日本でのIR開発を熱望する中国企業と、政府関係者への贈賄をめぐるスキャンダルが日本のIR業界を動揺の渦に巻き込んでいる。
昨年末12月25日、クリスマス。業界に激震が走った。IR(カジノを含む統合型リゾート)事業をめぐり東京地検特捜部が、衆院議員 秋元司容疑者を収賄容疑で逮捕した。現職国会議員の逮捕は10年ぶりである。
容疑は、日本IRに参入を目指す中国企業「500.com」社(本社 深セン)の元顧問だった紺野昌彦容疑者らから金品の供与を受けていたというものであった。
事件は数年前にまでさかのぼる。2016年12月、秋元容疑者が委員長であった衆院内閣委員会で「IR推進法案」が可決し、国会で成立する。1999年に当時の石原慎太郎都知事が「お台場カジノ構想」を打ち上げから20年弱。翌2017年8月3日、秋元容疑者はIR担当の内閣府副大臣に就任。翌日8月4日に那覇市で「500」社が開催したIRシンポジウムで講演。秋元容疑者には200万円の講演料が支払われた。

翌月9月28日には衆議院が解散され、10月に行われた衆議院総選挙で同氏は再選。その間、選挙の「陣中見舞い」名目で「500」社側から秋元容疑者に300万円が渡された。同社は秋元容疑者以外にも、下地幹郎氏(維新/比例九州)、宮崎政久氏(自民/比例九州)、岩屋毅氏(自民/大分3区)、船橋利実氏(自民/比例北海道)、中村裕之氏(自民/北海道4区)の5人の衆院議員に現金100万円ずつを提供したとされる。
5人は秋元容疑者が所属していた超党派のIR議連メンバーだったことがあり、岩屋氏以外の4人は沖縄や北海道に地盤を持つ。
500.comはIR開発候補地として沖縄と北海道に眼をつけており、そこからIRを積極的に推進する政治家に続けて近づいていったと伝えられている。
同年12月には秋元容疑者を含む3議員が「500」社本社のある中国深センを訪問。この旅費も同社が負担したと見られている。
翌2018年1月には、ルスツリゾート(加森観光・札幌市)が、北海道留寿都(るすつ)村へのIR誘致計画を発表、「500」社が投資を表明。同年2月に秋元容疑者とその家族が留寿都村を訪問した際にかかった費用76万円相当を「500」社が負担したと見られている。
「500」社とともにIR参入を目指していた「加森観光」の会長、加森公人被告も旅行代金の一部を負担していたとして贈賄の罪で在宅起訴された。留寿都村へのIR誘致は、北海道が候補地を苫小牧市に絞ったことにより立ち消え、2019年9月には「500」社は日本から撤退している。なお、1月17日現在、捜査は継続しており、下地議員以外は「500」社側からの直接的な金銭授受を否認している。
今回の一連の事件が、今後のIR整備にどのような影響を与える可能性があるのか。勿論、IRへの世間的な印象や信頼が損なわれたことに間違いはないだろう。長年、真摯に取り組んできている業界関係者や政府・自治体関係者は突然の逆風に晒されることになるかもしれない。だが、冷静に分析して前に進むことが肝要だ。
IR誘致を目指す大阪市の松井一郎市長は「IR事業者の決定権限を持つのは誘致自治体であり、副大臣ではない」と指摘し、 「権限もないのに俺は力がある、俺は力があると業者に餌をまいて食いつかせた。個人的なオレオレ詐欺事件だ」と非難した上で、「政策と個人の犯罪を一緒にしてどうするのか。メディアはIRに否定的だが偏向報道はやめてほしい」と述べている。
ある大手オペレーター関係者は「IRの運営経験も、ノウハウも無い会社が、(IR事業者決定に)何の権限も無い人にカネを渡して一体何をしようとしていたのか。
我々の常識からすれば考えられない話だし、あってはならない話。ただ膿があるなら出し切って欲しい」と言う。

グローバル・マーケット・アドバイザーズ(GMA)政府渉外担当部長兼パートナーのブレンダン・D・バスマン氏は、こう分析する。「シンガポールやネバダみたいに、強い規制の環境を求める事業者がいるこの業界なのに、IRライセンスを取れる可能性がゼロかほぼない会社が、その業界に影を落としてしまうことが本当に残念です。
今後のヒントとなるのは、数少ない人数の行動を否定するためにはどこまで規制をつけるか、それは上質の事業者が日本と日本人に100億米ドル規模で投資するのと観光を駆動するのに障害になる過剰な規制なのかです。
カジノ管理委員会が発足し、規制構造やIRの整備過程を完成させる責任があります。その中でネバダやシンガポールのような他管轄区から情報を収集しなければならないが、過剰な負担をかけたり、投資やマーケットの可能性を減らさないように気をつけなければなりません。悪役を市場に入れない方法があるし、今回の件で、入れないことがより明確になります。
IRの場合はまだ公式な「利点」を紹介する取り組みが行われていないためにまだ教育がメインのポイントです。IRは投資、雇用、経済展開に面で数百億ドルを採り入れることができます。例えば政府や自治体と協力して世論をポジティブにする事業者の方が、他のよりは有利になるでしょう」
誘致を目指す自治体関係者の1人は「今のところ影響は無い。我々は厳格な規則の下、今までと変わらず手順通り、粛々と進めるだけです」と静かに語った。