日本型IRにおいて、長崎・佐世保への誘致活動は比較的順調だ。参入を表明しているのは3者。今回、IAGは、その中のひとつ「カジノオーストリア・インターナショナル」にフォーカスしてみた。日本の地方型IRに進出する狙い、なぜそれが長崎なのか。
まるで縦と横の糸で結ばれたカップルのようだ。長崎とカジノオーストリア・インターナショナル。業界を揺るがした今回のコロナ禍さえもハネムーンに向かう恋人同士に少しぐらいの障壁があった方がいいように、両者の愛を深める触媒になったかもしれない。
1934年にオーストリアに誕生したカジノの老舗。その特徴は伝統にあぐらをかかない柔軟性にある。日本法人の林明男社長が言う。
「コロナによる影響はありますが、オンラインをはじめ、最先端のことにも取り組んで来た。
国有だからといって堅い会社ではありません。その意味で他のオペレーターと比べると、被害は少なかったのではないでしょうか。わたしたちは安全、安心に加え、安定が経営理念にあります」。

日本進出に向けては15年前からリサーチを開始した。そのときから地方型IRに焦点を合わせてきたという。
「わたしたちはもともと湯治というホスピタリティーから生まれ、飲食、カジノへと広がっていった歴史があります。なので東京、大阪といった都市型は最初から視野になかったです。
地方都市をモニタリングする中で古くから海外に開かれていた長崎の歴史、文化、自然に魅了されました。ハウステンボスもあり、長崎をゲートウェイにして日本に多く滞在していただけると確信を持ちました」。
受け入れる側の長崎も長年、地に足の着いた活動を続けてきた。最終的には長崎県にとどまらず山口、沖縄を含めた「オール九州」で一本化されている。林社長は”長崎愛”を強調した。
「長崎の関係者はどこよりもIRをしっかり研究されて、ノウハウを身につけています。他の候補地と比べても相当にポテンシャルは高いと思っています。
その長崎とタッグを組めれば、これ以上名誉なことはありません。わたしたちはオペレーターとして立候補しているというより、相思相愛の関係になれると思うし、ならなきゃいけないと思っています」。
長崎県は早ければ7月中にIR事業者を公募する予定だ。現在、名乗りを挙げているのはCAIの他に日本の「カレント」と香港の「オシドリインターナショナル」の3者。前者は資本力を強化し、後者はMGMの元トップ、アレハンドロ・イエメンジアン氏を招へいしている。だが、これもコロナと同じようにCAIにとっては燃える材料のひとつなのかもしれない。
「長崎が注目されるのはいいことだと思います。長崎はそれぐらい魅力のある都市。わたしたちはいまはいかに集客できるか、日本のコンテンツを長崎からどう発信していくか、そこに力を入れているところ。有益なことができると信じています」。
カジノオーストリア・インターナショナルの一途な思いは実るのか。縦の糸と横の糸が織りなせば、理想的な地方型IRができうるかもしれない。

山本智行:あらためてカジノオーストリア・インターナショナルの歴史、これまでの取り組みを教えてほしい。
林明男: 1934年に設立され、これまで世界35カ国で215件のカジノ関連プロジェクトに携わっている。オーストリア政府が34%の株を保有する国有企業であり、90隻のカジノクルーズ船を展開したノウハウ、オーストリアの文化・芸術関連の強いコネクションを持っている。
山本:日本に進出する狙いは。
林:これまで欧州、アフリカ大陸、アメリカ大陸、西アジア、オセアニアで事業を展開して来た。東アジア進出については長年慎重に検討し、展開する際は「日本」で、しかも地方型IR参入という思いを持 っていた。
山本:なぜ長崎なのか。
林:長崎は古来より日本における海外文化交流の歴史の象徴といえる場所。長崎県、佐世保市の取り組みに共感し、10年以上前から注目してきた。ご存じの通り、オーストリアは世界に4カ国しかない永世中立国であり、首都ウィーンにはIAEA(国際原子力機関)本部が置かれている。平和を象徴する都市・長崎との親和性は高い。
山本:カジノオーストリアの強み、アピール点、他者との違いは。
林:長年培った実績や豊富な知識はわたしたちの強み。また世界35カ国で事業展開し、その全てにおいて規制などをクリアし事業を成功させ、各国の文化にも精通している。九州・長崎IRにおいては、その実績や経験を集大成した世界最高のIRを実現する考えだ。
山本:ライバルのひとつ、香港「オシドリ」がMGMの元トップ、アレハンドロ・イエメンジアン氏を招へいしたが。
林:大手の元トップを招いたというニュースは大勢の人が長崎に目を向けることにもつながった。お互いにフェアに競争し、切磋琢磨できれば、と思う。
山本:長崎で何を実現させたいのか?
林:すでにハウステンボス(HTB)が持つ欧州の街並みの中に、温泉療養・最先端医療・美術館の「和」エリアを融合した独自のヨーロピアンテイストを創造する。
またウィーンフィルやウィーン少年合唱団など、欧州のクラシック音楽やグスタフ・クリムトなどの絵画展、さらには、世界中で平和を願う「世界平和会議」などによる集客で、九州・長崎をゲートウェイにし、地方創生を目指していく。
山本:コロナ禍による影響で修正した点は。
林:わたしたちは「安心」「安全」に加え「安定」の3本柱で取り組んでいる。この3点は企業としてこれからの時代、マスト条件。時代の変化に柔軟に対応できるのがわたしたちの強みだ。
コロナの影響は少なくないものの、最小限に食い止めることはできた。九州・長崎IR実現への思いは不変、一段と高まっている。