IR整備に伴い、カジノ解禁となる日本。懸念事項としてギャンブル依存症の問題は常に議論の的となっている。今回のインタービューシリーズのパート2で、日本における「責任あるゲーミング(RG)」について、JSRG代表理事の西村直之氏に話を聞いてみた。
上村 慎太郎:前回は「RSN(リカバリーサポート・ネットワーク)」( パチンコ依存問題電話相談)について話していただきましたが、今回はJSRG(一般社団法人日本SRG協議会)について教えてください。
西村直之:近年、海外のカジノ産業が中心になって、この20年間の「RG(責任あるゲーミング)」のフレームを作り、理論化され、これが世界の一つのプラットフォームになってきました。日本での公営ギャンブルやパチンコ、特にここ最近注目しているオンラインギャンブルなどへの対策を考えたとき、日本ではなかなかこういったものを構造化しないので、それを学んで導入する窓口を日本に作りたいと思い、2019年にJSRGを創設しました。
上村:海外のRGは日本でも通用するのでしょうか?
西村:日本にはパチンコや公営ギャンブルがあり独特の様式があるので、日本には日本のRGが必要だと思います。海外のものを日本にそのまま入れても絶対にうまくいかないと思います。

上村:シンガポールやマカオでは成功しているように見えますが。(シンガポールでは2005年には4.1%だった依存症有病率が2017年には0.9%に、マカオでは2003年に4.4%だったが2016〜19年には2.5%に低下している)
西村: 彼らがその数字を出せたのは、公務員の入場禁止や、国民への入場料を課すなど極めて社会主義的な管理をRGの名の下に行なって(国民がカジノへ行くのを抑制して)いるので国民の有病率は減少します。ただ、例えばマカオに関しては、(数多く来る)香港や中国本土からの客の有病率には暗数があります。
上村:入場料の設定で依存症の抑制は可能なのでしょうか?
西村: シンガポールも入場料については効果が出せていません。だから値上げすると言っている。実際のところ、世界的に見ても多くの研究者が入場料の効果を支持しておらず、むしろ「入場料はリスク」だと考えている研究者も多いです。入場料分を取り返さないと勝てないという考え方になる。それが逆に感覚を狂わせるのではないかと考えるわけです。
また、入場料は一部の抑止力にはなるが、(入場料を払って)カジノの中に入った人のリスクを増やすということに関してあまり議論されていません。日本はまだそういうところが理論的・科学的ではない。日本は、構造的な取り組みをしていかなければならないと思います。
上村:日本も国民には入場料を設定する方針ですね。
西村:日本も、政府が(入場料設定を)やると言った以上やりますが、入場料をどういう風に街の強化、福祉など問題のおきにくい部分に再分配するかということを考えないといけない。入場料6,000円の内、3,000円という自治体の取り分をどう使うかが、誘致する自治体に問われています。

上村:自己排除プログラムは有効なのでしょうか?
西村:自己排除プログラムは一定の効果はありますが、あくまで自己申請です。つまり自発的で強制力はありません。また、強制排除プログラムはアジア独特で効果はアジアとそれ以外では違うと思います。
上村:日本的RGのために今後すべきことは?
西村:本当のリスクは何かということをちゃんと数字で示したり、日本の(IRが整備される)地域に当てはめたとき、どういうリスクグループが浮かび上がるのか、実際にカジノをつくるとき、数年前から何を投資したら良いかなどの都市計画から始めなければなりません。
しかし、現状はそのような議論になっていないのが残念です。時代の枠組みに向き合えていないものは住民文化になりません。文化にならないものはいずれ消えてしまいます。IRをただの産業装置とするのか、文化基盤にするのかというそこの差だと思います。