世界的に需要が高まっているクルーズ客船。日本もその例に漏れない。特に、遅れを取っていた大阪では新たな需要を見込んでの港湾整備と誘致活動が活発化している。「夢洲」を国際観光拠点に。その背景にあるのは25年開催の大阪・関西万博、いや、それ以上に24年に開業を目指しているIR(統合型リゾート)の存在が大きい。
クルーズ産業は2008年リーマンショックも何のその。ずっと右肩上がりで成長を続けている。いまや世界のクルーズ人口は2018年には2,700万人に達し、経済波及効果も14兆円という。これらを支えているのは新富裕層やカジュアル層。客船の大型化が進み、客単価が下がり、高嶺の花ではなくなったようだ。
国内に目を向けても、大型客船の寄港回数は年々増え続けている。国土交通省によると、2018年は2,928回と過去最高を記録。外国人の入国者数は加熱気味だった中国・上海市場が収まったことで3.3%減になったとはいえ、それでも244万人。出発国別ではやはり中国が961回でトップであった。
「クルーズ船は小さなIR」 地方も活性化
クルーズ船のメリットは言うまでもなく、寄港地を中心に一度に多くの観光客が訪れ、グルメ、ショッピングなど地域での消費が盛んになること。さらに、外国人観光客が各地へ足を伸ばすことで地方に賑わいが生まれることだ。阪神国際港湾株式会社企画部の寺尾芳和企画担当課長(51)が言う。
「豪華客船はタイタニックのような時代ではなく、安く乗れるようにスキームが変わった。それでいてホテル、カジノにバーがあって、ショータイムもある。いわば小さなIRのようなもの。外国籍の船によっては13歳未満は無料ということもあって、家族で利用しやすくなっている。これからも伸びゆく産業です」
今年のクルーズ船の大阪寄港は史上最多の見込み
国交省のデータによると国内の港湾別では博多港(福岡県)がトップの279回で那覇港(沖縄県)の243回、長崎港(長崎県)の220回と続く。一方、大阪港はわずか45回で14位。大阪港振興協会の有田正文事務局長(66)は「数年前は20~30回程度でした。それが今年の予定では60回以上になっており、過去最高になりそうです」と話すが、まだまだ可能性を秘めているのは確かなようだ。

クルーズ客船の母港化を計画
これを受け、大阪市も大阪港周辺のインフラ整備に着手する。2025年開催の大阪・関西万博、24年開業予定の大阪IRを控え、「夢洲」に国際旅客ターミナルを設け、クルーズ客船の母港化を計画。さらに、ここを拠点に九州、四国、西日本方面や京都、奈良などの近畿一円にインバウンド客をスムーズに運ぶ考えだ。
「空と海」大阪を日本観光のゲートウェイに
構想では夢洲北岸の岸壁で「夢舞大橋」の西側にあたる長さ1,350㍍、幅約100㍍が設置場所。最も波が穏やかなことが候補地に選ばれた理由だが、IR候補地と隣接する点も見逃せない。
「中央突堤は210㍍しかなく、いまのままでは大型船が寄港できるのは天保山だけでしかも1隻だけ」と寺尾さん。夢洲新港ができれば、世界最大とされる22万㌧、全長360㍍級の客船2隻が同時に接岸できるという。これらと同時に建設を進めている鉄道ターミナルやバスターミナルとも直結させることで、空と海の両面で大阪が目指す日本観光のゲートウェイとしての役割を果たして行きたい考えだ。そう、夢洲にはそれだけのポテンシャルがある。
奇しくも神戸、大阪を発着する国内フェリー各社にも変化が起きている。「オレンジフェリー」や「さんふらわあ」が相次いで新造船を投入。全室個室など、これまでにないサービスで瀬戸内海や九州航路の需要を喚起している。
「飛鳥Ⅱ」に乗船し、船上カジノを疑似体験
先日、神戸港に向かった私は日本が誇る豪華客船「飛鳥Ⅱ」を間近で眺め、試乗見学する機会に恵まれた。もちろん初体験だったが、そのスケールの大きさは想像をはるかに超えるもの。全長241㍍、5万142㌧。まるで動くホテルそのものだったが、いまやこのサイズだと中型客船だと聞き、2度驚いた。
今回、乗船した目的は洋上カジノが疑似体験できる「モンテカルロ」を訪れることだった。会場にはルーレット台、ブラックジャックのテーブルが2台、スロットマシンが19台設置。もちろん、日本国籍の船ということで、あくまでアミューズメントだが、それでも、18時オープンから閉店の24時まで連日40〜50人が非日常の空間を楽しむという。
「カジノとクルーズ船は相性がいいですからね」と日本カジノスクールの谷村義治客船カジノマネージャー(49)は話す。本格的な船上カジノはいつ解禁になるのか。まだ日本版カジノもできていないのに「飛鳥Ⅱ」でカジノに興ずる自分の姿をついつい想像し、にやついてしまった。