日本版IRのMICEは後発のアドバンテージを生かし、現在あるMICE施設を十分に参考にしながら、最新鋭のテクノロジーを駆使したものを創ることができる。
今まで、ギャンブル依存症など、デメリットが話題に上がることもまま見受けられたが、ここ最近はIRに伴うメリットとしてMICE産業の話題が加速して きている。
IRの開業でMICEは新時代へ
MICE施設は世界的に分布し、MICE産業の年平均成長率(2017年 〜2023年)は+7.5%との試算もある。2016年に7,520億米ドルだった市場規模が、2023年には1兆2,450億米ドルにまで膨らむ計算だ。
巨大な展示会場の建設も年々進み、10万㎡以上の広さがある会場が世界で「72」を数えるほど(2019年3月現在)。残念ながら、日本の施設はこの数字に入っておらず、国内最大の東京ビッグサイトでも約9万5,000㎡にとどまる(今年7月には2万㎡の南展示棟が追加開業する)。
そこで政府は日本版IRの開業要件として、MICEの設置を定めた。しかも、そのスケール基準は戦略的。「極めて大規模」な国際会議場は最大会議室の収容人数が6,000人以上と規定。現在、日本で最大の東京国際フォーラムとパシフィコ横浜が5,000人規模だ。
また、「極めて大規模」な展示会場は12万㎡以上とされており、現行最大の東京ビッグサイトの9万5,000㎡を大きく上回る。
日本版IRを構成するMICEは、これまでに例を見ないほど巨大なスケールになる。当然、世界に通用する競争力が期待されよう。MICE新時代の到来--そう言っても過言ではないだろう。
最先端のMICEを実現するヒント
日本版IRを構成するMICEが、巨大なものになることは分かった。では、その中身はどんなものになるのか?どんな特長があるのか?そのヒントが得られる勉強会が、去る3月に一般社団法人・日本IR協会の主催で開かれた。

IRの開発戦略事業コンサルティング会社、マレー・インターナショナル代表のナイル・マレー氏は、「まず3カ所からのスタートは最善の策。大都市、その近郊、そして地方都市に分かれれば理想的かな。長い目で見て、いいテストになるでしょう。
むろん、それぞれのMICEの規模は違って当然。ドイツには10万㎡以上の展示会場が10カ所もあります。将来、日本でも拡大していくはずです」と、日本版IRの可能性を示した。
パラダイムシフトが起きる
米大手のIRオペレーター、シーザーズ・エンタテインメントからは4人のMICE専門家チームが招かれた。
「MICEを中心にパラダイムシフトが起きるでしょう。

まずは周辺のホテル。MICE参加者がアクセスしやすい近場に、3,000室規模のホテルが3つあったっていい」
こう話すのはマイク・マッサーリ最高営業責任者だ。現在、日本にあるホテルで客室数3,000室を超えるのは東京の品川プリンスホテルのみ。
加えてマッサーリ氏は、「IRにMICEのようなビジネス目的で来る人は、観光目的の客層より明らかに滞在中の支出額が多い、というデータがありますよ」と。MICEによる経済効果の大きさを示した。
スティーブ・ヴァン・ダー・モーレンVPは、「MICEにはこれだけ多くの人が集まる。事前にエコシステムを確立させることが重要です。
我々はアトランティックシティの新たなMICE(2015年開業)でそれに成功しています」と述べた。
このシステムについては、政府・自治体と強い連携を保ちながら実現された。
キャンパスタイプのIR
「Google社のテックキャンパスをご存知かと思います。オフィスを中心にいろいろなエンターテインメントやアクティビティが備わっている。IR施設も同じです。1つの場所で多くの体験ができて、それぞれのアクセスがいい。『キャンパスタイプ』のIR、大きな魅力だと思います」
シーザーズ・フォーラムは5万1,000㎡の会議スペースを擁し、世界最大規模=1万㎡の大会議場を2場備える。最新のハイテク技術によって仕切りを制御し、広大なスペースを様々なサイズの小会議室にレイアウト変更できる(1,000パターン以上)という。さらに、ラスベガスのストリ ップ大通りから徒歩圏内とアクセスも抜群だ。
日本版IRのMICEは後発のアドバンテージを生かし、現在あるMICE施設を十分に参考にしながら、最新鋭のテクノロジーを駆使したものを創ることができる。
まさしく〝世界最高水準〟の、オリジナリティーあふれるMICEを期待したい。
エキスパートに聞く: 日本が目指す 新時代のMICE
MICEって、いったい何だ?そしてなぜ、IRの中核に据えられるほど親和性があるのか?さっそく、日本政府観光局(JNTO)のMICEプロモーション部長・川﨑悦子氏にレクチャーを受けた。 昨年、北米の有力な MICE 業界専門誌『Successful Meetings』で、「ミーテ ィング産業において最も影響力のある25名 2018」に、日本人として初めて選出された。
IAG: よろしくお願いします。はじめにMICEの定義から解説をお願いします。
川﨑悦子部長:企業主体の会議(Meeting)、同じく企業などが行う報奨・研修旅行(Incentive)、国際機関・団体、学会などが行う国際会議 (Convention)、展示会・見本市、イベント(Exhibition/Event)の頭文字を使った造語です。4つのカテゴリーは全く違うものですが、企業や団体が目的を持って行き先を決めるのが共通点。そこでこれらのビジネスイベントを総称してMICEと呼んでいるのです。
IAG: 世界のMICE市場の現状は?
EK:国際会議に限って言えば、2017年に日本で開催された会議は414。国別の開催件数では第7位で、アジアでは1位です。ただし、中国や韓国などアジア地域の追い上げが急で、1990年代には日本が約 50%を占めていたシェアが、近年は30%程度に低下しています。
IAG:競争が激化している、というわけですね。
EK:はい。2013年に出された『日本再興戦略』の中では、「2030年までアジアNO.1を続け、国際会議開催国としての不動の地位を築く」という目標が掲げられています。
IAG: その競争で戦い抜く日本のセールスポイントは?
EK:日本のMICEには4つの強みがあります。1つめは独自の文化、ホスピタリティ。多くの外国人の方に、日本の温かみを感じていただいていますね。2つめは安心できること。治安の良さと清潔さです。3つめは世界をリードする知識、人材といった知的財産が集積していることでしょう。4つめが日本人は質の高いサービスを提供できることです。例えば、交通インフラの正確性。予定通り、というのが、MICEでのイベントをコ ーディネートするときには重要なことなのです。
IAG: 日本の地方都市では特色のあるMICEが開催されていると聞いたことがあります。
EK:ユニーク・ヴェニューのことですね。 例えば山形では酒と温泉に触れるMICEが開かれています。京都・二条城では庭で会議関係者によるバンケット(晩さん会)が用意されました。昨年5月には、宮崎神宮で参道を開放して、1,000人規模の学術会議のレセプションパーティ ーが行われました。
IAG: 海外の方には「非日常」が味わえる場所ですね。
EK:その通りです。会議の参加者の皆さんにONからOFFへ切り換えてもらえる。開放感のある場所でリラックスできれば、お互いのいい関係が深まる効果が期待できます。
IAG:それでは理想のMICEのイメージを。
EK:まずは日本らしさを感じていただけるものですね。地方都市なら、その地域ならではの文化遺産や特色もあります。
海外のリゾートにあるMICEは、エンターテインメントを含め1カ所ですべてが完結します。それはそれで便利ですが、MICE施設がハブになって、そこに集まった人が夜、ご飯を食べに行った折に、地元のコミュニテ ィに触れ合ったり、その地域の歴史を感じてもらったり--日本にはそ
んなものがあってもいいと考えています。