エルドラド・リゾーツによるシーザーズ・エンターテインメントの買収が迫っている。これによって、同社の意識は米国内のゲーミング事業と負債削減に集中することとなり、ラスベガス大手のシーザーズが長い間もどかしさを感じてきた日本IRへの野望は立ち消え、同社の韓国IRに対しても疑心を増幅させている。
シーザーズ帝国は再びアジアから追い返される運命にあるようだ。エルドラド・リゾーツによるシーザーズ・エンターテインメントの178億米ドル(約1兆8,800億円)での買収の決定後、シーザーズは日本の統合型リゾートのライセンス取得の活動を中止した。業界のアナリストによると、同社は韓国のカジノリゾートの工事も中止するだろうと予想している。しかし、合併は来年の前半に完了する予定であり、その時まではアジアのゲーミングでの足場を探し続ける。

1973年に創立されたリノを拠点とするエルドラドは、2014年まで3,500万米ドルのEBITDAを生み出す2つ半の施設を所有していた。そしてその年に一連の買収を開始し、そのポートフォリオを26施設にまで拡大した。ユニオン・ゲーミングの予想では今年のEBITDAは6億4,400万米ドルにのぼるという。エルドラドの過去4つの取引全てがラスベガス以外の米国内で行われており、その全てが業務の効率化、事業の相乗効果、そして経費削減の成果を受け、徐々に成長してきている。
4つの大陸に55の施設を持ち、予想EBITDAは23億米ドルを越えるシーザーズは、エルドラドにとって巨大な進歩を示唆している。取引の135億米ドルの負債(その半分はシーザーズから引き受けたもの)がある中で、エルドラドは初年度の相乗効果で5億米ドルを確認したとの見解を示しており、今後も増えていくであろうと予測している。
「ブロックとタックル」
そのような背景の下で、2019年6月24日に買収を協議するための電話会議が行われ、合併会社の舵を取る予定をしているエルドラドのトム・リーグCEOは、シーザーズの世界での野望についての質問に対してこのように回答した。「国外についてはまだはっきりとは決めていない。周知のとおり、当社は国内中心の企業でありブロックとタックルに集中している。だから率直に言って、並外れて大きなものでなければ、国外での機会の方向に進むことはできない」

ユニオン・ゲーミングのディレクター、ジョン・ディクレー氏は「これまで、エルドラド、そしてシーザーズは米国内のゲーミング専門で来ている。そこでの事業が回り、最適なパフォーマンスを見せるまでは、その合併会社が大事なリソースを世界での機会獲得のために使う可能性は低い」と述べた。
グローバル・マーケット・アドバイザーズの政府渉外担当部長、ブレンダン・ブスマン氏は「これは米最大手のゲーミング企業2社を連れてきて、1つの確固たる事業に変えるということだ。エルドラドの実直なアプローチは、一部施設を売却して負債総額を下げながら既存の施設を最大限生かすというものになるだろう」と付け加えた。
サンフォード・バーンスタインのシニアアナリスト、ヴィタリー・ウマンスキー氏はInside Asian Gamingに対して「合併によって、レバレッジ(借入比率)レベルは高くなり、多くの資金を投入してアジア開発に取り掛かることへの欲求は非常に低くなるだろう」と話した。
世界的には、シーザーズはすでに英国に8つのカジノを所有し、最大のカジノには50台のテーブルと130台のマシンが設置されている。そしてエジプトに2つ、南アフリカには190室を持つカジノホテル1軒を所有し、加えてデトロイトに近いカナダのシーザーズ・ウ ィンザー、カイロ・ヒルトン内の小規模カジノおよび570室を持つ非ゲーミングリゾートのシーザーズ・ドバイとの間で運営契約を結んでいる。
通常通りのビジネス
シーザーズは、合併に関して「通常通りのビジネス」というスタンスをとっている。そしてエルドラド同様、Inside Asian Gamingに対して公式声明にある以上のコメントは差し控えた。81の施設(60以上が米国内の施設)が関わるこの合併には、複数の規制当局、そして株主からの承認が必要となる。エルドラドの創業者一族であるカラーノ家、そしてシーザーズの筆頭株主であるカール・アイカ ーン氏がすでに支持を表明しているこの取引が成立するのはほぼ確実だ。シーザーズのトニー・ロディオCEOがトロピカーナ・リゾートで同様の立場を務め、エルドラドが2018年の買収を完了させる手助けをしたことで、達成の可能性はさらに高まった。
ディクレー氏は「取引成立の可能性が高い一方で、様々な事が起こるものだ。シーザーズは取引が成立するまで通常通り営業をしなければならないだろう。しかし、少しばかり努力がペースダウンしても驚くことではない」と話す。
ブスマン氏は「もしシーザーズが長期的な成長戦略の一環として日本または韓国に興味を持ったならば、合併発表前にしていたような努力を続ける必要があるだろう。プロジェクトへの関心が低い場合、パートナー企業や政府はすぐそのことに気付くだろう」と話す。
8月29日にシーザースは「この度、日本での統合型リゾート(IR)ライセンス取得に向けた活動中止の決定」を発表した。その代わりに「進行中のプロジェクト、およびコミットメントに専念する」と報告した。日本語と英語で発行したプレスリリースで、シーザーズは声明を発表し、トニー・ロディオCEOは「本決定のタイミングは、日本政府およびビジネス・パートナーの皆様が今年後半に行われる可能性のある、プロセスの前進に向けた重要な意思決定へのセンシティビティを受けたものです」 と説明した。

リーグ氏の6月24日の発言も、長い間完成しそうで完成しない永宗島に建設中の7億米ドルの統合型リゾート、シーザーズ・コリアへの疑念を増幅させている。ソウルから離れた永宗島は外国人訪問客にとって韓国への主な入口である仁川国際空港の近くに位置している。しかしながら、仁川にいる情報提供者は、シーザーズ・コリアの現場での作業ペースに変化はないと報告しており、シーザーズ自体は国外での機会に関するリーグ氏の発言は同社の韓国への野望を反映するものではないと主張し続けている。
償い
合弁会社でもあるシーザーズ・コリアは最終的にアジアのゲーミング拠点を与えてくれるものであり、一部はシーザーズの前会長兼CEOのギャリー・ラブマン氏が自身最大のミスと呼んだマカオカジノライセンス獲得失敗への償いの意味を持つ。シーザーズの前身であるハラーズは、2001年にマカオのコンセッションへの入札を行わず、そしてシーザーズとして、メルコ・クラウンが2006年に9億米ドルで手に入れたウィン・リゾーツのサブコンセッションを購入するチャンスを断った。シーザーズはその後の2007年に、コタイの端にあるオリエント・ゴルフクラブを5億7,800万米ドルで取得したが不運な結果に終わった。この取引が同社にマカオのゲーミングライセンスを与えてくれることはなく、代わりに1億4,000万米ドルのキャピタル・ロスを生み出した。
2014年に始まり、2021年の開業が予定されているシーザーズ・コリアは、720室以上の客室、スイートそしてヴィラを作る計画をしている。
プロジェクトのウェブサイトには「ギリシャ・ローマ様式建築の影響を伝統的かつ現代風にブレンドすることで、紛れもないシーザーズとなる」と書かれている。外国人専用カジノの枠を超え、会議センター、多目的シアターを含む複数のライブエンターテイメント施設、有名シェフによるレストラン、シーザーズのクア・バス・アンド・スパ (Qua Baths and Spa)、そして「特長的な屋内外プール体験」を提供する。
8月のシーザーズ第2四半期業績報告の中で、アナリストがロデ ィオ氏にこの韓国計画の進捗について質問した。
「確実に今の当社の焦点だ。これまでに8,000万米ドルという額を投入してきた。今後1,2カ月はそこに意識を集中させ、取締役会への提案を決定していく」と回答した。
シーザーズのエリック・ヘシオンCFOは「将来的なプロジェクトへの負担上限額は6,000万ドルだ」と付け加えた。 翌日のエルドラドの決算報告の中で、リーグ氏はシーザーズ幹部が述べた内容について詳しく話すことはしなかった。

ヘシオン氏が言及した資金需要は大きな額には見えないかもしれない。しかしシーザーズの2018年決算報告書では、5億米ドルを超える負債でその残高を調達することが計画されており、買い手が負債削減を目指している時に魅力的ではない。おそらく最も重要な点は、外国人専用カジノとして、シーザーズ・コリアがリーグ氏の「並外れて大きい」という要件に及ばない可能性が高い事だ。2017年4月にオープンしたパラダイスシティは、これまでに5億7,800万米ドルの収益に対して5,500万米ドルの営業損益を作り出した。
GMAのブスマン氏は「アジア市場が未だ好調である一方で、韓国は地元民の入場規制によって前に進めるのが難しい状況である」と話す。バーンスタインのウマンスキー氏は、シーザーズ・コリアが合併会社の下で「ほぼ確実に消滅するだろう」と考えている。
「売却はかなり容易」
カジノ会社の元幹部、ハワード・ジェイ・クレイン氏は、ウェブサイト「Seeking Alpha」に、シーザーズ・コリアはアジアのゲーミング会社に「売却はかなり容易」だろうと書いている。また、シーザーズのようにこの地域に拠点がなく、アジアへの入口を強く欲している企業にとって魅力的であるかもしれない。しかし、仁川は2015年に2つのゲーミングライセンスを提示し、10社が当初関心を表明した後、同市が完全な状態で受け取ったのはたった2つの申請のみで、ライセンスは、仁川空港で統合型リゾート、インスパイアを開発する米部族カジノ事業者のモヒガン・サン1社にしか発行されなかった。2つ目のライセンスはまだ残っている。
シーザーズは積極的に日本でのライセンス獲得を目指していた。8月29日に日本ライセンス取得に向けた活動の中止を発表する前は一部のアナリストはそれがリーグ氏の「並外れて大きい」機会という要件に一致すると見ていた。シーザーズは早い時期から大阪、横浜そして北海道でのIR活動に参加している。
日本IRのタイミングは、これからでも長い目でシーザーズに有利に働く可能性がある。CLSAからの最近のレポートは「2025年5月の万博開幕前にIRを完成させようとする大阪の努力にもかかわらず、日本初のIRのデビューは2026年以降となるだろう」と述べている。 CLSAの東京在住のリサーチアナリスト、ジェイ・デフィバウ氏による「It’s Almost Raining Yen!」、そしてより最近に書かれたサンフォード・バーンスタインの「Long View」の両方が日本の選定プロセスは2021年中に本格的に始まると予想している。CLSAは最終的に日本で10カ所のIRができ、第2弾の選抜は2020代後半に行うだろうと予想している。

合併を発表するカンファレンスコールの中で、将来的な買収の可能性について聞かれたリーグ氏は「この合併会社に足りないピ ースは、我々が展開していない国際市場だ。しかし、我々がその方向へと向かった時には数年が経過しているだろう」と認めた。
ディクレー氏は「長期的に見て、もし新経営陣が成功を収めれば、新生シーザーズは大幅に低い経費ベースと、より柔軟な資本構成を持つことになるだろう。理論上はそれが将来、国外でのより大きな機会に向けてシーザーズにさらなる競争力を与える。ただし経営陣がその方向に向かった場合の話だ」と語る。
ストリップ
ーザーズ・エンターテインメントの取得でエルドラド・リゾーツはラスベガス・ストリップでの足がかりを得る。しかし、エルドラドのトム・リーグCEOは合併を発表するカンファレンスコールで、約2万の客室、約5万6千㎡のカジノスペースを持つ、ストリップにあるシーザーズの8つの施設は「必要量を超えたストリップでの露出」かもしれないという考えを示した。
8月初めに行われたエルドラドの第2四半期業績報告で、リーグ氏は「シーザーズ取引に関して、我々はラスベガス・ストリップの資産売却を真剣に検討していることを明確にしてきた」と繰り返した。
合併会社のトップを任されたリーグ氏は、ストリップの施設のいずれの取引も、合併成立後、予想では来年の前半「6月30日よりも前の日程」で行われるだろうと述べた。 もしエルドラドが、シーザ ーズの「ストリップにあるかけがえのない資産」と呼ぶ施設のいずれかを実際に売却する場合、買い手には困らない可能性が高い。
シーザーズが持つ8つのホテルはストリップの地理的中心エリアに集まっている。1966年にオープンした草分け的存在の旗艦統合型リゾート、シーザーズ・パレスはストリップの西側に位置するが、他の7つの施設に加えて、ストリップ唯一のジップラインと168mという世界No.1の高さを誇る観覧車「ハイローラー」を備え、小売店や娯楽施設が立ち並ぶ2014年オープンのリンクプロムナード、そしてその後ろにある今後の開発用地は東側にある。シーザーズ・パレスの西には2,520の客室と約1万900㎡に広がるカジノを持つリオ オール スイート ホテル & カジノを所有している。
コンバージェンス・ストラテジー・グループのマネージングパートナー、スコット・フィッシャー氏は「リオは長い間競売にかけられており、解体されてカジノ以外のものが建設される可能性があると言われてきた。他のカジノのいくつかはむしろ時代遅れではあるが、素晴らしい立地にある。従って不動産的価値は高い」と話す。

シーザーズは12億米ドルをかけた客室改装プログラムの真っ只中にあり、2021年の完了が予定されている。
グローバル・マーケット・アドバイザーズの政府渉外担当部長、ブレンダン・ブスマン氏は「複数の(ストリップにある)施設が売りに出されるだろう。一般的な見方ではプラネット・ハリウッド、パリス、そしてバリーズだ。ほとんどの人が、シーザーズ・パレスとフォーラム・カンファレンスセンターに近いことから、シーザーズはリンク、ハラーズ、フラミンゴの区画は保持すると見ている。これらの施設に興味を持つ可能性のあるストリップの既存の事業者が1社か2社あるかもしれないが、新しい市場参加者も現れる可能性が高い」と言う。
ユニオン・ゲーミングのディレクター、ジョン・ディクレー氏は「我 々の見方は、エルドラドがラスベガス・ストリップのいずれかの施設を適正な価格で手放すというもので、あらゆる施設が検討されていると考えている。潜在的な買い手に関しては、その候補数はかなり多い。シーザーズの売却プロセスの中で、ゴールデンナゲットカジノを所有するランドリーズのティルマン・ファティータ氏がシーザ ーズの獲得を狙った」と話す。
既存リゾートの購入は通常、ゼロから作り上げるよりも大幅に割安となる。頻繁にシーザーズ施設の買い手候補として名前が挙がる億万長者のフィル・ラフィン氏は、2009年にMGMからトレジャ ーアイランドを7億7,500万米ドルで買い取り、同じ様なリゾートの建設には27億米ドルがかかっただろうと予想している。
施設売却は、エルドラドの買収の一部となっている135億米ドルの予想負債を相殺する助けになるだろう。ラスベガスの外では、現地または米規制当局が合併会社による市場独占を阻止するために事業の売却を命じる可能性がある。エルドラドはすでにミズーリ州カンザスシティにあるアイル オブ カプリカジノ、そしてミシシッピ州のヴィックスバーグにあるレディーラックカジノを、ニューヨーク証券取引所に上場するツイン・リバー・ワールドワイド・ホールデ ィングスに2億3,000万米ドルで売却することを発表している。