カジノを含む統合型リゾート(IR)の誘致を表明している横浜市が、誘致決定に至った林文子市長と幹部らの打ち合わせ記録や会議の議事録を作成していないことが毎日新聞の情報公開請求で判明した。IR誘致は予算規模が大きいうえに賛否が分かれる重要な政策にもかかわらず、当新聞によると、その意思決定過程を市民が検証できなくなっている。
同市が横浜港山下ふ頭への誘致を表明したのは2019年8月22日。直後に市民から反対の声が上がり、現在も住民投票条例制定の直接請求や林氏に対するリコール(解職請求)を目指す市民団体が活動している。林氏は17年7月、IRについて「白紙」を強調して3選を果たしており、誘致表明に至る経緯について説明責任を果たすように求める市民の声も強い。
林氏は誘致を決めた時期を19年7月末としており、同月31日に4人の副市長らとともに担当職員から「IRの実現に向けて」という資料をもとに説明を受けたことが記された「議事概要」を、9月に市議会で公表していた。しかし、議事概要には林氏らの具体的な
毎日新聞は今年6月、誘致表明に関連する打ち合わせの記録や議事録、メールなどを開示請求した。市は今月、全開示を決定し、19年7月に幹部らへの説明に使った「IRの実現に向けて」と題した資料など4件の文書を開示した。
だが、これらの文書は市の財政状況や実現した場合に見込まれる経済効果などをまとめた資料で、林氏が誘致表明した際の記者会見で使用したスライドの内容とほぼ変わらない。この資料を使って、どのような議論があったのかも一切記されていないという。
情報公開は保管が義務付けられている行政文書が対象になる。同市の規則は行政文書を「組織的に用いるもの」と定義しており、個人的なメモは公開対象外の扱いにされている。IR誘致に関係しているある市職員は「個人がメモを取った会議内容をもとに現場で口頭で指示を出すことがほとんど」と取材に話しており、幹部らとの打ち合わせを記録に残さないことが常態化している可能性がある。
市IR推進室の天下谷(あまがや)秀文室長は毎日新聞の取材に対し「誘致に関する検討は『極秘事項』として少人数しか関わっておらず、口頭で内容を共有できた」と話す。そのうえで「(個人メモは)残っていないと思うが、誘致表明までのプロセスは今回開示した文書や、これまでにホームページで公開した資料などで十分検証できると思う」と説明している。