どの海外事業者が営業権を取っても、大阪の「IR推進”100社”会」は軽視できない存在
IR(統合型リゾート)誘致をリードする大阪において、存在感を増している民間組織がある。関西の有力企業連合「IR推進”100社”会」がそれだ。開業に伴う新ビジネスで主導権を握ろうとしており、コンペに臨む大手海外IR事業者にとっても軽視できない存在だ。
商魂たくましい大阪人の心意気
いかにも商都・大阪らしい組織ではないか。この「IR推進”100社”会」は24年に大阪で産声を上げるIRを、海外事業者や大企業だけに任せるわけにはいかない、との思いから一致団結。昨年7月に結成され、2月中旬時点で60社を超えている。
関西のキーパーソンがずらり勢ぞろい
参加企業はバラエティー豊か。各ジャンルのキーパーソンがそろい、観光や飲食、交通インフラなど業種ごとに個性的で優れたサービスを提供できる会社を厳選している印象だ。串カツ「だるま」や寿司店「がんこ」など一連の会社名を見ていると”食い倒れの街”を象徴するようなブランドがずらり。この会の堀感治事務局長(42)が力説した。
「単に儲かっていればいいというものではなく、関西じゅうの魅力ある会社を集めている。最終的には100社選びたいが、それよりコンペに勝てる組織にする方が大事」
この会が担おうとしているのは観光と街づくりだ。そこには、新ビジネスに良い意味でがめつく飛びつこうとする大阪人ならではの商魂と、自分たちの手でおもしろいものをつくろうとする自主独立の精神が感じられる。堀氏は”大阪愛”を強調した。
「IRの中でカジノは全体のわずか3%。残り97%は街づくりなんですよ。何より地元が潤わないといけないし、大阪を元気にしたい。そのノウハウを私たちは持っている」
大阪IRが動き出したのは2010年
振り返ると、大阪府・市がIR構想を表明したのは2010年のことだった。その後、一進一退を繰り返し、候補地として「夢洲」が選ばれたのが14年のこと。さらに、2年後の16年にIR整備推進法が成立したのを受け、17年には府・市IR推進局が設置された。IAGの取材によると誘致活動が高まる今春から38人体制へと強化され、19年度予算案に3億3000万円を計上する。
インバウンド客であふれかえる大阪
一方、大阪を訪れる外国人旅行客は劇的に増加した。IR構想が出た10年に235万人にすぎなかったものが15年には716万人。17年には大台を超え、1110万人に達した。米国系の大手クレジット会社の統計によると、世界の都市で一番の伸び率を誇る。
なぜ、そこまでインバウンド客を引きつけるのか。そのひとつは食い倒れの街といわれる食文化。また「道頓堀」「日本橋」「ユニバーサルスタジオ・ジャパン」「海遊館」などの魅惑的な観光スポットもあり、さらに歴史的文化遺産の多い京都や奈良に近いことも挙げられる。

圧力団体ではなくパートナーに事業者選定の明暗を分けるのは「観光と街づくり」
今回、「100社会」が目指すのは、このような関西の魅力をいままで以上に世界へ発信することだ。そのために必要なのは事業者選定の決め手となりそうな観光や街づくりの面でイニシアチブを握ること。いざ、開業となるとIRビジネスは多岐にわたる。飲食、観光、エンターテインメント業をはじめ、施設と観光地を結ぶタクシーやバス、船舶などの交通インフラ。大型カジノホテルともなるとシーツやタオルなどクリーニングの量も半端ないだろう。堀氏は言う。
「どんなビジネスができるか、人材の雇用、確保を含めて、私たちにはそれぞれの部門でプロがいる。こちらでアイデアをまとめてIR事業者に提案していく。私たちがキャスティングボートを握る」
この会はいわゆる圧力団体になろうとしているわけではない。コンペに勝てるパートナーとして、大阪IRに参入しようとしている海外事業者に対し、自分たちが持つノウハウを積極的に働きかけていくというわけだ。
IR事業者側も意識せざるを得ない
コンペに臨む海外IR業者も、その存在を軽視できなくなっている。現在、最前線の大阪市内には日本MGMリゾーツ、メルコリゾーツ&エンタ ーテインメント、ゲンティン・シンガポールの3社が事務所を構えているが、実際にある事業者から「あれだけの組織。意識せざるを得ない」との声も聞いた。

事業者選定のゴールは近い。本命はMGM、対抗メルコ?
国よりも動きの早い大阪のIRカレンダーでは、24年開業を目指し、今夏7月に事業者を絞り込むとのことだ。25年大阪・関西万博の開幕時にすぐ隣でIR工事中なんてもってのほか。それでなくても夢洲への交通アクセスや港湾整備に3年はかかるとみられている。よって、大阪府・市はこの春から独自に事業者に対してプランの公募を行う。となると必然的に「100社会」の決断も早くなる。堀氏は語気を強める。
「イス取りゲームは始まっている。大阪が一番良くなるところとパートナーを組みたい。つまり、私たちの要望を取り入れてくれるところがベスト。いまのところはMGMが一歩リードし、メルコも追い上げていると聞く。公募が始まる前の3月までには私たちの立場を決めたい」
大阪府・市は「大阪IR基本構想案」を発表しており、ゴールは間近に迫っている。果たして、大阪の大阪による大阪のためのIRは実現するのか。
IR推進”100社”会:大阪・関西の魅力を世界へ発信!
堀感治事務局長インタビュー
IAG: そもそも「IR推進”100社”会」が生まれた背景は。
堀感治事務局長(KH): 「当初の府の姿勢だと海外IR事業者に丸投げするような傾向があり、これではイカンと。外資は自社と株主を優先する傾向が強い。やはり地域が潤わないといけない」
IAG: 参加企業はそうそうたる顔ぶれだ。
KH:「飲食、観光、交通インフラ面などすべてプロ集団。魅力ある企業がそろった。コンペに勝てる集団を目指している」
IAG: 取り組む姿勢は?
KH:「関西には関西ならではの観光や文化がある。海外事業者と大企業に対し受身にならず、街づくりを熟知している地元企業の積極的な参画が大切だ」
IAG: 関西は国宝、文化遺産の宝庫でもある。
KH:「それも強みだ。これまでも魅力を発信してきたが、さらに連携を深める。寺社仏閣に加えて和食、舞妓、能楽などジャンルは広い。私たちには実績もあり、ノウハウもある」
IAG: IR推進へ地道な活動も行っている。
KH:「大阪市内3000台のタクシー媒体を活用した応援ビデオや、大阪市内の観光スポットを巡るループバスにIR推進のラッピングをして走らせた。依存症対策にも取り組んでいる」
IAG: 大阪IR基本構想案によると大阪IRの年間売り上げは4800億円の見込みとか。
KH:「私たちが関わるのはいわゆる3号、4号施設と言われる魅力増進施設と送客機能施設。食、歴史、文化などの魅力を伝え、これらの場所へ運ぶのは得意とするところ。地域全体が潤うのが肝心だ」
IAG: IR誘致の決め手になるのは?
KH: 「IR施設は1号施設(国際会議場)、2号施設(展示施設)などもあるが、日本が参考にしようとするシンガポールでも勝負を分けたのは3、4号。言うまでもなく、今回もそこがポイントとなるはずだ」
IAG: 海外事業者へ。パートナーを組む条件は?
KH: 大阪が一番良くなると思えるところ。つまり私たちの要望を取り入れてくれるところと組む。コンペに勝つのが目的だ。組むとなれば、最終的には条件を詰め、契約を結ぶことになる」
IAG: 手応えを感じるか?
KH:「IR業者も地域貢献を意識するようになった。その観点からMGMが一歩リード。メルコが追い上げている、と聞く」
IAG: 近い将来、100社会として考えていることは?
KH:「国内外からの雇用、特に西日本からの雇用を拡大したい。それに合わせて人材研修にも取り組んでいきたい。雇用拡大が一番」