マレーシアのゲンティン社が6月、4,700億円をかけたリゾートワールド・ラスベガスを オープンさせ、長年抱いてきたアメリカンドリームを叶えた。しかし、この野心的なプロジェクトはラスベガス、そしてゲンティンが求める輝きとなるのか?
絶対的に重要だ」ネバダ大学ラスベガス校経済開発部副学部長でゲーミング研究所のエグゼクティブ・ディレクターを務めるボー・バーナード博⼠は、ラスベガスの回復にとってリゾートワールド・ラスベガス(RWLV)がいかに重要かについて、そのように熱を込めて語る。
「ラスベガスはアミューズメントパークのようなもので、新しいジェットコースターを作り続けなければ、商品は活気がなくなり、人々は来なくなる。色んな意味で、ラスベガス・ストリップにあるリゾートのそれぞれが、アミューズメントパークの個々の乗り物のようなものだ。それぞれが異なる種類のスリルを提供する。中にはより新しくて、スピードが早く、技術的に最先端なものもあれば、懐かしい気持ちにさせてくれる古くてガタのきているジェットコースターもある。
それがラスベガス・ストリップだ。大人のためのアミューズメントパークで、大人が遊びに来る。ラスベガスが革新することを止めた瞬間が、客が来なくなる瞬間だ」
43億米ドル(4,700億円)をかけたリゾートワールド・ラスベガスは、ここ10年で初めて、ラスベガス・ストリップに一から建てられた統合型リゾートで、2008年にウィンのアンコール・ラスベガスがオープンして以降、北ストリップ地区に加わった大規模施設は同リゾートだけだ。
また、所有・運営するマレ―シアのゲーミング大手、ゲンティン社にとっても大きな節目を意味している。同社は長年アメリカに野心を抱いてきたものの、その事業展開はこれまでニューヨ ーク州に限定されてきた。言うまでもなく、ゲンティンの電子ゲ ーミング機限定のリゾート、リゾートワールド・ニューヨークシテ ィもリゾートワールド・キャットスキルズも、今回オープンしたラスベガス施設の規模や様々な目玉は持っていない。
74万㎡の広さを持つRWLVは、ヒルトンブランドの3つのホテル、ラスベガス・ヒルトン・アット・リゾートワールド、コンラッド・ラスベガス・アット・リゾートワールド、そしてクロックフォーズ・ラスベガスで計3,500室、そして6,500㎡のショッピングエリアと40を超える飲食店を提供する。
カジノ単体では1万870㎡の広さを持ち、スロットマシン1,400台、テーブルゲーム117台、30台のポーカーテーブルを持つポーカールーム、ハイリミットエリア、そしてスポーツブックエリアが設置されている。注目は、RWLVが業界で初めて、スロットとテーブルゲームの両方でデジタルウォレット経由の完全キャッシュレスゲーミング体験を提供していることだ。ロイヤリティ会員はカ ード無しでログインできる。
リゾートワールドモバイルアプリを使用すると、ゲストはモバイル端末を通じてあらゆるゲーミング、エンターテイメントまたはホテルサービスの支払いを行なうことができ、キャッシュレス技術が施設のどこでも利用できるようになっている。
リゾートの目玉施設は他に、5千人収容のコンサートおよびエンターテイメント会場、2万3,225㎡のMICEスペース、インフィニティプールを持つ全体としては2万2000㎡を超えるプールコンプレックス、2,500㎡のスパ施設に加えて、ナイトクラブの『Zouk』やデイクラブの『Ayu』などがある。
バーナード博⼠によると、RWLVは、アジア最高峰の事業者たちがラスベガス・ストリップにもたらすことができるものを眩しいほどの光で輝かせる。
「ラスベガスには革新や新しい商品だけでなく、新しいマインドも必要だ。歴史上においてこの特異な時代に、我々は期せずしてアジアで営業する新たなマインドから恩恵を受けることができて非常に幸運なことだ。
かつてはラスベガスがマカオやシンガポールといった場所にその商品を輸出するという形であったものの、現在少しばかり逆のプロセスがあることは健全なことであり、情報共有、ベストプラクティス共有そして情報が東からラスベガスへとやってくる。それは大きいことだと思う」
MGMグランドの元社長兼COOで、2019年5月にRWLVの社長に就任したスコット・シベラ氏はこのように話す。1965年にアジア初の本物の統合型リゾートであるマレーシアのゲンティンハイランド(リゾーツ ワールド ゲンティン)を開発し、2010年には大きな成功を収めるシンガポールのIR、リゾートワールド・セントーサをオープンさせて、一つレベルを上げたゲンティンが「国際的な視点と家族所有の文化をラスベガスに持ち込む。彼らは完全統合型施設の創設をマスターした。それはリゾートワールド・ラスベガスを見れば明らかだ。目標は、当社のリゾートを市場で技術的に最先端の施設にし、ヒルトンの3ブランドを一つ屋根の下に置き、突出した飲食ラインアップ、世界的なエンターテイメントパートナーなどなど、ストリップで他には見られないものを加えることだった。会長(リム・コック・タイ)はかなり実務に参加するタイプで、本当の意味で先見の明のある人物だ」
同施設は、つい最近まで続々と失敗または実現に至らない計画ばかりだったストリップ北端エリアにとっても転機をもたらすものだ。
RWLVは、エシュロン・プレイスと呼ばれる48億米ドル(5,200億円)の新プロジェクトに道を譲るために2007年に米カジノ企業のボイドゲーミングによって取り壊された有名なスターダストリゾート&ホテルがあった場所に建つ。2009年の世界金融危機に、ボイドはそのIR計画を保留にし、最終的には2013年にその土地を3億5,000万米ドル(380億円)でゲンティンに売却した。
もう一つ、豪カジノ大手のクラウン・リゾーツによるIR計画、アロンがあった。同社がRWLVの北側に接する35エーカーの土地区画を2018年にウィン・リゾーツに3億米ドル(330億円)で売却し、こちらも中止となった。その区画は、今なお空き地のままだ。
しかしながら、RWLVのオープンと、近隣のラスベガス・コンベンションセンターがストリップ北側の新開発を活気づける刺激となるという期待もあり、それは、長らく停滞するフォンテンブロ ーから始まると思われる。現在の所有者が2023年にJWマリオ ット・ラスベガス・ブールバードとしてオープンする計画を発表している。
コンベンションセンター自体が、同地区の復活のカギとなる。最近8億9,000万米ドル(960億円)をかけた拡張が完了し、センターとRWLVおよびウィン・ラスベガスの両方を結ぶ革新的な地下交通システムが追加された。それを造ったのはテスラの創業者、イーロン・マスク氏だ。その複雑なトンネルシステムは、計62台あるテスラの3sとXsが停車駅から次の停車駅まで乗客を運ぶ。
バーナード博⼠は言う。
「これはストリップ北端が今、イノベーションスポットであることを意味する。人々が実際に観光地として訪れ、それら地下トンネルに乗ってみるコンベンションセンターがあり、それがRWLVとつながっている。
ラスベガスは常に、交通に関してひどく苦戦してきた場所であり、その答えはまだしっかり見つかっていない。突然、我々はノ ース・ストリップとウィン、コンベンションセンターそしてRWLVの三角形を結ぶ世界で最もクールな地下道を間もなく手に入れることになる。
だから、そう、我々はストリップのこの部分にとってのルネッサンス期にいるのだと思う」
もちろん、ゲンティンのラスベガス計画には道中多くの障害があった。とりわけ大きいのが新型コロナの感染拡大で、建設が完成間近である中、街は閉鎖に追い込まれた。
しかし、回復度合いは背中を押されるようなものになっている。今年始め、制限が解除され始めて以降、ネバダ州では10億米ドル(110億円)を超える収入が4カ月続いており、5月には過去最高の12億3,000万米ドルを記録した。それまでの最高は2007年10月の11億7,000万米ドルだった。5月のその数字は2019年5月を25%も上回るものでもあり、海外からの観光客がいないことを考えると、特に素晴らしい結果と言える。RWLVが6月24日にその扉を開けたのはこの繰延需要の中だった。
新型コロナのパンデミックからの恩恵は他にもある。
「ここ10年以上の間で始めてストリップに建設されたリゾートであるために、自然に新体験がぎっしり詰まったラスベガスで最も清潔で安全なリゾート体験を作り出すというアドバンテージがあった。それは単純に今日あるテクノロジーと進歩が10年前には存在していなかったからだ」とシベラ氏は説明する。
「我々のチームはインフラの評価に一生懸命取り組み、公衆衛生と安全に超フォーカスする新たなレンズを通じて、リゾート全体の全ての接触点を見直した。
2020年は誰もが予想だにしなかった前例のない障害をもたらしたが、我々のチームは変わらず自らの目標に焦点を定め、障害の克服のために一致団結し続けた」

美学的な見地から、RWLVは、2016年12月にオープンし、そのたった14カ月後に幕を閉じた中国がテーマのラッキードラゴンを襲った運命、安っぽい誤認識の罠に陥ることなくアジアルーツを強調する微妙なラインを攻めている。
RWLVには「アジアの明らかな影響」があり、微妙にシンガポ ールやマカオにある世界トップの統合型リゾートを参考にしているが、それはパンダ展示ややりすぎ というほどの中国的リゾ ートの可能性が噂されていた当初に多くの人が考えていた形ではない。
明らかに彼らはそこから離れていって、よりアジアの影響を受けたものへと戻ってきた」とバーナード博⼠は言う。
シベラ氏はそのような噂はRWLV「我々はテーマのあるホテルにしようと計画したことはない。この施設は、伝統および近代建築と、進歩するテクノロジーとを組み合わせた新たな高級ホテル体験でありながら、アートや装飾を含む全体に絶妙にアジアの気配をちりばめ、ゲンティンのルーツに敬意も示している」
アジアの雰囲気にもかかわらず、RWLVが成功するかどうかは(少なくとも最初は)アメリカ人客に左右される可能性が高い
ように見える。ただし、その国内への焦点は今後数年で若干向きを変えることができるかもしれない。
「確実に、例えば中国からの観光客よりも地元アメリカ人をターゲットにしている」
メイバンク投資銀行株式市場リサーチ部門アソシエイト・デ ィレクターのサミュエル・イン・シャオ・ヤン氏はそのように話す。
「ゲンティンは、2013年に土地を購入した当初は中国人観光客をターゲットにするつもりだった。しかし、ラスベガスのバカラおよびミニバカラ市場が中国での反腐敗運動の推進、金融政策の引き締め、そして資金管理によって2013年以降下降し始めたとき、ゲンティンはRWLVを地元アメリカ人の方向へと向きなおさせた。
そうは言っても、RWLVが地元アメリカ人の方を向いても、中国人観光客に関して何か負の影響があるとは思わない。ウィン・ラスベガスを見てもらいたい。この施設は過度に中国人観光客のほうを向いていないが、ラスベガスを訪れる中国人観光客の間で選ばれるカジノになっている」
バーナード博⼠によると、重要な疑問というのが、中国人のハイローラーはいつ戻って来るのか?というものだという。
「ゲンティンはその得意客について多少知っており、間違いなく、ラスベガス・ストリップのあらゆる客とともに、その得意客を相手にしてきた。
過去20年間のストリップにおけるバカラの数字を見てみると、上向きに伸びてきた。そして彼らは中部アメリカやフィラデルフィアから来ているのではなく、中国から来ており、具体的にはその人たちが同商品に触れている場所、マカオだ。彼ら自身が自分たちにこう言い聞かせてきた。『アミューズメントパークに全く違う乗り物がたくさんある、これの別バージョンがある。ラスベガスだ』と。だからバカラの数字は急上昇した。
RWLVのオープンによって、バカラプレイヤーの中心は、おそらくストリップの北端になるだろう。RWLV、ウィン、ザ・ベネチアンがあり、そしてラスベガス・サンズが撤退することで(現在ザ・ベネチアンとザ・パラッゾの売却を進めている)、ゲンティンはこれまで以上に説得力を持つことになる。
しかしそれらのバカラの数字が戻るのを見始めるまで、R-WLVにとっては完全に機能し、完全に安定し、完全にその約束を実現するのは非常に厳しいだろう」

ブティック型投資顧問会社のバーンスタインが出した6月のレポートによると、ゲーミングはRWLVの収益の約3割を占めるに過ぎず、同施設はヒルトンの大きな国際データベースへのアクセスを提供してくれるヒルトンとの関係性を通じた重要なアドバンテージを持っているという。
これに今度は、「通常、ビジネスの20%から25%を構成する極めて重要なラスベガスへの訪問客層」と言われる団体へのアクセス力の向上が含まれる。
バーンスタインのアナリストは、このように続ける。
「RevPar(販売可能な客室1室あたりの収益)は、ラスベガスでの水準の上のほうになるはずであり、将来必要とあれば、さらなる拡大の余地がある。
それでもなお、ゲーミングは施設の成功と失敗にとって依然非常に重要なものだ。
この施設は収益と利益に関して、ラスベガスの上位5施設と良い戦いを繰り広げるはずだ。その競争は大まかに、ウィン、ベネチアン、ベラージオ、アリアそしてザ・コスモポリタンとのものになる。それら各施設が2019年、3億5,000万米ドル(380億円)を超えるEBITDAを生み出した。RWLVは加速すれば、(保守的に見積もっても)2億5,000万米ドル(270億円)から多ければ3億米ドル(330億円)のEBITDAを生み出すことができると予想している」
メイバンクのイン氏もまた、年間EBITDAは約2億7,500万米ドル(300億円)になると予想しているものの、単にそのEBITDAが減価償却費や支払利息といった費用をカバーできるか定かではないということだ。
もし同社の財務諸表の我々の読みが正しければ、RWLVは事実上100%借り入れによる資金調達だった。43億米ドル(4,700億円)の借り入れに対する利率4.5%を想像してみてほしい。毎年支払わなければならない支払利息は2億米ドル(220億円)にのぼる。我々の見方では利益率閾値は高い。
見通しに関して、RWLVが利益を確保するのに何が必要か、あまり確信が持てていない。もちろん、ラスベガスのGGRの最近の筋道は勇気づけられるものだ。そうはいっても、それはどれくらい続くのだろうかという疑問はある」
この利益率の課題が、ゲンティンの計画に疑問を投げかける。その計画については、リム会長自身が米での上場を目指すため、オープンデーに、ブルームバーグとのインタビューの中で説明している。その上場によっておそらく、RWLV、ニューヨークにあるカジノ、そしてマイアミに土地区画を所有する法人といったゲンティンの全ての米国資産が一つの傘下に集められるだろう。
リム氏は当時このように語っていた。
「数字が上昇し、投資家の信頼が戻ってきた時、米国の投資を統合し、上場を求めるという観点からみて、我々は真剣に上場検討をするつもりである。
オープンした今、我々は四半期の終わりにつながる最初の30日間の結果を待ち望んでいるところだ。これによりIPOのタイミングが非常に明確になる」
イン氏は、特別買収目的会社(SPAC)というルートがチャンスを与えてくれる可能性があると見ている。というのもRWLVは収益性の実績を提供する必要がないからだ。
しかしながら、同社自体は依然、リゾートワールドの展望を楽観視しており、ラスベガスの活動が最近復活しているのは特に、同市とノース・ストリップにとっては単なる始まりに過ぎないと主張している。
シベラ氏は言う。
「我々周辺の開発は、ストリップの次の進化において重要な役割を果たすだろう。RWLVは北エリアの次の章における1ページに過ぎない。周辺の多くの刺激的な開発に加えて、北エリアにおける当社の大規模投資がやがては、ラスベガス大通りのこちら側のビジネスを活気づけるだろう。
ただ、皆様に当社の美しいリゾートを体験しに来てもらうのが待ち遠しい。RWLVはゲストが求める全てを備えた真の統合型リゾートになるよう設計されている。気軽な体験やアトラクシ ョンから、ハイエンドの高級ダイニングや街で最も高級な部類のスイート、加えてもちろん素晴らしいエンターテイメント。
周辺を散策して、素晴らしいレストランの一つで食事をとり、『Famous Foods』で少しつまんだりして、『Dawg House』でライブ音楽を聞いて、お酒を飲んで、『 Starlight on 66』で息をのむほど美しいストリップの夜景を楽しんでもらいたい。
純粋にリゾートの大きさとそのデザインだけでも見る価値がある」