統合型リゾート運営におけるベストプラクティスを模索するシリーズ記事第二弾では、業界のベテラン、ナイル・マレーが優れた労働環境の創出の重要性を解説する。
統合型リゾート(IR)における優れた労働環境というのは、従業員が会社の一員として、心から歓迎され、安心し、快適でくつろげ、大切にされ、信頼され、尊重されていると感じられるような場所だ。従業員がこのように感じたとき、彼らは高いレベルの満足感を感じ、生産性を向上させ、比類のないゲストサービスを提供し、その仕事に留まる。そして他のIRからの引き抜きに簡単に誘惑されることはない。
なぜ統合型リゾートにとって優れた労働環境の創出が非常に重要なのか?
前回記事「採用力 – IR人材採用ベストプラクティスとプロセス」の中で、私はそれぞれの職に最も合う、適した能力と姿勢を持つ、最高の人材を応募者の中から特定し、スクリーニングし、フィルターにかけ、人物像を分析し、面接し、評価し、ランク付けして選ぶことの重要性と方法に注目した。これらの人材採用ベストプラクティスとプロセスによって、我々は確実に適材適所を実現でき、ゲストの期待を超える究極のサービスを提供し、最適なパフォーマンスと純利益を達成することができる。
最高の従業員は魅力的な総賃金と福利厚生パッケージ、そして優れた労働環境がある「選ばれる雇用主」としての評判が高い企業に引き付けられ、そこに留まるだろう。
IRトップのコミットメントが優れた労働環境の創出と維持には必要不可欠。
統合型リゾートにおける優れた労働環境の創出には、採用サイトに掲載した従業員に提供する福利厚生一覧よりもはるかに多くのものが関わる。優れた労働環境を創り出したいという願い、そして強い決意は、IRのDNAの一部であるべきであり、ミッション、ビジョンそして価値観に埋め込まれ、そこから自然に流れ出てくるものである必要がある。そして上層部から下の層までの首脳陣と従業員によって完全に受け入れられ、実践されなければならない。それは、ただ紙に書かれたものではなく、日々明確に定義され、絶えず伝えられ、導入され、測定され、管理され、報われ、改善されたもの、または実践されたものでなければ現実にはならない。
優れた労働環境の創出と維持が、トップダウンにIRの全てのレベルで極めて真剣に受け止められなければ、決して現実となることはなく、長く定着せず、もしくは従業員のモラル、パフォーマンス、従業員及びゲストの満足感そして純利益と共にすぐに消失してしまう可能性がある。
ホスピタリティ業界で長い間信じられてきたことがある。
「従業員の面倒を見れば、彼らがゲストの面倒を見て、収益は自らの面倒を見るようになる」
優れた労働環境の創出に責任があるのは誰か?
それは、IRで働く全ての人である。経営陣から前線で働く従業員、外注のサービスプロバイダまでが優れた労働環境の創出に責任がある。各従業員がどう協力し、コミュニケーションを取り、支えあい、お互いを尊重しあうかが労働環境に影響を与える。これは、何千人もの従業員を持つIRでは極めて達成するのが難しい。しかし可能ではある。企業は、私が執筆した記事「採用力」の中に書かれているIR人材採用ベストプラクティスとプロセスを用いて、組織の全てのレベルで最高の人材を採用することから始めなければならない。
適した姿勢と能力を持つ適した人材を配置することで、IRの優れた労働環境ベストプラクティスとプロセスを会社全体で実践することができる。優れた労働環境は、最高の従業員を集める助けとなり、それら選ばれた人材が入社を歓迎され、大切にされ、ケアされ、育成され、開発され、最終的には長期間雇用されることを確実にしてくれる。
良い人材に劣悪なプロセスにぶつけると、毎回劣悪なプロセスが勝つ。
多くのIR事業者たちは、ベストプラクティスのあらゆる側面を網羅しており、さらに多くの準備が整っていると言うだろう。それは真実かもしれない。しかし私の経験では、多くのIRが貧相な内容でかつ上手く実践されず、管理されていないプロセスおよびプラクティスを置いており、その結果、効果がなくなってしまっている。あまりにも多くの場合、経営陣は従業員満足度の重要性、優れた労働環境そして純利益への全体の影響を理解していない。多くのIR首脳幹部たちは、全ての費用については理解しているが、優れた労働環境の確立および維持の価値を理解していない。代わりに、彼らはその実施には不必要に費用が掛かり、それは人事部の責任であるはずだと考える。これは非常に一般的であり、重大な間違いだ。
私の知人がかつてこのように語っていた。
「IRビジネスにおける上級幹部としての成功は誠実さが全てだ。そのふりの仕方を覚えれば、成功は確実だ」
残念ながら、優れた労働環境を創り出すという話になった時、この冗談はかなり頻繁に現実世界で言われているようだ。IRの上級幹部は人事や他部署にベストプラクティスとプロセスを任せる事が多く、彼らに実現するよう指示し、何か手助けが必要な時、または従業員を表彰する時にのみ声をかけるよう指示を出している。このような難しい時代にはそれではうまくいかない。
これと全く逆を行くのがラスベガス・サンズ社のロブ・ゴールドスタイン会長兼CEOだ(最近まで社長兼COO)。1998年から優れた労働環境の創出、維持および発展に日常的に深く関わってきた。満足度調査フォローアップセッションや表彰式など、その他多くの従業員関連の取り組みに加えて、ゴールドスタイン氏は長い間週に1度、「社長とお茶」セッションを開き、直接従業員の心配事に耳を傾けているために、オープンにコミュニケーションを取り、適切なフォローアップアクションを取ることができている。
ゴールドスタイン氏は、優れた労働環境を確保するのはIRのトップそれぞれの責任であることを明確にするということにおいて先頭を走っている。結果がそれを物語っている。
IAG2021年10月号に掲載予定の「優れた労働環境の創出」第2部では、ナイル氏が、IRの優れた労働環境ベストプラクティスおよびプロセス上位20を解説する。