今回IAGは、長崎県企画部IR推進課課長補佐國廣正彦氏にインタビューを行い、その可能性と課題について話を聞いた。
長崎県佐世保市にある年間300万人を集客するテーマパーク「ハウステンボス」。長崎県はその隣接地区にIR(統合型リゾート施設)の誘致を目指している。2021年に政府が認定する(最大)3カ所の認定区域の中で、1カ所だけ認定されると予想されている「地域型IR」。長崎県は、大阪府・市や横浜市が目指す「大都市型IR」とは異なる「地域型IR」候補の先頭に立 っていると目されている。
国の基本方針策定がIR汚職疑惑や新型コロナウイルスの影響で遅れている中、長崎県は4月上旬に「九州・長崎IR基本構想(案)」を発表した。基本構想 ( 案 ) では、集客延人数は 690 ~ 930 万人 / 年、建設投資額は 3,500 ~ 4,600 億円と試算している。
今回IAGは、長崎県 企画部IR推進課 課長補佐 國廣 正彦氏にインタビューを行い、その可能性と課題について話を聞いた。
上村 慎太郎:まず、 IR が長崎県に適していると言えるところは何でしょうか?
國廣正彦:3点ほどあります。まず1つ目は、候補地は大村湾に面した風光明媚な場所であり、美しい島々が多数あります。IR候補地を起点にしてそういった島々に少し延泊して、レジャーやクルーズなども出来ると考えています。また長崎をはじめ九州は歴史的にも古くから諸外国に開かれており、観光資源が豊富です。長崎県内に世界遺産は2つありますし、食文化も独自なものがあるので魅力になると思います。

2つ目は、IR誘致は長崎県単体ではなく、沖縄県と山口県を含むオール九州で取り組みをして長崎県を推しているところです。エリア内への周遊観光の展開、各地の食材や名産品の調達なども可能です。また2時間圏内に国際空港が5つもあり、海外からの窓口としては非常に強みがあります。あとは、既にハウステンボスがあるので、既にかなりインフラが整っていますし環境アセスの手続きが不必要な点も強みです。
そして3つ目は、地域の合意形成という点です。県議会や佐世保市議会では賛成が9割を超えておりますし、地元紙での地域住民への調査で、賛成が反対を上回ったという結果も出ています。 日本のIR制度設計の中で、整備されて何年か経った更新時に議会の同意が必要であるというルールがありますので、政治的な安定というのは大きなメリットになると考えています。
SK:現在、新型コロナウイルスが猛威を振るっていますが、影響は出ていますか?
MK: 他県と同じでイベントの中止やインバウンドの減少は当然あります。政府の動向を踏まえて最小限に食い止める対策をしております。
SK:IR開業後、今回のような大規模な疫病や災害があった時、どのような対応を考えていますか?
MK:そのような事態になった場合、県庁内に対策本部を設置し、関係市町及び事業者等と連携して対策を講じていく予定です。また、大規模なMICE施設等を緊急の避難所として開放しようと考えております。ただ、これは民間の施設ですので事業者との協議になると思います。
SK:これは今まさに直面している問題かと思いますが、例えば長崎県の対馬では日韓関係の悪化で観光客が激減しています。このようなことが及ぼす観光業への影響について、長期的な懸念はありますか?
MK: その点については、特定の地域からの訪問客に偏らないように地域バランスが取れるよう、例えば国際線を誘致する場合にそういった点を踏まえて対策を講じるというような事も考えられます。
短期的には、中国の富裕層というのはメインターゲットにはなると思うのですが、それだけですとやはり政治的リスクというものは付いてまわりますので、そこは選定されたIR事業者と協議しながらなるべくリスク分散はしておかないと怖いところはあります。 中長期的には、東南アジアや欧米など世界各地から訪問客を呼べるようなIRに磨きをかけて行きたいと思っております。

SK:最近、候補地の隣接地域の住民から反対の声が上がってるという報道もありましたが?
MK: これまでも近隣地域では20回程説明会をしてきました。今回の場合も反対というものではありませんでした。隣接地域の住民の方々が、今後も継続して安心・安全に暮らしていきたいと思っている中で不安なこともあるので、意見交換をする場を持ちたいという話があった次第です。それで、意見交換の場を設けました。県や市としましては、多様な視点や考え方を理解し、様々な機会を通して引き続き丁寧に説明して、各地域における市民の皆様の理解促進を図り、不安に思っている部分を解決していければと考えております。
SK:具体的にはどのような事に対する不安でしたか?
MK: 訪問客が増える事によって交通渋滞が起こるのではないかとか、住環境が変わるのではないかという不安です。
SK:ハウステンボスや近隣観光地には今でも修学旅行や家族連れなどで沢山の未成年者も訪問していますが、IR開業後はIRにも来ると考えられます。そこはどのような想定をしていますか?
MK: それは諸外国の例を見ますと、カジノを見えにくいところに配置したり、導線を分けたりなど工夫は出来ます。子供連れから年配の方まで幅広い年代の方に来てもらいたいと思っていますので、そういう工夫はしていきたいと思っております。
SK:これから国に認定されるまでの間で、何か課題はありますか?
MK: 交通やインフラの整備がいくつかありますので、それを着実に進めて、認定される確実性がより高まるように引き続き頑張っていければと思っております。また、認定が取れたらゴールではなく、そのあと長期的に地域と共に歩んで行ければと考えております。長い視点に立ちつつも日々頑張って行ければと思っております。