世界最大級のIR事業者各社が日本版IR参入競争で力を誇示している。そんな中、日本を代表する総合エンターテイメント企業「セガサミー」が横浜IRへの参入を正式表明した。日本企業が運営主体として参入するのは初めて。果たして、その勝算は?
第1回横浜統合型リゾート産業展」が1月29、30日にパシフィコ横浜で開催され、セガサミーが初めてIR開発の提案を紹介した。その中にはアーティストによる予想図と英国の建築事務所「フォスター+パートナーズ」との提携についての詳細が含まれた。
ラスベガス・サンズ、メルコリゾーツ、ウィン・リゾーツ等の各社が日本IRにおける独自のキーフィーチャーを紹介した後に、日本事業者が大々的にビジョンを紹介したことは必然的に注目を集めた。
これまで日本企業ではオリックスが米IR大手MGMリゾーツ・インターナショナルと提携して大阪IRの参入を目指しているが、オペレーターとしては初めて。セガサミーホールディングス・里見治紀社長の講演では定員をはるかにオーバーし、立ち見が出るほどだった。
横浜のいま、IR誘致は必然か
その中で颯爽と登壇した里見氏は横浜のいまを報告。観光客の滞在時間「4時間」、日帰り率「85%」、人口「374万人」といった数字を列挙し、現状に鋭く切り込んだ。
「横浜アリーナでコンサートを見て、中華街で食事して、みなとみらいのモールをのぞいて帰ってしまう」
人口についても国内の市としては最多とはいえ、超少子高齢化ですでに減少傾向にあり、決して強みとは言えない。2027年には財政赤字が660億円になると予想されており、税収減も含め、こうした課題の多くは横浜IRの必要性を説くものだ。
里見氏は横浜IRが稼働した場合に「年間2,000万人の来場者、2万人の雇用、税収800億円」との試算を発表した。
セガサミーの実績と今後の戦略
セガサミーの明らかな不利なところは、大規模高級カジノリゾ ートの開発事業ではライバルほどの経験がないところだ。例えば、世界で2番目に大きいホテル「ザ・ベネチアン・ラスベガス」や世界7位の広さを誇る施設「ザ・ベネチアン・マカオ」、あるいは世界で最も収益性の高いカジノと観光地として知られるシンガポールの「マリーナベイ・サンズ」を運営するラスベガス・サンズと果たして競争できるのか?
しかし、周知の通りすでに、セガサミーはオペレーターとしての実績も積み上げている。日本でIR推進法が成立した2016年12月の4年半前の2012年7月から韓国・仁川(インチョン)で韓国企業「パラダイスグループ」と組み、北東アジア初のIR「パラダイスシティ」を共同経営。セガサミーが45%を保有しており、2017年に営業を開始して以降、一定以上の成果を上げている。
もちろん、統合型リゾートの開発、営業に取り組んで来た自信は大きく、里見氏は「現場経験が豊富な日本人による運営で、横浜IRを世界の観光客から選ばれる滞在型目的地にしたい」とも話し、韓国で培ったノウハウを生かし、日本のVIPや韓国の富裕層を取り込む考えだ。
敵を知り、己を知らば百戦危うからず、という孫子の兵法よろしく、勝利への戦略、戦術も整えつつある。
里見氏は成功へのカギとして「日本市場の現実を熟知した事業計画」「安心・安全を担保した運営計画」「日本文化の発信と、環境負荷を考慮した開発計画」を挙げた。
これらに沿って、この1月からは次々と人目を引くプランを発表し、横浜での希望をともした。そのひとつが大阪のユニバーサル・スタジオ・ジャパンを劇的なまでにV字回復させた森岡毅氏が率いるマーケティンググループ「刀」と業務提携したことだ。セガサミーではこれを「勝つべくして勝つ構造を盛り込んだ事業計画の肝」とし、数字に裏付けされたロジックで勝利を目指す。
また、呼び物となる建物のデザインでは環境に配慮した建造物としても世界的に知られる英国の建築事務所「フォスター+パートナーズ」とも提携。同社はこれまで大英博物館グレートコート、ベルリンの国会議事堂、米アップル本社など、数々の建築物を手掛けてきた。今回のイベントでは完成予想図に当たるパースを展示している。
京都吉兆ともコラボ
もうひとつ、見逃せなかったのが老舗料亭「京都吉兆」ともコラボする点だ。京都吉兆と言えば、11年連続でミシュランの三つ星に選ばれており、徳岡邦夫総料理長は「料理も時代とともに進化しないといけません。IRは日本料理、日本文化を広めるいい機会」と話し、横浜IR内に本格的な料亭旅館を開発するという。里見氏は「東京は世界で最もミシュランの星の多い都市ですが、横浜にはいくつあるでしょう?5つ星ホテルもありません」と指摘した。
もちろん、引き続き文化、芸術、エンタメにも貢献していく考え。里見氏は「環境を軸に経済や文化・芸術による新しい価値・賑わいを創出し続ける都市を実現する」と決意を語った。
横浜にはIR大手各事業社が参入を表明しているが、相手にとって不足なし。果たして、日本企業のセガサミーがジャイアントキリングできるのだろうか。