IR誘致の可能性は無い」専らそう見られている愛知県だが、興味を抱き続ける事業者がいる。
日本におけるIR誘致レースはいよいよ終盤戦に差し掛かってきた。IR誘致を目指す自治体が国に提出する区域整備計画の申請期間は2021年10月1日から22年4月28日まで。IR誘致を目指す自治体はそれまでにパートナーとなる事業者を決定し、国に申請しなければならない。
現在、表だって手を挙げている地域は、横浜市、大阪府・市、長崎県、和歌山県の4地域。そして愛知は東京と同じように早期の段階では関心を示しつつも、確かな意思表明のないまま今まで来ているが、実にポテンシャルの高い候補地である。
既に公募を行い事業者が絞られてきたところも多く、概ね夏ごろまでには事業者の最終決定がなされ、国に申請する予定だ。
そのような状況の中、今もなお複数の事業者が愛知県に興味を持っている、という情報がIAGに入ってきている。なぜ愛知県なのか、当の愛知県はどう考えているのか。引き続きIAGが探ってみた。
灯は消えたのか?
IR誘致の検討姿勢を見せている愛知県は、昨年9月の県議会の中で、県政策企画局長が「中部国際空港やその周辺エリア(空港島の利活用可能な県有地等約50ha)において、MICEを核とした国際観光都市の実現を目指して、調査・研究を進めている。(意見募集では)IR整備・運営主体となることに関心を持つ海外を含む法人等4者、個別ノウハウ知見を有する国内法人9者の計13者から参加申込があった」
「(しかし)新型コロナウイルスにより、とりわけ海外事業者において、市場性、事業性の検討に限りがあった。今後のヒアリングで確認したい」と述べていた。
そして、その後は特に進展も無く、業界関係者の間では「愛知県の可能性は無くなった」というのが専らの認識になっている。しかし、なぜ今も愛知県にこだわる事業者がいるのか?果たして本当にIRの灯は消えたのだろうか?
ポテンシャル
愛知県の人口は約750万人で、都道府県別で東京、神奈川、大阪に次ぐ第4位。都道府県別GDPは40兆円を超え東京に次ぐ第2位。そして、一番注目すべき点は、2027年以降とされるリニア中央新幹線(東京〜名古屋)開業後は、東京〜名古屋間は40分に短縮され、名古屋からの120分圏人口は約5,949万人となり、この数字は日本で一番となる。海外からの観光客だけではなく、日本国内からの観光客のアクセスも抜群に良くなる可能性が高い。
空港隣接地
IR候補地となっているのは中部国際空港(セントレア)隣接地であり、海外からの訪問客は移動時間がほぼかからない絶好の場所となっている。24時間空港でありビジネスジェットやプライベートジェットの受け入れにも柔軟だ。空港島であるこの地域には既に鉄道や道路を始めとした社会インフラが整備されているなどメリットも多い。ただ、空港隣接地域のため、高さ45m以下という建築制限があり、ホテルなどの建設計画に影響を与えることは間違いないだろう。「IR整備による追加のインフラ整備が必要な場合、事業者が負担するかなどについてはまだ決まっていない」と県の担当者は話す。
日本唯一
同エリアで2019年に開業した「愛知県国際展示場(Aichi Sky Expo)」は、延べ床面積9万平米、展示面積6万平米を誇る日本初の国際空港直結型の展示場。特筆すべきは、日本唯一の「常設保税展示場」であるという地域。「保税展示場」とは、国際的な規模で行われる博覧会や公的機関が行う外国商品の展示会などの運営を円滑にするために、関税などを課さず、簡易な手続により展示、または使用可能な場所のこと。IR整備に必須なMICE施設として組み込めるならば非常に心強い。
初期投資額
事業者が魅力を感じている重要な点がもう一つある。初期投資額が東京や横浜のように大規模な投資ではないことだ。新型コロナの影響で1兆円を超えるような投資は出来ないが、愛知の規模感であれば可能だと考える事業者もいるだろう。東京や大阪、横浜などよりは小規模となるが、長崎や和歌山のような地方に比べると大きな規模となる。
いかがであろうか?IR誘致には申し分無い場所であるようにも見える。IR事業者が魅力を感じ、今もなお可能性を探っているのも納得だ。
県はどう考えているのか?
県の担当者に聞くと「RFCで提案があった事業者に対しヒアリングは続けており、最近も状況に応じて実施している」と言う。「新型コロナが事業者にどこまで影響を与えているのか意見を聞いていますが、事業者が日本のIRにコミットできるのかというところが確認できていません。事業者の体力がいつ戻るのかなど正直よくわからないところがあり、判断しかねるというところです」と同氏は説明する。
しかしながら、刻一刻とタイムリミットは迫って来ている。その点について同氏は「他の地域では既にRFPを行い、もう事業者を決めようかというところまで行っています。愛知が1周も2周も遅れていることは自覚しています。国が求めている『公平公正にオープンに選考しなければならない』というルールも鑑みながら正しい判断をしていかねばならないと考えています。
4月の締め切りを踏まえた上で検討しており、そこに間に合わせるつもりは無いとかではありません。やるとなったらそこに(照準を)合わせてやって行きますが、その判断がまだできていません」と、IRの灯は消えたわけではないことを強調した。
事業者は自治体の(IR誘致への)決断がなければ気がないのかと思い積極的にはなれない。自治体は事業者の強い意志を感じなければ成功は見込めないと踏み、決断しにくくなる。まるで恋の駆け引きのようだが、もし一歩踏み出した暁には一気にゴールへ向けて走るポテンシャルを愛知県は秘めている。