ビクトリア州の元ゲーミング規制担当者、ピーター・コーエンが、新規IR開発に一般的に使用される3つの重要な方法論の効果について解説する。
法域が新規IR開発のための提案をアセス(調査・評価)するために使用できる方法はさまざまだ。しかしながら、そのプロセスの中で最も重要なステップは、評価そのものではなく、最初にアセスメントモデルを設定することだ。
設計、技術力、財務力、社会的なセーフガード、そしてその他判断に関連する分野のアセスメント基準を確立する前に、先に決めておくことがある。その評価プロセスはインプット、アウトプット、またはアウトカム(効果・成果)のどれをアセスすべきか?
その違いは?インプットは量を測定するが、おおよそ質は見ない。我々が目にする最も一般的なインプットは、費やされる額だ。例えば、新しい病院を建てるために、政府資金5億米ドルを費やすことは、4億米ドルを使うよりも20%高いように聞こえる。しかしインプットを測ったところで、いくら使用されるかということしか分からず、それが賢く使われるかは教えてくれない。賢く4億米ドルを使うことは、5億米ドルの浪費計画よりも優れた病院を建てることになるというのは十分に納得がいく。
アウトプット測定は、何かがどれくらいのa量を作り出されるかというのを示す。必ずしも、その製品の有用性を教えてくれるわけではない。病院の例を続けると、アウトプットは作られた新しい病室数かもしれないし、その5億米ドルのインプットで資金を賄える治療数であるかもしれない。少なくとも、この測定基準によって、そのお金の投資と引き換えに何が生み出されたかを確認できるようになる。繰り返しになるが、そのようなアウトプットが有用であるかどうかは教えてくれない。
ベストな方法論はアウトカムを特定することだ。上記の例から、望ましいアウトカムというのは、その地域社会の医療の改善度合だろう。アウトカムは時に、定量化するのが難しいというのは事実であり、そしてその理由から、使われないことも多々ある。
また、政治的および広報の理由から、そのような行為の指標としてインプットの数値を使用することで、政府は地域社会の利益を最優先に行動していると人々を説得する方がはるかに容易である場合が多い。詰まるところ、資本プロジェクトに5億ドルを費やすことは、4億ドルよりも良いと有権者を説得する方がはるかに簡単だ。
IRアセスメントモデル
ITに関する決断を下す政府にとって、インプット、アウトプットまたはアウトカムのどれを使うのかという決定はどこでも同じはずだ。
IRに使われたインプットモデルに関してはベトナムに例を見ることが出来る。同国は、カジノライセンス発行を可能にする基準額として20億米ドルの投資を求めている。もし約束の額が届けられない場合、そのライセンスは発行されない。または暫定的に与えられていた場合、一方的に撤回される。選んだ道の下で、ベトナムはIRを手に入れる。しかしこれらのIRが地域に可能な限り最高のアウトカムを届けるということにはならない。
今後のより良い方法についてはビクトリア州が1990年代初頭に最初かつ唯一のライセンスを発行した際のオーストラリアを参考にできる。ビクトリア州は、メルボルンのカジノライセンス入札企業に対して、彼らが希望する基準でゲーミングと非ゲーミングサービスを組み込んだ計画を提案するよう求めた。自分たちが提案したものに対する入札企業の支払い能力以外に、費用は関係なかった。
アセスメント基準は、その提案の予想されるアウトカムに基づいたものだった(ゲーミングと非ゲーミングサービスの範囲、建設の質、設計、その場所にとっての持続可能性、地元のニーズを満たしている等)。このアプローチを補強したのが、MICE施設または宿泊施設の特定の基準や数といった具体的な活動を届ける要件を課すことによって、入札企業を制約しないという決定だった。IRでの活動の組み合わせは、完全に入札企業の裁量に任され、市場の競争がアウトカムを推進した。
落札した企業は、その後州政府と契約を締結することが求められ、それがその落札企業に約束を果たさせる拘束力を持っていた。建設期間中は、州が任命した独立代理人(この場合は建築家だが、大規模商業開発経験を持つ建設業者のこともある)が、進捗状況を見守ることでその州の公益を守った。
その目的は、契約で約束された基準、日程そして節目が確実に守られるようにすることだった。このやり方で、ビクトリア州は、会議や宴会場、3つの異なる客層向けのホテル客室、ナイトクラブ、映画館そして高級レストランからフードコートまでの飲食店などの多くの非ゲーミングサービスを持つ、世界レベル、国際基準のIRという、同州が初めから望んでいたアウトカムを達成した。
ビクトリア州のIR開発の成功は、何か特定のインプットまたはアウトプットよりも、そのアウトカムによって定義づけられた。確実に、この落札事業者はIR施設建設に巨額の資金を費やしたが、それはビクトリアの期待に沿ったアウトカムを届けると約束することで、IR施設を建設するという彼らの選択だった。
日本のアセスメント
今まさに独自のIR実施プロセスに乗り出している日本のような、まだ今後のより良い方法を熟慮している法域にとって、ここに教訓がある。入札候補事業者の一部は、日本でのIR開発に100億米ドル以上を費やすと公に宣言している。同様に、一部の都道府県は、おそらく表面上は一般の人または政治的支援を自分の方に動かすために、このレベルの投資の約束への支持を示唆している。
しかしながらそのような約束は、いずれかの長期的、実用的または持続可能なアセスメントにとってその有用性は限定的であるインプット基準として見られるべきである。100億米ドルの支出は、来場者数、建設の質、提案された非ゲーミングサービスのいずれかの有用性または持続可能性、もしくは開発によって生み出される雇用の数への影響についてなにか示しているのか?答えはノーだ!
それでもなお、書面上、日本は正しい方向へ向かっている。IR整備のための基本方針案は、アウトカム主導型方針の素晴らしい例だ。全体を通じて求められるアウトカムを明記している。例えば、評価基準案の<ウ>の項において、同案は「IR区域の整備について、地域における十分な合意形成がなされており、IR事業が長期的かつ安定的に継続していくために不可欠な地域における良好な関係が構築されていることが求められる」としている。
この目標は日本特有のものではない。メルボルンからマカオまで、多くの法域で追及されてきた。例えば、マカオのギャラクシーエンターテインメントグループ(GEG)のカジノは、地元の中小企業のためのプログラムを開発してきた。GEGのブロードウェイ施設の外に立ち並ぶ活気ある個々レストランや飲食店は、コミュニティ内にIRを加えることによって、地元の小規模事業者にどれだけの恩恵があったかを示している。
今、日本および正式な事業者公募に乗り出す都道府県にとって重要なことは、そのアセスメントプロセスが、基本方針で示されている方向性に密接に沿っていなければならないということだ。各提案は、日本を世界に向けて発信する、そしてそれによって日本の経済を強化する中で彼らが提供するアウトカムに関して評価されるべきだ。これは、MICE業界の強化、地元の中小企業がIRへのサプライヤーになる支援、質の高い新たな雇用を大量に創出する(同時に事業者が、特に地元住民により長期的なキャリアの可能性の道筋を与えるという確約も求めながら)、そしてIRおよび国全体に多くの観光客を惹き付けることを通じて可能である。その際、予想税収と経済的インパクトのアセスメントを実施・測定することができる。
最後に、見逃してはならないのが、彼らが危害最小化を含むIR業務の全ての側面において従業員に研修を提供することに対するコミットメント、そしてその過去の経験を検討すべきだということだ。
新型コロナが国間の移動にこれほどまで大きな影響を与えていることで、IRの入札企業には、その提案の中に、健康とウェルネスへの強い決意、そしてパンデミックとの闘いにおいて相対的に成功を収める国の安全な環境として日本が世界から羨まれている評判を最大化するプログラムを組み込むチャンスもある。
ソーシャル・セーフガードの提案はアウトカムの観点からもアセス可能だ。入札業者は、ギャンブルからの危害を最小化するため、自己排除、従業員研修、最先端のテクノロジーツール、そしてカウンセリング支援など、実施する予定のシステムと管理を説明できるようにしておかなければならない。彼らには、すでに営業している法域でのこれらアプローチのアウトカムを、自社の経験から示すことが期待されるべきだ。これが、日本でその後、どのようなアウトカムが妥当である可能性があるかに関して自信を与えてくれる。
アウトカムベースの枠組みを構築することで、法域側は物理的および業務上の基準の維持に関して、IRライセンシーとの契約に拘束的コミットメントを組み込むことができる。そのような契約がなければ、事業者はより大きな利益を生み出すゲーミングサービスに設備投資を集中させ、施設の非ゲーミング部分はすぐに廃れてしまう可能性がある。基本方針案は、ライセンシーには開業後、営業利益の一部をIR施設の継続的な改善へと再投資することを求められており、完成した最初の建物は、それ自体では十分でないことを明確に述べている。
これはまた、入札業者が財政的に十分盤石であり、債務返済のために利益を本国に戻すことが、日本のIRの現在のスタンダードを損なうことがないという場合に成功の可能性がより高くなるという見込みも示唆している。
成功を定義する
IRの成功には多くの定義があるかもしれない。全体として地域社会に恩恵を与えるアウトカム、というのがおそらくベストな定義だろう。マカオで見られるように、地元コミュニティは、元植民地を新たなIRに開くことによる大きな受益者となっている。例えば、GEGは期待を上回るアウトカムを生み出す多くのIRを開発してきた。それらの施設は質の高い基準で建設・運営され、継続的な改善によって確実に世界のライバルたちに匹敵、またはその上を行っている。
彼らは、様々な非ゲーミングサービスを提供しており、それによって本当の意味で家族連れに優しい施設となっている。そして地元中小企業に対しては、チャンスを与えるためのプログラムを開発してきた。物理的な建物に加えて、GEGは危害最小化活動など、ソーシャル・セーフガードの実施でもマカオをリードしている。
GEGは、ゲーミングに支配された地域から、安全かつ近代的な環境で、家族連れに喜ばれるレジャーを提供する場所、コミュニティ全体がその成功を分かち合える場所に変わったマカオの近代化に、大いに貢献してきた。