動更新される予定はない。代わりに、政府は完全再入札手続きを実施する予定で、その後落札に成功した事業者には新たなライセンスが発行される。再入札要件に関する詳細はまだ公表されていないが、過去のCSRの取り組みが評価の重要な部分を構成すると広く考えられている。また、新たなライセンス契約で追加のCSR要件が追加される可能性もあるものの、これが正しい方向性かという点については議論の余地が残る。
マカオ大学准教授でマカオ企業の社会的責任中華圏学会(Macau Institute for Corporate Social Responsibility)評議会の副会長を務めるカルロス・ノロンハ教授によると、マカオのコンセッション保有者はすでに新型コロナの感染拡大および2017年8月にマカオで猛威を振るい、大きな爪痕を残した台風第13号に対して「非常に迅速に対応」することで社会貢献への熱意を示している。
しかしながら、ノロンハ教授はこのように付け加える。
「現時点は、(再入札に期待されるものについて)極端な判断を下すのに適した時期ではないかもしれない。
マカオのゲーミング税が世界でほぼ最も高い水準(39%)であることを考えると、CSRの目的でさらに1%や2%増税することは合理的でないと考えられる。
私はゲーミングのライセンス再発行について法律上の要件としてCSRを含めることの効果について懐疑的だ。パーセントでCSRの精神や根本を捉えるのは困難であり、ましてや、報告や監査プロセスの法的書類が整っていない中で、コンセッション保有者のCSRの取り組みを評価するのはさらに難しい。マカオ政府はコンセッション保有者のための報告要件や監査手続きについてもう少し熟慮を重ねる必要がある」
将来的な義務がコンセッション保有者の手に及ばないものである一方、現在の取り組みはそうではなく、しっかりしたCSRプログラムがすでに実施されていることは、各企業の企業文化の非常に重要かつ目に見える部分を示していることは否定のしようがない。これは、確固たるCSRプログラムは、企業が職場や地域社会にプラスの貢献を行っているという感覚を従業員に与えるために従業員エンゲージメント、モラルそして仕事への満足度を高めることを示した研究結果と一致している。
大まかに言って、マカオのコンセッション保有者のCSRの取り組みは主要な6つの柱に分類できる。
その内容は以下の通り:
- 一国制(中国本土と関わり、支援する)
- 持続可能性、環境およびグリーンイニシアチブ
- 地元中小企業の支援
- 責任あるギャンブルの推進
- 現地従業員の自己啓発
- コミュニティエンゲージメント(地域貢献)の取り組み
IAGは過去1年にマカオのコンセッション保有者「ビッグ6」が様々なオンラインプラットフォームに投稿したCSRの取り組みに関して詳しい調査を行った。その結果、合計で320のCSRの取り組みが行われていたことが分かったが、全ての取り組みが投稿されているわけではない可能性があることを考えると、実際よりも大幅に少ない数字である可能性が非常に高い。
これら取り組みをカテゴリー別に分類すると、文化、遺産、芸術、スポーツそして教育といった分野などのコミュニティエンゲージメントが89個もあり最も目立つ結果となった。
ウィンのマカオの慈善事業「ウィンケア基金(Wynn Care Foundation)」が支援するものの中には、柔軟なオンライン求人マッチングプラットフォーム「WeCare-Hap-py-Jobs」があり、柔軟性が増したことで、企業や求職者は市場で求める人材および求める職を見つけることができ、社会的強化(social enhancement)が促進される。2021年、ウィンケアはそのプラットフォームに新たな機能を導入し、フリーランスの人や自営業のプロ達が仕事の機会においてマッチする企業や個人とペアになることができるようになった。また、女性の雇用、多様性、労働生産性も促進している。
ギャラクシーエンターテインメントグループは、「一国制」を推進しており、過去一年、この柱の下で様々な取り組みを行な ってきた。例えば、第13期全国人民代表大会(全人代) 第4回会議と中国人民政治協商会議(全国生協)、第13期全国委員会の「Two Sessions(両会)」後の3月、幹部に向けて共有セッションを開いた。
共有セッションでは、GEGの副会長で全国政協委員のフランシス・ルイ氏、全人代代表の高開賢(Kou Hoi)氏、全国政協委員の賀定一(Ho Teng Iat)氏が、「両会」の概要を説明し、中央政府の第14次5カ年計画に向けた作業報告書と優先事項の多くについて詳しく語った。
数多くの取り組みを通じて中小企業への支援を示すメルコリゾーツは、2020年に60回にわたる一連のロードショーセッションを行い、地元の60の中小企業及びNGOが370万パタカ(5,000万円)近い額を生み出すのを助け、 事業推進の機会、そしてマカオのメルコ施設で働く1万6千人の社員への直接販売の機会を提供してきた。
「Heart of House(従業員用スペース)ロードショーシリーズは、特に過去12カ月間の前例のない苦難の中で、ベンダーが収益を生み出し、マーケ ットエクスポージャーを増加させる助けとなる」
そう語るのは、メルコのエグゼクティブヴァイスプレジデント兼人事チーフの高橋明子氏だ。
「ロードショーや今後のプログラムを通じて、(中略)我々は継続して地元コミュニティへのコミットメントの実現に努力し、中小企業の繁栄を後押しし、地元企業の成功の手助けをしていく」
MGMは過去一年、教育の推進に大きな力を注いできており、その間いくつもの取り組みを行なってきた。 そのうちの一つが、「MGM × MYEIC 若手起業家育成プログラム」で、2年の間に参加者たちは業界のプロによるメンター制度を通じて一連の専門家による指導を受ける。その目的は、ビジネススキル、専門知識、若手起業家の競争力の向上。これは、彼らが事業計画の開始に向けて前進する際に大いに役立つと見られている。
SJMリゾーツは、マカオの統合型リゾート、グランド・リスボアとグランド・リスボア・パレスで2021年7月から10月まで開催される一連の展覧会を通じて地元アーティスト8人とコラボレーシ ョンすることを祝し、7月にオープニングセレモニーを開いた。全員が、SJMが現在取り組む多くのアート&文化の取り組みの一つ、グランド・リスボア・パレスでの常設展示のための特注アート作品を手がけている。
サンズ・チャイナは人材開発の分野で多くの取り組みを行っており、マカオ大学との連携で社員のキャリアアップおよび学術研究を支援するディプロマプログラムを開発した。テーブルゲーム、設備、ハウスキーピングなど、ゲーミング及び非ゲーミングの多様なグループで構成される2020年クラスでは、サンズ・チャイナの社員46人がマカオ大学の1年間の経営学課程を修了し、卒業証書を取得した。
この記事に関するIAGへのコメントの中で、サンズ・チャイナはCSRへの強い決意を強調しこのように述べた。
「企業は、環境の持続可能性、責任あるゲーミングまたは慈善活動のどの形であろうとも、事業を行うコミュニティとの調和の中で営業することが不可欠である。(中略)コミュニティの一員であることは特権的なことであり、地元中小企業の成長を支援するなど、企業と共にコミュニティが繁栄するのを助ける機会と責任とが伴う。
企業の社会的責任は、我々がビジネスを行うやり方の中心にある。(中略)パンデミックによってもたらされた課題によって、地域社会が求めるときに手を差し伸べられるよう、企業の社会的責任を実践するということがこれまで以上に重要になっている」
ノロンハ教授によると、マカオのコンセッション保有者たちは、CSRの取り組みに関してマカオをリードする独特の立ち位置にある。教授は今後の入札の中で政府はより大きな責任を義務付けるべきだという指摘に関して疑いを持つ姿勢を崩していない一方で、コンセッション保有者がマカオ社会向上のカギを握ると話す。
教授は言う。
「CSRとはプレゼントを渡して寄付をすることだけではない。CSRには、経済、人、環境の3つの要素が関わっていなければならない。しかし、組織が社会的な責任を担うためには、まずはそれ自体が持続可能かつ収益性のあるビジネスとして成立していなければならない。
それは、全ての企業に、環境に配慮するためのエネルギー削減装置の購入・導入といったCSR活動をする余裕があるわけではないということを意味する。
自然に、マカオの人達はマカオの主要産業であるコンセッシ ョン保有者がより多くのCSR活動を行う事を期待する」
これは関連する財務、およびそれぞれの真の持続可能性とインパクトの報告及び監査の両方の方法によって、CSRの取り組みの正当性を評価する作業を担う独立機関の設立を通して達成可能だと教授は付け加える。
この機関はまた、危機に際して各コンセッション保有者に一律の責任を割り当て、公共の利益を維持しながらCSRの責任が全てのコンセッション保有者に公平であることを確実にするためにも利用できる。
「しかし、私は教育こそが政府とコンセッション保有者が協力する主な分野だと考えている」ノロンハ教授はそう語る。
「政府がCSRを推進できる効果的なチャンネルは多くはないかも知れないが、多くの地元の人たちは家族と共に外食やレジ ャー目的でマカオの統合型リゾートを訪れる。
これは、地元の人にメッセージを送るという点に関してコンセッション保有者が政府よりも高い浸透率を達成出来るという事を意味する。
このような方法で協力することで、彼らは本当の意味で(統合型リゾート)業界のプラス面に光をあてることができる」