個性的な5者がエントリーした長崎IRレースはいよいよ佳境へ。栄光のゴールをつかむのはどこか。IAGが独断予想してみた。果たして本命は?
まさに、まな板の上の鯉という心境だろう。「九州・長崎特定複合観光施設(IR)設置運営事業」への参加登録が認められた5者は3月1日までに1次審査書類を提出。ここで県は主に運営能力と財務能力を厳正にチェックし、中旬には5者から3者へ絞られる。つまり、2者は脱落することになるわけだ。審査委員は8名、審査委員長は菊森淳文氏(ながさき地域政策研究所理事長)が務める。
サバイバル戦を前にある事業者が心境を吐露した。
「どこも自分のところが1番だと思っているでしょう。しかし、ある意味で敵はライバルの4者というより、選ぶ側の長崎という思い。最終的な判断材料は何なのか。長崎側の希望と自分たちの知見を生かし切って、国策としての持続可能なIRをつくるために、その答えはひとつでしょう。その解を見つけなければいけない」。
さらに、第1ラウンドを勝ち抜いた3者には次なる関門が待ち受ける。5月に県の指定する調査会社による廉潔性、適格性に関する調査が行われ、6月予定の2次審査書類を提出。ここでも厳正なる審査を経て、最終的に8月に勝者が決まる。事業者にとってつらいのは面と向かってのアピールタイムが少なく、ほとんどが”恋文”によって打ち明けるしか手だてがない点だ。
参加する5者、その横顔は?
オシドリ・コンソーシアム
香港の総合金融サービス会社オシドリ・インターナショナル・ホールディングス傘下にあり、佐世保市に設立された日本法人。親会社の会長兼CEOのアレハンドロ・イエメンジアン氏はMGMリゾーツ元社長のやり手。
今年1月には米トライバルIR事業者モヒガン・ゲーミング&エンターテインメントとパートナーシップ締結し、体制を強化した。そのモヒガンは韓国・仁川に「インスパイア」を開発(23年開業予定)しており、極東にも力を入れている。
ライバル事業者からは「財政面、実績面ともバランスが取れており、有力候補のひとつ」と一目置かれる存在だ。
カジノ・オーストリア・インターナショナル
1968年にオーストリア政府(ホールディング会社Österreichische Beteiligungs AGを通して33%の株所有)により設立された国営の老舗IR事業者。オーストリアで12カ所事業展開しているが、どれも日本で開発するIRの規模ほどの大きさではない。
長崎では著名な建築家の隈研吾氏の協力を得てハウステンボスと調和させた小粋な和風空間を演出。湯治のノウハウやウィーン、ザルツブルグでの実績から音楽、学会誘致に自信を持つ。日本法人の林明男社長は「国営企業ならではの安心、安全、安定がわれわれの強み」と強調する。その一方でライバル事業者からは「国営企業だけに、やはり柔軟性に欠ける面があるのでは」と指摘されている。
カレント・グループ
香港資本。IR事業、不動産、金融、エンターテインメント観光事業に投資してきたSRCグループに属し、もうひとつのSHOTOKUは横浜IRに参加の構え。カレントは早くから長崎市と佐世保市に事務所を置き、2年前の長崎セミナーにも参加するなど、地域密着でアプローチしてきた。
鈴木保代表の出身母体、マカオのソフィテルマカオ・アットポンテ16、香港に上場するゲット・ナイス・ホールディングスなどから3億4,000万円の資金を調達済みとのこと。ゲット・ナイスのカジノ経験としては、以前マカオのグランドワルドホテル&カジノの65%の株式を保有したことがあり、2013年に446億円でギャラクシー・エンターテインメント・グループに売却した。
エンタメ系に強く、交通インフラ整備や「防災IR」というコンセプトは長崎県民の心をくすぐりそうだが、いかんせんIR運営実績という面で疑問符がつくという関係者は多い。
NIKI CHYAU FWU (PARKVIEW) GROUP
二期倶楽部を源流とする日本のTHE NIKIと台湾のコングロマリット建設・開発企業チャウフー(パークビュー)グループのコンソ ーシアム。”第5の男”として最後の最後に名乗りを挙げた。誘致に成功した場合は、大手のアジアIR事業が運営を担当するとも言われている。
パークビューは北京、シンガポールでMICE、商業施設を開発、運営。日本でも沖縄、北海道のリゾート開発に乗り出し、長崎ではスーパーシティ構想を推進する構え。
ONE KYUSHU
その名に思いを込め、オール九州でのIRを目指す。2020年11月、カジノゲーム機、システム開発、不動産事業を手掛けるピクセルカンパニーズを中心に長崎IRに電撃参戦したように見えるが、実は用意周到に準備していた。
IR業界に精通するTTLリゾーツ、欧州の大手カジノ運営会社であるフランスのパルトゥーシュと提携。IRの建築設計で豊富な経験を持つスティールマン・パートナーズ、IRを専門コンサルティングの2NT8とも手を結んだ。今後も各ジャンルのプロ集団を迎えチーム力を強化する方針。
知名度は高くないが、2020年にオシドリと提携解除したフランスのパルトゥーシュがパートナーになった点は見逃せない。