世界中のカジノが再開戦略を検討し始める時、縮小する顧客ベースを惹き付けるため、これまで以上に既存の枠にとらわれずに考える必要があるかもしれない。
アーケード式カジノゲームメーカー、シナジーブル ーが最近、米国の成人ギャンブラー1千人を対象に実施した調査の結果を発表した。2020年4月下旬に行われたこの調査によって、カジノ再開時にカジノに戻るとなった場合の、カジノギャンブラーたちの興味深い好みと期待が明らかになった。
調査はいくつかハッとするようなデータを示している。カジノ再開時にカジノで再びギャンブルすると答えたのは調査対象者のた った51%だった。しかし、これら顧客の全員が、心配なく戻るわけではない。戻ると答えた人の26%が、新型コロナウイルスの感染者数が劇的に減った場合にのみそうすると答えた。カジノに復帰するつもりでいる人の5分の1が、外出自粛命令が解除されるまで待ち、別の5分の1が新型ウイルスのワクチンが打てるようになってからそうすると答えた。
この調査は、2月20日から営業を再開しているマカオのカジノの経験によって裏付けられている。過去2カ月間、Inside Asian Gam-ingは、マカオにある様々な施設で、客数のスポットチェックを実施してきた。5月10日時点で、ザ・ベネチアン・マカオ、ザ・パリジャン・マカオ、サンズコタイセントラル、シティー オブ ドリームス、ウィン・パレス、MGMコタイ、ギャラクシー・マカオ、グランド・リスボア、ウィン・マカオ、MGMマカオそしてスターワールドというマカオにある11のIRで、メインのゲーミングフロアにいるプレイヤー数はどの平日の午後も平均たった14人だった。人数のカウントは全て、火曜、水曜、木曜の午後に行われた。その対比をより分かりやすくするために、サンズ・チャイナが所有するカジノだけでも、パンデミック前は一日当たりおよそ20万人が訪れていた。

一部のアナリストは、マカオのカジノ施設の訪問者数は、3月下旬以降実施されている厳しい入境制限が原因で、落胆するほど低い水準のままであると述べている。しかしながら、制限の範囲と性質は、ラスベガスやシンガポールがカジノ再開を認めた時と変わりはない。越境渡航制限などの物理的な障壁(州間であろうと国間であろうと)、輸送手段が利用できないこと(航空機、フェリーまたはバスサービス)、そしてカジノ地を往来する客への物理的な隔離要件、これら全てが、顧客にとって一番お気に入りのギャンブル地への旅行を極めて難しくさせている。故に、財政的な視点から見ると、入境を禁止する障壁がある中でカジノリゾートを再開するという考え方には疑問がある。
構造上、そして法律上の障壁を打ち破ったとしても、熱心な顧客の安定供給を保証することにはならないだろう。シナジーブルーの調査から考えると、カジノは永久に既存顧客の約半分を失ってしま ったのかもしれない。さらに、普段行なっているカジノに戻ると答えたのはカジノ復帰を予定している人のたった35%で、カジノに戻ることを望む人の10人中約3人がお気に入りカジノは会員特典や割引、特別サービスによって決まると述べた。
カジノ事業者にとってこれらの発見が意味することとは?それは単に従業員や常連客の安全に焦点を当てた再開計画があるというだけでは足りないということだ。
カジノ事業者は、自社のロイヤルティプログラムを再評価し、それによるプレイヤーの再投資を大幅に強化して、カジノに復帰する顧客を惹き付け、保持していかなければならない。パンデミック前のマーケティング戦略の大半を捨て、新しいタイプの顧客と彼らの期待を考慮に入れた、新しいセグメンテーションモデルに基づいた戦略を考案しなければならないだろう。
再開後数カ月間は、衛生と安全に関して顧客に安心してもらう上で、顧客対応する従業員が重要な役割を果たす。前線に立つ従業員はまた、顧客体験に欠くことのできない興奮や刺激を生み出すチアリーダーでもある。カジノの休業期間中も従業員を雇用し続けたウィンやラスベガス・サンズなどの企業は、従業員エンゲージメントという形でかなりの見返りを得ることだろう。様々な再始動フェーズを乗り切ることは、顧客体験専門家のブルース・テムキン氏が指摘する通り、優れた戦略的計画というよりも、やる気ある従業員のアイデアやエネルギーを利用するということだ。

カジノ幹部たちは、再開時、損益分岐点にするためだけでも5割から6割の稼働率が必要だという意見で一致している。カジノ企業の中で、近い将来この種の顧客利用を達成できる会社は多くない。パンデミック後の地形の様々な段階をうまく通り抜けるためにカジノは、完全かつ無条件に、従業員エンゲージメントという信条と、顧客体験第一という方針に対する決意を再確認しなければならないだろう。