統合型リゾート運営におけるベストプラクティスを探求する連載コラム第一回では、業界のベテラン、ナイル・マレー氏が、ゲストに他の追随を許さない体験を提供するためには、従業員の採用と定着に関わる詳細なプラクティスとプロセスの実施が必要不可欠である理由について解説する。
統合型リゾート事業者は、世界中の競争の激しい法域において最高の人材を採用することが益々困難になっていると感じている。
本当の意味で最高の人材を集め、採用し、定着させるためには、IR人材採用ベストプラクティスとプロセス(IR Recruitment Best Practices and Processes)を開発し、実施しそして継続的に改善していくことが非常に重要だ。彼らこそが、成功を収める全ての統合型リゾートの命であり、心であり魂、そして最終的には成功へのカギとなる。
何年も前、ディズニーで働いてた頃にウォルト・ディズニーのこのような言葉を聞き、それ以来私はそれを信念としている。
「世界で最も素晴らしい場所を設計し、作り、建てることはできる。しかしその夢を現実にするのは人なんだ」
IRは先ず、将来有望な社員にアピールできる魅力的な企業文化と他より優れた労働環境を整えなければならない。その後、魅力を高め、選ばれる就職先になるために、その法域の最低要件を満たし、法律、ルールおよび規制に合わせるのではなく、それらのはるかに上を行く人材採用ベストプラクティスとプロセスを導入しなければならない。
最高の応募者を集め、採用することは、基本的な福利厚生パ ッケージや同業他社との給与競争といったものをはるかに超えている。最高のIRは、全体として最高水準の給与レベルおよび福利厚生パッケージの提供を目指すと同時に、他よりも優れた労働環境、真の所属意識を与えるチーム文化、個人として、そしてプロとしての成長を可能にする環境を約束する。
IR人材採用ベストプラクティスとプロセスのゴールは、本当に比類のないゲストサービスを提供し、非常に優れた労働環境を作り出し、圧倒的な組織のパフォーマンスを達成するために、正しい姿勢、優れた人格そして強い信念を持つ「最高中の最高」なリーダーおよび社員を募集し、採用し、定着させることだ。これによって、IRは発展、成長、そして成功できるだけでなく、動きが激しく、難しく、非常に競争の厳しい環境において繁栄することができる。
統合型リゾート人材採用ベストプラクティスとプロセスのモデルは、長年をかけて多くの法域で開発され、改良
され、そして洗練されてきた。これまでに試行され、検証されてきたIR人材採用ベストプラクティスと確かな人材採用プロセス10ステップ(10 Step Recruitment Process)の概要は以下の通り。
人材採用プロセス10ステップの1つ目から最後まで、応募者は多くの優れた選考基準を用いて、客観的に観察され、テストされ、評価され、格付けされる。その後、彼らは不採用になるか、プロセスの次段階に進むことになる。上記IR人材採用ベストプラクティスとプロセスは、確実に各職に登用可能な最高中の最高の応募者のみを選考し、比類のない労働環境を作り出し、他の追随を許さないゲストサービスを届け、非常に優れた業務成績を達成するのに役立つモデルとして使用できる。
IR人材採用ベストプラクティスとプロセスを実施しないことによる結末
統合型リゾートが、ラスベガス、シンガポール、マカオ、フィリピン、ベトナム、日本、その他どの法域にあろうと、上記のベストプラクティスは適用可能であり、新規採用者と将来有望な可能性のある既存社員に有効だろう。
一部のトップIRが上記の多くの、もしかするとそれ以上のベストプラクティスおよびプロセスを実施している一方で、様々な法域にあるほとんどのIRはこれら基本的な人材採用ベストプラクティスの実施において大きく遅れを取っている状態だ。人材採用プロセスが充実していないことと、適した応募者が不足していることによって、多くのIRが職を受け入れるもののやる気がなく、不満を持った不適任の人材を採用している。彼らにはやりがいが不足しており、最終的には不向きな職でどんどんやる気を失っていき、にっちもさっちもいかなくなる。
加えて、応募者はしばしば、募集されている中で最も給与の高い職に応募し、採用されることがある。そういった場合、応募者の備え持った才能や個性、適格性は関係ない。応募者の仕事と給与の希望、構造化されていない一対一の面接、紹介、政府ガイドライン、無料研修(地元での無料のディーラー研修など)に左右される不十分かつ制約のあるIR人材採用の慣行は、ふさわしくないリーダーや社員の採用につながる。
不十分で制約のある人材採用の慣行というのは、心の底から湧き出る熱意を持たずに標準的な業務手順に従いながら暗い表情で機械的に動作をこなすやる気のない社員の顔を見れば一目瞭然だ。IRの組織的なパフォーマンスの低さ、社員のエンゲージメントの低さ、そしてゲストの満足度の低さの全てが、競合他社よりもゲストに優れたサービスを提供するのに適した人材が適した場所にいないことに起因する。最終的に社員、ゲストそして組織の全員が苦しむことになる。
最高のIRは、人材採用ベストプラクティスを用いて確実に応募者にぴったり合った職を提供することによって、そして別のキャリアパスを提案することによってこれを回避している。最高峰を目指すならば、IRは最高の人材を集め、採用しなければならない。そしてそれをするためには、徹底的かつ継続的に可能な限りベストのプラクティスとプロセスを実施しなければならない。
IR人材採用ベストプラクティスとプロセスの実施に関する課題
一部の法域にあるIRはそのような極めて厳しい応募者不足を経験してきており、理想には届かない応募者を採用する他に選択肢がない。しかしながら、こういった状況下においても、選考中に、各応募者の固有の才能を考慮して、最初に最も適した職に確実に配置するために、人材採用ベストプラクティスを適用することはできる。そうすることで彼らは価値ある貢献をし、彼らがさらに成長するのに役立つスキルを学ぶことができる。
IRが営業を行う法域の中には労働組合がある場所とそうでない場所がある。どちらにしても、最高のIRは反組合ではなく、社員の味方だ。これは単に、彼らが明確に意思を伝え、心から仲間を尊重し、配慮する最高のリーダーを採用、研修、開発、モニター、激励していることを意味する。これらの社員が今度は、ゲストに比類なきサービスを提供する。
多くの法域のIRは過去も、そして未来においても、最高中の最高の人材募集と採用において深刻な課題に直面してきており、今後もするだろう。一部の法域では、IRは手足を縛られながらも、クロールで泳ぐことを期待されている。IR人材採用ベストプラクティスの実施における課題には、現地労働者の数の制限、地元の低い失業率、労働者の大半を地元で雇用する政府からの要件、そして/または特定の職に関しては、パフォーマンスの問題で現地の人を罰したり、解雇することが難しいこと、そして外国人労働者が労働ビザを取得したり維持したりするのに制限があることなどがある。
しかしながら、これらの課題を別にしても、多くのIR事業者がなおも人材採用ベストプラクティスおよびプロセスを徹底して実施しておらず、また改善されてもいない。
最高のIRは人材採用ベストプラクティスおよびプロセスを実施することで最高の人材を採用する
多くのIRが人材採用について、単にそれをこなしているだけで、地元法域の制限を非難し、社内の過去の慣行(いつもこうしてきた)または外部の過去の慣行(他のIRはこうしている)というものを社員、ゲストそして組織にとってのベストを実施しない理由として使ってきた。お金が流れ、タイミングが合えば、「なぜ壊れていないのに、直すのか?」と言いたくなる。
今の不景気の時代において、IRが最高の人材をどう集め、採用するかだけでなく、将来的に彼らをどのように開発し定着させるのかについても再評価するのが賢明だろう。本記事に挙げられているベストプラクティスとプロセスは、ファストトラック人材開発プログラムに参加する既存社員の選考時にも採用でき、確実に正しい姿勢、能力およびスキル持った適した人材を、今後適した職に配置することができる。
統合型リゾートの中には、提案されている人材採用ベストプラクティスおよびプロセスの大半または全てを採用しているところがある一方で、ほとんどが大きく不足している状態だ。確実なことは、パンデミックが続き、市場が統合され、競争が激化し、新たな法域が開かれ、発展していく中で、統合型リゾートが最高中の最高の人材を集め、採用し、定着することを益々難しいと感じるようになっていくということだ。
この理由から、将来勝ち抜く企業とリーダーにとっては、IR人材採用ベストプラクティスとプロセスへの固い決意とその継続的な改善が極めて重要となる。
ナイルへの問い合わせは以下のEメールアドレスへniall@murrayinternationalgroup.com