5月に東京で開催されたジャパンゲーミングコングレスは、日本のIR展開への貴重なインサイトを参加者たちに提供した。しかし、現地担当者と海外の利害関係者との間にある言葉の壁が問題を複雑化している可能性について考える。
今年のジャパンゲーミングコングレス(JgC)の間、参加者たちは、統合型リゾート(IR)に対する世間の認識から、飲食およびエンターテインメントなどのゲーミング以外の話題、そしてイベントに参加する事業者が日本市場に向けて描くビジョンまで、様々なトピックについて情報を得ることができた。そこでさらにいっそう明らかになったことの1つが、日本語から英語、またはその逆方向の翻訳の中で、イベントに参加する講演者と担当者の間でどれだけの重要な情報が失われ得るかということだった。
単語を選ぶ際の微々たる違いでさえも、今後数カ月でどのように規制や最初の3つのIRのビジョンおよび実現可能性が決められるかにおいて、天と地ほどの違いを生み出してしまう可能性がある。この市場が現在の位置にある理由の一部に、両方の言語で同じくらい上手く伝わる最適な単語や言い回しを見つけるのが難しいということがある。日本市場でこの業界が成功するためには、シンガポールが2000年半ばにそのプロセスを開始して以降、世界が発展させてきたIRのための最適な枠組みの中で日本市場でこの業界が成功するためには、翻訳・通訳の中で失われるものがないということが絶対条件だ。
翻訳の中で失われていないものの1つに、MICE(Meeting – 会議・研修・セミナー、Incentive – 報奨・招待旅行、Conference – 大会・学会・国際会議、Exhibition – 展示会)施設の拡大に焦点を当てながら、観光を推進していくという「日本人が持ち続ける願い」がある。彼らは最初から、「IRが国内観光における中心地の役割を果たすこと、そして、2016年12月に通過した当初のIR推進法がその触媒の役割を果たすこと」を願ってきた。
しかしながら、日本のゲーミング市場の未来へのカギの1つは、最終的には将来のカジノ管理委員会が決定する300強の規制であるだろう。委員会は90人以上の委員で構成される予定で、60億円以上の予算がつけられている。カジノ管理委員会の委員発表が先延ばしにされたことでスケジュールに数カ月後の遅れが出てはいるものの、委員会発足のプロセスは前に進み続けている。
一方、担当省庁の創設で、これらの規制を拡大し、委員会が発足すればそれを管理する仕事が続けられる。この新庁の財源は直近の通常国会で成立しており、日本の国土交通省の傘下に入ることが決まっている。
JgCの期間中に、統合型リゾートの将来を形作る助けとなる多くの知識を提供したパネルの1つが、IR誘致入札においてトップを走る企業の経営幹部たちが複数参加した最終日の最終パネルだ った。そのパネルでは、現在5年に設定されているライセンス期間の短さに潜むいくつかの課題、そして他の主要地域と比べて短い5年という期間をベースに、この高額なプロジェクトの資金を調 達する能力に焦点を当てて議論が行われた。マカオでは最近SJMとMGMのコンセッション(ライセンス)が2022年に延長され、全てのコンセッション(ライセンス)保有者がそれぞれ2022年の期限に設定されている同じタイムラインに足並みを揃えており、大半の事業者に20年というライセンス期間が与えられている。シンガポールも最近2つのライセンスを10年間延長し、当初の10年という期限を越えた市場への投資を確保している。
地方の広大な土地に興味を持つ事業者にとっては日本の5年という枠は厳しい。なぜならこれらのプロジェクトのスコープ(サービス範囲)とリーチ(到達範囲)には巨額の投資が求められるからだ。多くの公開レポートが、これらの象徴的な施設のカジノ、ホテル、MICE、エンターテイメント、小売、飲食そしてその他ゲーミング以外の設備への初期投資には100億米ドル(約1兆900億円)以上の費用がかかると予想している。事業者にとって、5年というライセンス期間の中でそれら施設への投資のリターンを実現させるのは困難だろう。
一般的に、この規模の大半のプロジェクトはそれらへの投資を7年間で回収することを想定しており、ライセンスが保証される期間が限られていることを考えると、その期間の2年間を奪うことはプロジェクトの実行可能性をより困難なものにしてしまう。いずれの事業者も入札で優位に立つためには日本のパートナー企業(1社またはそれ以上)が必要であると見られている一方で、この事実はプロジェクトに求められるであろう負債比率のレベルに幾分かのプレッシャーを与えている。
このJgCパネルの大半の参加者は、「有力パートナーの役割を果たすであろう日本の銀行は、このレベルの投資にオープンな姿勢を見せている」と主張した。しかしながら、期間が短い事とこれらの条件の下での借り入れ関連費用のせいで、世界のお金がどれくらい市場に流れ込む可能性があるかについてはまだ回答が出ていないという状況だ。より強いバランスシートを持つ事業者には、自己資本比率の低い会社よりも大きなアドバンテージが与えられる可能性が高い。 パネリストの多くが、その割合はおよそ半々くらいになるだろうという意見で一致した。

地方レベルの企業でさえも、規制の枠組みが今後数カ月間で確立される中で、大規模プロジェクトの財政的制約に関して深く理解することが最優先課題となる。これには、日本企業そして運営を行う相手企業の両方が財政面の課題、そして規制構造が事業者への費用や規制当局への執行費用に与えるかもしれない影響について、完全な透明性を持って確実に話し合うことが含まれる。
観光は推進力として、今でも翻訳で失われるもののないトピックの1つではあるが、最大の結果を出すためには、全当事者間の徹底したコミュニケーションが必要だ。ある事業者は、観光は「プログラムのモデリングにおいて不可欠だ」、そして「他他県と協力したりして、IRへの訪問客に日本の全てを見てもらうよう仕向けていかなければならない」と話した。
日本側は、IRが成功するには、「広域な地方へと延びるはしごを持ったハブ的役割を果たさなければならない」という非常に明確なメッセージを発してきている。シンガポール、ラスベガス、マカオの全てに、観光のハブとして成功したIRがある。 ゲーミングとゲーミング以外の資産を使って、IRは日本の他の地域への入口とならなければならない。
今後数カ月で規制プロセスが明らかになっていくにつれて、各入札業者が全ての利害関係者に明確に日本IRのビジョンを示す強固かつ多様なチームを構築することは不可欠であり、翻訳で何も失われていないことを確実にしなければならない。日本はネバダ州、シンガポール、マカオそしてその他の主要地域ですでに確立されている厳しい規制構造に頼る可能性が高い。ルール作りに関するこれらの動きのひとつ一つが市場での機会だけでなく、事業者への規制コスト、カジノ管理委員会、そして度合いは低いが地元コミュニティに影響を与えることになるだろう。
日本はそれでも世界で最も大きなゲーミング機会の1つであ る。市場の可能性を実現するカギとなるのは、日本がカジノ管 理委員会の発足、RFPプロセス、そして統合型リゾートの最大 3つのロケーションの最終選択で前進する時に、「重要な意味を 持つ考え方が、翻訳の中で失われないこと」を保証することだろう。事業者、規制当局、政府担当者そしてその他の主要な利害関係者にと って、言葉の壁を打ち砕き、厳しく規制された市場の中で、成長を可能にし、機会を提供する力強い市場を作り続けていくことが必要になるだろう。簡単なように見えるかもしれない。しかし日本が統合型リゾート開発の新基準を打ち立てるという目標を達成するためには、これを実現することが絶対に必要だ。