マカオ特別行政区政府の相談役を長年にわたって務めたニューページ・コンサルティングのデイビッド・グリーンが、当局が予定されているマカオゲーミングライセンス再入札手続きの延期を検討すべき理由を説明する。
新型コロナウイルスのパンデミックが予想を超えて長期化し深刻さが増していることで、今後予定されているマカオでのカジノゲーミング運営コンセッション再入札のタイミングについて再検討する必要性が出てきた。
世界中のカジノ業界にこのウイルスが与えた影響が、それぞれの場所で大きく異なる一方で、米国が特に大きな打撃を受けたことはマカオにとって非常に重大であり、この段階ではその公衆衛生上の危機を抑制できるようになるまでは長い道のりになりそうだ。
6つの既存コンセッション契約の半分を保有しているのが、ネバダ州のゲーミングライセンス保有者の関連企業だ。4月、ネバダ州のゲーミング粗収益は2019年同月比で99%減少した。それ以来、これまでに見たことがなく、想像すらしたことがないレベルでどん底へと落ち続けている。ゲーミング粗収益は通常、それら企業が生み出す全収益の半分以下ではあるものの、エンターテイメント、飲食および小売りサービスがゲーミング勝ち金の減少と比例して減少している。社会的距離の確保が大きく関わっているようだ。

もちろんマカオも大して変わらない状況で、ゲーミング粗収益は6月に97%、7月もおよそ95%減少した。マカオが最悪の時期を乗り切ったかもしれないことを示す前向きな兆しがある一方で、その供給市場が足並みを揃えて動くかどうかはまだ分からないままだ。そうなる可能性が低い中で、後に残った経済と信頼へのダメージが、多くの人のマカオを訪れたいという意欲を抑圧し、新型ウイルスが発生する前にしていたようなゲーミングと消費を続ける人ははるかに少なくなるだろう。
マカオ特別行政区政府が入札プロセスの結果に何を期待しているのかはまだ分からない一方で、つい最近の4月までは、経済財政庁長官が、政府は2002年のプロセスで達成したよりも多くのものを次の回では期待していると示唆していた。
長官は、「2003年のゲーミング自由化(原文ママ)と2022年の再入札は異なるレベルでの話し合いだ。2003年、マカオには選択できるほどの十分な条件はなかった。今はゲーミング業界の方向性を決めるための余裕と条件が以前よりもある」と述べた。
7月末に近づく中、長官の自信を共有するのは難しい。今、ゲーミング業界の方向性は、政府や事業者の手が及ばない力によって決められている。パンデミックが世界経済に打撃を与える期間が長引くほど、新型コロナウイルスが最終的に克服された時、またはその地域での市中感染がなくなった時に、活動がかつてのレベル近くにまで跳ね戻る可能性は低くなる。ヨーロッパ、シンガポール、日本、オーストラリアなどで見られているいわゆる感染拡大第2波は、U字またはW字回復の長期化というシナリオがより現実的であることを示唆している。
関係ないが、経済専門家の間では幅広く、サプライチェーンの崩壊または破損、強制的な小売店の長期休業、職場慣行の混乱、大恐慌レベルの失業率による労働者の解雇、避けられない政府の金融刺激策の先細り、そしてオンラインでの購入に慣れてきた顧客に影響を及ぼす恐怖心からプライベートセクターが立ち直るには、何十年とまではいかなくとも何年もかかるということで意見が一致してきているようだ。
政府が2022年6月に現在のコンセッション期限が切れた後、入札を進めるということは、次善の結末を迎えるということだ。行政長官は実行可能な選択肢を持っている。それは、法律第16/2001号13条3項に帰属する裁量を用いて、一方的に既存のコンセッションの期間を延長すること。新型コロナが、その裁量の発動に必要な「 例外的状況」を示していることに疑いがあるはずもない。
上限となる5年間、コンセッション期間を延長することで、コンセッション保有者には再調整し、回復するチャンスが与えられるだろう。また、新規参入の候補者には、コロナ後のマカオの業界としてのパフォーマンスを追う時間がさらに与えられることにもなる。2022年に入札を行うことによって、コロナ後のゲーミングまたは非ゲーミング粗収益のどちらかが回復するというのは決して明らかではない。
今後の入札を延期するメリットとは、延期によって政府には先延ばしとなっているパブリック・コメントの結果を処理する、そして可能な限りの規制改善および効率化を健闘する時間的余裕を与えてくれることだ。それによって確実性は増し、事業者にとってはコンプライアンス費用が減る。
さらにもう一つ、はっきりと目に見えるメリットというのが、政府はコンセッション期間を、マカオそしてその基本法が事実上期限切れを迎える2049年12月まで延長できるという点だ。現在のコンセッションが2027年まで延長されたと想定すると、次の新コンセッションに22年間を残すこととなり、その期間は各コンセッションの現在の期間よりもたった2年間長いだけということになる。もし、2022年に入札が進められれば、その誘惑というのは期間短縮かもしれない。たとえば15年など。そして最後の12年間の期間から可能なことを考え出すのは次の政権ということになる。確実にプレミアが付く。故に2回の短い期間よりも長い最終的な期間というのは、マカオにより優れた結果を生み出す可能性が非常に高い。
政府はどのような方向に進もうとも、新コンセッションの付与に高いプレミア性を積極的に求めるのであれば、反発に備えておくべきだ。パンデミックのリスクは新型コロナウイルスに限られたことではない。鳥インフルエンザ、豚インフルエンザ、MERSそしてSARSの全てが今でもパンデミックの可能性を持っており、その全てが過去20年の間にアジアに影響を与えた。
事業者はそのようなウイルスが特に、旅行、カジノフロア、集会や会議用スペース、そしてホテル客室稼働率に与える長期的な影響への新たな対応策を構築しなければならない。事業者が、マカオまたは別の場所での新統合型リゾート建設に何千億円ものお金を積極的につぎ込むことを確実に見込むことはできない。この次々と展開する新たな動きを理解することに消極的であることは、衰退を予兆させる。