日本政府は2020年代後半に開業する日本型IRにおいて、外国人カジノ利用客の「勝ち金」への課税を免除することを決めた。一方で日本人利用客には 「公営ギャンブル同様に課税」と規定された。これがどう作用するか、考察してみた。
2020年代後半に開業する日本型IRにおける課税の大枠が決まった。「2021年度税制改正大綱」には外国人カジノ利用客がもうけた「勝ち金」は「所得税」の課税対象とならないと規定。国内の利用客がもうけた場合は「一時所得」として「公営ギャンブル同様、課税対象となるケースもある」と盛り込まれた。
曖昧だったカジノの「勝ち金」について、方向性が示され、非居住の外国人は非課税となった。財務省や国土交通省は国内外の利用者すべてに課税する方向で検討していたが、IR事業者や政府与党内からは非課税を求める声が多く、押し切られた形だ。

その背景としてあったのは国際基準。シンガポール、マカオなどは非課税で、大綱にも「IRの国際競争力を確保する観点から非居住者のカジノ所得について非課税とする」と定められた。
カジノでもうけた利益に対する税の扱いは利用者のプレイ意欲に直結し、しいては訪日意欲、事業者の収益や国、自治体の税収にもつながる大きな肝。そのため、事業者や自治体も注目していた。
これにはラスベガスでの豊富なディーラー経験を生かし、現在は大阪で人気のカジノスクール「IR Gaming Institute JAPAN」の代表を務める片桐ロッキー寛士さんも大きくうなずく。
「訪日外国人の勝ち分に課税しようとするなんてナンセンス。
あまりにも市場を知らなさすぎです。国外にライバルはたくさんいる。あり得ないことだと思っていたので非課税には、ひと安心しました」。
その一方で、IR事業者からは日本人カジノ利用客も非課税にという根強い意見があったのも事実。カジノプレーヤーとしても経験が豊富で両者の立場を知るロッキーさんもこう分析する。
「カジノでの個々のやり取りを1回1回記録するのは無理がある。勝負は1回1分もかからない。それを重ねて行くわけで、他のギ ャンブルとは趣が違う。
できれば、日本人の課税もやめてほしかった。入場料も6,000円とか払うわけでハウスヘッジもある。そこへ持ってきて、必要以上に徴収すると市場としての魅力がなくなり、だったら海外のカジノに行こうとなる。高額プレーヤーほど、その傾向は強いと思うし、最終的に利用客全体へのサービスも低下していくのではないか」。
高額配当への課税は致し方なしか
IRが開業した場合、何より大切なのはそこに人が集まり、雇用、福祉、教育面などにお金が程よく循環することだろう。ロッキーさんが言う。
「導入するとすれば、高額配当を受け取った場合のみでしょうね。
ラスベガスで言えばスロットマシンで1,200米ドル以上、テーブルゲームで300倍以上の配当、もしくは5,000米ドル以上もうけた場合に課税(24%のフラットレート)となるので、日本でも同じような形が望ましいのではないでしょうか」。
確かに、私自身も思い当たる節はある。韓国競馬(KRA)のソウル競馬場で運良く万馬券を的中。その際、KRAのルールに従い、外国人の私もその場で課税され、払い戻し額は予定より少なかったが、場内の雰囲気も含めたホスピタリティーは充実しており、気分はそれほど悪くなかった。KRAの幹部職員に「このお金は福祉や教育に使われます」と言われ、納得したものだ。
ギャンブルが準ずる国内の公営ギャンブルの税制は?
国内の公営ギャンブル(競馬、競輪、ボートレース、オートレース)に目を移すと「払戻金」に対する税制が定まったのは、競馬の馬券の払戻金が一時所得か雑所得のいずれに該当するか、が争われた複数の馬券裁判による。
国税庁のホームページによると払戻金は雑所得と一時所得に分かれ、その区分については馬券購入の期間、回数、頻度や利益発生の規模などを総合考慮する、とある。
例えば、馬券購入ソフトウエアなどを使って購入方法をアレンジし、偶然性を排除、その上で恒常的に利益を上げているようなケースは雑所得となり、外れ馬券も経費が認められる。
一方、競馬愛好家のようなライトなファンの払戻金は一時所得となり、外れ馬券の購入費用は必要経費として認められない。
国税庁は払戻金を受け取った人に対し①開催日、開催場、レース②払戻金に係わる受取額③払戻金に係わる投票額をノートなどに控えることを推奨。
払戻金に係わる一時所得の金額は次の表の順序で計算する、としている。最近、ボートレース場では「払戻金が一時所得になる」ことを場内アナウンスし、周知しているが、果たしてギャンブルファンに届いているのかどうか。

給与、事業、一時などほかの所得にならないものが雑所得となり雑所得に認められる経費は、事業所得の必要経費と同様、収入から引かれる。一方で、懸賞の賞金、競馬等の払戻金等の収入が一時所得となり認められる経費は、当たり馬券の購入費などの限定的なものになり、収入から経費と50万円の控えを引いてからの金額の半分が課税所得となる。
とはいえ、今回の税制大綱に「(IRの場合は)日本人は他の公営競技と同等の課税方式にする」と定められ、いわゆる勝ち金が一定額を超える場合には一時所得として確定申告するよう求めている。
複雑でありながらIRの開業に向け、課題のひとつをクリアした形だ。