マカオや他のアジアゲーミング地にとって、新型コロナウイルスからの収益を完全に回復させるには時間がかかるだろう。
マカオでのゲーミング自由化以降、その定説というのは「建てれば、来る」というものだった。 新型コロナウイルスの『すばらしい新世界』において、アジア全域でその定説は「開いたら、来るのか?」に変わってきた。
入境制限が緩和され、客を再び迎え入れるカジノが増えるにつれて、早期段階での答えが見えてくるだろう。この初期のゲーミングの回復の形がどうであれ、コロナ前の収益水準まで業界を戻すための行く先に長い上り坂があることは隠せない。
マカオ大学のゲーミング専門家、リカルド・シウ氏は、「マカオのGGRが、2022年または2023年までに2019年の水準に戻れると願いたい」と話す。ゲーミングテーブルでの座席数が削減され、1台ごとにマシンの電源が切られ、そしてその他にも能力の制限がある状況の中でカジノは営業しているために、この地域の今後は確実とは言い難い。

それでもなお、マカオでは4月から8月までに95%減少したゲーミング粗収益、そしてシンガポール、フィリピンそしてカンボジアでは第2四半期にゼロを記録したカジノ収益ついては、渡航制限の緩和が確実に大幅な改善をもたらしてくれる。
政府が2月に15日間の強制休業を命じて以降、マカオのカジノはパンデミック中も営業を続けてきた。3月に厳しくなった渡航制限は、7月にはまずは隣接する珠海市からの旅行者向けに緩和され始め(中国本土の移動追跡アプリの健康コードがグリーンで、7日以内のウイルス検査要請結果提示が条件)、その後8月には個人訪問スキーム(IVS)ビザが広東省住民を対象に、そして9月23日からは中国本土の残りの地域の住民を対象に再開された。昨年、マカオへのIVS旅行者数は過去最高の1,310万人に達し、中国本土からの旅行者2,790万人のうちの47%、そして全体の旅行者数3,940万人の3分の1を占めていた。2019年は広東省からのあらゆる種類の旅行客が同様の割合を占めていた。
旅行を活性化させるために、マカオ政府観光局とカジノコンセ ッション保有6社は、本土へのマーケティングを開始し、訪問客への特別プロモーションを用意している。業界ウォッチャーたちは10月半ばまでにビザ発行数は新型コロナ前の水準に戻ると予想している。
LBITDAよ、さようなら?
アナリストたちは訪問客の増加と共にゲーミング粗収益も増加すると見ている。モルガンスタンレーのアジア太平洋マネージングディレクター、プラビーン・チャードハリ氏は、マカオで過去最高のゲーミング粗収益となった昨年10月の33億米ドルと比べて、今年10月は70%減少すると予想している。
JPモルガンのアジアゲーミング、レジャーおよび教育部門トップのDS・キム氏は、より楽観的に見ており、GGRは55%から60%の減少で推移すると予想している。
キム氏は、アナリストのデレク・チョイ氏とジェレミー・アン氏との共著のレポートの中で、「損益分岐点は2019年の水準の35%から45%のあたりとなっており、大半の事業者がプラスのEBITDAを達成できるためにこれは重要な基準だ」と書いている。
第4四半期全体では、サンフォード・バーンスタインのシニアアナリスト、ヴィタリー・ウマンスキー氏は昨年の90億米ドルから40%の減少へと回復が加速すると予想している。JPモルガンのキム氏は、第4四半期の減少幅は40%から45%になると見ており、2021年の収益は第1四半期に15%減、第2四半期に10%減、そして第3四半期には2019年の水準に戻ると予想している。
もう一方で、ザ・イノベーション・グループの国際事業計画・分析部門シニアバイスプレジデント、マイケル・ジュー氏は、「第4四半期のGGRは少なくとも3分の2減少、70%から75%の範囲になる可能性の方が高い」と予想している。
クレバナウ・コンサルティングのトップ、アンドリュー・クレバナウ氏は「マカオについては楽観視できないという見方を維持する」と話す。「マカオのGGR水準は、人口の7割が受けられる安全かつ有効なワクチンができるまでパンデミック前の水準に回復しないだろう。十中八九、それが2022年のどこかの時点まで起こることはなく、ゲーミング粗収益がパンデミック前の水準に戻るのは2023年になる」。
ジュー氏は、「ワクチン、そして(または)治療薬開発が成功した中であっても、完全回復を見るには恐らく1年以上かかるが、その後やってくる2022年のコンセッション再入札がその他の面でより曖昧にさせる可能性がある」と付け加えた。
消費者信頼感
バーンスタインのアナリスト、ティエンジャオ・ユー氏とケルシ ー・ジュー氏の警告付きの9月のレポートの中で、ウマンスキー氏は、予想は「この段階では大部分が知識に基づいた推測のままである。我々は、回復の推進力は、顧客の旅行と消費への信頼レベルになると見ており、香港からマカオへの移動手段の再開、そして長距離移動を円滑にする中華圏から広東省/香港/マカオの空港への航空便の増便が鍵となる。さらに、回復ペースは一部、何らかの大規模金融緩和策(現時点では可能性は低い)など中国における経済環境に推進される」と述べた。
パンデミックによって鈍化してはいるものの、ジュー氏は中国人消費者はゲーミングの回復を支えるための十分な可処分所得を持っていると見ている。
同氏は、「長期的に見ればそうなるであろうが、それが今後12カ月ほどである可能性は低い。彼らの多くが、どの方向に進むかを確信するまでは、ある種静観の姿勢を取る」と話す。

マカオ大学観光・統合型リゾート研究所も指導するシウ氏は、 「米中貿易摩擦と政治的な緊張関係の下での中国人顧客へのマイナス収入と資産効果が今後数年間市場を悩まし続ける可能性がある」と話す。
香港との繋がり
まだマカオの旅行パズルでは大きなピースが抜けている。香港だ。マカオとは違い、繰り返しやって来る新型コロナウイルスの流行の波を経験している。香港からマカオを訪れる人は、依然14日間の隔離の対象となっている。2019年、香港からの訪マカオ旅客数は735万人にのぼり、マカオを訪れた人のほぼ5分の1を占めていた。しかし影響はそれ以上に及んでいる。
「多くの人は、マカオへの交通のかなりの部分が香港経由であることを理解していない」。デルタ・ステート・ホールディングスのマネージングパートナー、デビッド・ボネット氏は説明する。それには、大抵が深セン市からの、香港とマカオへの旅行を組み合わせた中国本土からの旅行者、そして香珠澳大橋によって移動が簡単になったために目的地はマカオで香港国際空港に到着する人などが含まれている。
マカオのゲーミング元幹部のボネット氏は、「彼らは、空港まで妨げるものの無いインフラを作り出すのに15年を費やし、200億米ドルの橋を建て、全てのバスの契約を行なった。
彼らは非常に効率的なシステムを構築し、比較的小さな地理的エリアに膨大な数の観光客を惹き付けていた。そして彼らは、(新型コロナウイルスによって)突如としてそこに封鎖物を非常に効率よく設置した。そして元いた場所にもどる道を探し出さなければならなくなった。それには香港が含まれる」と話す。
大半のアナリストたちが、マカオの回復を引っぱるのはプレミアムプレイヤーたちだと予想する。定員制限は、事業者が最も消費額の多い客に働き掛けることを意味する。アナリストたちは、プレミアムプレイヤーは新型ウイルスに付随する経済的苦痛から受けた影響が比較的少なく、より旅行への備えができていると見ている。しかし、全員が「VIPがマカオの復活を引っぱる」と考えているわけではない。
「マカオでの回復はマスを当てにすべきだ。VIPは非常に質の低い収益で、低マージン、高ボラティリティ、非常に競争の激しい画一化されたビジネスだ。
統合型リゾートは、毎日2万人以上の来場者が必要な事業計画の上に築かれており、主にマス市場(ゲーミング)、マス市場及び高級小売りビジネスを推進しなければならない。IRは少数のVIPがや ってきてプレイすることでは持続できない」と付け加える。
ホームクッキング
マカオに加えて、シンガポールが7月1日にIRを再開した。8月下旬、PAGCORはマニラのカジノに対して、定員の3割で「トライアルラン」の営業再開を始めることを許可した。韓国の外国人専用カジノは再開し、その後新型コロナウイルスの再流行で休業し、江原ランドは期間中、主に休業を続けてきた。済州島の自治カジノ政策部門は、新型コロナウイルス対策を実施し、8あるカジノのうちの4つをオープンさせた。フーコック島にあるベトナム国民が唯一入場できるカジノ、コロナリゾートは10月14日まで資格のある国民を対象に入場料を無料にしている。それらの土地およびこの地域内の他の場所は、事実上外国人訪問客が一切入っておらず、特に外国人専用カジノにとっては厳しい状況となっている。
アンドリュー・クレバナウ氏は、「新型ウイルスを制御できている隣接した地域間のトラベルバブルの構築が、初期の回復にとって最も大きなチャンスを与えてくれる。だか、残念ながら他のバブル同様、トラベルバブルは割れやすい。ある地域での新型ウイルスの再流行が、トラベルバブルがはじけることにつながり得る」と話す。マリーナベイ・サンズ(MBS)とリゾートワールド・セントーサ(RWS)のゲーミングフロアは、ロイヤリティカード保有者と、3,000シンガポールドル(約23万円)のカジノ年間入場料を支払ったプレイヤーのみを対象に営業している。シンガポールは、(9月18日時点で)マレーシア、中国、韓国、そして日本からの企業または政府後援の「必要不可欠な」出張を認めており、到着および出発時の検査に加えて最初の14日間は「管理日程」での行動、そして9月上旬からは、ニュージーランドとブルネイからの訪問者に隔離無しでの入国を認めたが、訪問客数は少数に留まっている。情報筋は、これらの例外はカジノ収益に有意義な影響を及ぼしていないと指摘する。 Inside Asian Gamingが経営陣から得た情報によると、RWSの主要アトラクションであるユニバーサル・スタジオとシー アクアリウムは、ホテルや「大半の」飲食店および小売店と共に営業しているという。モルガンスタンレーのチャードハリ氏、ギャレス・レオン氏、トーマス・アレン氏は、「RWSは75%という同業他社の中でも最も高い海外旅客へのレベニュー・エクスポージャーを持っているために、海外旅行が復活するまでは当然MBSよりも回復が遅れることになる」と書いている。
MBSでは、屋上スカイパークがインフィニティプールと共にオープンしており、後者は(通常通り)予約制で宿泊客専用となっている。MBSはシンガポールの定員250人での試験プログラムの下で10月に会議を再開する予定をしており、MICEイベントには新型コロナ衛生・安全プロトコルが用意され、カーボンニュートラルになると話す。
トライアルラン
モルガンスタンレーは、フィリピンでは、ブルームベリー・リゾーツのソレアでのゲーミング粗収益の53%が現地プレイヤーから生まれており、回復できるチャンスは高くなっていると予想する。ソレアには、パンデミック中もずっと長期滞在ゲストが滞在していた。
ブルームベリーのCFO兼財務部長エステラ・トゥアソン・オケーニャ(Estella Tuason-Occeña)氏によると、規制機関であるPAGCORの「トライアルラン」緩和によって、ソレアは小売や大半のレストラン、そして「招待客」向けにカジノを再開することができたという。
トゥアソン・オケーニャ氏は、「PAGCORおよび政府から許可され次第、より能力を拡大して再開する準備ができている」と説明する。
シティー オブ ドリームス マニラのCOO、ケビン・ベニン氏は、「ロ ックダウン中、我々は最高レベルのサービスおよびサポートを届ける多数のタッチポイントを備えたクライアントのための新デジタルインターフェースを構築することに集中している」と述べており、それにはアプリや現地に設置されたビジター・インフォメーション・キオスクなどが含まれている。
オカダ・マニラのプレミアムマーケティング部シニアバイスプレジデント、シャーリー・タム氏は「当社従業員及びゲストの安全とセキュリティへの配慮から、飲食店および小売店の限定的な営業を決めた」と言う。リゾートワールド・マニラからの回答はなかった。
この地域で最も早い回復を見せるのがプノンペンにあるナガワールドだ。こちらもパンデミック中ずっと宿泊客を受け入れてきた。定員制限と社会的隔離措置の中、ナガワールドは7月にゲーミングフロアを再開してから、モルガンスタンレーはVIPローリングが第1四半期の98%、マステーブル取扱高は90%そしてスロット取扱高は93%になると予想する。
「我々は、ナガの2019年GGRエクスポージャーの40%から45%が、渡航禁止/隔離措置の影響を受けない国内のギャンブラーだと予想している」と同社アナリストたちは書いており、カンボジアの首都に暮らす10万人強の中国人とその他の駐在員に言及している。
経験豊富なゲーミング幹部であるクレバナウ氏は、「カジノが非ゲーミングサービスを制限した状態で、米国でオープンした際、彼らは営業利益率の飛躍的な改善を経験した」と指摘する。「採算性の悪い飲食店、おもにビュッフェは休業し、話題のエンターテイメントは休止された。スロットとテーブルゲーム収益だけで、利益率は改善した。社会的距離確保ガイドラインに違反する非ゲーミング施設は、パンデミックが収束するまで休業を続ける。」
そして、もし経理担当者次第だとすれば、おそらくそれ以上に長くなるだろう」。
ブラックリストの影
8月下旬、中国の文化観光部が、中国本土の旅行者をターゲットにした海外ギャンブル地の「ブラックリスト」を作成すると宣言した。中国政府はそれに応じて、詳細を明かすことなく渡航禁止を実行すると脅している。
ユニオン・ゲーミングの法人リサーチ国際部門トップ、ジョン・デ ィクレー氏は、「中国からのアウトバウンド観光がここ6カ月間ゼロである中で、中国の取り組みは少なくとも部分的には現在も続くオンラインゲーミング、ビデオ配信およびプロキシー・ベッティングへの対応、そして資金流出を管理するためのさらなる試みではないかと見ている。フィリピン、ベトナム、カンボジア、ロシアそして韓国といったマーケットは全て、渡航禁止の潜在的なターゲットである可能性がある。
クレバナウ・コンサルティングのトップ、アンドリュー・クレバナウ氏は、「この発表の目的は、特定の国、特にフィリピンに対して、中国は国内からオンラインギャンブルで年間80億米ドルの損失が流出するのを目にすることを許容しないという明確なメッセージを送るためだ。
カンボジアは中国の要求を聞き入れ、2019年末でオンラインゲ ーミング営業を閉鎖した。ドゥテルテ大統領は、中国の要求を拒絶し、フィリピン・オフショア・ゲーミング・オペレーション(POGO)が営業を続けることを許可した。その代償はあるだろう」と付け加えた。
資本管理
中国の取り組みは罰則だけではない。
マカオ大学経営経済学部リカルド・シウ准教授は、「国内需要を刺激し、本土での経済的安定を確保する財政および金融政策の有効性を確実にするために、中国政府による本土からの資本及び資金流出管理の行政的措置は、近い将来も本腰を入れたままになるだろう」と話す。
マカオはブラックリストのターゲットではないが、ハイエンドの中国人ギャンブラーは多くの場合、中国当局がターゲットにしているシャドーバンキングサービスを利用する。JPモルガンのDS・キム氏、デレク・チョイ氏そしてジェレミー・アン氏は「巻き添え被害の可能性を考えると、VIPの回復ペースにおいて幾分の鈍化があるのは避けられない。
マカオ以外の市場にプレイヤーを連れてくるジャンケット/エージェントは、マカオの業者と同じ業者であり、彼らは取り締まりの影響を避けるために、今はほぼ確実に目立たないようにするだろう」と書いている。
しかし、全体として中国政府は中国人が、海外よりも、よりしっかりと監視できるマカオでギャンブルしてくれる方を好んでいる。匿名を条件に話をしてくれたある幹部は、問題を最も影響を受けない場所に仕向ける中国の行動を「治水」に例えた。
モリガンスタンレーのアナリスト、プラビーン・チャードハリ氏、ギャレス・レオン氏、トーマス・アレン氏はそのブラックリストをより長い目で、「マカオにとってプラスであり、高級小売販売と同様にゲ ーミング消費の国内化から利益を得る可能性がある」と見ている。
彼らは、「中国人ゲーマーは海外のゲーミング地(シンガポール、フィリピンおよびカンボジア)のほとんどのVIP収益を後押ししており、それによってマカオのVIP収益は最大30%増加する可能性がある」と述べている。