世界中のゲーミング産業で働く従業員は、新型コロナウイルス感染症による休業後、職場復帰しはじめているが、彼らがいかにやる気に満ちているかは、これまでどれほどよい扱いを受けたかどうかだろう。
もしあなたがラスベガス・サンズの従業員であったらと想像してみてください。3月17日、企業はあなたが働く1箇所を含む、ラスベガスにある3箇所の所有地について、新型コロナウイルス感染症のパンデミックのため、少なくとも2週間、いやおそらくもっと長く、業務を停止するつもりだと発表します。しかし、恐れないでください。それは休業に関わらず、9,300人の現地従業員の誰一人も、解雇または無給休暇を取らせないと断定する声明もまた発表します。
次に、あなたがホットシュプール・リゾーツの経営するランパート・カジノの従業員であると想像してください。そして5月にあなたのたくさんの同僚達が一時解雇されていたと、直接的にではなく音声録音経由で知らされます。職場復帰するのに最も安心できる企業はどこでしょう。
彼らは新型コロナウイルス感染症のパンデミックからの回復への第一歩に目を向け始めつつも、ここ数カ月の話題の中心のほとんどは、世界中のカジノ事業者の窮状についてですが、その回復の重要な要素となるのは、従業員の健康状態であり、より具体的に言えば、あの最前線の接待従業員があの戦場に戻ることについてどのように感じるのかが軸となるでしょう。
「強力なリーダーシップを発揮し、満足度や積極的な相互作用の観点から従業員を大事にして彼らを気遣ってきた企業は、これから最強となるでしょう」と、ラスベガスを拠点とするConsult HR PartnersのCEOである、ジェニファー・マルティネス氏は述べた。
「従業員にとって、すべてはこの期間中における彼らの扱われ方にかかっています。食品・飲料部門の経営陣や、人事担当、会社の執行部は、どのように彼らとコミュニケーションしましたか?彼らはパンデミックの最初の数週間をどのように処理しましたか?そして、彼らが復帰した時の社内研修の過程はどのようなものでしたか?これらすべての要因は、従業員がどのように感じ、留まりたいか否かについて明らかに違いを生むでしょう。彼らは一時解雇や無給休暇にさせられたせいで、市場には多くの人々が溢れるであろうが、人々は幸せでなければ、彼らが十分大切に扱われてこなかった会社のために働きたいとはならないでしょう。そしてそれは、職場にも表れるようになるでしょう」。
新型コロナウイルス感染症の結果として、世界中のゲーミング会社が事業者であれ、サプライヤーであれ、直面する課題が前例のないものであることに間違いはない。
その上、業界の多くが同時にここまで大きな影響を受けたことはない。米国ゲーミング協会(AGA)は、ネバダ州の20万6,000人、ラスベガス・ストリップの9万5,000人以上の従業員を含む、全米にいる約65万人のゲーミング従業員が新型コロナウイルスによる影響を受けたと見積っている。
2月に15日間のカジノ休業をしたマカオでは、顧客数は国境封鎖のせいでごくわずかなままであり、政府による規制は事業者によるスタッフの一時解雇を防いだ。にもかかわらず、5万8,000人以上の直接的なゲーミング従業員と、カジノ・リゾートの他のエリアで働く多くの従業員が影響を受け、その多くの人々は、発生した休暇と病気休暇を取るか、または一時的に新しい任務に配属されるよう求められた。
ゲーミング規制当局のPAGCORによれば、アジアで甚大な影響を受けた国のひとつであるフィリピンでは、国内におけるゲーミング業界で推定13万2,000人を雇っており、その内訳は、認定IRとカジノに6万3,000人、フィリピン・オフショア・ゲーミング・オペレーターズ(POGO)に3万1,000人、認定ゲーミングステーションに2万7,000人、PAGCORに1万1,000人となっている。
シンガポールにある2つのIRは、両者で約2万2,500人を雇用しており、オーストラリアにある2つの主要カジノ事業者では、2万7,500人近く雇っている。ヨーロッパのカジノは、10万人を遥かに越える雇用をしている。
しかし、それらの雇用者の宿命は、彼らが金銭的な制限や雇用主の優先順位のために働くという規制範囲からさまざまな要因を保留することで大幅に変化している。
ラスベガス・ストリップが適例である。MGMリゾーツとシーザーズはどちらも財政的に厳しく、数千人ものスタッフを無給休暇とした一方、LVSとウィン・リゾーツは彼らへの支払いを続けることを誓うことで、従業員に強力なメッセージを送った。それはとても費用のかかる鍛錬であった。ウィンは1万5,000人の従業員に対するの5月までの総費用は2億5,000万ドルに上ったが、それは長期的には大きな成果を得ることができるものだ。
「ウィンがこの状況をとても慎重に扱ったことにより非常に好意的なPRを得ていることは間違いありません。そして全てのスティ ーブ・ウィンの一件の後で、彼らは今やPRスペクトラムのある一方からもう一方へ交差しています」とマルティネス氏は言う。
「しかし、これは本当に前例がなく、人々はその影響を受けています。有給で雇われていた人々は今やカジノやレストランによって寄付される食料を得に来ています。従業員がどのように扱われているかを確認することは、彼らにとって間違いなく最優先事項です。
私がこれまで聞いたのは、顧客と従業員は間違いなくどの企業がスタッフの面倒を見ているかに注目していて、一部の顧客らは従業員を大事にしていると感じるカジノに、将来訪れようという気持ちにより傾くかもしれません」。
オーストラリアを拠点とするGamePlan Consultantsの創始者であり社長である、スディール・カレ氏は、「カジノが再開したら、休業時に企業が行なった行為が雇用契約に多大な影響をもたらすだろう」と認めた。
「少なくとも今後12〜18カ月は、利益を上げて運営するためのいかなるカジノ資産を期待するのは非現実的である」と彼は言う。「もし従業員自らに金銭と健康の保障があれば、これらの安心感が、前線で働く従業員を介し顧客へ伝わることになるでしょう。このような言語、非言語のコミュニケーションは、顧客を呼び戻すのに大いに役立ちます。
ウィンがしたような、休業期間に従業員に給与を支払うことは、関心や共感を伝えるのに最適な方法です。
悪い慣行とは、従業員を無給休暇にしたり、最前線や幹部補佐のレベルにいる従業員に減給のお願いをしたり、追加の衛生対策のような補償なしの仕事を増やすことが含まれます。
従業員に会社に戻ってもらう、または代わりに他の場所へ移ってもらうための2つの優先事項は、彼らが同等または同じ程度の役割と安全を保障しているかどうかであるでしょう」と、マルティネス氏は付け加えた。
もちろん、休業中に感謝の気持ちを持つこともひとつであるが、同様に事業者にとって重要なのは、従業員に仕事復帰の電話を掛けることが彼らの安全確認にもなるということだ。少なくても理論的には、比較的簡単な修正であるものの、衛生対策の実施は規制の領域間で大きく異なるように見える。
例えば、病気の際、人々は公衆でのマスク着用を長年の習慣としてきたおかげで、他のどの地域よりもアジアでは強制的なフェイスマスクの着用はより簡単なことであった。マカオ特別行政区(SAR)のカジノに出入りする全顧客にマスク着用が義務付けられたとき、ゲーミング規制当局はわずかに眉毛を上げた。今日、マカオにおける新型コロナウイルス感染症の最後の陽性症例から確実に1カ月以上経っているが、ほとんどの人がカジノの中だけでなく、外出する時はいつもマスクを身につけ続けている。
政府によるマスク購入計画の下、マカオの人口63万人に対し1人1日1マスクに相当する7,600万枚のフェイスマスクが、発売以来4カ月で売り切れたと、Conde S. Januário Hospital Centreの臨床ディレクターによって5月後半に明らかにされた。
多くの顧客が、再開時にフェイスマスクを着用するのに抵抗があるネバダ州と比較すると、カジノを含む従業員のロビーグループからの圧力を受け、6月下旬に知事のスティーブ・サイソラック氏がマスクを公共の場で着用するよう指示を出すに至った。
世界的なコロナウイルスパンデミックの渦中でのカジノ再開の現実を評価しつつ、ベテランのゲーミングコンサルタントであるデニス・コンラッド氏は、「カジノの顧客と従業員どちらも、長期間カジノの世界に戻ることを恐れるでしょう」と言及している。この恐怖は、受け入れ尊重されなければならない。
「新型コロナウイルス感染症パンデミック前には、過小評価または当たり前だと思われていたカジノの全ての従業員は、パンデミック後も大事にされ、抱擁され、また価値があり安全であると感じさせる必要があります。
よい習慣は、従業員が安全で安心して仕事に復帰できるようにすることで始まるでしょう」とカレ氏は述べ、「顧客は従業員がそのようにすれば、おそらく安全だと感じるでしょう」と付け加えた。「もし健康と安全が可視化されないのであれば、カジノを再開する意味がありません。
私は、従業員の安全と顧客満足のあいだに乖離を見ません。確かに全体の雰囲気は、顧客と従業員の両者が立ち向かう必要がある戸惑いや不安の一つになるでしょう。もし従業員が新しい異常さの下で快適さを感じたならば、その快適さと安心感は顧客に伝わるでしょう」。
結局は、上層部の誠実さに対する理解の問題である。世界中の娯楽や、エンターテイメント、そしてホスピタリティ産業の中核として、ゲーミングは新型コロナウイルス感染症による最も大きな打撃を受けており、解雇はやむを得ない現実となる。
アメリカでは、MGMリゾーツが発表している一部従業員の解雇は途中の可能性がある6万3,000人もの強力な労働者に対し早期警告を与えている。シーザーズ・エンターテインメントは、3月ネバダ州当局に、新型コロナウイルスの影響として、約3,200人の労働者を解雇する必要がある可能性があり、同時に、全米の複数の小規模事業者も同じような判断を取っていると伝えた。
アジア・フィリピンのIR、オカダ・マニラは、5月に約1,000人の従業員を手放したと発表し、PAGCORは、他の地域でさらに多くの人があとに続く可能性があると懸念しているとIAGに語った。メルコリゾーツとサンズ・チャイナは、数名の中上級管理職を解雇し、大量解雇ではなく組織再編に踏み切る、よりハイレベルの取り組みを行った。
その点で、新型コロナウイルス感染症の苦悩は、自分の手札を正しく使う人にとって、実際に特有の機会を示すことができる。
「事業者がすべきことは、彼らの全体の労働力に注目することと、この危機を無用な人々を排除する機会として使うことです」とカレ氏は述べている。
マルティネス氏は、こう語る。「多くの職名と役割は、現在の環境においてはまったく意味がないでしょう。第二に、従業員と顧客中心の文化を忠実に作るために不景気を利用しなさい。そして一瞬一瞬その文化を生きなさい。第三に、効果的なシフト前の会議を使いなさい。そうすれば従業員は安心感を抱き、戦場に入るための活力を感じます。本当に従業員を大事にし、社会的責任とコア・バリューを約束し、そしてしばしば利害関係者と意思疎通を図り、全経営を通して健康と安全を中心に置く強いリーダーシップのある企業が、それをやり遂げるでしょう。
それらをやり遂げることは、我々の失業者数を減らすことに大きな効果を持つでしょう。そうすることで、彼らは顧客と従業員の間で最高の評判を得た最強の企業として浮上するでしょう」。