古来から日本のゲートウェイとして重要な役割を担ってきた長崎がいま再び歴史の表舞台に立とうとしている。2024年から25年にかけて開業する日本初のIR。条件の整った佐世保市のハウステンボスは最大3カ所とされる候補地のひとつとして有力視されている。果たして、その実現性は…
長崎IR開業に向けて障害は何ひとつない。そう断言したくなる。何しろ2007年に民間団体から起こったIR誘致の動きは終始ぶれることなく賛成派が大多数を占めてきた。
それは政権が変わっても不変。2014年には県知事が県議会でIR誘致推進を表明し、一枚岩になった。県民も賛成派が多く、若年層ほどポイントが上がる。合意形成にもたついている他の自治体の推進派には、うらやましい限りだろう。
政財界もオール九州で長崎一本化
強みはまだまだある。今年に入り、まず4月にハウステンボスの西側約30ヘクタールをIR整備用地として売却することで県、市、ハウステンボスの3者が基本合意した。すでに年間約300万人が訪れる完成されたリゾートとインフラがあり、初期投資が少なく済むのはIR業者にとってはありがたいはずだ。しかも候補地の一部は大村湾に面しており、長崎空港から高速艇を使えば、所要時間はわずか30分程度という。
空海のアクセス抜群で東アジアの中心に
地理的な条件も決して悪くない。首都東京からみると一見、遠隔地に見えるが、長崎空港を中心に半径500㌔圏内には大阪を含めた西日本、プサンが入る。1,000㌔圏内に広げると上海、ソウルに東京、横浜。さらに、1,500㌔圏内だと北京、武漢、台北、仙台など(香港、札幌はギリギリ入らず)も含まれ、総人口はなんと10億人 という。空路はもちろん、海路のポテンシャルも高い。大型クルーズ船の国内の寄港回数は九州の港が48%(データは17年)を占め、福岡・博多港がトップというのは「IAG Japan 4月号」でも触れているが、長崎港と佐世保港を足すと、これを上回るのだ。さらに5年後には浦頭港に新たな港ができ、100万人を迎え入れることが可能となる。
問題は陸路か。だが、これも将来的には長崎新幹線、高速道路の整備で対応していく。

魅力あふれる九州の観光資源
もちろん、周辺も魅力に富んだ観光資源であふれている。世界遺産に指定された長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産や軍艦島、さらに世界で最も美しい湾のひとつ九十九島などなど。何より九州のおいしい食材、さらに多種多様なお祭りや地域イベントなど強調材料に事欠かない。
六つの事業者によるセミナーは熱気ムンムン
6月27日には候補地の佐世保市(アルカスSASEBO)でIRセミナ ーが開催され、中村法道・長崎県知事、朝長則男・佐世保市長が出席する中、6つの事業者がプレゼンを行った。参加したのはアゴ ーラホスピタリティグループ、CURRENT株式会社|ソフィテルマカオ・アットポンテ16/Get Nice Holdings、OSHIDORIインターナショナルデベロップメント、カジノ・オーストリアインターナショナル、ナガコープ、そして一般財団法人災害支援財団。それぞれがこれまで展開してきた事業と今後の構想をアピールした。
CURRENT株式会社が「5,500億円の投資」を約束すれば、OSHIDORIは”長崎愛”を強調。カンボジアの首都プノンペンで2カ所のIRを運営するナガコープやアゴーラホスピタリティグループは雇用の拡大、地域の活性化をメリットに積極的に売り込んだ。また、カジノ・オーストリアは純和風の施設をつくると明言。MICEのノウハウに自信をみせ、医療モールに力を入れると話した。
「防災IR」の視点はユニーク
ユニークだったのは「防災IR」という考えを提示した災害支援財団だ。岩城誠理事長は元自衛隊1佐という経験から警備、防災に備え、自衛隊OBらの採用を提案。さらに有事の場合には「長崎IRを防災拠点にし福岡、佐賀、熊本、宮崎、鹿児島空港などと輸送機を使って連携してはどうか。大村湾は穏やかで湾全体が空港に利用できる」と斬新なプランを披露した。なるほど、どこの地域が候補地に選ばれても、このアイデアを取り入れてもいいのではないか。

選ばれない理由がない
今後は政府の手続きに沿って、IR業者を絞り込んでいくことになる。長崎IRにふさわしいのは地方型だろう。ど派手な施設ではなく、すでにあるハウステンボスと調和するような規模も比較的小さい欧州型IRがよく似合う。大規模な都市型の施設は大阪に任せればいい。
ただ、最終決定するのは国。果たして、どうなるのか。3拍子も4拍子もそろった長崎が選ばれなかったらどこが選ばれるのだというのは率直な感想だ。鎖国をしていた江戸時代に唯一海外に門戸を開いていた長崎も21世紀のいまは雇用問題、経済の地盤沈下という問題を抱える。開業以降、長崎IRが地方創生のひとつのモデルケースになることを期待したい。
IR誘致への強みと道程
IAGは、長崎県企画振興部政策監(IR推進担当)の吉田慎一氏に、長崎のIR誘致の進捗状況について話を伺った。
山本智行:長崎は官民一体でIR誘致に取り組んでいる。いつから、そのようになったのか。
吉田慎一:立ち上げたときから。旧民主党政権のころも推進派だった。政権が変わっても終始変わらない。
山本:その原因はなんなのか。県民性なのか?
吉田:人口減少を食い止め、地域活性化のためにはどうしたらいいのか。そのためには雇用を安定、拡大させ、経済を振興させることが必要という意識が高いのではないか。
山本:IRセミナーは500人の定員が立ち見になるほど盛況だった。
吉田:合意形成がなされており、九州の政財界も長崎を九州・長崎IRを九州の第1弾にしようということで団結した。こうした客観的な事実が弾みとなり、大盛況につながったのではないか。
山本:課題はやはり地理とかアクセスになる?
吉田:ハウステンボスの西側を適正価格で購入することになった。大村湾にも面しており、長崎空港から高速艇に乗れば、30分で着く。長崎空港からの距離も大阪とソウルはほぼ同じ1時間15分ほど。東京と上海だったら上海の方が少し早い。事業者からは車で2時間半以内に五つの国際空港があるIRは世界中探してもないと高評価されている。
山本:長崎はクルーズ船の寄港も少なくない。これは長崎IRにとって、どれほどの重要性があるのか?
吉田:九州が全体の48%占め、博多港がトップ。でも長崎港と佐世保港を足すと、それを上回る。今後、大型クルーズ船が泊まれる浦頭港もでき、100万人の往来が期待できる。
山本:勝算を含めて今後のスケジュールは?
吉田:時期をみて大阪のようにコンセプト案を募集したい。現在交渉しているのは20社ほど。大阪とも連携していければと思っている。
開業へは最短のスケジュールにしたい。九州・長崎IRが国が目指す地方創生につながるように。3カ所に選ばれるように努力していく。