パチンコ依存症問題に取り組むリカバリーサポート・ネットワーク代表理事の西村直之氏に、RSNの活動内容をIAGが聞いてみた。
IR開業に向けて進む日本。その中で求められるギャンブル依存症対策。日本には既にパチンコ市場という巨大なギャンブル市場が存在する。
パチンコ依存症問題に取り組む認定特定非営利活動法人「RSN(リカバリーサポート・ネットワーク)」代表理事、そしてギャンブル等依存症問題に取り組む「JSRG(Japan Sustainable Re-sponsible Gaming)」代表理事でもある西村直之氏(精神科医・医学博士)に、RSNの活動内容を聞いてみた。
上村 慎太郎:今日はよろしくお願いします。2020年は新型コロナの影響が非常に大きかったですが、電話相談件数などに変化はありましたか?
西村直之:2020年は約4,000件弱です。19年は5,200件、18年は5,800件ほどでしたので数は減りましたが、これはコロナ禍でホールが営業自粛していたということもありますし、ホールやプレーヤ ーが年々減っていることも要因だと思います。
上村:RSNの成り立ちを教えてください。
西村:2004年、当時、射幸性が高い機種が多く、多重債務問題などが問題視されるようになっていた中で、パチンコ業界団体がパチンコ依存症研究会を立ち上げました。その時、薬物依存問題に関わ っていた私に声がかかりました。私は「酷くなる前に、早期介入するための電話相談を作ったらどうか」と提案し、「何か問題が起こ った時にとにかく電話をかけてもらって、その問題を蓄積して何が出来るかを探していこう」ということで、2006年に電話相談ホットラインを立ち上げました。
上村:立ち上げた後はどういう活動をされてきましたか?
西村:最初はどういうニーズがあるかわかりませんでしたが、ちょうどその頃、海外で早期の簡易介入がかなり有効で自己修復や自己回復につながるとの報告が出てきました。自分達のやっていることと海外の報告をすり合わせながら約15年活動してきました。我 々は医療機関ではないので診断や医療治療はしません。困っていることを聞いてその修正の手伝いをすることに徹底しています。また、業界に対しての啓発活動にも取り組んでいます。

上村:近年、様々な取り組みをされているようですが。
西村:「安心パチンコ・パチスロアドバイザー」制度というものがあります。 これは業界側が立案して、そのプログラムは私も監修しました。これは2018年に施行された「ギャンブル等依存症対策基本法」によるプレッシャーの産物という側面もありますが、海外では、従業員教育がギャンブリング産業の持続的発展の為には不可欠であるというコンセンサスがあり、依存症対策の1つでもあるという考え方があるので、日本でもカスタマーサービスとして顧客の問題に対応できる従業員を育てるということをやっています。
また現在、「e-ラーニング」のシステムを作っています。これは、ホ ールの従業員全員がパチンコ依存問題に関して、法律も含めて基礎的な事をインターネット上で勉強できるシステムで、2021年の春くらいにリリースできます。共通のプログラムを業界側が作るということは世界でも例がないことだと思います。
上村:運営費用は業界団体からも支援されていますが、利益相反にはならないのでしょうか?(*RSNは、パチンコホール内に「パチンコ依存の無料電話相談(ホットライン)ポスター」を掲示し、その電話対応にあたっており、パチンコ依存の調査・研究、事業者サポ ートなども行なっている)
西村:運営のメインの部分を支えているのは業界団体の「21世紀会(*注)」です。しかし、業務内容については独立しています。
運営事業者のCSRには「顧客保護」が入っていますので、顧客を守るためにパチンコから離れた方が良い人にそれを伝えることは利益相反にはなりません。
*「21世紀会」は、全日本遊技事業協同組合連合会など業界の14団体で構成され、依存問題への対応など業界の健全化に取り組む組織。
上村:電話相談の効果は?
西村:電話相談は匿名なので、追跡出来ないシステムです。なので効果の判定は出来ません。例えば、自殺防止ダイヤルがどのくらい自殺を防止出来ているのかわからないのと同じです。ただ、電話相談は、本来、顧客とのコミュニケーションで、顧客に対してリスクのアドバイスができるかという、最終的にはホールの接客に落とし込めます。
なので、アドバイザーの講習などで(電話相談の内容を)フィードバックしたり、電話相談から得た経験が業界の研修の情報源にな ったりしています。また、2018年から対面相談を始めているので、それについては予後調査をしようかと考えています。