素晴らしいVIP取扱高の記憶が薄れていく中、インペリアル・パシフィック・インターナショナルが新CEOを任命した。サイパンの海に面したカジノホテル完成期限の再延長を求めてはいるものの、その財政はもう待ったなしの状態かもしれない。
太平洋のど真ん中にあるショッピングモールの中に、コタイのVIP営業よりも大きなローリングチップ取扱高を報告したカジノをオープンしてから5年、インペリアル・パシフィック・インターナショナルは、損失、料金の未払い、人々の生活を壊し、約束を破ることにおいて目を見張るような実績を積み上げてきた。IPIのサイパン新CEOに就任したドナルド・ブラウン氏は、それを変えようとしている。
ブラウン氏は言う。「過去の出来事に、ホテルやその多くの設備の完成を目指す我々の努力を妨げたり、阻止したりさせはしない」 。
前任のマーク・ブラウン氏の長年の友人であるドナルド・ブラウン氏は、第2次世界大戦の戦場として有名な米国領北マリアナ諸島連邦(CNMI)の当局者からのプレッシャーにさらされる中、7月17日、新CEOに指名された。
「これは、ホテル部分をオープンした際にゲストを絶対に失望させないよう費やされたプロセスおよびベスト・プラクティスの研修・教育に対する、お金という意味だけでなく何千時間という時間への大きな投資でもある。我々は今、プロセスやコミュニケーションの流れを合理化し、効率とより良い意思決定を生み出してくれる組織構造を再構築している段階にいる」。
ブラウン氏は、米財務省金融犯罪捜査ネットワーク(FinCEN)による2016年10月まで遡った違反と見られる行為への捜査に対応できると自信をのぞかせる。2015年にFinCENから課された7,500万米ドルという過去最高額の罰金が、サイパン島南部に建てられたCNMI初のカジノ「テニアン・ダイナスティ」閉鎖のきっかけとなった。FinCENの捜査同様、FBIが昨年11月にIPIの事務所に強制捜査に入り、ラルフ・トーレス知事およびその家族との関係を調べていたと見られている。両方の捜査が続き、IPIの持続可能性に関する疑問が浮上する中でもブラウン氏の自信は変わらない。

昨年7月に0.217香港ドル(約2.97円)で取引されていたIPIの香港上場株は、2020年8月に公開された起訴状が、IPIの元幹部が中国本土から違法労働者の入国を企てたと申し立てたことで先月には0.01香港ドルにまで急落した。株価下落が信用取引上限を引き起こし、IPIの指導者で、元ヘンシェングループのジャンケット幹部であるジー・シャオポー (紀曉波)氏の母で支配株主の崔麗杰(Cui Li Jie)氏は22億株の売却を余儀なくされ、崔氏の持株は61.93%にまで減少した。
古くなったロール
スタートから、IPIの並外れて大きなVIPの数字はヘッドラインを飾った。マカオの元ジャンケット事業者なら、現在は新型コロナウイルスによって一時停止しているが、特別免除プログラムの下で中国人旅行者へのビザなし入境を認める法域では、当然そうできるだろう。2015年末にDFSモールの研修施設でVIPプレイを導入してから2019年までの間に、IPIは1,000億ドル以上のVIPロール(2017年にはベネチアン・マカオが100台以上のVIPテーブルで262億ドルであったのに対して、IPIはテーブル23台で495億ドルを報告)、そして33億ドルのVIP収益を計上した。
しかしながら、IPIの合計ロールの74%が未回収債権のままで残っている。IPIは、プレイヤー負債の22億ドルを除却処理しており、2019年末時点でさらに2億7,100万ドルが残高として残っていた。それに対して、その5年間に報告された収益は20億米ドルだった。IPIは、昨年の4億9,800万ドルを含む6億7,000万ドルの 累積損失を計上している。2017年7月に、観光の中心である市街地のガラパンに建つ未完成のインペリアル・パレス・サイパンへと場所を移した同カジノは、新型コロナウイルスによって3月17日から閉鎖している。
事業損失に加えて、IPIは税金、手数料、請負業者への代金、そして法的判断で何百万米ドルもの支払いを抱えており、同社はその一部について異議を唱えたり、廃業に追い込むものだと主張している。昨年、IPIは5%の総収入税(gross receipts tax:GRT)から未収のゲーミング負債を控除しようとした。GRTは唯一ゲーミング税にかかる税金。CNMI財務局は、その控除を認めない判断を下し、IPIとの間で1,800万米ドルのGRTの支払いで和解した(一部は未払いだと言われている)。そして議会は未回収債権はGRTの請求額から控除できないことを正式に定めた法案を可決した。

IPIのカジノライセンス契約は、年間1,500万米ドルのライセンス料、連邦カジノ委員会の資金となる300万米ドルの規制手数料、そして2018年からは知事室を通じて分配される地域便益基金の2,000万米ドルの支払いを規定している。議員たちは、知事室が2018年に説明できたのは120万米ドルの分配のみで、別の500万米ドルはしっかりと記録に残されていなかったことを突き止めた。
ラルフ・トーレス知事とIPIに反対の立場を取るティナ・サブラン議員は、「記録には、この義務を遂行しようとする知事側の努力がほとんど見られなかった」と述べた。
委員会のつながり
知事室は、この記事に関する問い合わせに回答しなかった。2013年に上院議員であったトーレス氏と他の高官は、IPIの友人たちから資金提供を受けて香港とマカオへ豪華な出張をし、その後、過去2回住民投票でカジノが拒否されたにもかかわらず、公聴会を開くことなくサイパンのカジノ合法化法案を押し通す手助けをした。トーレス氏は、2015年に住民訴訟を解決するためにオープンガバメント法に違反したことを認めた議員3人のうちの1人。ラファエル・デマパン氏もまた、トーレス知事の叔父でCCCが6年前に発足してから事務局長を務め、現在は会長となっているエドワード・デレオン・ゲレロ氏と共に5月に委員会に対して正式に認めた。
委員会はInside Asian Gamingに対して、「デレオン・ゲレロ会長は、一般市民の利益と幸福を最優先に考えると同時に、サイパンのカジノ業界を正しい方向に向かわせるための適切な政策を模索している」と話した。
それら新委員たちの支持に反対票を投じたサブラン氏は、「多くの委員会会議でIPIに対して多くの苦言が呈されている(中略)、しかし実際、多くの失敗に関するIPIへの具体的な結末はまだ分からない」と話す。
8月、IPIはカジノの閉鎖を理由に、ライセンス及び規制手数料の「減額」を求めた(CCCの声明はその要求に「深く失望した」と明言した)。9度目のカジノライセンス改正を提案するIPIは、手数料の減額と2023年2月まで2年間のホテルの完成期限延長を求めている。
公開、暴露
ガラパンの工事現場で負傷した不法労働者に対して1,160万米ドルの損害賠償を支払うよう命じた連邦裁判所判決に直面し、IPIはそれら労働者への責任を否定している。しかし、先月公開された起訴状が「IPIがカジノ建設に必要な労働ビザを持たない不当な低賃金で働く中国人労働者を使用するその計画の中で積極的な役割を果たしたことへのさらなる確証を与えている」と労働者側の弁護人であるアーロン・ハレグア氏は話す。もし当局がIPIによる人身売買への関与があったと判断した場合、人口が5万5千人に満たず、その9割がサイパンに住むCNMIにおいて不可欠な労働力を提供する外国人労働者プログラムに不適格となる可能性がある。
与党共和党に対抗する議会の少数派のメンバーであるサブラン氏は「我々はCNMIにおけるカジノ業界の実行可能性を再査定する必要があると思う。特に観光業界の見通しの暗さ、労働者確保手段が限定的であること、(ビザなし入国の)中国人観光客の完全な喪失、そして現地の規制上の能力を踏まえた場合には」と話す。
CNMIのIPIへの賭け金が今後戻ってくることがあるかについては、3つの主な疑問に集約される。IPIのガラパンカジノホテルは成功できるのか?IPIはそれを建てられるのか?CNMIはそれを規制できるのか?
グローバル・マーケット・アドバイザーズのマネージングディレクター、スティーブ・ギャラウェイ氏はこう話す。「ゲーミングはサイパンでの娯楽になることはできるが、観光を推進するものにはなれない」。
iGamiXのカジノ事業部長、エリック・コスカン氏は、「サイパンでは、ビーチフロントに建つ経営状態の良いカジノホテルは成功できるが、IPIはそれに関して完全に見当違いな仕事をしてきた。カジノの観点では、IPIのガラパン計画は、ここで求められているものの2倍の大きさがある。しかしながらホテル客室数は、低価格の部屋がおそらく少ない」と話す。
ポール・スティールマン設計のインペリアル・パレス・サイパンが完成すれば、ゲーミングテーブル193台、マシン365台が設置され、客室は329室そして15棟のヴィラが作られる予定。
ユーロ・パシフィック・アジア・コンサルティングのマネージングパートナーで、1998年にテニアン・ダイナスティがオープンした際、ゲーミング部門バイスプレジデントを務めていたショーン・マクカムリー氏は、500室あれば「IPIは中国およびアジアの他の地域からの十分な数の顧客に対応できるだろう」と予想する。
カシャ・フロー
昨年7月、IPIはアメリカン・シノパン社の50%の株式取得に2,370万米ドルを支払い、ガラパン北部にホテル複合施設を開発している。現在はインペリアル・カシャと呼ばれており、1,700の客室が作られる可能性がある。IPIのライセンスは複数カジノの運営を認めているが、同社はまだインペリアル・カシャでのゲーミングは提案していない。IPIは、ライセンス契約改正を提案しており、20億米ドル、そして客室2,000室という開発義務を果たせるよう別の場所にあるホテル客室を数に入れる、さらに言えばその義務を別の事業体に移転すること、加えて、すでに当初の2017年8月から2度も延期されているガラパンホテルの完成期限を2月28日に再延期することも提案していた。
グレン・ハンター氏は「彼らには(ガラパン)ホテルを完成させる気などさらさらなかったと思っている」と語る。同氏の訴訟によってトーレス知事は、カジノ合法化を通過させるために法に違反したことを認めることになった。ビーチロード沿いのカフェ、「ザ・シャック」のオーナーであるハンター氏は、IPIにとってはホテルの経費がない状態でカジノを運営する方がビジネス的に理にかなっていると考えている。同氏は、サイパンに2,000室の客室設置義務が必要であることについても懐疑的だ。
テニアンで働いて以降、定期的にCNMIでコンサルティングを行なってきたマクカムリー氏は、IPIは「施設完成にベストを尽くすよう努力している」と考えている。
IPIの2019年度決算報告書には、完成に6億米ドルの費用がかかると予想されているプロジェクトに、昨年一年間で8億7,900万米ドル費やしたと記載されている。「彼らが費やした額について憶測はできないが、このプロジェクトで建設工事に9億米ドル近い額が使われたようには見えない」と、パシフィックリムグループのキース・スチュワート社長は言う。グアムを拠点にするパシフィックリムは、未払い請求書でIPIに対して690万米ドルの支払いを命じる判決を勝ち取った。IPIは、パシフィックリムが契約条件を満たさなか ったと主張して反訴を提起し、同社の施設を差し押さえて、判決を履行するための現金に変えようとするパシフィックリムの試みと戦 っている。
パシフィックリムは、2018年初めにIPIとの仕事を開始し始め、2019年末までにはインペリアル・パレス・サイパンを完成させることが出来ていただろうと予想する。
「残念ながら、IPIには他の計画があった」。スチュワート氏はそう話し、当局が完成期限を延長した後、IPIがパシフィックリムの契約を解消したと指摘する。請負業者であるパシフィックリムは、IPIが不法労働者を連れてきて、低賃金で働かせていたとも主張している。スチュワート氏は、パシフィックリムは「今でもこのプロジェクトの完成に関心がある、ただしIPIの関与が無い状態で」と付け加えた。
決断の時
直近の完成期限が迫る中、CNMI当局はIPIに再延期を認める、またはライセンスを停止もしくは取り消しにすることができる。
サブラン議員は、「IPIはその法的および契約上の義務に対して説明責任を果たさなければならない。残念ながら、CNMI政府は色 々な意味で自分たち自身の職務に手が足りておらず、IPIに責任を負わせることができない」と話す。
IPIがそのライセンスを失うとなった場合、別のカジノ事業者が入ってくるかは不確かだ。マクカムリー氏は、新たな事業者は政府に対して、開発要件と手数料構造の調整を要求し、さらに規制上の「安定性、透明性そしてコンプライアンス文化」の問題に対処するよう求めると見ている。
旅行に関して、マクカムリー氏は「CNMI当局は競争力のある、うまくパッケージ化された観光地というのをまだ描けていない」と強く主張する。
コスカン氏は「規制と政府の厄介な問題があまりに多すぎる」と付け加える。iGamiXは財務局の認可を受けたサイパンの2つの電子ゲーミング店の1つを監督する。同店には至る所にポーカーマシンが設置されており、昨年はおよそ3,000万米ドルの収益を生み出した。サブラン氏は言う。「もし条件が良ければ、喜んで参入するという企業もある。しかしながら、全てではないにしてもその大半が、このプロジェクト、そして特にCNMIに本物の価値をもたらすことはないだろう。
長い目で見た我々の歴史、そしてコミュニティとしての我々の回復力を思うと安心する。マリアナの人々は、植民地支配、戦争、壊滅的な台風そして経済崩壊を生き抜いてきた。我々IPIは生き残るだろう」。
洗練されていくサイパン
ドナルド・ブラウン氏はアトランティックシティのディーラーから、インペリアル・パシフィック・インターナショナルのゲーミング部門、そして最近ではセキュリティ部門を監督した後、サイパンCEOに昇り詰めた。就任から間もない忙しい日々の中で、ブラウン氏はIAG総合編集長のムハンマド・コーエンからの質問に答えてくれた。
ムハンマド・コーエン:新型コロナの中でも、インペリアル・パレスの建設作業は継続されているのでしょうか?
ドナルド・ブラウン:はい
MC:これまでにどこまで完成していますか?
DB:ヴィラは100%。ボディウムの階は80%、ホテルタワーは50%です。
MC:完成予想日は?
DB:パンデミックによってさらなる遅れが出ており、完成予想を2021年末に動かしています。
MC:カジノ営業と観光全般を支えるために、サイパンはホテル客室数を増やす必要がありますか?
DB:短期的には、ホテル客室数は十分需要に追いつくでしょう。
長期的には、CNMIがより洗練された観光地になるにつれて需要は高まると感じています。全体的な成長が、全体的なゲスト体験の質によって妨げられてきました。現在、大半の客室がツアーや団体旅行に占められています。我々は主に、消費がより多い傾向にあるFIT(個人旅行者)のゲストをターゲットにしています。
これまで、サイパンへの旅行者はどこか受け身でした。受け身の客を、宣伝してくれる客へと変化させることができれば、(サイパンへの)意識と成長に大きな影響を与えるでしょう。
トランプ政権によるビザ制限によって、中国人観光客は大幅に減少することが予想されます。マリアナ政府観光局は、中国からの旅客数の不確かさから生じた隙間を埋めようとする中で、日本からの航空便を増便して日本市場を引き寄せるというビジョンを後押ししています。彼らは、これを実現しようと航空会社と一生懸命協力しています。
この状況が日本市場に照準を合わせることをさらに後押しします。歴史的にCNMIでは、日本人観光客の全体的な消費が、中国や韓国からの観光客よりも大幅に大きいのです。しかしながら、日本人観光客は体験全体に関してより高い基準を持っています。当社の商品の質は、必ずより洗練された旅行者の要求も満たすことができるでしょう。