都知事選で東京のIRの運命が左右するかもしれない。しかし、日本の首都である東京はカジノを長く待ち焦れている。
東京都が注目されている。この原稿を書いている時点では、日本で人口が最も多い東京は、その都知事選を7月5日に控えている状況だ。では、何が注目されているのか?その答えは、業界関係者ならば誰もが強い関心を持っているであろう、「東京都のIR誘致参入」についてである。現在、都知事選候補者が出揃い、IR誘致に対し様々な見解や公約を打ち出している。東京都のカジノ・IR誘致問題は歴代の都知事と共に常に揺れ動いている。
都とIR構想の歴史
東京都とカジノ・IRとの関係はかなり古くまで遡る。日本の都市で1番長くカジノ・IR誘致と向き合っているのが東京都なのは間違いない。

今から遡ること約20年、1999年4月に石原慎太郎氏が都知事に立候補したところから、この長い物語は始まった。石原氏は、カジノを実現することを公約に盛り込み当選。それから2011年10月までの12年6カ月、都知事の職を務めた。石原知事は、「臨海副都心の港区台場にカジノを作ることで、1万人の雇用創出効果がある」とし、「世界の代表的な100万都市で、カジノがないのは東京だけ」「 構造改革で流動化する労働力吸収の受け皿となる」という考えの下、いわゆる「お台場カジノ構想」を打ち出した。しかしながら、当時は大規模公営ギャンブルとしてのカジノを整備するという構想であった。
カジノの整備には国の法整備が必要不可欠であり、石原都知事は国の法整備を待つというスタンスに切り替わった。そして、2003年には「お台場カジノ構想」の実験中止が発表された。
そこから9年後の2012年、石原知事が知事職から身を引き、新たに都知事となったのが猪瀬直樹氏だ。猪瀬知事は2013年6月、「 臨海副都心地区にカジノを含む統合型リゾート(IR)設置を目指す」と表明した。 東京都へのIR誘致が進むかと思われたが、半年後、金銭問題であえなく辞職となった。
2014年2月、猪瀬氏に代わり新たに知事となったのが舛添要一氏。舛添知事はIRに関し、「国の法整備や、都の調査・議論の上、納得出来れば誘致も可」とし、中立な立場を強調した。
都はこの頃からIRに関する調査を定期的に行い、IR誘致への準備を着々と進めて来たように見える。2014年6月に「IR関する調査業務委託報告書」(有限責任監査法人トーマツが受託)を公開したのに続き、2015・16年には「海外における特定複合観光施設に関する調査分析業務委託報告書」を公開した。しかしながら、2016年6月、今度は舛添知事が政治資金問題で辞任の運びとなった。
2016年8月に、新たに選出されたのが現職の小池百合子知事である。IR誘致に関し、小池知事は一貫して「メリットとデメリットを総合的に検討」というスタンスを保っている。都知事選再選を目指し立候補している現在でさえ、推進か否かを明らかにしていない。他の立候補者とは異なり、有権者にIR誘致に対するスタンスを示し、その信任を得ることを選ばなかった。IR誘致を政治的な俎上に載せる事を徹底して避けているようにも見える。
しかし、小池知事が何もして来なかったわけではない。小池都政の間には、2016年12月にいわゆる「IR推進法」が施行され、2017 ・18年と舛添都政時代に始まった「海外IR事例調査分析」を継続している。そして、2018年7月にいわゆる「IR整備法」が可決された。都は同月、「東京ベイエリアビジョン(仮称)」策定を発表した。
「東京ベイエリアビジョン(仮称)」は、
- 東京、日本の今後の成長を創り出す場所として、東京ベイエリアを世界に発信する
- 東京ベイエリアを鳥の目で俯瞰し、各地域の特色をより活かす
- 官民連携のもと、次世代を担う若手の視点や自由な発想を活かす
この3つを基本コンセプトとし、次世代のまちづくりのモデルとなる、世界を見据えた将来像を示し、東京、ひいては日本の成長戦略につなげていく狙いを持つ。対象地域には台場と、隣接する青海も含まれている。青海はIR誘致候補地と目されている。

都は2019年6月、「国の施策及び予算に対する東京都の提案要求」の中に、7年連続となる「IRに必要な法整備等の確実な実施」を盛り込んだ。
さらに同年9月、「IRに関する影響調査委託」を公表した。 2014年以降続けられてきた調査だが、今回は「IRが都に立地した場合の影響・分析」であり、今までの「海外IR事例調査」とは趣きが異なる。この変化は、都がIR誘致を前向きに考えていると見るには、十分な根拠と言っても過言ではないであろう。
ちなみに、小池氏は都知事になる以前の衆院議員時代、超党派で構成されたIR推進派「国際観光産業振興議員連盟」いわゆる「IR議連」に所属していた。 だが、「(自分は)主要メンバーではなか った。どういうことを考えているか学ぶということで入っていた」として、誘致判断に影響することはないと強調している。
限られた時間
都知事選以降、東京都がIR誘致に参入の意向を示すか否かは都知事選の結果次第でもあり、現職の小池氏の再選が濃厚と見られてはいるが、参入の有無に関しては全く不明である。
ただ一つ言えることは、2021年1月4日から7月30日までという国への申請期間に変更は無いとされている現状、他の地域が行な ってきたプロセスを最長1年間で同じように行うには時間が足りなさすぎるのではないか?ということだ。
大本命となる東京が参入した場合、日本進出のあり方を考え直す事業者も少なくはないであろう。もしかすると、「IR開発に関わるその枠組みによって、弊社の目標は達成できなくなってしまった」と述べ、5月に横浜の誘致を見送ったラスベガス・サンズでさえ再度誘惑される可能性もある。 事業者側も東京進出については水面下で相当準備をしていることは間違いないだろう。
1兆円を超えるような投資をするということを鑑みると、東京ぐらいの都市でなければ、大手事業者でも簡単にはその引き金を引かない(引けない)のかもしれない。