2020年は日本型のIR誘致にとっては運命的な年になりそうだ。特に 「フロントランナー」の大阪は実質的に有力事業者3社の争いに絞られ、そのゴールは他の自治体に先駆け、6月に設定されている。つまり、他の地域はIR誘致にチャレンジするかどうかまだ決まっていない内に、大阪は東京五輪開幕を前に金メダリストが決まるというわけだ。
大阪・夢洲IRにエントリーしているのは、この3者。どこもポテンシャルが高く、実績もある。甲乙つけがたい。ただし、選定委員会が選ぶのは1者のみ。勝者は日本型IR認定事業者の第1号にもなるわけだが、その栄誉に浴するのはどこか。その前に昨年の動きをザクッとおさらいしておこう。

MGMリゾーツ、ギャラクシー・エンターテインメント・グループ、ゲンティン・シンガポールはそれぞれ実績がある中、それぞれ成功しているマーケットが大きく異なっている。当然それぞれの強さと弱さがある。MGMは世界的に認知されているブランドであり、この5年間日本で最も活動をしている会社とも言える(少なくとも表向きでは)。ギャラクシーはマカオにおけるマーケットリーダーの1つとして、世界最大のカジノ資産を所有し、ライバルが羨むような現金での準備金を保有している。ゲンティン・シンガポールは、厳しい規制で知られ、日本が手本とするシンガポールでIRを運営する2つの事業者のうちの1つだ。
思えば、環境が整備されている大阪に対し、2019年の年明けから大手事業者が盛んにラブコールを送り、一時はラスベガス・サンズ、メルコ・リゾーツ、ウィン・リゾーツ・リミテッドなど7者が手を挙げていた。様相が一変したのは8月下旬だ。沈黙を続けていたライバルの横浜市がIR誘致を正式表明すると櫛の歯が欠けたように次 々と大阪から離れていった。最終的にシーザース・エンターテインメントが日本市場そのものから撤退したこともあり、現在の3者に落ち着くことになる。
次に大阪府市が発表しているスケジュールを見ていこう。一連の流れは上記の表通りだ。
MGMリゾーツ
総合的にみて一歩リードはMGMリゾーツか。米国大手のMGMは大阪の夏を彩る天神祭など様々なイベントに協賛し、知名度を上げてきた。
姿勢も大阪ファーストから最終的には大阪オンリーといちずな” 大阪愛”を強調。何より、現地のオリックスとコンソーシアムを組んで地固めをしている点が評価を上げるポイントになる。
MGMリゾーツ日本法人のエド・バワーズ代表執行役員兼最高経営責任者(CEO)は「日本最初のIRは世界最新で最高のものでなければならない。そのためには地元とのパートナーシップは不可欠。MGMとオリックスは本気です」と一枚岩を強調。実際、昨年10月に行われたシンポジウムなどでも参加者からは「選ばれるのはMGMかな」という声が漏れ聞こえて来た。
新年に向けてエド・バワーズ氏は「2020年は様々な側面から見て日本にとって特別な年となり、日本は世界で最も注目される国の一つとなるでしょう。オリンピックが開催されることによる注目度の高さはもちろん、観光産業の新しい成長モデルの創出に向けて、日本がダイナミックかつ着実な歩みを進めている点に、世界の注目が集まっているからです」と述べた。

その上で「統合型リゾートは、その新たな成長モデルの重要な構成要素であり、世界最高のIRを大阪で実現することを目指すプロジェクトに参加する機会に臨めることは、MGMにとって大変な光栄なことであり、社員一同期待で胸をふくらませています」と話す。
ギャラクシー・エンターテインメント・グループ
ギャラクシーも負けていない。莫大な利益を上げているギャラクシー・マカオやスターワールドのIRを運営しており、ある意味では自信を持って当たり前かもしれない。
パートナーのモンテカルロ ソシエテ・デ・バン・ド・メールと協力してヨーロッパのテイストを計画に取り入れており、昨年後半他の事業者が撤退している中で、自身のブランドを猛アピールした。日本法人の岡部智総支配人は業界トップクラスの財務体質の良さを強調し「われわれの強みは中国人客の誘致。現在、大阪を訪れている外国人客の半数を中国人が占めており、われわれの出番だ」と意気込んだ。
こちらもIAGの取材に応じ、勝負の2020年に向け「ギャラクシ ー・エンターテインメント・グループ (GEG) は、日本のビジネス界と文化を尊重しており、真のワールドクラスの統合型リゾートが日本で実現することを目指しています」と力強く抱負を述べた。

さらに「私たちは業界で強固な財務実績を誇っており、経験と知識を日本の地元企業のみなさまと共有し、日本の経済成長と発展に貢献していきたいと思っています」と話す。
ゲンティン・シンガポール
しかし、MGMと正反対の作戦を立て、何とも不気味なのが「沈黙は金」を貫くゲンティンだ。静の動きは、あくまで表向き。大阪事務所を構え、水面下ではシンガポールと密に連絡を取りながら誠実に任務を遂行している。IAGの取材の感触では、いつでもコンソ ーシアム相手を発表できるほど煮詰まっている。
振り返れば、ゲンティンは日本型IRのモデルと言われるシンガポールのIR公募でもマリーナベイとセントーサ島の2カ所に応募。都市部のマリーナベイではサンズに及ばず2位評価だったものの、セントーサ島ではMGMなどを破っている。現在もリゾートワールド・セントーサはゲンティン・グループの旗艦施設の一つである。
下馬評では大阪IRの本命だと思われていないかもしれないが、実績豊富なゲンティンは、ここ大阪でも同じ”勝利の方程式”を描いており、MGM、ギャラクシーをまとめて抜き去り、逆転する可能性を秘めている。