長崎県のIR事業者選考レースに3者が残った。IAGがその3者を比較し、どの事業者が本命か、主観的な判定を下す。
2020年は新型コロナの影響を受け、日本の統合型リゾートレースは停滞気味だったが、2021年になり、そのレースが熱気を帯びてきた。

最大3か所となるIR整備地の1つに選ばれることに正式に関心を表明している4候補地のうちの1つが長崎県だ。その正式な選定事業者になるための道のりはほぼ間違いなく最も競争が激しい。大阪のMGM、そしてクレアベスト率いる和歌山のコンソーシアムの両方が「最後まで生き残った」状況を享受し、横浜ではゲンティン・シンガポール対メルコリゾ ーツという直接対決ではあるが、8月22日の市長選が彼らの望まぬ方向に向かった場合、どちらも栄冠を手にすることはないという状況だ。そんな中、IR業界のコメンテーター達が今熱視線を送るのが長崎である。
今年1月7日にRFP(事業者公募)プロセスを開始した後、長崎は参加登録申請した事業者5者を、3月の1次審査で3者にまで絞り込んだ。現時点では勝者の発表は8月末頃に予定されている。
日本全土で間違いなくより魅力的な候補地が手をあげたり引っ込めたりする中、長崎県は長年、一貫して、そして精力的にIR候補地として自県を売り込んできた。IR用地は、長い歴史を持つハウステンボスで、佐世保市の中心部から車で南に20分程の場所にある。大村湾に位置し、オランダ王室の宮殿など、オランダの建物が立ち並ぶこのテーマパークは1992年に開業した。初期の頃は人気を博したがその後の2000年代に経営難に陥り、最終的には2010年に旅行代理店のHISに買収された。HISはその後、施設開発に約20億円を投じた。ハウステンボスに関する詳細は、当社の上村記者が執筆した今月号の別の記事を参照いただきたい。

先月、HISは国内・海外観光が新型コロナの世界的感染拡大の壊滅的な打撃を受けたことで、ハウステンボスが2021年3月期に2億円の赤字に陥ったことを発表した。長崎はIR計画について、ハウステンボスだけでなく、佐世保市、長崎県、そして九州全体を再活性化するチャンスとして歓迎している。九州地方知事会が長年この計画を支持してきたために、長崎IRは、九州7県と沖縄県および山口県の知事で構成される九州地方知事会、そして九州経団連、九州商工会議所連合会、九州経済同友会そして九州経営者協会といったこの地方全体からの支援を受けている。
2021年4月12日、麻生泰氏が会長を勤める九州IR推進協議会の発足によって、この地方の支持がさらに明確になった。親族に皇族や政治家を持つ由緒ある一族出身の麻生氏。兄は2012年以降副首相や財務大臣を務め、2008年9月から2009年9月までは内閣総理大臣を務めた麻生太郎氏だ。
メイバンク・キム・エン投資銀行のアソシエイト・ディレクターであるサミュエル・イン・シャオ・ヤン氏は最近、長崎IRは年間約15億米ドル(1600億円)というゲーミング粗収益(GGR)を目にすることになると予想した。これは年間数百億円の純利益と同等であるはずだ。
では、最終選考に残った3者の事業者中で、この輝かしい賞金を手にする可能性が最も高いのは?ここからその3者を詳しく見ていこう。
カジノオーストリアは長崎でのIRに長年関心を表明してきた。80年以上前にオーストリアで創業した同社は、オーストリア政府が政府系ファンドを通じて3分の1を所有している。同社はオーストリア国内にある12のカジノなど、カジノ、くじ、そしてオンラインベッティングを所有・運営するが、それぞれ平均でテーブル約20台とスロットマシン約200台という小規模施設だ。海外事業はさらに小規模で、オーストラリアのケアンズにあるリ ーフカジノには約40台のテーブルが設置されているものの、オーストリア以外にある13のカジノにはそれぞれ平均でテーブル10台以下、スロット120台以下しか設置されていない。同社は、過去45年間に25の国で70以上のカジノを売買してきた。この数字はIAGが直接同社から入手した。
THE NIKIはかつて、栃木県の那須で豊富な自然に囲まれた二期リゾートを運営し、2017年に31年の歴史に幕を閉じた二期倶楽部を源流とする企業。同社のパートナーであるチャウフー (パークビュー) グループは、1950年に台湾で創業した建設・開発会社を起源とするコングロマリット企業。同グループは、北京やシンガポールといったアジアの主要都市でMICE、商業施設およびオフィスビルの開発・運営を主に行っている。このパートナーシップはまだ、事業者パートナーを正式発表していない。IR業界で全く無名のTHE NIKIは、業界が認める名前と共にIR進出の取り組みを強化するため、有名事業者パートナーを心から求めている。
オシドリ・インターナショナル・ディベロップメントは、長崎プロジェクトに入札するためだけに設立された企業で、香港証券取引所に上場する金融サービス会社で親会社のオシドリ・インターナショナル・ホールディングスがバックについている。その最も偉大な資産というのが、何十年もの業界経験を持つ元MGMリゾーツの主要幹部をラスベガスから雇用したこと、そしてコネチカットでモヒガンサンという統合型リゾートを長年運営するモヒガン・ゲーミング&エンターテイメント(MGE)を事業者パートナーとして発表していることだ。テーブル約300台、スロットマシン5,000台そして1,500の客室を持つモヒガンサンは、まぎれもなく本物の統合型リゾートだ。MGEは最近、ラスベガスのヴァージン・ホテルズに新施設をオープンし、韓国では16億米ドル(1,770億円)をかけて統合型リゾート「インスパイア」も開発している。
これら3者の候補者たちについて下す我々の判定を裏付けるために、IAGは各社に以下の6つの質問を送付した。
一 IR実績
IR開発・運営の以下4つの段階のいずれかにおいて貴社または貴社上級幹部が関与したことのあるIRの名称をあげてください。(1) 設計 (2) 建設 (3) 開業 (4) 経営
二 財政的能力
長崎IR建設の設備投資にいくらまで支出する予定ですか?この額はすでに調達済みまたは約束されていますか?その場合、資金源は?そうでない場合、どのように資金調達する予定ですか?
三 MICE経験
貴社または上級幹部のMICE関連の経験を記載してください。
四 誠実性
もしあれば)どの法域において、貴社または上級幹部はゲーミング規制機関による審査または誠実性調査プロセスをクリアしましたか?
五 事業者パートナー
事業者パートナーはどこですか?その事業者パートナーを選んだ理由は?貴社の事業者パートナーは、長崎で役立つと思われるどのような経験を持っていますか?事業者パートナーに関するコメントを自由に記載してください。
六 地域社会
これまでに地域社会に溶け込むため、そしてその役に立つためにしてきたことは?
カジノオーストリア
3者の中で、カジノオーストリアだけが、我々の質問のいずれにも具体的に回答しないことを選んだ。しかしながら、IAGに対してオーストリアおよび海外での活動に関する一般的な情報は送ってくれた。

カジノオーストリア・インターナショナル・ジャパンのCEOを務めるのは、再生医療治療の研究を行うTESホールディングスを所有する林明男氏。同氏はオーストリア・ウィーン市から「ウィ ーン市 金の功労勲章」を授与されており、ウィーン少年合唱団と共に慈善活動を行ってきた。配偶者は演歌歌手の小林幸子氏。IAGは昨年7月に林氏にインタビューを行っている。
IR実績
業界のベテランで、ラスベガスからマカオまで数十年にわたる経験を持つナイル・マレー氏は、ブティック系コンサルティングファーム、マレー・インターナショナルの会長としての立場で日本に特に熱心な関心を寄せている。
同氏は「カジノオーストリアは小型のヨーロッパ式カジノ運営では確固たる評価を受けている。しかしながら、大規模統合型リゾートの設計、開発、運営においては経験がない」と話す。
同社の既存事業の中で、おそらくIRに最も近いのがオーストラリアのケアンズにあるリーフカジノだが、この施設にあるのはテーブル約40台、スロット500台そして客室127室のみだ。2020年度財務報告書によると、リーフ施設の現在の時価総額は1億200万ドル(110億円)で、それは、多くのコメンテーターたちが長崎に投資されるだろうと予想している額の3%に過ぎない。カジノオーストリア・インターナショナルは、世界11か国にある25のカジノで300台のテーブルを運営していると主張するが、テーブル300台のフロアというのは、マカオやラスベガスにある大型IRのわずか1軒分の規模だ。
財政的能力
カジノオーストリア・インターナショナルから提供された数字によると、1977年にオーストリア国外で事業を開始して以来の総ゲーミング収益は2億4,000万ユーロ(320億円)。貸借対照表を見ると、カジノオーストリアグループ全体の総資本は約4億ユ ーロ(520億円)で、カジノオーストリア・インターナショナルは約7,000万ユーロ(92億円)。長崎の概算投資額として多くのアナリストたちが言う3,500億円には大きく届かない。もちろん、カジノオーストリアはほぼ確実にコンソーシアムを組成する予定で、融資による資金調達もあるだろうが、それでもなおカジノオーストリアが埋めなければならない不足分は非常に巨額だ。
マレー氏は言う。「カジノオーストリアはIR業界では超大型プレイヤーではなく、極めて巨額の軍資金へのアクセスはない。しかしながら、同社には資金調達に関して有利に働く要因が多数ある。例えば、取締役のベッティーナ・グラッツ=クレムズナー氏とマーティン・スコペック氏には非常に強力なバンキングおよび金融のバックグラウンドを持つ。資金調達は容易ではないだろうが、彼らには確固たる評判があり、オーストリア政府そして主要株主のBankhaus Schelhammer & Schatteraがバックについていることで、実行できる可能性はある。
MICE経験
カジノオーストリアはヨーロッパでおよそ2,000㎡の広さ、そしてオーストラリアでおよそ1,500㎡の広さのイベントスペースを運営する。長崎県は6,000人収容、広さ2万㎡の展示会・会議スペースを求めており、カジノオーストリアが必須の経験を持っていると見るのは難しい。マレー氏も同意する。カジノオーストリアには、長崎県が求める大規模MICEに関する専門知識、経験または実績はない。これまでにサンズ・チャイナやMGMといったトップIR事業者のレベルや規模でMICE施設を開発または運営したことはない。MICEに関する長崎県の希望に沿うためには、高レベルの経験を持つMICE経営陣を雇い入れるか、またはコンソーシアムに大規模MICE事業者を加えるかのどちらかが必要になる。
誠実性
世界十数か国で何十年も事業を行なってきたことで、カジノオーストリアの上級幹部は終わりのない誠実性検査に耐えてきたと思うだろう。カジノオーストリアの3分の1を所有するのが、Österreichische Beteiligungs AG(日本語では『オーストリアホールディングス』)の頭文字をとったÖBAGというオーストリア政府系ファンドだ。しかし、この政府系機関さえも、カジノオーストリアが長年コンプライアンス違反とは無縁だということをこれまで保証してきていない。簡単なグーグル検索をすると、カジノオーストリアがいつの間にかギャンブル依存症に関連するものなど、様々な疑惑から裁判に巻き込まれてるケースがいくつか見つかるだろう。
例えば、カジノオーストリアで2019年3月から12月までCFOを務めたピーター・シドロ氏は、カジノオーストリアに対して不当解雇をめぐり230万ユーロ(3億円)の訴訟を提起した。「カジノオーストリアの同役職には完全に能力不足」で、「全体的な責務不履行」と「カジノオーストリアの評判を著しく傷つけた」ことによって解雇されたと言われるシドロ氏は、伝えられるところによると、同国の元副首相で極右派のハインツ=クリスティアン・シュトラッヘ氏、そしてある段階においてカジノオーストリアの約17%を保有していたオーストリアの非公開会社でゲーミング大手のノボマティックが関わる政治スキャンダルに関与したという。その後ノボマティックはカジノオーストリアへの持株を手放し、シュトラッヘ氏は辞任している。
事業者パートナー
カジノオーストリアがゲーミング事業者であることを考えると、カジノ運営については自社で行うだろうと予想される。そこでさらに興味をそそる疑問というのが、日本または他国のどの企業と手を組むのかというものだ。資金へのアクセス、そして能力の隙間を埋め、日本の地元のノウハウや人脈にアクセスするためのコンソーシアムパートナーが必要になるだろう。
「カジノオーストリア は 、日 本 の 建 設 、交 通 、観 光 、警備、MICEの大手企業、銀行および金融機関で構成されるコンソ ーシアムを組成する必要があるだろう」。
続けてマレー氏は言う。「佐世保でのIR開発、そして日本の難しい事業環境および文化規範や期待をうまく乗り切るためには、陣営にこういった企業を入れる必要がある」。
カジノオーストリアがかなりの数のコンソーシアムパートナ ー無しで長崎IRを実行するのは不可能であるようだ。しかしながら、カジノオーストリアは長年、長崎に関心を示しているにもかかわらず、まだいずれのパートナーも発表していない。
地域社会への貢献
まだカジノオーストリアが外に出て長崎の地元のコミュニテ ィと関わっているところは見たことがないために、ここで何らかの結論を導くのは難しい。マレー氏は、祖国であるオーストリアでのCSR活動については言及している。
「カジノオーストリアは、全ての事業部門及び管理部門において、地域社会との関係、企業の社会的責任そして持続可能性戦略に真摯に向き合っており、その点では確固たる評判を確立している。トップはCSRフォーラムを通じてそれらの取り組みを率いており、全ての主要な雇用契約にCSR条項が盛り込まれている。
カジノオーストリアはこれまでに大規模な、または重要なコミュニティエンゲージメント活動は行っていないものの、彼らは、ベストプラクティスを実行して地元の社会にとって利益となる、適切なマナーで事業を行うことができると思う。カジノオーストリアは通常、非常に戦略的で包括的かつ計算され管理されたやり方で地域社会との関りを実施している。
結論
カジノオーストリアに関する最大のファクターは以下の通り。
- 数百台のテーブル、数千台のスロットマシンそして千を超える客室、10以上のレストランそして約10万㎡以上の主要国際的なMICE施設を持つ大規模統合型リゾートの運営経験不足。
- コンソーシアムパートナーの名を挙げることに消極的。それによって、パートナーはいるのか?という疑問が生じている。
- 財政に関して大きな疑問符。資金はどこから?
ザ ニキ
我々からの質問に対するTHE NIKIの回答をありのままに紹介する。 (※英語で回答されたものをIAGが翻訳。英語版は原文のママ)
IR実績
「当社のコンソーシアムはこの分野で最も豊富な経験を持つプロ達と組成しています。企業及び幹部たちは世界トップ5に入るゲーミング事業者のいずれかで仕事をした経験を有しています。これには、ラスベガス、シンガポール、マカオ、オーストラリア、フィリピンそしてヨーロッパで最も大きなIRの設計、建設、開業そして運営が含まれます」。
財政的能力
「予定投資額はおよそ3,500億円。資本は、コンソーシアムメンバーと国際金融機関によって調達されていますが、機密保持の理由からまだ名前は明かすことができません。借入金融については、投資銀行、コンソーシアムパートナーおよび日本国内の銀行グループを含む投資家からの資金調達を予定しています」。
MICE経験
「当社は多くの法域においてMICEイベントを運営した経験を持ち、当社のMICE幹部達は、アジアトップ3に入る国際的なMICE地の1つを創造し、開発し運営することに関わってきました。その中には大規模国際展示会から小規模でより濃い内容のミーティング、世界最大手企業の大規模会議や世界でライブ配信される主要イベントなどのM(Meeting:会議)、I(Incentive tour:報奨・招待旅行)、C(Conference:大会・学会・国際会議)そしてE(Exhibition:展示会)の全ての要素が含まれます。

長崎での事業は規模においては小さいですが、当社の経験と国際的なコネクションを、この地方のために活用し、MICE客とその消費をリゾートへともたらします。他に重要な点として、当社はコロナ後に世界配信できるスタジオなどが入る施設を設計した経験や、これまではMICE活動が少なくなる時期に様々な目的で使用できる柔軟な施設を計画した経験を持っています」。
誠実性
「パートナーおよび幹部は、豪首都圏、豪ビクトリア州、加ブリティッシュコロンビア州、マカオ、フィリピン、シンガポール、米アリゾナ州、米コロラド州、米ルイジアナ州、米ミッソーリ州、米ネバダ州、米ニュージャージー州、米インディアンカジノ、米ウェストバージニア州、米ワシントン州など多くのゲーミング法域で厳しい審査を受けてきました。また、EUの多くの法域でも審査された経験があります」。
事業者パートナー
「世界トップ5に入る事業者の1つを選んでおり、IRの設計、開発および運営において豊富な専門知識を提供してくれます。この事業者はまた、プロジェクトの成功、そして地域社会に貢献する大規模かつ質の高い観光を呼び込むということにおいても多くの知識を提供してくれます。彼らのIRおよび安全システムは、セールス、ゲストリレーションズおよびロイヤリティ同様、他に劣りません。長崎で事業を行うには、アジアや世界のプレミアム客を呼び込み、彼らがまだ馴染みがない場所を発掘し、楽しみ、戻ってくるようにするための独特のスキルが求められます」。

地域社会への貢献
「このプロジェクトに取り組み始めてから長い時間が経っており、その間に地元企業やコミュニティパートナーと強固な関係を築いてきました。IR用地は唯一無二であり、魅力ある既存の観光名所を持つエリアに組み込まれることになります。当社のIRは相乗効果の中で設計されており、競合するようなものではありません。これは、この地方を再活性させ、この地方のためにプロジェクト全体を成功させるために、IR周辺の既存施設の各々に重要な役割をはたしてもらう機会です。当社は、地元で、またはその地方の中小企業から物資等を購入することを重視しており、地域社会もその中に組み込まれることになります。IR自体の中でも、飲食から小売、エンターテイメントまで地元企業に特別な場所を提供する予定です。最後に、当社は地元パートナーをまとめ、コンソーシアムに参加できるようにしています。当社のIRは、規模は全国および世界的なものでありますが、この地方のために、そして地方と共にデザインされたプロジェクトになります」。
結論
大規模統合型リゾートの運営には、企業が何年も、時には何十年もかけてしか手に入れることができない高度かつ専門的な一連のスキルが求められる。長崎は、その長所が自然いっぱいのリゾート、または建設というような2者にまかせるというリスクを負う余裕はない。THE NIKIが、この活動を強化するために広範囲に及ぶ経験を持つ世界的IR企業を心から求めているのは明らかだ。日本への明らかな関心と、世界のIR分野において主要プレイヤーであるという立ち位置を考えると、メルコのような企業が非常にしっくりくる。そしてこのアイデアは複数のコメンテーターが口にしている。
長崎の選定プロセスでは、5%以上の出資を行う予定者は、本公募以外の他の特定複合観光施設区域にかかる民間事業者選定手続きに参加することはできないということが規定されており、メルコの現在の焦点は明らかに横浜(もし参戦すれば東京すらもあり得る)であるが、日本のIRプロセスについて我々が学んできたことの1つが、どんなことでも起こり得るというものだ。
オシドリ
ここでも、オシドリの回答をありのままに紹介する。(※英語で回答されたものをIAGが翻訳。英語版は原文のママ)
IR実績
「当社チームはIR分野において豊富な経験を持ち、世界各国で52のIRの設計、開発、開業そして運営に携わってきました。
例としては以下に挙げるような主要IRになります。MGMグランド(ラスベガス)、 MGMグランド(Detroit)、 ベラージオ(ラスベガス)、ミラージュ(ラスベガス)、 マンダレイベイ(ラスベガス)、 マリーナベイ・サンズ(シンガポール)、 シティー オブ ドリームス(カオ)、 ベネチアン(マカオ)、ウィン(マカオ)、 ウィン・パレス( タイ)、 ボルガタ(アトランティックシティ)、 トロピカーナ(ラスベガス)、 ボー リヴァージュ(ミシシッピ)、 モヒガンサン(コネチカット)、 カジノナイアガラ(ナイアガラフォールズ)、 フォールズ・ビュー (ナイアガラフォールズ)、ヴァージン・ホテルズ(ラスベガス)、 アリア(ラスベガス)、 MGM (マカオ)そしてギャラクシー (マカオ)」。
財政的能力
「現在予定しているプロジェクト予算は4,800億円。当社はすでに4,600億円という額の取り消し不能な書面によるエクイティ・コミットメントを取り付けており、プロジェクト用に1,850億円を確実に調達できるだろうという見解が書かれた主要投資銀行からのレターを受け取る予定です。結果としては、この統合型リゾートの完成・開業に必要な額を超える額の資金を最終的に手に入れることになります」。
MICE経験
「当社のMICE施設はオシドリの経験豊富な首脳陣が運営する予定で、世界レベルの会場を建設し運営するためのセールス&マーケティングにおけるその国際的な知識と経歴を活用します。オシドリチームは、ラスベガスのMGMリゾーツ・インターナショナルにある37万1,000㎡を超えるコンベンションスペースといった世界最大のコンベンションセンターの幾つかをオープンさせ、運営してきました。この面積は日本全体で現在存在するコンベンションスペースよりも広いものです。5年という期間で、海外MICE客による宿泊室数は10万室以上にのぼりました。加えて、当社のパートナー、モヒガンサンは米北東部最大のMICE施設を運営しています。会議・コンベンションスペースの総面積は4万3,000㎡以上で、現在韓国で国際MICE施設を建設しています」。

誠実性
「当社チームメンバーは以下の法域でライセンスを付与されています。ネバダ州、ニュージャージー州、ミシガン州、ミシシ ッピ州、オーストラリア、南アフリカ、マン島、カナダ、コネチカット州、韓国、ルイジアナ州、ペンシルベニア州そしてワシントン州」。
事業者パートナー
「当社の事業者パートナーはモヒガンゲーミング&エンターテイメントです。モヒガンは、コネチカットのモヒガンサン、ペンシルベニアのモヒガンサン・ポコノ、アトランティックシティのリゾーツカジノホテル、ワシントン州のイラニリゾート、ルイジアナのパラゴンカジノリゾート、カナダ・ナイアガラフォールズのカジノ・ナイアガラおよびフォールズビュー・カジノ・リゾート、そしてネバダ州ラスベガスのヴァージン・ホテルズと、世界で8つのリゾ ートを所有または運営しています。加えて、MGEは韓国でインスパイア・エンターテイメント・リゾート、を開発中です。MGEには世界中でのカジノリゾート運営の広範囲におよぶ実績があります」。

地域社会への貢献
「当社の現在のIR開業目標は2027年。IRが開業すれば、現在東京のような主要都市でしか手に入らない給与水準の高い仕事などでおよそ8,000人を雇用する予定です。佐世保市及び長崎県からの従業員を最優先にし、その後に九州の残りの地域、そして日本の他の地域、その後で言語やその他スキルが求められる範囲内において日本国外からの従業員を雇用する予定をしています。
2019年、オシドリは、九州オシドリ児童財団を発足させ、初等教育から大学院生まで様々な年代の九州の子ども達の支援を行っています。この財団の目的は、恵まれない家庭環境の子どもや、ひとり親家庭への経済的支援を行うこと、教育委員会と協力し、学校施設や教育の質を向上させ、生徒(特に低所得者層の生徒)が大学進学や就職に向けてより良い準備ができるように支援すること、そして地元の高校生や大学生の海外留学を促進すること。2020年7月には長崎で発生した洪水被害の際に、復興を支援するために赤い羽根共同募金へ約2,000万円を寄付しました。2021年5月5日こどもの日には、1,000万円を長崎にある児童福祉施設7カ所に寄付しました。同財団は、香港証券取引所で取引されているオシドリの親会社の18.8%を所有しています」。
結論
オシドリはそのアプローチにおいて3者の中で明らかに最も積極的かつ率直だ。このプロセス全体におけるIAGへの対応という点では、彼らが最も組織立っておりプロフェッショナル、そして計画を公開することに最も積極的だということも分かった。
オシドリは3者の中で、唯一長崎に実際の事務所を置いている。彼らと話す中で、オシドリの首脳陣が、統合型リゾートがどのようなもので、直面する必要がある特有の問題が何であるかをしっかりと把握していることは明らかだった。現首脳陣は、歴史的にラスベガスのMGMリゾーツとかなり深いつながりを持っている。しかし少ないとはいえある程度の数のアジアIRの幹部もいるようで、オシドリのモヒガンとのパートナーシップがまた、このチームにもう1枚スキルの層を加えている。日本にとって、同社が香港とつながっていることが問題だと指摘している人もいるが、中国のコングロマリット企業である復星集団が2018年に、ハウステンボスの25%について取得を交渉していた経緯があることから、すでにこのエリアでは中国からの投資の可能性については前例がある。
総評
本記事執筆時点で出ている情報を元にすると、3つの候補コンソーシアム、カジノオーストリア、THE NIKIそしてオシドリの中で、IAGの見解としては、オシドリが長崎でIRを運営するためのベストポジションにつけている。しかしながら、まだ出てきていないファクターがあり、8月に予定されている最終発表までの間、それらファクターが出てきたときに、我々はこの見解を継続的にアップデートしていく必要があるだろう。