最高の人材を確保・維持するという点において、IR事業者は、説得力のあるEVPをはっきり表明することで優位に立つことができる。
カジノ業界は、今後5年間でアジアの新カジノプロジェクトに650億米ドルもの投資を行いたいと考えている。ユニオン・ゲーミングのグラント・ゴバートセン氏、そしてジョン・ディクレー氏によると、「その正当性を証明するのに求められる対EBITDAの供給経路の規模を考えると、期間が短すぎるにもかかわらず、新たに供給される量が多すぎる。これはアジアでは初めてのこととなると、見解をしめしている。
ユニオン・ゲーミングのレポートは、明らかに企業が投資を表明する前に、財務上の問題を熟慮していないということを示唆している。投資利益率よりもさらに重大な課題は、新しいカジノ統合型リゾートの運営に必要な何十万人もの従業員を確保し、維持することだろう。マカオでは、何年にもわたって第一線で働く従業員が危機的なレベルで不足しており、全ての事業者で給料明細の額面は年々上昇している。

現場の従業員とは別に、IR管理には何千人もの幹部職員も必要であり、能力のある管理職レベルの従業員の確保・維持についてはほとんど検討がなされていないように見える。現在、アジアにある既存のカジノ施設全体で、部長クラスの人材の奪い合いが行われていることに気が付く。新しい統合型リゾートの大半が営業を開始する2025年まで、椅子の数は過剰で、それに座る部長の数は極端に少ないという状況が続くだろう。トップの人材を集め、維持したいと考える事業者は、今すぐ求人計画を考え始める必要がある。何よりも、企業ははっきりと口に出して説得力のあるEVP(Em-ployee Value Proposition:従業員価値提案)を示す必要がある。
EVPとは?
EVPは、雇用者と被雇用者の間の交換的関係の本質を要約した声明文だ。一般的にEVPは、核となるメッセージ(EVPタグライン)と、組織が被雇用者にどのような福利厚生を提供するのか、反対に被雇用者から何を期待するのか、そして最も重要な内容として雇用主として他社と何が違うのかということに関する詳しい記述で構成される。故にEVPは、被雇用者が雇用者にもたらすスキル、能力そして経験と引き換えに、組織が彼らに対して提供する主要なサービスを明確に示すものとなる。
いくつか例を挙げる。オンラインくじ事業者のLottery.comは、このようなEVPを作成した。「世界が私たちに何の借りもないこと、そして素晴らしいチームこそが私たちの最大の財産だということを知っています。私たちには偉大な文化と比類なき推進力があり、チ ームメンバーの一人一人が、我々というトライブ(仲間)、そしてバイブス(雰囲気)に合うという理由で慎重に選ばれているのです」 。
ShopifyのEVPはこうだ。「Shopifyです。私たちのミッションは、世の中全員のために取引をより便利にしていくこと。しかし全員のための職場ではないのです。変化でもって成長し、信頼の上で営業し、そして全てにおいてチーム全員の多様な視点を活用します。私たちはスピーディに問題を解決します。つまりは仕事をやり遂げるということです」 。
EVPの作成は口で言うほど簡単なものではない。EVPの設計プロセスは、4つの質問を問うところから始める必要がある。
- 社員に与える報酬はどれくらい独自性があるのか?
- 自社の経営陣のどの点が優れているのか?
- 自社の文化はどんな風に特別なのか?
- どのようにして独自のやり方で社会、コミュニティ、世界にインパクトを与えるのか?
アジアでの営業を望む多くのカジノ企業は、はっきりと口に出されたEVPを持っていない。今後やってくる雇用の慌ただしさに備えるためにも、今すぐ始めなければならない。EVPを設計する手助けをしてくれるスキルのあるファシリテーターを雇おう。このEVPをエンプロイヤーブランディングに活用しよう。従業員一人一人の採用時に、EVPに従って決定を行うことで、最高の人材を雇用・維持しよう。
総括
マッキンゼーによると、複雑度の高い仕事において、平均的な成績を上げる人と高い成績を上げる人の間の生産性ギャップは800 %にのぼるという。アジアのカジノ業界にとって「作れば、人は来る」という時代は遠い昔の話だ。ゴバートセン氏とディクレー氏がうまく締めくくっている。「主に中国の台頭のおかげで、長すぎる間アジアは、カジノ事業者になるには信じられないくらい寛容な場所だった。
しかし今後は、アジア全域と言ってもいいほどのマーケットで、事業者の業績に顕著な違いが生まれ、拡大していき、最も有能な事業者がマーケットシェアを獲得していくだろう。
将来性というのは、質が高く生産性の高い従業員によってのみ決定づけられる。成功を収めるEVPが重要になるのがまさにこの分野である」。
