ニューサウスウェールズ州の元規制当局者で、現在はオーストラリアの法律事務所セネット・アドバイザリー(Senet Advisory)の代表を務めるポール・ニューソン氏は最近クラウン・リゾーツの調査を受け、ゲーミング業界が他の多くの企業よりも過酷な扱いを受けているのはなぜか、と問いかけている。
ニューサウスウェールズ(以下NSW)州のカジノ調査を受け、ビクトリア州ギャンブル規制当局の窮迫は、紛れもなく厳しさを増している。対抗する意見は支持を得られない。結局のところ、陰謀やスキャンダルをネタに出来るなら、熟慮した厳密な分析や反論に注目する理由などそこにはない。
私たちは皆、メディアのレンズがときに欠陥のある物語になったとしても、好まれる物語が優先され誇張されることを理解しているが、その物語の主人公がジェームズ・パッカー氏、クラウン・リゾーツ、ビクトリア州ギャンブル・酒類規制委員会(VCGLR)、またはギャンブル全般である場合には、よりそのように感じる。
クラウンを大々的に悪者扱いし、その過去の取るに足らないとは言えないコーポレート・ガバナンスやマネーロンダリング防止/テロ資金供与対策(AML/CTF)の失敗を扇動的に扱うことは、ビクトリア州規制当局に対する残酷な評価のように、抵抗できないほどに流行っている。
私がこの軽率で熱狂的な話に抱いている問題は、理由のある慎重な観点が欠けていることや、ある見方をすると、他部門における驚くべき失敗と比べて欠点を不誠実に誇張していることを除き、ギャンブルとAML/CTFの法律と規制の取り決めを把握しきれていないということだ。
反マネーロンダリング監視やギャンブル規制に関連する連邦と州の規制や法執行の取り決めと責任をしっかりと理解していることが、共感できる報道の前提条件となるはずである。現れたばかりのカジノと反マネーロンダリング規制の専門家集団は、規制当局とクラウンに疑惑のある不作為や能力不足を反省するよう大急ぎで求め、健全なカジノの監視を補うのに必要な措置を確かに見込んで判決を下している。これらの露骨な声明は話に沿ったものであり、メディアでは誇張されているものの、説得力のある評価や批判にはひどく欠けるものとなっている。
残念なことに、NSW州のギャンブル規制当局の有効性と、唯一のシドニーカジノやより広範囲となる同州のギャンブル部門の運営と実績を検証する代わりに、この調査では犯罪科学の観点と潤沢な資産を、メルボルンとパースを拠点とするカジノの過去の運営やCPHとメルコの株式売却取引に適用して、規制違反と不正行為を調べていたのだ。
やや拍子抜けしたことに、調査報告書では、株式取引と調査を開始した根本的な理由が立証されていないと判断された。しかし、今回の調査では、AUSTRACの専門分野であり存在理由である反マネーロンダリングの遵守に重点を置いたことで、その合理性が損なわれた可能性がある。意図的にマネーロンダリング防止の規制問題に転換した調査は、恐れるべき規制当局としてAUSTRACが得たばかりの評判を裏切るものであり、ウェストパック社に対する13億豪ドルのペナルティーでAMLの失敗を確固たるものにしたか、あるいは現存するAMLの取り決めが不十分であることを世に知らしめたかのどちらかである。
彼らが異なる人種であることを認めつつも、2020年4月にNSW州特別委員会がルビー・プリンセス号で行った調査に関する背景、観点、そしておそらくアプローチの相違を比較するのは有益であろう。ルビー・プリンセス号の調査は、2,650人以上が新型コロナウイルス感染症の検査を受けずにこのクルーズ船を下船したことを受け、開始。なお、この感染拡大で、約1,000人が陽性、28人が死亡している。
ルビー・プリンセス号の調査は効率的に行われ、NSW州保健当局による「深刻」かつ「許しがたく」、「説明のつかない」ミスが発見されたが、限定的な勧告を行い、保健当局はミスを認識しており、再度の機会があれば同じ過ちは犯さないだろうと述べている。
ブレット・ウォーカーSC委員は、ルビー・プリンセス号の報告書に関する特別調査委員会の紹介と概要に関して、次のように述べている。
「まず、委員会は、司法ではなく行政の機能を果たしている。次に、何が間違っていたのか、そして今後はどうすれば回避できるのかを知るために、報告書全体で後知恵が使われている。そのような行為は、裁判所が必須条件を調査することや、合理的な管理基準を達成するための疑惑の失敗を将来的に判断することと、完全であるどころかごく一部しか類似していない」。
分別のある人ならば、この比較を誇張したり、クラウンのコーポレート・ガバナンスやAML/CTFの欠点を軽んじるようなことはやるべきことが膨大なため行わずとも、一致しない点をいくつか特定できるだろう。
規制違反は発生している。実際、金融サービスなど一部の部門では、AMLの不足が常態化しているようだ。確かに、組織は過ちを犯し、規制上の義務や地域社会の期待に応えられなくなることはある。しかし、そのような行為が故意であったり、繰り返されたり継続的であったりすることで悪化するか、組織が難癖をつけて規制の介入に抵抗し、合意済みの是正措置を守ることができない、またはその意思がないと判明した場合には、最も厳しい制裁と結果が発生するはずである。
NSW州独立酒類・ゲーミング局が2020年10月20日に、ディー・ホワイRSLクラブに対しての懲戒告訴に言及したプレスリリースを発表したことは注目すべきだ。この規制当局は、同クラブの営業がギャンブル活動の悪用や乱用を助長し、深刻なギャンブル依存症を無視している可能性が高いと判断した。課せられた制裁は合計10万豪ドルの罰金で、同クラブは当局の調査費用を補填するべく、99,628.05豪ドルの支払いを命じられた。これは、ギャンブル活動の悪用や乱用に関連した被害を最小限に抑え、ギャンブル関連の責任ある行為を育成するという、同州のギャンブル規制枠組みにおける2つの主要目的と相容れない、致命的な調査結果の割りに軽い制裁だと考えられている。また、責任あるギャンブルの義務は、ギャンブル規制枠組みの品位にとって重要で、この義務に対する規制のアプローチと結果が完全に対立していることも明らかとなった。
オーストラリア政府が2017年12月に立ち上げ、2019年初頭に終了した「銀行・年金・金融サービス業界における不正行為に関する王立委員会(FSRC)」を大まかに見てみると、一般会員から金融サービス事業に関して寄せられた苦情は、1万件以上に上っている。FSRCは長年にわたり、多くの金融サービス機関による不正行為を摘発、多くの顧客に多大な損失を与え、関係事業に多大な利益をもたらしてきた。また、その運営はしばしば法律に反しており、そうでなくとも、地域社会の期待を裏切っていたと判断した。これまでに7回の公聴会を開催し、不正行為による個人への被害や、金融サービス業全体の健全性および評判への影響が大きいことを指摘している。
FSRCが明らかにした犯罪の規模やその影響の範囲は、実質的な消費者被害を含め、衝撃的である。NSW州のカジノ調査でAMLおよびコーポレート・ガバナンス関連の不十分さが暴かれたことから、同委員会の任務規模の巨大さと、表面化させた不正行為によ ってもたらされた不幸の範囲を比較する試みには、限られた有用性がある。金融サービスにおける適性の境界については、潜在的な好奇心が残っていると言うにとどめておこう。
また、西オーストラリア州(WA)のゲーミング・賭博委員会(GWC)は今回、同州の競馬・ゲーミング・酒類担当大臣に対し、カジノ規制法1984条(WA)に基づく独自の独立調査機関を設立するよう勧告していることを発表した。王立委員会の権限を持つ別の独立調査が行われた理由については、同州弁護士事務所からの助言に応じるようで、GWCはクラウン・パースに関する調査結果を出す際、同州の法律ではバーギン調査に頼ることはできないとのことである。この状況は、政治的な勢いで続いていくということで間違いないようだクラウン・メルボルンが位置するビクトリア州でも王立委員会設立を発表。
ギャンブルは、オーストラリアの文化的および政治的環境の中で、奇妙な位置を占めている。同国の州および準州政府は、ギャンブル収入から多額の税収を得ており、NSW州政府は2020から21年のギャンブルおよび賭博への課税額が27億豪ドル、2023から24年では30億豪ドルになると予想している。公収入にここまで多額の貢献があったにもかかわらず、あるいはそれが理由なのか、ギャンブル部門は、他のさほど複雑でない産業によくあるような外向きの政治的親密さやメディアとの機会がなく、重要であるものの受け入れがたい利害関係者として受け取られることが一般的である。