横浜IRの未来が決まる8月22日の市長選を前に、Inside Asian Gaming はIRの世界的大手、ゲンティン・シンガポールとメルコリゾーツ&エンターテイメントという2社の候補事業者を詳しく考察する
日本版IRの夢が実現される時が刻々と迫っている。日本政府は2021年10月1日から、候補地と選ばれた事業者からの申請受付を開始する。 2016年12月にIR推進法が参議院で可決され、2018年にIR整備法が成立したことで、政府はカジノを含む日本初の統合型リゾート開発のためのライセンスを最大で3つ発行する。長い間、その3つの候補地は、巨大都市圏2か所と、より多くの観光客を呼び込み、地方経済を再活性化させるという主要目的を持つ地方候補地1か所になると予想されてきた。

しかしながら、期限が近づく中で、選択肢となる都市圏の候補地が2か所でさえあるのかどうか、いまだ分からないままだ。大規模IRに一番に手を挙げた候補地の中で、大阪はほぼ決まったも同然と長らく見られてきた一方で、レースに参戦する唯一の他の都市圏候補地である横浜に関しては、まだ決定が下されていない。
現状では、横浜は日本IRの中で最良の立地だ。東京駅から電車で約30分に位置する横浜市の人口は約400万人だが、東京圏を構成する4,000万人近い人口に容易にアクセスできる。
これこそが、2019年8月、林文子市長が正式に横浜のIR誘致を宣言した時、世界最大のIR事業者たちが横浜に群がった理由だった。横浜を好んで大阪を見捨てた事業者には、ギャラクシーエンターテインメントグループ、ゲンティン・シンガポール、ラスベガス・サンズ、メルコリゾーツ&エンターテイメント、そしてウィン・リゾーツがあった。大阪に残ったのはMGMリゾーツだけだった。
現在横浜に残っているのは、それら候補者の中で、ゲンティン・シンガポールとメルコリゾーツの2社だけだ。他はその心変わりの理由として新型コロナによる経済的影響、または日本の厳しい規制のどちらかをあげて、過去15カ月間に様々なステージで撤退していった。

横浜のRFP(事業者公募)プロセスが勢いを増す中でさえも、2つの差し迫った問題が、横浜のIR列車を直ちに止めてしまう脅威となっている。
1つ目が東京だ。日本の首都はこれまで統合型リゾートの誘致に一度も手を挙げていないものの、除外もしていない。東京は最終的にレースに参戦するだろう、そして東京オリンピックによってこれほど気がそらされていなければ、既にそうしていたかもしれないという噂が飛び交っている。もしそうであれば、新型コロナのパンデミックの結果、オリンピック開催が12カ月間遅れたことが、東京がIR出走ゲートに遅れて登場することを発表するチャンスをダメにしたのかもしれないように見える。
日本のIR法の下では、政府は最初の3つのライセンスを発行した後、それ以上の数の発行を検討できるまでに少なくとも7年間待たなければならない。それを考えると、短期的には横浜にとっては良いニュースだ。たとえそうであっても、いつか独自のIRを建て、横浜の顧客プールから大量の客を奪っていくという東京の脅威は常にあり続ける。
しかしながら、横浜にとってより差し迫っている問題が8月22日の市長選だ。今月号のIAGの別の記事で、上村記者が詳しく書いているが、この選挙の結果によって、横浜のIR計画は左右されることになり、IR反対派の大勢の候補者たちが、当選した暁にはIR誘致を撤回する意向を表明している。
横浜出身で、日本を拠点にするコンサルティング会社、ベイシティベンチャーズの國領城児代表は、本当の焦点は市の社会経済上の懸念にあるべきだと考えており、今の状況は残念だと言う。
國領代表はこのように話す。
「日本最大の都市の1つとして、目下に多くの他の問題があるにも関わらず、IRが主な争点になっているのは残念だ。
これら全てがIR賛成・反対となる中、見失われているのが、横浜がそもそもIR開発を望んだ本来の理由だ。横浜には将来的に解決が難しい財政上の問題があり、それをどう解決するかというのが議論されるべきだ。もしこれがIRの主要な理由として前回選挙の前に上げられていれば、おそらく人々は今よりも受け入れていただろう」
IR開発反対派の市長選立候補者の1人が55歳の小此木八郎氏だ。同氏が6月に、誘致反対派での出馬の意向を発表したことは、与党自民党に衝撃を与えた。というのも、小此木氏は自民党員であっただけでなく、国家公安委員長としてカジノ管理委員会を所管してもいたのだ。
事実、つい最近まで、6人の正式な立候補者の中でIR賛成の姿勢を表明していたのは元内閣府副大臣で無所属の福田峰之氏のみだった。
その後、7月15日に横浜のIR誘致の推進力である林市長が4選を目指して出馬表明したことで雰囲気は一変した。自民党が内規で、政令指定市長選の党本部推薦は3期までと定めているために、林氏は無所属で出馬することになるものの、党は小此木氏を推薦することもせずに、自民党市連は自主投票を決めた。足かせがはずれたことで、少なくとも市議会の一部は林氏を支持すると見られており、追い込まれていたように見えていた誘致への取り組みに新たな勢いを与えると見られている。
それによって、横浜のIRレースには力が拮抗する2社が残ることになる。では、それぞれにどのような強みがあるのか、じっくり考察してみよう。
ゲンティン・シンガポール
IR実績
国際的なカジノ及び統合型リゾートを展開するという点において、世界中の至る所に進出するゲンティンに敵うものはない。ゲンティンの名前を冠したマレーシアの高地にある最初のリゾ ートから、シンガポールのリゾートワールド・セントーサ(RWS)、イギリスやエジプトにあるカジノ、最近オープンした43億米ドル(4,700億円)のリゾートワールド・ラスベガス(RWLV)をはじめとする米全土にある複数の施設まで、同社はIRゲームにおいて世界的大手として確固たる地位を確立してきた。たった1つ、注目に値する例外というのが、ゲンティンが世界最大のIR中心地であるマカオにゲーミング施設を持たないという点だ。
しかし、ゲンティンが横浜IRライセンス獲得を目指す活動を、シンガポールの子会社の下に置いていることは何ら驚くことではない。
ブティック型統合型リゾートコンサルティング会社、マレー・インターナショナルの会長で、ラスベガスからマカオまで、何十年もの経験を持つ業界のベテラン、ナイル・マレー氏は、これが横浜でのIRレースにおいてゲンティンに直ちに有利なスタートを切らせると見ている。
マレー氏はこう説明する。
「日本政府はシンガポールIRモデルの成功を真似したがっている。一つ目に、日本はIR基本法をシンガポールの厳しい法的枠組みに近い形で作っており、それに他の法域の厳しい条項を加えて、世界で最も厳しく規制された、手厚い保護を持つゲ ーミング法を作り出した。
日本は、これをすることで、世界トップの事業者を集めながら、同時に国民、地域、地元のビジネスを守り、そしてシンガポ ールのIR業界の成功をマネできると考えていた。
ゲンティンが持つマレーシア、シンガポール、フィリピン、米国、クルーズ船(ゲンティン香港経由)における実績、そして最近のラスベガスでの開業によって、同社は横浜市と日本政府から多くのポイントを獲得するだろう。
同様に、そのシンガポール政府との強固なつながり、政治的知識、非常に厳しい国際競争の中でシンガポールの2つのゲーミングライセンスの1つを勝ち取る力、そして経営を成功させることの全てが、ゲンティンの強み、能力、そして証明された実績を指し示している。
マイナス面としては、リゾートワールド・セントーサが年間ゲ ーミング粗収益で、シンガポールのライバル、マリーナベイ・サンズに10年間トップの座を譲っていることがある。シンガポールでの一騎打ちにおいては、(コロナ前の)2019年時点でマリ ーナベイ・サンズが6割のシェアを誇り、政府が2005年に2つのライセンスの発行を初めて選んだ際に描いていた、シンガポ ールのスカイラインに加える象徴的な建物としての地位をしっかり確立している代表的存在となっていることは否定できない。

ゲンティンのシンガポールとマレーシアのIRがそれでもなお、何年にもわたって広くその成功を証明してきている一方で、米国にある3つのカジノのうちの2つ、RWLVとリゾートワールド・キ ャットスキルズについては潜在的な収益性に関する懸念がある。同様に、同社のクルーズ船事業、ゲンティン香港は新型コロナによって壊滅的な打撃を受け、破産を回避する助けとなるよう、最近債権者との協力による金融支援策を発表した。
財政力
世界中での事業展開と傘下に持つ子会社の多さによって、ゲンティンはニーズに合わせて財政資源を移動させるという技法を長い間習得してきた。 その最も分かりやすい例が、問題を抱えるニューヨークのカジノ、リゾートワールド・キャットスキルズを所有する法人、エンパイア・リゾーツだ。同社は過去18カ月にわたって、ゲンティン・マレーシアから2億1,000万米ドル(230億円)以上の資金供給を受けて破綻せずに操業してきた。
それでもなお、ゲンティンとその日本のコンソーシアムパートナー(詳細は後で)が、自由に使える巨額の軍資金を持っているだけでなく、国内であろうが海外からの投資であろうが様々な資金調達オプションを持っていることは一般に広く認められている。
6月にオープンしたRWLVに4,700億円を投じたにもかかわらず、米上場の可能性という噂が、世界最大の投資市場への扉を開く。ゲンティンがすでにマレーシア、シンガポール、香港の取引所に上場しているという事実は言うまでもない。
横浜に話を戻すと、財政力がゲンティンの道を阻む問題になる可能性は低そうだ。
MICE経験
ゲンティン・シンガポールは、この地域で最高峰と考えられているリゾートワールド・セントーサ・コンベンションセンターと付随する施設によって横浜に確かなMICE経験をもたらしてくれる。
「ゲンティンにはリゾートワールド・セントーサとゲンティンハイランドでの中規模から大規模の確かなMICE経験がある。
RWLVによって今後数年の間に重要なMICE経験を得ることにもなるだろう。ラスベガスは、世界のMICE中心地であり、(ゲンティンが)繁栄するためには、学び、順応し、成長する必要がある」マレー氏はそのように説明する。
RWLVはまた図らずも、イーロン・マスク氏が開発した地下交通システムを通じてラスベガス・コンベンションセンターと直接つながっており、全電動テスラ車両が両施設の間をたった2分で結んでいる。
誠実性
ゲンティンの複雑な所有構造は、会長兼CEOのリム・コック・タイ(林国泰)氏とその一族が、6以上の世界中の法域にある多くの法人で、各自直接的および間接的に株式を保有しており、それが日本の規制機関に待ったをかける可能性がある。また、特に4,700億円がRWLVに投じられ、ニューヨークやマイアミに小さくない米国での野心的な計画があることを考えると、同社の本当の焦点がどこにあるのかという点に関する疑問もある。
それにもかかわらず、同社がネバダ州で誠実性調査にパスしたことと、別の規制が厳しい法域であるシンガポールの規制機関と関係性を保っていることもプラスに働く。
マレー氏は言う。
「ゲンティンはシンガポールでは定評があり、入札を勝ち抜き、大きな成功を収めるIRを開発・開業させ、そしてライセンス延長とさらなる開発の承認を勝ち取った。
また、ゲンティンはマカオでは営業していない。日本政府はマカオで営業していない事業者の承認を好む可能性があることが示唆されてきている」。
参考のために、ゲンティンは一度もマカオではゲーミング事業を営んでいない一方で、ゲンティン香港はマカオに完全子会社であるゲンティン・マカオを持っており、マカオの南湾湖沿いにホテルを開発している。しかしながら、ゲンティン香港は昨年11月にゲンティン・マカオに持つ株式の50%を売却し、26億米ドル(2,800億円)の負債の一部返済に回すために、将来的に残りの株式を売却する可能性を示唆している。
パートナー
ゲンティン・シンガポールは6月、横浜IRのコンソーシアムパ ートナー5社の名前を挙げた。その中で注目されたのが、遊技機開発会社のセガサミー・ホールディングスの存在だ。
投資家であるという他に、セガサミーがコンソーシアムの中でどういった積極的役割を担う可能性があるかはまだ具体的には分からない。というのも、同社の経験というのは、日本のカジノフロアから除外されることになっている遊技機開発業界と、韓国の仁川にある外国人専用IRのパラダイス シティに持つ45%の株式に限定されている。セガサミーは、韓国への関心は、主にIR運営経験を得て日本にそれを持って帰るための手段だと言ってきたが、そのパートナーシップは明らかに、55%を所有する韓国のパラダイスが主導している。パラダイスシティはまた、加速に時間がかかっており、2016年2月の開業以降短期間のみしか利益を確保できていない。
これらの問題を別にすると、ゲンティン・シンガポールのコンソーシアムは強力なものになるようで、日本のスーパーゼネコン大手5社「ビッグ5」のうちの3社、鹿島建設、竹中工務店、大林組の他、オフィスの警備、防災、情報セキュリティを提供する綜合警備保障(ALSOK)などが参加する。
まとめ
マレー氏は、ゲンティンの国際的な実績とシンガポールでの確かな成功物語を元にすると、ライセンス獲得を目指す動きは特に強力なものになると見ている。
「ゲンティンの経営モデルは何年もかけて大きく発展してきており、劇的に改善され、参入してきた新たな法域の規制上および市場のニーズに合うよう上手く順応してきた。
RWSは、衰退する開発中のセントーサ島に新たな息を吹き込み、シンガポールの観光業の夢を叶える助けとなった。

RWSは必要な資金を調達し、世界トップのホスピタリティ、小売、飲食そしてエンタメ事業者と手を組んで、シンガポールの中間層のレジャー、ファミリー、団体旅行市場のニーズに合う統合型リゾートを作った。
同時にRWLVは長年で初めてラスベガスにオープンした大規模IRであり、ゲンティンは世界トップのパートナー企業、素晴らしい施設、アメニティ、サービスそして最先端のテクノロジーをもって、再びレベルを上げることに成功した。
(マレーシアにある)ゲンティンハイランドは大幅改善、そして国際的なIRの期待と基準への適合に苦戦してきてはいるものの、ゲンティンの最近の運営は着実で、継続的に改善・進化し、法域の要件を満たし、ターゲットとする市場のニーズを満たしている。
メルコリゾーツ
IR実績
香港に上場するメルコ・インターナショナル・ディベロップメントが55.8%を所有し、ナスダックに上場するメルコリゾーツ&エンターテイメントは、世界の統合型リゾート中心地、マカオのカジノゲーミングコンセッション保有6社の1社だ。
そのマカオポートフォリオの筆頭が、コタイストリップの北端に位置するハイエンドIRのシティー オブ ドリームス。そしてストリップの南端に建つスタジオシティ、2007年開業の同社のマカオ第一号施設であるアルティラ・マカオだ。
メルコはまた、フィリピンの首都マニラのIR事業者4社の1社でもあり、エンターテインメント・シティにあるIRのシティー オブ ドリームス マニラを運営する。そして現在5.5億ユーロ(715億円)をかけてヨーロッパ最大のIR、シティー オブ ドリームス メデ ィテラニアンを開発中だ。
全盛期には、マカオのゲーミング業界内外で大健闘し、グル ープ全体の収益は2019年に過去最高の57.4億米ドル(6,300億円)に達し、3.7億米ドル(400億円)を超える利益を生み出した。
マカオのシティー オブ ドリームスには、マカオ唯一の長期公演常設ショーがあり、フランコ・ドラゴーヌ氏プロデュースのザ・ハウス・オブ・ダンシング・ウォーターは、昨年新型コロナが襲うまでの10年間、満席続きだった。また、2018年にオープンした超高級ホテル、モーフィアスも入っており、分かりやすく日本文化を意識した造りとなっており、日本式のトイレまである。
しかしながら、マカオとマニラの両シティー オブ ドリームス施設がメルコにとって賞賛に値する成績を残す施設である一方で、スタジオシティは一度もコタイの競合の多くの輝かしい収益水準に達しておらず、メルコのクラウン・リゾーツとの過去のパ ートナーシップからの遺産であるアルティラ・マカオ(当初の名称はクラウン・マカオ)は今では長年利益にほとんど貢献していない。
メルコを批判する人たちは、同社には過剰支出と期待外れの結果、 じっくり考えず、すぐに行動に移してしまうという過去があると言うが、IAGが話を聞いた他の人たちは、同社の日本へのコミットメントは賞賛に値すると言い、メルコは画期的な近代設計と息をのむような建築エレメントということに関してはアジアで最も革新的でリスクを恐れないIR企業だといえると言う。
例えば、横浜IRのコンセプト募集(RFC)の段階で、メルコが提案した一連の施設にはミュージアム、ウォーターパークそして荘厳なエンターテイメントなどもあったことが知られている。後者はザ・ハウス・オブ・ダンシング・ウォーターのクリエイターであるフランコ・ドラゴーヌ氏によるもので、他にも同様に世界最高のアーティストやクリエイターとのコラボなどがあった。

こういったものこそがメルコが誇るハイエンドの非ゲーミングサービスであり、プレミアム客に焦点を当てている。シティー オブ ドリームス マカオにはミシュラン3つ星を獲得する『Jade Dragon(ジェード・ドラゴン)』をはじめ、ミシュランの星を獲得するレストランが4軒あり、そして17軒という多くのレストランやスパがフォーブスの5つ星を獲得している。
横浜IRへの入札の他に、メルコは長野県奥志賀高原のスキ ーリゾートでのホテル開発を約束している。
財政力
70億米ドル(7,600億円)を超える時価総額を持つメルコリゾ ーツは、間違いなく世界の統合型リゾートシーンにおけるビッグプレイヤーの1社という立ち位置にある。

新型コロナの影響でアナリストたちはメルコのグループ全体の連結負債が今年70億米ドルに達するとみているものの、同社はなおも、ナスダックと香港証券取引所を通じて、世界で最も強固な金融市場へのアクセスを維持している。さらに重要なことに、横浜IRの潜在的収益性が(アナリストの一部は年間純利益が300億円近くと、途方もなく大きな額になると予想している)、確実に日本でも資本へのアクセスを保証してくれる。
MICE経験
これまで、マカオの主要MICEプレイヤーとしては名前が挙が っていないものの、メルコの会議および展示会スペースはかなりのものだ。シティー オブ ドリームスのグランドハイアット マカオにある大宴会場や会議室に加えて、スタジオシティのスタジオシティイベントセンターにある大宴会場、そしてシティー オブ ドリームス マニラにはもう一つ会議スペースを持つ大宴会場が用意されている。スタジオシティ第2フェーズとシティー オブ ドリ ームス メディテラニアンでさらに増える予定で、後者には1万㎡というMICE施設が予定されている。
しかしながら、IAGが得た情報によると、メルコは、日本でのMICEサービス開発を指揮する役割のために、少なくとも香港のアジアワールド・エキスポで非常に高い評価を受ける上級幹部1名、そして他にアジアのMICE界で先頭を走る人物数名に声をかけている。
国際規模のイベントという点に関して、メルコは世界最大のスポーツ・娯楽運営会社の1社と協力していることがささやかれており、メルコの日本IRに最高峰のイベントが誘致される可能性がある。そのパートナーシップに加えて、メルコは2019年、日本テニス界のスター、大坂なおみ選手をスポーツ・ディレクターに任命したことを発表しており、横浜市の権力者達にとって非常に興味をそそられるべきものがやってくる可能性がある。
誠実性
メルコは2007年からマカオで、2015年からフィリピンで、2019年からキプロスで営業しており、3つの法域でライセンスを付与されている。
同社のキプロス事業には現時点で4つのサテライトカジノと5.5億ユーロのシティー オブ ドリームス メディテラニアン計画用地の近隣にある一時的な施設が含まれる。
パートナー
メルコリゾーツはこれまでパートナー1社しか発表していない。大手総合建設会社の大成建設だ。メルコは2019年にその 「横浜ファースト」の方針を発表して以来、この点については固く口を閉ざしたままだが、IAGの取材によると、まだ公には発表されていないが少なくとももう1社、重要なパートナーが関わるという。
まとめ
ゲンティン・シンガポール同様、メルコリゾーツは世界的に見ても、横浜のような都市が要求する規模の統合型リゾートを開発・運営した経験と規模を持つ数少ない事業者の1社だ。
そして特にこの戦いにおいては彼らに勝ち目はないと見られているものの、ローレンス・ホー会長兼CEOが固い決意を持って日本に尽力していることは間違いない。
ホー氏の日本愛は本物で、仕事やレジャーで「何百回も」日本を訪れていると事あるごとに述べている。事実、印象深いのが、IRライセンス獲得が実現した暁には、メルコ本社の移設さえも約束したほどだった。
ホー氏は2019年5月、「統合型リゾートの開発ライセンスを勝ち取った場合、私自身が日本に移り住み、当社の幹部チーム、そして本社も日本へと移設する予定をしている」と語った。

メルコは技術的に最も進んだ日本IRの開発を約束しており、2017年初頭に初期のシティ・オブ・フューチャー構想を説明する際、初めて最先端の顔認識技術導入の計画を説明していた。
ゲンティン・シンガポールは強敵ではあるものの、メルコの本拠地がマカオであることを考えるとさらに克服が難しい障害というのは、日本で同社が中国企業として認識されている可能性があるという点だ。この点について、ホー氏が実際にはカナダで育ち、学び、1999年にトロント大学を卒業したにも関わらず、その名字が障害となってくる可能性がある。
一つ確かなことは、横浜が求めているものが革新であるならば、メルコリゾーツに賭けてみるのも全く悪くはないだろう。
総評
先月、IAGは長崎でのIR開発を目指す3社の候補者を比較・対比し、どの会社がレースを勝ち抜くのに最も好位置につけていると感じるかについての見解を述べた。今回、ゲンティン・シンガポールとメルコリゾーツの2社から横浜での勝者を選ぶことは、それよりもはるかに難しい。両社ともに、真のIR企業であり数千億円規模の施設と何十年にわたる経験、そして専門性の高いIRノウハウを持っている。
ゲンティンは(表向きは)シンガポールからというアドバンテ ージがある(実際はマレーシア)。それに対してメルコはマカオを本拠地にしていると見られるだろうが、実際にはアジア全域、北アメリカとさえも言える。シンガポールモデルこそ、日本が求めているものではあるが、ゲンティンは実際はシンガポール企業ではなくグローバル企業で、日本はシンガポールのように振る舞っていない。だから、日本が求めるシンガポール式の結果は得られないかもしれない。マカオ出身ということによるメルコの障害は実際には障害ではない。マカオは今日の世界でIRの絶対的基準であり、中国の他の地域とは実際、かなり異なる。概して、「出身地」の要素は五分五分であるようだ。
財政的に、両社ともにコロナ関連の苦難に直面しているが、どちらも必要な資金を調達する力、実績、そして財力がある。こちらも引き分けだ。
両社共に確かなMICE能力がある。ただし、サンズなどが持つような絶対的なティア1AのMICEスキルではない。そうは言うものの、MICEに関しては、両社が完璧に日本で求められているものを提供する力を持つ。
どちらの企業も最終的に誠実性の問題はないだろう。両社は間違いなく、道中でそれぞれのコンソーシアムに日本企業のパートナーを選ぶだろう。ゲンティンはセガサミーと組むことで得るものと失うものの両方がある。セガサミーがパラダイス シティIRの少数株主パートナーであることから得るものがある。同社がパチンコ業界で営んできたという歴史から失うものがある。したがって、これもまたどちらに転ぶかわからない。
ゲンティンは特に、つい最近リゾートワールド・ラスベガスを開業し、「よりビッグ」かつよりグローバルな企業だと認知されているかもしれない。しかし、逆に言うと、浅く広くとなりすぎていて、メルコのように日本にまっすぐ照準を合わせないかもしれない。
最終的には、「ウサギとかめ」または「質か量」といった類の選択になる可能性がある。前者のメルコは、刺激的かつモダンなIRを提供するだろう。おしゃれでウキウキするようなもの、エキゾチックかつ洗練されたものになるだろう。しかし、世界最高峰を目指す中で、設計や運営上のリスクを取る可能性があり、それが報われるか報われないかは分からない。彼らは超一流の提供に全力を尽くすだろう。後者のゲンティン・シンガポールはより「ようそろ(針路を維持するの意)」のアプローチを取るだろう。こ可能性が高い。しかし、来場者数を稼ぐことに集中して、特別感のない、また別のリゾートワールド・○○だと折に触れて非難されるようなものになるかもしれない。
横浜がどちらを選ぶのか、その時まで分からない。
