IAGは、大阪の観光振興とコンベンション誘致のリーダー役を担う「大阪観光局」に、IRの大きな柱となる「MICE」に向けた新型コロナウイルスに対しての新たな取り組みを聞いてみた。
大阪観光振興の司令塔を担う「大阪観光局」ではMICE開催へ向けたガイドラインを公開し、コロナと共生し、経済回復につなげたい考えだ。このたび、発表したのは「感染症拡大のリスクを抑え、MICE開催するための主催者向けガイドライン」というタイトルで4月から策定に着手。
「どうしたらイベントを開催できるのか」に重点を置き、政府の対策方針や主催者の意見、海外MICEの動きなどを参照しながら、大阪市立大の加瀬哲男特任講師ら感染症の専門家が監修した。
5カ月ぶりのイベント開催へ
もちろん、ここ大阪でも新型コロナウイルスの感染拡大により、大半のMICEが中止・延期を余儀なくされた。昨年、大規模なIRイベントが2度開かれた大阪市の国際展示場「インテックス大阪」で今年行われたイベントは2月の「再生医療EXPO」が最後。以後、沈黙が続いていたが、このガイドラインに基づき、7月29日から31日までの3日間、BtoBイベントの「第12回関西ホテル・レストラン・ショー」などが開催され、約460社の約830ブースが出展した。
会期中に2万人が来場したが、開催するにあたって具体的には会場の換気、共用部の清掃・消毒を徹底。緊急連絡網の作成、外国人の受け入れ可能な病院確認などを行ったほか、発熱者・体調不良者の入場を防ぐ方法を明記した。
「3密」をいかに避け、大きな一歩を踏み出すか
また会期中は衛生環境の維持に加え「密閉」「密集」「密接」のいわゆる「3密」を避けるため、オンラインで事前に入場登録。その上で時間ごとの入場制限(1時間に300人から400人)、対面距離や座り方の工夫などを促した。
大阪観光局は「前例のない環境下での開催となった。このイベントを大きな第一歩としたい」と話し、会場付近の保健所・医療機関との連携、緊急時のコールセンターに関する情報提供のサポ ート体制も整えた。ガイドラインについては、今後も政府や大阪府市などの動きに合わせ、アップデートしていく。

MICEによる経済波及効果
そもそも大阪観光局は2013年、当時の松井一郎知事と橋下徹市長の肝煎りで発足した公益社団法人で、大阪の観光事業の振興とコンベンション誘致などの舵取り役を担う。実際、関西のインバウンド市場は急成長を遂げ、2013年に350万人だった外国人観光客は2019年には1,319万人に膨れあがっていた。
今回、大阪観光局がここまで「MICE」にこだわったのには当然、理由があった。MICEとは企業などの会議(Meeting)、企業などが行う報奨・研修旅行(Incentive)、国際機関や団体、学会が行う国際会議(Convention)、さらに展示会・見本市、イベント(Exhibi-tion/Event)の4つの頭文字を取ったもの。そのメリットとしては何より経済効果が大きいことだ。
18年に観光庁が出したデータによると、経済波及効果は約1兆円で雇用創出効果は約9万6,000人分、税収効果は約820億円と推計される。例えば、1万人規模の国際会議が開催された場合、約38億円の経済波及効果があると言われている。
また、その分野の専門家が一堂に会すことで新たなビジネスチャンスやイノベーションが創出され、経済が循環する。結果、その都市のブランド力、競争力がアップするという流れができるわけだ。大阪で言えば、昨年開催されたG20大阪サミットが挙げられ、大阪の知名度は間違いなくアップした。今回、主催した一般社団法人「日本能率協会」(東京)の関係者は「リアルな商談ができたのでは」と手応えを口にした。
海外に目を向けると、代表的な成功例がシンガポールだ。2010年から2011年にかけ、マリーナ・ベイ・サンズ、リゾート・ワ ールド・セントーサの2つのIR施設ができたことにより、世界有数のMICE都市として一気に知られるようになった。
スポーツイベントも積極的に開催
大阪観光局によると大阪府と大阪市では今後、スポーツイベントにも積極的に取り組んでいくとし「インテックス大阪」と同様に多目的アリーナ「大阪城ホール」の使用料を半額にしている。
7月12日には大阪城ホールで有観客によるプロレスも再開しており、年内にはプロボクシング世界戦の興行も誘致したい考えだ。
元観光庁長官で15年に大阪観光局2代目の理事長に就任以降、抜群の実績を残している溝畑宏氏は3月以降、毎月のように復興キャンペーンを実施している。インバウンドについては「第2波が来ないことを前提に、できれば10月ごろに東アジアからの旅行客を受け入れ、12月ごろには欧米の旅行者も少しずつ迎えたい」との方向性を示した。
また、MICE誘致やIRついて「私は人類の進化のベースは移動と変化にあると考えている。その意味で五感を刺激しないテレワークやオンラインは邪道。ダイレクトな商取引ができるMICEは日本にと って重要であり、大阪の強みでもある。そのためにはIRは必要。いずれはオペレーターも戻って来る」と力を込めた。
正しく恐れながら感染防止と経済活動の両立を
WHOが新型コロナウイルスのパンデミックを発表した3月。私は、この事態を予測したような小説「首都感染」(講談社)を著した作家の高嶋哲夫さんの自宅を訪れ、取材している。
そのとき印象に残った言葉がウイルスについて「大切なのは怖がるべきところで怖がること。正しく恐れること」だった。
本格的な日本の夏を迎え、コロナ禍は終息に向かうどころか第2波の予兆すらある。まだまだ予断を許さない状況が続き、国も地方自治体も難しい舵取りになるが、正しく恐れながら感染防止と経済活動の両立をはかっていかねばならない。