IR整備は夢洲が「ドリームアイランド」になれる最後のチャンスなのか。
大阪府・市が誘致をめざすIR(統合型リゾート施設)への事業者公募に唯一応募している米MGMリゾーツ・インターナショナルとオリックスのグループは7月、総額1兆円規模を投資する事業計画の提案を府・市に提出した。早ければ2028年にも部分開業する算段だ。
大阪府・市がIR誘致を目指す場所は、大阪港にある総面積390haの埋立島「夢洲(ゆめしま)」。2025年大阪万博の開催エリアにもなる夢洲は、ゴミの最終処分場として埋め立てられた人工島である。
1988年に策定された「テクノポート大阪」計画では、大阪港に並んで浮かぶ咲洲、舞洲、夢洲の埋立地3カ所に、先端技術や国際交易、情報通信機能を兼ね備えた昼間人口計20万人の新都心を整備すること、夢洲は居住者6万人、従業人口4.5万人の街とすることを目指した。構想に沿い、アジアトレードセンターやワールドトレードセンタービルなどが建設され、インフラ整備にも多額の資金が投入された。
しかし、バブル崩壊後の経済の低迷から、計画対象地域のビルの入居率は低迷、造成地は全く売れずという状況に陥ってしまう。
その後大阪市は、2008年大阪オリンピックの招致を目指し奮闘する。舞島や咲洲にはメイン会場やアリーナ施設を整備し、夢洲には今年開催された東京オリンピックでの晴海のような、開催後は住宅地となる選手村を整備する計画だった。市はオリンピック招致に48億円を費やしたものの、結果は惨敗、招致に失敗した。観客輸送のために大阪市の第三セクター「大阪港トランスポートシステム」(OTS)社が1,870億円かけて整備した北港テクノポート線は、夢洲までの路線開通の意義を失い、咲洲と夢洲を地下鉄で結ぶ計画を中止することとなった。
多くの大阪市民からは長らく「壮大なる負の遺産」とみなされていた夢洲一帯だったが、再度転機が訪れる。大阪が2025年開催の「大阪・関西万博」招致に成功し、開催場所が夢洲であること、そして、現在大阪府・市が誘致を目指すIR(統合型リゾート施設)の整備地を夢洲としたことだ。これにより、2020年7月、万博やIRへのアクセス路線として「南ルート」と呼ばれる咲洲ー夢洲間を結ぶ地下鉄新線事業が再開される運びとなった。
夢洲の活用が決定したからと言って全てが上手くいっているわけではない。大阪市営地下鉄を民営化して発足した大阪メトロは、2018年11月に総工費1,000億円ともいわれる夢洲駅タワ ービルの建設計画を発表した。だが、これは収益の見込みが立たないと予想され、すぐに撤回、後に再検討となった。
また、大阪市は今年4月、夢洲駅(仮称)に隣接する駅前エリアにおいて、プロポーザル方式により、土地を借地し、建物の整備・運営を行う民間事業者を募集したが、応募者が0という結果になっている。この公募が行われた理由について市は「万博の玄関口の1つとなる、現在建設中の夢洲駅(仮称)から万博会場へと至る駅前エリアについては、万博の開催に向けて多くの来場者を迎え入れる施設として整備するだけでなく、万博閉幕後も万博のレガシーとして恒久的に活用される施設が整備されるよう、大阪市において効率的に整備する方法を検討するよう、公益社団法人2025年日本国際博覧会協会より依頼を受けたことによるもの」と説明している。
これらの「噛み合わなさ」は、1つの要因に帰結する。つまり、 「夢洲へのIR整備が確定しない限り、この場所ではいかなるビジネスも成功しない」と皆が考えているということである。 当然、そのような場所に多額の投資をする事業者などいるわけもなく、国によるIR区域認定を受けるまではどのような事も進まないのは当たり前の話だ。
大阪・関西万博の開催は確定しているため、大阪市としては上下水道や通信インフラ、地下鉄延伸などは進めざるを得ないが、民間からの投資は絶望的だ。万博は開催されても半年もすれば終わってしまい、夢洲はまた不毛の地に戻るのは明白である。万博だけを目当てに投資することはできない。将来的に持続的な人流を確保できるIRの整備確定だけが、民間企業の投資のゴーサインになる。企業、そして大阪市民は心の底から知っているのだ。何も無い夢洲がどれだけ不毛な地であるかということを。
自治体から国へのIR区域認定申請期限は2021年10月から2022年4月までだ。国の審査が実施され、認定されるのはその先の話。国に認定されたとしても、夢洲周辺の投資・開発を決定し着工するまでにはさらに時間がかかる。
大阪府・市は万博とIRとの連続した経済効果を期待しているが、2025年の万博までに工事が終わらないものは2028年のIR (部分)開業に合わせてくるのは自明の理だ。
必然、現在と同様、国にIR区域認定されるまでは投資や開発スピードは緩やかなままとなるであろう。