クイーンズランド州政府は豪ゴールドコーストに2つ目のカジノを作る計画を受けとったが、既存施設の事業者であるザ スター ゴールドコーストは2つが共存する余地はないと語る。
クイーンズランド東南端の414km2の土地に広がり、絵葉書のように美しい青い海と白い浜の海岸線が57kmも続くオーストラリアのゴールドコーストは、オーストラリアの次の世界的観光地になるというビジョンを持っている。しかしそれをどう達成するかという明確な計画はまだ難しい問題のまま残されている。

州政府が地方のクイーンズランドで世界に通用する統合型リゾ ートを開発するためのゲーミングライセンスを2社に付与し、そこにはゴールドコーストでの2つ目のカジノが含まれることを発表してから7年、開発候補地、運営候補企業、またはその計画自体が進められるのかどうかについて、これまでのところ一切に明らかにされていない。
州政府は3月に国際観光拠点開発への関心表明を呼びかけ、2つ目のカジノに関する議論を議題に戻したことで、計画は前進すると話す。当初のプロセスが選択地の環境への懸念によって中止されてから約2年後に行われた関心表明は、基本的にクイーンズランドの観光全体計画が2012年の開始時に立ち返ったことを意味する。
しかしその当時から状況は変化している。2015年、政治家たちが州選挙に気を取られている間に、ゴールドコースト初のジュピタ ーズ カジノの所有者であるスター・エンターテインメント・グループは独自の再開発計画を発表することで計画の進行を妨害し、長い間放置されていた施設は10億豪ドル(役748億円)をかけた4年間の再開発によってザ スター ゴールドコーストへと生まれ変わった。
そして今、同企業はゴールドコーストの2つ目のカジノ建設を推進する人たちに明確なメッセージを送っている。「2つが共存する余地はない」と。
輝ける地域
ブリズベンの約80km南に位置するゴールドコーストには、長い間2つの相反するアイデンティティが存在してきた。オーストラリア有数の美しいビーチに恵まれ、ドリームワールド、シーワールド、ウ ェット・アンド・ワイルドそしてワーナーブロス・ムービーワールドという4つのテーマパークを持つ家族連れに人気の観光地であるとともに、バーやクラブが集まる色鮮やかな大人の遊び場、カビルアベニューを持ち、高校を卒業した何千人もの若者が一週間にわた ってお祭り騒ぎをする年に一度の「スクーリーズ」が行われる場所でもある。

しかし、ここはまた、国内で最も早いスピードで成長する地域の1つでもある。過去8年の年間成長率は1.28%から2.25%の間で推移しており、都市の人口は2018年から2025年の間に10万人増加してほぼ75万人に達し、オーストラリアの全都市で6位になることが予想されている。人口統計学者たちは、2035年までにゴールドコーストとブリズベンをつなぐエリアはシドニーと同等の人口を持つまでに成長すると予想している。
これらの数字は観光業の伸びと一致しており、2018年には国内旅行客が過去最高の1,200万人となり、そのうちの400万人は宿泊客であった。しかし、利害関係者たちが見ているのは、昨年は100万人を少し越えただけの国際市場だ。
高まる要求
クイーンズランドのケイト・ジョーンズ観光相は、「ゴールドコーストの機会は、年間でさらに何百万という訪問客、特に海外からの訪問客を惹き付ける新しい磁石になる。世界レベルの触媒的プロジェクトによってゴールドコーストとその素晴らしい観光資源が全く新しいレベルへと引き上げられるあろう」と話す。
すでにゴールドコースト最大の海外市場となっている中国が最優先だ。オーストラリアに年間130万人の観光客を送り込むトップの供給市場であり、その数字は2026年から27年までに3倍の390万人に達することが予想されている。ゴールドコーストはその中でより大きなパイを獲得することを目指している。
しかしながら、「観光客増加の中でクイーンズランドが獲得するシェアが保証されているわけではない」とクイーンズランド政府の広報官は述べている。

「中国人観光客は名のある質の高い施設とユニークな体験を求めている。ゴールドコーストは、ターゲット市場の期待に応え、市場シェアを守り、そしてこの機会から利益が得られるよう変わらなければならない」そうも付け加えた。
自由国民党前政権が2012年に初めて2つ目のカジノ構想を打ち出した時、その狙いは民間セクターのお金を集め、75億豪ドル( 約5,608億円)という巨額の投資を行なって、「ザ・スピット」という理想的な場所で新しいクルーズ船ターミナルを中心に、ホテル、マリーナ、小売、エンターテインメント、ホスピタリティ、公共スペース、そしてレクリエーション施設を開発することだった。ゲーミングライセンスは、運営権を獲得した企業が環境、計画、そして規制上の承認全てをクリアした場合に得られる可能性のある褒美としてぶらさげられていた。
2014年、中国企業の支援を受けるASFグループが最終的に認定ディベロッパーに指名され、ふさわしいデザインを提案する最初の権利が与えられた。しかしそれらの計画は2015年の州選挙で野党である労働党が政権を握り、その直後にクルーズ船構想を中止したことで変更となった。ASFが提示した30億豪ドルのカジノリゾ ート修正案も却下され、プロジェクトは熱心なコミュニティへのロビー活動が行われる中、2017年に永久に消滅した。

一連の問題の見返りとしてASFが発生した費用に対して900万豪ドルの賠償金の支払いを受けた一方で、2つ目のカジノの議論は完全に放置され、今年5月に突然復活するまで暗礁に乗り上げてたように見えていた。
スター誕生
2018年8月、スター・エンターテインメント・グループは4億5,000万豪ドルをかけたドーセットホテルの建設を開始した。ブロードビ ーチにある6エーカーのザ スター ゴールドコーストの土地に建つ53階建てのタワーには316室の客室と423戸のアパートが作られる。ドーセットの前には、すでに1億豪ドルが1つ目のカジノであるジュピターズのアップグレードに投資されており、さらに5,000万豪ドルがレストランの追加、そして4億5,000万豪ドルが昨年初めにオ ープンした6つ星の高級ホテル、ザ・ダーリングに投資された。
これは、すでにブリズベンにあるクイーンズワーフの旗艦施設開発に36億豪ドルを約束し、さらに5億豪ドルをシドニーに投資する事が決まっている企業にとっては相当額の投資だ。しかしザ スター ゴールドコーストはすでにゲームチェンジャーであることを示している。
2018年12月31日までの6カ月間、このリニューアルした施設では、訪問客は前年比で11.8%の増加、平準化収益は22.6%増、そしてVIP売上では90.9%の増加を記録しており、クラウン・パースの2倍以上の数字となった。VIPゲーミングはジュピターズでは提供されてさえいなかったが、ザ スター ゴールドコーストはオーストラリアで最高のサービスだと正当に主張できるまでに変貌を遂げ、明確に中国人向けに作られたVIPゲーミングルームやソブリンルームと呼ばれる最高に洗練されたプレミアムゲーミングスペースなどが用意されている。
スター・エンターテインメント・グループのマット・べキアーCEOは、「ゴールドコーストにこの投資を行なってきた理由は、ここが実際、長期的に見て非常に魅力的な市場だからだ。
土地を所有し、ライセンスは無期限で、相当数のスロットマシンと無制限でのテーブルの設置が認められている。税率は優位性があり、オーストラリアへの移住を見てみると、最も成長の早いエリアの1つでもある。
従って、我々にとって全ての基本部分が非常に魅力的で、ただそこにある建物がとてもくたびれていたように見えたということだ。前の所有者たちはあまりお金をかけないでいたが、我々は市場の将来性を信じており、投資によってそれを後押ししている」と説明した。
スターは、まだ完成したわけでもない。昨年11月、同社と中国の株式パートナーである香港の宝飾品大手、周大福と不動産デベロッパーの遠東発展(ファーイーストコンソーシアム)が、ブロードビ ーチの土地にさらに4棟のタワーを建設する20億米ドル(役2,181億円)の追加投資構想、ゴールドコーストマスタープランを発表した。べキアー氏は、「その狙いは、顧客ベースを拡大するために、ゲストに様々な価格設定の多様なホテル選択肢を提供することだ」と語る。
同氏は、「中国は今やオーストラリアにとって最大の供給市場であり、最近少し鈍化してはいるが、長期的なトレンドは有望だ。十分な客室がないため、我々はその市場には実際まだ大きく足を踏み入れてはいない。より多くを得たいがために今建設を行なっている」と説明した。
今後の展開
クイーンズランド政府は、国際観光拠点の狙いは、2つ目のカジノの建設ではなく、州の観光体験の充実だと語る。政府は、ゲーミングは床面積の5%に制限する予定だと付け加えた。
イノベーション・観光開発局長のダミアン・ウォーカー氏は、「我 々の競争力のあるプロセスが、ゴールドコーストの人々により良い結果を届けることができると確信している。
クイーンズランドはシンガポール、マカオそしてラスベガスの成功をうらやましく思っており、新規投資や再投資を確保することで特に地元の人々やクイーンズランドを拠点とするサプライヤーに雇用や機会を提供したいと思っている」と語る。

ウォーカー氏によると、入札の成功には、エンターテインメント施設、会議スペース、高級ダイニングおよび小売および高級ホテルが欠かせないという。
しかしその入札がどこから来る可能性があるのかということだけはまだ不明だ。少なくとも3社の海外事業者(全てが公言したわけではない)が競争から離脱し、1社はIAGに対して「必要な投資規模に懸念を持っており、ROI(投資利益率)と土地区画が予想よりも小さかった」と説明した。最終的な土地はまだ選ばれておらず、最大11の候補地の可能性が示唆されている中、事業者たちは視察旅行ではたった2カ所しか案内されていないと述べており、その中ではザ・スターの約8km北の10ヘクタールの土地にあるキャリーパークが際立っていた話す。もう一つは奥地で距離が遠すぎたためにあまり魅力的ではなかったと言われている。
それにもかかわらず、ジョーンズ観光相は海外候補者は今でも多く関心を寄せていると主張する。
同氏は、IAGへの文書の中で「自由国民党前政権は、観光業界が成長するには新しいインフラが必要で、この街には世界レベルの統合型リゾートを作るのに十分な規模があると認めたために、ゴールドコーストに統合型リゾートを作ることを最初に提案した。
このプロセスはゴールドコーストに新しい観光インフラを作ることを目的にしており、提案者には実際、単なる素敵な計画で終わらせるのではなく、法的にも契約的にもそれを実現させる義務がある。
ゴールドコーストの統合型リゾートチームに会ってきた。彼らは現在の調達プロセスには今でも多くの支援者がいると言い続けている。
私も、アジアやアメリカの世界最大規模のエンターテインメント組織の10社以上がゴールドコーストへの投資の可能性を楽しみにしていることを報告できる」と述べた。
また、クレディスイスのアナリスト、ラリー・ガンドラー氏とアリス・リー氏によると、 他にも元支持派の1社が国際観光拠点の開発に興味を持っている可能性があり、(スター・エンターテインメント・グループと並んで)2つの組織の1つであるASFは関心表明の初期段階から免除されている。偶然にも、ASFはキャリーパークのすぐ横の土地区画を取得しており、同社は66階建ての高級ホテルと住居用タワー建設の開発認可を受けている。
衝突必至
2つの目のゴールドコーストカジノの推進を復活させるという政府の決定は、ザ スターには受け入れられなかった。
べキアー氏は、「我々の分析では、市場には2つのカジノが共存できるほどの規模がなく、2つ目のカジノがしようとしていることは、海外からの訪問客を現地へ呼び込むための施設になろうとするのではなく、根本的に現地市場で我々により激しい競争をさせることだけだ。これがゴールドコーストにとって正しい事だとは思えず、その考えから反対の立場を取っている
また、反対の理由には我々がゴールドコーストへの巨大投資家だということもる。その通り、我々には刺激的で楽しみな計画があり、ゴールドコーストのためにも、最高の結末は当社のマスタープランを実現させてもらうことだと信じている」と述べた。
べキアー氏は、どちらか1つとまでは言わないにしても、マスタープランは「市場の状況次第であり、明らかに2つ目のカジノの存在はその状況に影響を与える。他にも影響を与えるものがある。もし市場が実際に大暴落すれば、マスタープランをスローダウンしなければならないだろう」と語った解決すべき問題の1つにスロットマシンの供給がある。市場には現在約6,000台のスロットマシンがあり、ゴールドコーストにはクイ ーンズランド州の中で人口一人当たり最大数のスロットマシンがある。そして国内最大の一人当たりの収益を生み出している。従って、新たな権利の追加は可能性が低いと見られる。

最近の報道によると、政府はすでに国際観光拠点という目標に向けて、現地のパブやクラブとの間で最大1,600の設置権の売却に関する話し合いを始めており、これはザ スター ゴールドコーストが持つ数とほぼ同数となる。ガンドラ―氏とリー氏は、それほどの数が必要になるということには懐疑的で、各権利が10万豪ドル(役748万円)、または全てを現金化すると1億6,000万豪ドルという費用は、事業者に重い負担になる可能性があると指摘する。
どちらにしても、アナリストはゴールドコースト2つ目のカジノには15億豪ドル程度の投資が必要となるだろうと予想している。IAGが話を聞いた海外事業者は、「最低でも10億豪ドル」としたが、まだどの企業も詳細な費用分析を完了していない。
ガンドラ―氏とリー氏は、2つ目のカジノは「国内市場が小さいために、経済的に見てゴールドコーストでは実行できない可能性がある」と警告している。開業日を2025年に仮定して、彼らは2.7億豪ドルという合計市場EBITDAをはじき出した。その中で2つ目のカジノは7,500万豪ドルを占める可能性があり、内訳はマスとプレミアムマスから5,000億、VIPから1,000億、そしてゲーミング以外で1,500億豪ドルとなっている。そのようなシナリオの下では、ザ スタ ーのEBITDAは2,000万豪ドル減少して1億3,500万ドルになることが予想されている。
その間、利害関係者は、ゴールドコーストのカジノ全体計画が現実になるかどうかを知るには、今後のRFPプロセスをただ待つことしか出来ない。
ガンドラ―氏とリー氏は、「資金調達プロセスによって、カジノとしての国際観光拠点の資本コストは実行可能ではないかもしれないということが明らかになる可能性がある。しかし、プロセスが最後まで実行され、成功させようとする志願者が出て来れば、州にはその時の政治的見解に関わらず、カジノ建設を促進する契約上の拘束力が発生するかもしれない」と予測する。